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精神的ストレスの管理は偉大な効果をもたらす

category - ストレスマネジメント
2021/ 03/ 09
                 
いつも読んでいる実験医学という医学雑誌の2021年の3月号の特集テーマは「サイトカインストーム」でした。



実験医学 2021年3月 Vol.39 No.4 免疫系の暴走 サイトカインストーム〜多様な疾患で生じる全身性の炎症反応 その共通機構から病態を理解する 単行本 – 2021/2/22
村上 正晃


その中で私が注目しているストレスマネジメントとサイトカインストームとの関連を支持する内容の記事が書かれていたのでまず紹介したいと思います。

実験医学増刊 Vol.39 No.4(3月号)2021
特集 免疫系の暴走 サイトカインストーム
IL-6アンプとCOVID-19におけるサイトカインストーム誘導機構
内田 萌菜,田中 くみ子,北條 慎太郎,田中 勇希,長谷部 理絵,村上 正晃


            

(以下、記事より引用)

3.基礎疾患・ストレスとサイトカインストーム

SARS-CoV-2が感染した際、重症化を高める基礎疾患として、二型糖尿病、がん、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、肥満、心疾患が知られている。

二型糖尿病では重症化リスクは2.3倍に上がるが、これはSARS-CoV-2への易感染性の増加ではなく、体内の高血糖によりNK細胞の活性化減弱や炎症性T細胞への分化亢進が原因だと考えられる。

実際、糖尿病患者では、CD4+T細胞はT-helper 1(Th1)やTh17により多く分化し、血中の炎症性サイトカインを増加させ、免疫系が暴走する。

精神的ストレスや喫煙、栄養の偏り、代謝異常、炎症などの外因性・内因性ストレスはreactive oxygen species(ROS)やreactive nitrogen species(RNS)を誘導することで細胞シグナル伝達や免疫防御機構に影響をおよぼす他、直接的にNF-κBを活性化し、過剰な炎症病態を引き起こす

精神的ストレスでは交感神経の活性化により炎症性サイトカインの産生が亢進し、慢性炎症が誘導される。

私たちはこれまでに精神的ストレスを含むさまざまな環境刺激が交感神経を含む特異的な神経回路の活性化を介して特異的な血管内皮細胞のIL-6アンプを活性化し、組織局所の炎症を誘導する「ゲートウェイ反射」を研究してきた。

COVID-19患者においてもストレスに関連する神経活性化や酸化ストレスにより血管内皮細胞を含む細胞集団にてIL-6アンプが活性化されて、炎症が誘導されやすい状態となっていると考えられる。

(引用、ここまで)



短い引用文の中ですが、重要な情報がたくさん詰まっているように思いますので、整理してみます。

まず私がさんざん言ってきている「不安・恐怖情報によるウイルス感染症の重症化」に関して根拠となるメカニズムが色々紹介されていました。

①高血糖状態はNK細胞の活性化を減弱し、炎症性T細胞への分化を亢進する

ストレスでも血糖値は上昇しますので、これは精神的ストレスがウイルス感染症を重症化させるメカニズムとしても認識できるわけですが、

高血糖が「自己」と「非自己」を区別する要である「NK細胞」の働きを抑えるということは、「自己」と「非自己」の区別があいまいになるということを意味しています。

そして高血糖はまた、炎症性T細胞への分化を亢進するということは、「ナイーブT細胞」「エフェクターT細胞」「メモリーT細胞」とで構成されるT細胞集団の流れを「エフェクターT細胞」集団に傾けるということであり、

「エフェクターT細胞」というのは、がん細胞やウイルス感染細胞のような「異常な自己」を排除する働きを担うT細胞系の細胞の一群のことですので、この流れに傾くということは「異常な自己」をきちんと認識できず、何でもかんでも排除しようとする代謝の流れへとつながります

「エフェクターT細胞療法」という人為的にこの状態を作るがんの治療法では、サイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)を起こすという重大な副作用があることが知られています。まさに「エフェクターT細胞」群へ強制的に傾けられることこそが、ウイルス感染症の重症化イベントの中で起こっている現象だと言えるのではないでしょうか。

そしてエフェクターT細胞が活性化する時のエネルギー代謝は「解糖系」「酸化的リン酸化」あるいは「グルタミン分解」などが活発に起こっている状況だと以前学びました。高血糖で上記現象が起こることに矛盾はありません。

