インターフェロン熟考

2021/02/25 17:40:00 | ウイルス再考 | コメント:0件

C型肝炎ウイルスに対する考察をしていた時に新たに生じた疑問がありました。

それはC型肝炎ウイルスにはインターフェロン療法が効くタイプの遺伝子型と効かないタイプの遺伝子型とが明確に分かれているということです。

具体的には1型というC型肝炎ウイルスにはインターフェロンは効きにくく、2型というC型肝炎ウイルスにはインターフェロンが効きやすいと言われています。

C型肝炎ウイルスの遺伝子の何が1型と2型の違いを生み出しているのかについては調べてもよくわからないのですが、

インターフェロンは天然の抗ウイルス薬だと言われている物質です。遺伝子の型がどう違おうと「ウイルス」の域を超えないC型肝炎ウイルスに対してインターフェロンが効かないというのはどうにも不自然であるように思えます。

一方で私は「ウイルス感染症は自己システムのオーバーヒート」だと何度も述べていますが、このオーバーヒート現象の延長線上に「間質性肺炎」と呼ばれる現象がありました。

インターフェロンは副作用として「間質性肺炎」を引き起こす薬です。もしもインターフェロンが抗ウイルス的に働くのであればこの事実にも矛盾が生じてしまいます。

それらの疑問を解決するためにも「はたしてインターフェロンとはどのような物質なのか」、今回は「インターフェロン(以下、IFNと省略)」について深掘りしてみたいと思います。

とは言え、実はこれまでの考察で結論の方向性は見えています。

以前の考察で私は「C型肝炎ウイルスは『細菌』的なウイルスである」という結論を得ています。

ですがIFNの働きは一般的に細菌を攻撃する方にはあまり向いていないはずです。少なくともインターフェロン療法が細菌感染症に使われるという話は聞いたことがありません。

一方で以前触れた、その生態がウイルスに近い「偏性細胞内寄生菌(マイコプラズマ、クラミジア、結核菌など)」や「偏性細胞内寄生原虫(リーシュマニア、トキソプラズマなど)」に対してはインターフェロンが重要な働きを持っていると言われています。

つまりインターフェロンは「細菌」を攻撃するのには向いていないけれど、「細菌」に近いウイルスやウイルスに近い「細菌」を攻撃するのには向いている可能性があるということです。

そんなインターフェロンについて詳しく知るために以下の資料を読み込むことにしました。難しい話ですが、頑張ってかみ砕くのでお付き合い頂ければと思います。



膨大なデータを徹底整理する サイトカイン・増殖因子キーワード事典 (日本語) 単行本 – 2015/4/13
宮園 浩平 (編集), 秋山 徹 (編集), 宮島 篤 (編集), 宮澤 恵二 (編集)


こちらの資料によれば、IFNには大きく次の3種類があります。

①IFN-α/β(インターフェロン-アルファ/ベータ)
②IFN-γ(インターフェロン-ガンマ)
③IFN-λ(インターフェロン-ラムダ)ファミリー(IL-28, IL-29)


③のIFN-λファミリーは他の①②に比べますと、不明な点が多く、特定の組織にしか発現しておらず、なおかつ①と②の両方の性質を持っていることが指摘されているあいまいかつ限定的な存在なので、

ここでは主として①と②の違いについて詳しくみていこうと思います。

まず①のIFN-α/βは「Ⅰ型IFN」というグループに属しており、②のIFN-γは「Ⅱ型IFN」というグループです。ただ「Ⅱ型IFN」に属するのはIFN-γだけですが、「Ⅰ型IFN」の方は、IFN-α(アルファ)、IFN-β(ベータ)以外にもIFN-δ(デルタ),IFN-ω(オメガ), IFN-ε(イプシロン), IFN-κ(カッパ), IFN-τ(タウ), IFN-ζ(ゼータ;Limitin)などと様々な種類があります。ちなみに③の「IFN-λファミリー」は「Ⅲ型IFN」とも呼ばれます。

