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白血病と糖質制限 ~まずは白血病を詳しく知る~

category - 糖質制限
2019/ 02/ 19
                 
何はともあれ、まずは「白血病」について詳しく知るところから始めましょう。

実はひとくちに「白血病」といっても、その種類は非常に様々です。

「白血病」は「血液のがん」と呼ばれますが、正確に言うと血液の中にある白血球という細胞ががん化し異常増殖する病気です。

でも白血病と言えば、白血球の数が少なくなって感染症にかかりやすくなる病気なのでは、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

それは白血球そのものが増える病気なのではなく、造血の場である骨髄で白血球ががん化した白血病細胞が異常増殖するために、血液中には正常な白血球とは言えない白血病細胞にあふれ、正常な白血球はほとんど作られなくなってしまうためです。

そして白血病細胞が異常増殖するせいで、骨髄で他にも作られる赤血球や血小板といった血球細胞もあまり作られなくなり、

赤血球が不足すること、すなわち貧血で起こる倦怠感や息切れ、動悸などの症状や、血小板が不足することで身体中がささいなことで出血しやすくなるという症状が出たりすることがあるというのが白血病という病気の概要です。
            

さらに白血球は、主に細菌や真菌などの感染からの防御に長けている骨髄球系の白血球と、

ウイルスその他小さな物質や腫瘍細胞などからの生体保護の働きに強いリンパ球系の白血球との大きく二つに分かれます。

従って、白血病にも、骨髄球系の白血球が白血病化するパターンと、リンパ球系の白血球が白血病化するパターンの二通りがあります。

さらには白血病が急に起こって来る急性パターンと、じわじわと起こって来る慢性パターンとがあります。

先ほど白血病細胞が異常増殖すれば、正常の白血球は少なくなると述べましたが、じわじわと起こって来る慢性白血病の場合は、異常になりかけの白血病細胞もたくさん含まれているために、逆に白血球の数が異常に増えているということで健診等の血液検査で発見されることもあります。

なお疫学的には急性白血病は1年間に10万人に4人くらいの割合で、慢性白血病は10万人に1~2人くらいの割合で新規に発症することがわかっています。

これらのパターンを組み合わせると、まず白血病は以下の4つの大きく分類されることとなります。

①急性骨髄性白血病
②急性リンパ性白血病
③慢性骨髄性白血病
④慢性リンパ性白血病


さらに白血病の複雑さはこれだけに留まりません。

①の急性骨髄性白血病はさらにその中で細く8つの分類に分かれて行きます。

骨髄球系の細胞は、造血幹細胞→骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)→顆粒球・単球系前駆細胞→顆粒球前駆細胞→骨髄芽球→前骨髄球→骨髄球→後骨髄球→好中球という流れで成熟していくのですが、

そのどこの段階に相当する骨髄球系細胞が異常増殖するかにとって以下のように名前が付けられていきます。(カッコ内は通称)

①-0 急性最未分化型骨髄性白血病(M0)
①-1 急性未分化型骨髄芽球性白血病(M1)
①-2 急性文化型骨髄性白血病(M2)
①-3 急性前骨髄球性白血病(M3)
①-4 急性骨髄単球性白血病(M4)
①-5 急性単球性白血病(M5)
①-6 急性赤白血病(M6)(※赤血球の幼若細胞である「赤芽球」の異常増殖)
①-7 急性巨赤芽球性白血病(M7)(※血小板の元になる細胞である「巨赤芽球」の異常増殖)


これら細かい分類のどれに当たるかというのは造血の場である骨髄を調べるために、

胸骨や腸骨といった比較的十分量の骨髄が取れるボリュームがあってなおかつ体表面からアプローチしやすい骨の骨髄を麻酔した後に一部採取する骨髄検査という検査によって行われます。

②の急性リンパ性白血病の場合も、同様な手法で詳細が調べられますが、①の急性骨髄性白血病ほど細かくはないものの、

リンパ球系の白血病細胞がB細胞性リンパ球系なのか、T細胞性リンパ球系なのか、はたまた稀なNK細胞性なのかということが調べられます。

③の慢性骨髄性白血病は、①や②のように細かい分類はないのですが、BCR-ABLという異常遺伝子(※BCL遺伝子とABL遺伝子という2つの正常遺伝子が何かの拍子に結合し異常遺伝子となったもの)を含むフィラデルフィア染色体というものが白血病細胞にあるかどうかが調べられます。

