自然免疫が対処しきれない事態

2020/07/15 08:15:00 | ウイルス再考 | コメント:0件

私が新型コロナウイルス感染症の重症化を左右する要因として先天的要因である「HLA仮説」に注目していた背景には、

HLAが適合しないことによって起こりうる致死率100%の病態、「輸血後GVHD」というものが存在する、ということがありました。

HLAのタイピングの違いによってはこれほどまでに激烈な身体反応が引き起こされうるという事実が、

新型コロナウイルス感染症における重症化例で認められるサイトカインストームを彷彿とさせ、

HLAの異なり方によってはそういう激しい炎症反応が引き起こされたとしても不思議ではないかもしれないという発想から至った考え方でした。
ところがよくよく考えてみれば、「輸血後GVHD」が起こる状況というのは、

「自己」の血液と「他者」の血液とが直接触れ合う真の意味での濃厚接触が起こった時に限定されています。

なぜならばGVHDの原因は移植側の血液、輸血の場合は輸血する側の血液におけるリンパ球がその最大の要因であることが判明しています。

それゆえ輸血後GVHDの予防にはリンパ球が入りうる輸血用血液製剤へ事前に放射線が当てられてリンパ球を死滅させるという前処置が慣例化しています。

一方で、エボラ出血熱とか、狂犬病、狂牛病といった致死率の高い感染症の多くには血液と血液の直接接触というイベントが関わる傾向が認められるように思います。

ということは、重症化要因はウイルスの種類がどうというよりも、HLAのタイピングが異なる「非自己」が血液を介してリンパ球と直接接触する、という点にある可能性が出てきます。

ただHLAのタイピングが異なる「非自己」が血液に入れば即重症化かと言われれば、例えばB型肝炎ウイルスの感染者に「キャリア(保有者)」と呼ばれる無症状状態があり得ることから、

「ウイルスの血液侵入=重症化」ではなく、やはりウイルスの血液への侵入は重症化の必要条件に過ぎず、必要十分条件ではないのでしょう。

血液に「非自己」が侵入したとしても、それが速やかに排除される、もしくは「自己」と相同性のあるものとして認識され共存できるようになる、そのための「自然免疫」システムが重症化するかどうかの命運を握っているように私には思えます。

一方で輸血後GVHDはほぼ例外なく、「自然免疫」システムの立ち入る隙なくして、致死率100%の結果をもたらします。

これはおそらくですが、「自己」「非自己」判断を下すべきリンパ球が大勢押し寄せ過ぎてくることに由来するのではないかと思います。

しかも輸血後GVHDを起こしうる血液はHLAタイピングが異なっている、すなわち「非自己」であることがはっきりしている抗原です。

これが大量に押し寄せれば、身体が取るべき選択肢は異物除去反応しかありません。しかし相手があまりにも多すぎるために「自己」にとっても致命的な反応となってしまうと、そういうことなのではないかと思います。

もしもそのようになってしまうことが、重症化の必要十分条件なのだとすれば、新型コロナウイルス感染症で重症化する人の身体の中では、何が起こっていると考えられるでしょうか。

それはおそらくウイルスが血液の中に入り込んでかつシステムで対処しきれないほどウイルスが押し寄せてくる状況だと思います。

なぜ対処しきれないほどウイルスが押し寄せるのかと言えば、ウイルスの潜伏を部分的に許しているからではないかと、

ウイルスが一部細胞の内部に入り、血液との直接接触をせずに済む安住の地を得られれば、そこを起点にしてウイルスは血液中に無制限に子ウイルスを送り込み続けることができるという、

そしてその際限なく現れる子ウイルスに対して身体は「非自己」と認識して異物除去反応を起こし続けてしまうので結果的にサイトカインストームに至ってしまうのだろうと思われます。

しかしウイルスにとって安住の地とも言えるその感染細胞も、「異常な自己」を判別して対処してくれる「自然免疫」システムがきちんと働いていれば、その細胞はがん細胞などと同様にアポトーシス(細胞の計画的自殺)に導かれて排除されるはずです。

ということはサイトカインストームを起こすくらいウイルス感染が重症化する人は「自然免疫」システムが働いていないという結論に至ることができます。

そうなれば対策の肝は避けられないウイルスを避けることではなく、血液との接触を避けることでさえ本質的ではなく、

「自己」と「非自己」を判別する「自然免疫」システムをなるべく乱さないこと、

そしてデフォルトの「自然免疫」システムで対処しきれないほど無理のかかる人為的な「非自己」との接触イベントを起こさないこと、に集約できるのではないかと私は考える次第です。


たがしゅう
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