②糖尿病患者ではCD4陽性T細胞はTh1やTh17により多く分化し、血中の炎症性サイトカインを増加させ、免疫系が暴走する

CD4陽性T細胞もエフェクターT細胞の一種ですが、それがまずTh1やTh17により多く分化すると言っています。

Th1やTh17が何であったかは以前こちらの記事でかみ砕いて説明しました。一言で言えばどちらも”排除すべき「他者(非自己)」がいる”と認識された時に発動されるシステムですが、

Th1とTh2とのバランスがTh1に傾いているとは排除しようとする対象が「非自己」的な外来物よりも、「非自己」に変化した「異常な自己」へと向いていることを、

Th17とTregのバランスがTh17に傾いているというのは代謝が「免疫寛容」よりも「異物排除」的に働いていることをそれぞれ意味しています。

つまりは本来「自己」の一部である細胞であっても容赦なく「非自己」だと誤認して徹底的に排除しようとするシステムが過剰に駆動されるという現象が糖尿病患者では起こっているということを意味しています。その後、炎症性サイトカインが増え過ぎたり、免疫が暴走するのも無理もありません。

自己免疫疾患や膠原病患者のメカニズムの説明であればまだしも、このような現象がもはや国民病とも言われる「糖尿病」の患者の中で起こっているというのは、見る人が見れば衝撃的な話に思えるかもしれません。

しかしすべての病気はつながっており、病気とは自分自身の反映であると考えている私に言わせれば、この現象は当然の帰結です。これを分子生物学的に明らかにしてくれている研究者がいてくれて有り難い限りです。


ではなぜ、そんな自己免疫疾患への発症へとつながっていきそうな免疫システムの過剰駆動が、「糖尿病」や「高血糖」にて発生するのでしょうか?「糖尿病」とは単に糖質を摂り過ぎて発生する生活習慣病ではないのでしょうか?

結局、糖質を摂取するという現象の本質は急な事態に用いるエネルギー源を確保するということであり、

もっと言えば、急なエネルギー利用機会に備えて身体を準備させておくという両方の側面を持たせる行為だと考えることができます。

急にエネルギーが必要となる事態って何かと言いますと、身体にストレスがかかった時です。今ぐっと踏ん張ることで乗り越えられそうな事態、すなわち「ストレス」だと身体が認識したら身体は一時的に実力以上の機能を発揮しようとシステムを過剰駆動します。

それが一時的であれば、身体にしてみれば実力以上の機能を引き出すよいチャンスとなったため、身体全体としては成長へとつながる出来事になっているわけですが、

一時的ではなく永続的に起こり続けてしまった場合、もともと無理に実力以上の機能を引き出してしまっていたが故に、次第に制御困難な過剰駆動状態へと移行していきます。

その結果、炎症性サイトカインばかりが産生(120%の力を発揮)され、抗炎症性サイトカイン(最大限頑張っても100%までで、次第に割合は下がっていく)で抑えきれなくなるというわけです。

③精神的ストレスは活性酸素種や活性窒素種の産生を誘導したり、交感神経を活性化させることで炎症性サイトカインの産生を亢進させたりする

これが私がずっと言っているストレスマネジメントがあらゆる病気の治療に必要不可欠であることを示す分子生物学的な根拠です。

そこには喫煙や栄養の偏りなども挙げられています。栄養の偏りについては先程も述べた糖質摂取の影響が原理的にも極めて大きい要素を占めています。喫煙に関しても同じことが言えますが、ここではあまり深く触れません。

なぜならば非喫煙者の間でも慢性疾患や難病に悩まされている人はごまんといて、喫煙というものが病気を形成する要素は全体の中でそれほど大きな割合を占めていないと考えられるからです。

糖質制限実践者でさえ、それでもまだ制御困難な病気で悩まされているという方も少なからずいらっしゃいます。

ということは、この世の中で病気を形成する要因として、西洋医学中心の現代医療が最もアプローチできていないものである「内因的なストレス」が最も大きな割合を占めていると考えることができます。

そう考えれば、劇的なストレスマネジメントを成功させた人が末期がんからサバイブしたエピソードを見ても非常に合点がいくし、

こうした分子生物学的なメカニズムを基盤にしてステロイドや抗IL-6薬を使用しても、それでもサイトカインストームが抑えきれない理由も納得がいくし、

さらに言えば、難病という難病の患者達がこぞって交感神経過緊張状態を呈していたり、完璧主義の人が多かったり、深呼吸をろくに実践することができなかったりする事実とも実に見事に符号するのです。

ちなみに「NF-κB」という言葉が出ていますが、「NF-κB」とはストレスなどで活性化され急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している物質だと言われています。

「NF-κB」の過剰活性化はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められ、さらにNF-κBはサイトメガロウイルス (CMV) やヒト免疫不全ウイルス (HIV) の増殖にも関与しているとも言われています。