なぜならこのBCR-ABL遺伝子異常があるか否かによって治療方法とその成績が全く変わってくるからです。

ちなみに、②の約30%にもこのBCR-ABL異常融合遺伝子が認められることがあることがわかっています。

④の慢性リンパ球性白血病に関しては細かい分類はなく、なぜかB細胞性リンパ球系の白血球細胞が増殖するパターンのみです。


さて、そのようにいろいろと細かい白血病なのですが、大きな治療方針としては「寛解」と呼ばれる状態を目指すために、「寛解導入療法」という治療と「地固め療法(寛解後療法)」という治療が行われるのが一般的です。

まず「寛解」とはどういう状態なのかと言いますと、「全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること」を意味します。

また白血病治療では特に「完全寛解」と呼ばれる状態を目指すことになるのですが、これは「白血球、赤血球、血小板などの血球の数が正常値になり、骨髄中の芽球も5%未満になり、白血病細胞の臓器浸潤も消失している状態」と定義されます。

もう少しかみ砕いて言うと、「検査上は明らかな白血病細胞が検出されないが、完全に治癒したとは言い切れない状態」と言ってもいいと思います。

で、そこを目指すためにまず行われる寛解導入療法というのは化学療法、いわゆる抗がん剤治療です。

具体的にはアントラサイクリン系と呼ばれるDNAやRNAの阻害作用を持つ抗生物質やシタラビン(通称Ara-C)というこれまたDNA合成を阻害する代謝拮抗薬が使用される薬の中心となります。平たく言えば細胞障害性の劇薬です。

ですがシタラビンは適量で使用するとなぜか白血病細胞を殺さずに白血病細胞の分化を誘導し、正常白血球へと戻るような効果がもたらされることがあるようです。

この辺りは「致死以下の刺激による細胞の運命転換抑制機構の解除」という言葉を思い出す話です。

とはいえ、細胞障害性ということは、白血病細胞だけではなく正常の細胞も障害することになるので、当然これらの薬は全細胞攻撃となり吐き気、食欲不振、倦怠感、脱毛、女性の場合、月経不順や月経停止、早期閉経などの副作用を高い確率で引き起こす治療となります。

そのように正常細胞の犠牲を払ってまで白血病細胞をせん滅させて「完全寛解」と呼ばれる状態を目指すというわけです。

そしてその後続く地固め療法で、目に見えない白血病細胞が残っている可能性をも完全に潰すために、さらに化学療法を中心とした治療が繰り返されるわけです。

それだと一般的ながん治療の発想と何も変わらないではないかと思われるかもしれませんが、

白血病に関して一般的ながん治療とは異なる点がいくつかあります。

まず①-3で紹介した「急性前骨髄性白血病」、通称「M3」と呼ばれるタイプの白血病には、ATRA(全トランスレチノイン酸)とATO(亜ヒ酸)という治療効果の高い薬が使えます。

ATRAとは活性型ビタミンAのことで、先ほどのシタラビンのように白血病細胞を正常白血球への分化を誘導する作用があることがわかっています。

しかもシタラビンのように細胞障害性の副作用をきたすことが基本的にはなく、より安全に白血病細胞を正常分化させることができるとされています。

ただし稀にATRA症候群という原因不明の重篤な副作用をきたすことがあるそうで、

ATRA投与開始後間もなくあるいは数週後に発熱し、体重増加と呼吸困難が加わり、X線上肺に陰影を認め胸水が貯留 し、急速に死の転帰をとる恐れまである病態だと言われ、対処法はステロイド投与のみなのだそうです。ビタミンといえどゆめゆめ油断することなかれです。

ATOの方は2004年10月から日本でも承認された薬ですが、ATRA治療後に再発してしまった急性前骨髄性白血病に対して80%~90%という高い確率で寛解を得ることができることがわかっている薬です。