さて、「インターフェロン」といっても、①IFN-α/βと②IFN-γでは少し役割が異なっているようです。

一言で言えば、①は「抗ウイルス作用が強い」、②は「細胞性免疫の調整作用が強い」という役割の違いがあります。

②のIFN-γにも決して抗ウイルス作用がないわけではありませんが、①のIFN-α/βに比べると弱いという特徴があります。

また①が②を活性化させる仕組みがあったり、②が①を活性化させる仕組みもあったりするので、①と②は互いに別々の物質というよりは主たる守備範囲を分担しながら互いに連携・協力して働いている物質群だと言えるでしょう。

一方で、①と②で構造上明らかに違うという側面もあります。例えば②のIFN-γの働きが発揮されるための受容体を刺激できるのは対応するIFN-γの一つしかありませんが、

①のIFN-α/βの受容体(IFNAR1-IFNAR2受容体複合体)は、「Ⅰ型IFN」というグループの物質のいずれによってでも刺激されます。

ちなみにIFN-αは樹状細胞(pDCと呼ばれる形質細胞様樹状細胞)やリンパ球、マクロファージなどによって産生されるのに対して、IFN-βは主に線維芽細胞や上皮細胞によって産生されるという違いがあります。

さらには①のIFN-α/βと②のIFN-γとではタンパク質の性状が全く異なっています。具体的にはIFN-γは酸性条件下で不安定なのに対して、IFN-α/βは安定という特徴の違いがあります。

酸性条件と言えば、「アシドーシス」と呼ばれる状態があります。「アシドーシス」という言葉は「ケトアシドーシス」とか「乳酸アシドーシス」という形で間接的に何度も登場していますが、

そう言えば、そもそも「アシドーシス」とは何か?についてはこれといった説明をしていなかったようなので、ここで少し触れておきたいと思います。

酸性かアルカリ性かを表す「pH(※ペーハーまたはピーエイチと読む)」という指標がありますが、人間の身体の中で全身を循環する血液(細胞外)のpHはおよそ7.4(±0.05)程度に収まるよう絶妙に調整されています。

pHは1〜14までで、1に近いほど酸性、14に近いほどアルカリ性、7がど真ん中の中性ですので、7.4という数値はごくわずかにアルカリ性だということになります。

ですがこのごくわずかがどういうわけか非常に重要で、このバランスが酸性に傾いても、アルカリ性に傾いても身体にとってよろしくない現象が起こるとされています。

で、その人体で絶妙に保たれているpH7.4から酸性の方に傾く現象(プロセス)のことを「アシドーシス」、pH7.4未満に下がった状態(多くの場合はpH<7.35) のことを「アシデミア(酸血症)」と呼んでいます。

逆にpH7.4からアルカリ性の方に傾く現象(プロセス)のことを「アルカローシス」、pH7.4以上に上がった状態(多くの場合はpH>7.45)のことを「アルカレミア(アルカリ血症)」と呼びます。

「アシドーシス」と「アルカローシス」がどちらがまずい状態かと言われると断然「アシドーシス」です。なぜならばアシドーシスが是正できないと死に直結してしまうからです。

言い方を変えれば、人は死ぬ時には多かれ少なかれ「アシドーシス」に向かうと言えます。

急死や即死の場合は別ですが、例えば心肺機能低下で呼吸が浅くなってくると二酸化炭素がたまり「呼吸性アシドーシス」と呼ばれる状態になりますし、

肝臓や腎臓の働きが低下し酸性物質や有毒物質が処理しきれなくなってきたら「代謝性アシドーシス」と呼ばれる状態になり、いずれもその延長線上に「死」があると言えます。

一方の「アルカローシス」の方は、例えば過呼吸(医学的には「過換気」。呼吸回数が通常よりも多くなった状態)だとか、嘔吐・下痢といった正常機能の過剰活動によって引き起こされるパターンが多いので、過剰活動が収まれば是正される現象です。よくないのはよくないですが、死ぬほどのことまでにはならないイメージです。

ちなみに「ケトアシドーシス」も「乳酸アシドーシス」も「代謝性アシドーシス」の一種です。医療従事者が「ケトアシドーシス」や「乳酸アシドーシス」を非常に警戒するのもこの背景を知っていればうなずけるかもしれません。

さて「アシドーシス」自体の説明はこの辺にして、IFNの話に戻りますが、「アシドーシス」という酸性条件下においてはIFN-α/βは安定しているけれど、IFN-γは不安定だというのですから、

