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「線維化」について学ぶ

category - お勉強
2020/ 08/ 13
                 
新型コロナウイルスが肺炎を起こす際の「間質性肺炎」という病態は、

人体の内側からしか起こし得ない病態であるということを以前の記事で指摘しました。

一方でこの「間質性肺炎」という病態は、進行すると「肺線維症」と呼ばれる不可逆的な状態へ移行します。

間質で炎症が繰り返されることによって、「繊維化」という間質が「繊維」と呼ばれる機能を持たない物質に置き換わり、不可逆的な組織変化を起こすのです。

それ故、病態として「線維化」をきたす新型コロナウイルス感染症は「後遺症」を起こしうる側面があり、決して甘くみてはいけないという見方があるわけですが、

ウイルス感染症が自己反応のオーバーヒートだと考えるならば、元に戻り得ない反応を自分自身が起こしているなんてあまりにも理不尽な感じがするかもしれません。
            

これはウイルスによって引き起こされた病態であると考えたくもなっても不思議ではありません。

そんなことを考えていると、ちょうどタイムリーに時々呼んでいる実験医学という雑誌の増刊が「繊維化」を特集する内容だったので、興味深く呼んでみました。



実験医学増刊 Vol.38No.12 線維化 慢性疾患のキープロセス〜多彩な間質細胞が織りなす組織リモデリング“fibrosis"の理解 (日本語) 単行本 – 2020/7/23
菅波 孝祥 (編集), 柳田 素子 (編集), 武田 憲彦 (編集)


この特集では、「線維化」という現象は従来は一度起こると治療の施しようのない不可逆的な状態だと考えられてきたけれど、

近年は一度起こった「線維化」が可逆的に改善するという現象も確認しており、しかも線維化のプロセス自体は「線維化」だと認識されるずっと前から起こっているということもわかってきており、

「線維化」という状態は可逆的な段階から不可逆的な段階へのグラデーションとして表現されるものであり、早く介入すればするほど治療の余地がある状態だという認識に変わってきている、というようなことが書かれていました。

認知症が認知症として認識されるずっと前から、実は脳内で認知症を起こす異常タンパク質が蓄積する変化が起こってきているので認知症は早期介入が望ましいいう話と似ている印象を受けます。

さて、そんな「線維化」についての特集ですが、私が特に注目したのは以下の記事です。

【第2章】線維化を制御する細胞間ネットワーク
5.炎症の誘導機構:
IL-6アンプの病気への関与
北條慎太郎、内田萌菜、村上 薫、松山詩菜、田中くみ子、村上正晃


IL-6というのは主に炎症において中心的な役割をきたすサイトカインで、

医療の現場ではこのIL-6の働きを阻害する抗IL-6抗体が分子標的治療薬として関節リウマチなどの炎症性の病態に対する治療薬として実際に使用されています。

そしてIL-6アンプというのは、このIL-6を中心にして起こる炎症の悪循環のような状態を指します。

具体的にはCD4陽性Tリンパ球、通称ヘルパーT細胞が、異物や病原体を貪食したマクロファージなどの抗原提示細胞が細胞表面に提示するMHCクラスⅡという異物認識サインを異物や病原体とともに認識し、活性化することによって、

ヘルパーT細胞が様々な転写因子の発現を誘導し、Th1、Th2、Th17などのサブセットへ変化しながら、IL-6のみならず、IL-17やTGF-βなどの炎症性サイトカインを産生し、その異物や病原体を排除するようにシステムが動くという流れがあります。

それ自体は正常なシステムなのですが、何らかの原因でこのヘルパーT細胞の活性化が病的になってしまうと、IL-6を中心とした炎症性サイトカインが産生され過ぎて、

血管内皮細胞、線維芽細胞、滑膜細胞など免疫に直接関係していない周囲の細胞群が反応してこれらもIL-6を産生し、これらがさらにヘルパーT細胞を刺激して、またヘルパーT細胞からIL-6が産生されるという悪循環を生み、

これが結果的に関節リウマチのような「慢性炎症」をきたす病態につながる仕組みだということがわかってきたということです。

ちなみにIL-6アンプの形成時にはヘルパーT細胞のサブセットとしてTh17細胞とそれが分泌するIL-17が自己免疫疾患の発症にも深く関わっているということもわかってきているそうです。

そして、この悪循環たるIL-6アンプを活性化させる要素として、重力・電気・疼痛などの物理的刺激に加えて、

精神的なストレスによっても引き起こされるということがマウスの実験によって示されていました。

ここで思い起こされるのは、セリエのストレス学説です。

それは、ヒトはストレスの種類を問わず、ストレスがかかり続けると、「警告期(可逆的消耗疲弊)⇒抵抗期(可逆的過剰適応〜不可逆的過剰適応)⇒疲憊期(不可逆的消耗疲弊)」という順に進行し、最終的には死に至るというストレス反応の全体像を示した仮説でした。

それならば基本的に一時的にしかかかり得ない物理的ストレスではなく、慢性的にかかり続けることができる精神的ストレスこそが、

IL-6アンプという悪循環を形成し、線維化という不可逆的な病態をきたしうる要因なのではないかという考えに至ります。

ウイルスは何らかの毒素を放出しているわけでもなく、ウイルスはただそこにいるだけで、これを認識する免疫システムが慢性持続性の精神的ストレスによって過剰応答させられているのだとすれば、

線維化という不可逆化への道を止めるために最も大切なことは、IL-6アンプを活性化させる要素を極力取り除くこと、

中でも持続的にかかり続けることのできる精神的ストレスの要素を取り除く、すなわち「ストレスマネジメント」が必要不可欠になってくるのではないかと私は思います。

ちなみに本記事では、IL-6を抑制する要素として光刺激があるということも実験によって示されていました。

折しも日光に触れることの有効性について、ビタミンDやメラトニンへの影響について動画で触れたばかりの状況でしたが、

適度に光に触れるということには私達の知らない様々な効能が隠されている潜在能力が隠されているのかもしれません。

新型コロナウイルス感染症において後遺症が起こる時、その後遺症をもたらしているのは何なのか、

少なくともそれはウイルスではなく、ウイルスの認識によってもたらされた心の変化ではないかと私は考える次第です。

新型コロナウイルスへの不安や恐怖を和らげるために少しでもお役に立てればと願います。


たがしゅう

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