ただATOこと亜ヒ酸自体は除草剤、殺虫剤、殺鼠剤に用いられている毒性の強い物質で、かの和歌山毒物カレー事件でも用いられたとされています。

そんな毒物がなぜM3に対して効果を表すのかについては詳しく説明するとかなり難しいのですが、

ざっくりと言うと、このタイプの白血病で認められる遺伝子の異常を修復し、異常細胞としてアポトーシス(自滅)するように仕向けることができるようです。

シタラビンと似たようなことをする毒物であるにも関わらず、なぜかATOはシタラビンに比べて副作用は低く安全性は高いようです。

それならばM3の治療はATRAとATOを中心に行えば副作用を最小化することができるのではないかという気がするのですが、

2018年度版の造血器腫瘍ガイドラインによれば、M3の標準的治療はアントラサイクリン系の化学療法とATRAの併用が勧められるとあります。

なお欧米ではATRAとATOの併用が化学療法との併用と遜色ない効果がある事が判明していますが、日本ではその治療は保険適用外となっています。なぜより副作用の強い治療が標準治療とされているのか理解に苦しむ所です。


もう一つ、②や③でBCR-ABLという異常遺伝子の有無が治療に大事だと言いましたが、

この異常遺伝子を認める白血病に対してはチロシンキナーゼ阻害剤と呼ばれるタイプの分子標的治療薬が非常に有効な薬として使うことができます。

分子標的治療薬とは、がん細胞だけが持つ特徴やがん細胞だけが産生する物質の働きをブロックするメカニズムを持つことによって、従来の抗がん剤に比べて正常細胞も一緒に攻撃する副作用が少ないとされている比較的新しいタイプの抗がん剤です。

チロシンキナーゼというのは細胞の増殖や分化に関わる酵素で、BCR-ABL異常遺伝子がある白血病細胞はこれが活性化し過ぎて細胞の異常増殖をきたしているわけですが、

イマチニブはBCR-ABL異常遺伝子によって作られる蛋白質の働きを直接抑える薬で、BCR-ABL異常遺伝子は白血病細胞にしか見られないはずなので正常細胞にダメージを与えずに白血病細胞をやっつけることができるというわけです。

このイマチニブ、90%以上の確率でBCR-ABL異常遺伝子を持つフィラデルフィア染色体がある白血病細胞の数を減らすことができるとされています。でも残念ながらこれで根治するとまではいかず、寛解状態を維持するために原則的にはずっと飲み続ける必要があるようです。

ただ理論上は正常細胞への副作用はゼロになるはずのイマチニブも実際には頭痛、吐き気、下痢、発疹、肝・腎機能障害、疲労感、関節痛、血球減少など様々な副作用をきたしえます。

そこはやはりもともと正常細胞から生み出された白血病細胞。白血病細胞だけの構造を攻撃しているつもりでも、実際には正常細胞とも共通する何らかの構造も一緒に攻撃するために副作用が出てしまうものと思われます。


このように白血病の治療には他のがん治療でも見られるような一般的な抗がん剤治療の他に、

比較的有効性が高く、比較的安全な治療法が存在しているという点が他のがん治療と異なる所です。

極め付けは造血幹細胞移植です。骨髄バンクで白血球の型が一致した他人(ドナー)の造血幹細胞を点滴で入れるという治療法です。

最初からそれをすればよいではないかと思われるかもしれませんが、他人の血液が無事に患者の中で生着するためには事前に大量の抗がん剤を用いて、患者の全細胞を瀕死の状態にしておく必要があります。

ましては移植特有の危険な合併症も起こり得ることも考慮しますと、造血幹細胞移植は最後の手段と言っても過言ではない厳しい治療法ということになります。


以上、白血病の概要と治療法の概略について見て参りましたが、

頑張ってかみ砕いて説明したつもりですが、非常に複雑な内容となってしまいました。

しかしこの記事を通じて私が一番言いたいのは、

白血病は頑張れば治癒が期待できるので、病気に負けないできちんと標準治療を受けようと促される世の中の流れがあると思いますが、

その標準治療というのもほとんどが、一般的ながんと同様に全細胞攻撃で副作用必発の化学療法が中心に据えられているということ。

副作用が少ない治療が適用されるタイプの白血病も中にはあるが、それでも目指す所は「寛解」であって、「治癒」ではないということ。

ということは、標準治療に委ねれば、ノーダメージで治療を終えることはほぼ不可能だし、ずっと病気と付き合って生きていかなければならないことを余儀なくされてしまう、ということです。

「頑張れば白血病は克服できる」とされる世間の白血病に対するイメージとは随分ずれてくるのではないでしょうか。

次回はいよいよ、あまり語られていない「白血病に対して糖質制限は実際のところどうなのか」について、

私なりの仮説を語ってみたいと思います。


たがしゅう

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