いかに「ストレス」というものが根本的に様々な病気に関わっているかということがうかがえるのではないでしょうか。

もう一つ、「ゲートウェイ反射」という言葉が登場していますが、これも「ストレスが多くの病気を作る」という現象を科学的に理解するために重要です。

「ゲートウェイ反射」というのは、今回紹介した特集をまとめられた北海道大学遺伝子病制御研究所、分子神経免疫学分野の村上正晃先生らが提唱された概念です。大変興味深いので「ゲートウェイ反射」についてはまた別の機会で取り上げてみたいと思います。


いずれにしても今回の記事で私が言いたかったのは、不安や恐怖によるストレスがウイルス感染症を重症化させるという仮説にはれっきとした分子生物学的な根拠があるということと、

ストレスをコントロールすることは、あらゆる病気を根本から抑えるだけの非常にインパクトの強い偉大な臨床効果をもたらしうる、ということです。

そして誤解のないよう、これも何度でも強調しておきたいことですが、「多くのストレスは自分自身によって引き起こされている内因性のストレスである」ということです。

勿論、外からの外因性ストレスだってないわけではありません。例えば強烈な大気汚染で微小な有毒物質を持続的に吸入され続けてしまうことや、

臓器移植のような状況で、「非自己」抗原が大量に血管内に曝露しうるような特殊環境では、それはさすがに外因性ストレスによって病気が引き起こされたと考えてよいでしょう。

しかしそうした状況でさえ、実際に発熱だの疼痛だのといった臨床症状を引き起こしているのは自分の中にある内因性のシステムです。

ウイルス感染症も、ウイルスとの接触は、「非自己」抗原が巧妙に入り込むことで、まるで臓器移植のように血管内で「非自己」と認識され、これが症状として全身に反応を起こしている状態だと捉えられているかもしれませんが、

ウイルスの場合、巧妙に入り込んでいるという時点で、「非自己」だと認識されていません。「自己」だと認識されているが故に自分の細胞に住みつくことができています。

ということは一度は「自己」だと認識された物質を今度は急に「非自己」だと認識させてしまうようなシステムのエラーにウイルス感染症という現象を引き起こす根本的な原因が潜んでいるのではないでしょうか。

そのエラーは常に自分の身体の中で引き起こされています。ウイルスのせいで強制的に引き起こされているわけではどうやらなさそうです。

きっかけはあったとしても、何が事態を悪化させているのかは見失わないようにしなければなりません。

ちょうど親友とのケンカのきっかけが相手の落ち度にあったとしても、それが絶交という結末に至るには自分のコミュニケーション方法の如何が大きく関わっているという構造と同じように、です。

「自分を発展させる主因は内側にあり」

よくも悪くもそうであると、私は思います。


たがしゅう
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コメント

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たがしゅう先生こんにちは、あっぴです。
明日で震災から10年が経ちます。
私は宮城出身で、震災の時に親戚、友人、知人がとても辛い思いをしました。
震災の年に子供を出産しましたが、東北で子育てをしてはいけないと皆に言われ、山梨で子育てをしています。
東北では学校給食が放射能基準値を超えていたり、子供達の健康が良くなかったり、癌や白血病になる人達が増えているそうです。私の父親も宮城にいて白血病になりました。
放射能について、先生のお考えをご教授頂けると有難いです。
Re: タイトルなし
あっぴ さん

 コメントおよびご意見を頂き有難うございます。

 そう言えばまだ放射能については当ブログでまともに考察したことはありませんでした。
 漠然とした考えはありますが、まだ記事として披露できるほどにはまとまってはおりません。
 よい機会なので、是非とも考えをまとめてみたいと思います。しばしお時間を下さい。

 ちなみにがんは勿論、白血病についても糖質の関与がおおいにあると個人的には考えております。

 2019年2月18日(月)の本ブログ記事
 「白血病と糖質制限 〜なぜ誰も語ろうとしないのか〜」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-1552.html

 2019年2月19日(火)の本ブログ記事
 「白血病と糖質制限 〜まず白血病を詳しく知る〜」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-1553.html

 2019年2月20日(水)の本ブログ記事
 「白血病と糖質制限 〜白血病に糖質制限は効くのか〜」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-1554.html

 2019年2月21日(木)の本ブログ記事
 「白血病細胞には正常細胞部分が多く残っているのかもしれない」
 https://tagashuu.jp/blog-entry-1556.html

 もご参照ください。
たがしゅう先生、お忙しい中色々な情報をありがとうございました。
これからも先生のブログを、楽しみにしています。