身体が「死」に向かっていく病状が悪化していくような状況では、①と②のバランスやクロストークは①のIFN-α/βへと極端に傾いていくようになります。そしてその①の働きとして強い「抗ウイルス作用」があるわけです。

その「抗ウイルス作用」とは具体的にどんな働きでしょうか。

IFN-α/βが作用する受容体を遺伝子操作でノックアウト(人為的に機能停止)させたマウスがあらゆるウイルスに感染しやすくなることから、この「抗ウイルス作用」はあらゆるウイルスに対して発揮され、次の3つのことを行っていると考えられています。

(1)ウイルス複製を抑制することで、細胞のウイルス抵抗性を上昇させる
(2)ウイルス非感染細胞のMHCクラスI分子の発現を増加させ、NK細胞の攻撃から保護する
(3)NK細胞を活性化させてウイルス感染細胞を除去する


つまり一言で言えば、「異常な自己」の排除です。そのために(1)本来ではない遺伝子が混じり込み「異常」と判定された「自己」細胞の増殖は抑制されますし、(2)MHCクラスⅠという「自己」の名札をしっかりと発現させ「自己」を保とうとしますし、(3)NK細胞という「非自己」から「自己」を守るパトロール隊の活動を活性化させるわけですね。

ちなみにNK細胞はどちらかと言えば、がん細胞をやっつける仕組みとしての方が有名です。「がん」と「ウイルス」の本質的な共通点についても以前触れましたが、

「ウイルス」にしても「がん」にしても、「異常な自己」という共通要素を抑制する方向へIFN-α/βは働いて、「抗ウイルス作用」は発揮されているという様子がみてとれます。

ここで冒頭の疑問の一つは解消されてきたように思います。「インターフェロンが発揮する抗ウイルス作用とは異常な自己を排除しようとする働きだ」と、

そして「ウイルス感染症は自己システムのオーバーヒート」だと私が表現する時に過剰駆動されている働きというのも「異物除去反応」です。

つまり「ウイルス感染症」によって自身の身体で駆動されている異物除去システム自体が「抗ウイルス作用」なので、インターフェロンによってもたらされる「抗ウイルス作用」が「間質性肺炎」につながるという事象には何ら矛盾はない、ということになります。

この点は同じ「抗ウイルス作用」という言葉でも、ヘルペスウイルスやC型肝炎ウイルスに対する「抗ウイルス薬」のように単一のウイルスだけを攻撃するメカニズムの作用とは大きく異なる所なので注意が必要です。

ところで、IFN-α/βで刺激されるⅠ型IFN受容体が、IFN-α/βが何らかの原因で使えなくなったとしても、他に様々な物質(リガンド)で刺激することができるバックアップ体制が充実しているのに対して、

IFN-γで刺激されるⅡ型IFN受容体はIFN-γでしか刺激できないという違いを眺めますと、IFN-α/β(Ⅰ型IFN)システムの方がベースの部分となっていて、IFN-γ(Ⅱ型IFN)の方は後から構築されたシステムのような感じがしますね。

さながら血糖値を上げるホルモンには複数あって(例:グルカゴン、コルチゾール、成長ホルモン、アドレナリン、甲状腺ホルモンなど)、血糖値を下げるホルモンはインスリンのみという構図にも通じるものがあるかもしれません。

そんな新参者(?)のIFN-γが持つ「細胞性免疫の調整作用」の方は具体的にどういうことかを次にみていきましょう。

IFN-γはまず、NK細胞やT細胞(特にTh1細胞)、樹状細胞といった細胞性免疫の中心的な担い手によって主に一過性に産生されます。

そのもたらす作用は多彩ですが、微生物感染時にマクロファージの強力な活性化因子として作用し、活性酸素種や一酸化窒素の産生を増強したり、

あるいは細胞傷害性T細胞の活性化にも関与していたり、抗原提示細胞の抗原提示に関わる遺伝子群の発言を誘導して獲得免疫の成立にも寄与することもわかっています。

ややこしいですが、これらの働きは最初の方で述べた偏性細胞内寄生菌や偏性細胞内寄生原虫に対する感染防御に重要な役割を担うと言われています。

そして免疫調整という意味では抗体産生を中心とした液性免疫システムを担うTh2を抑制したり、粘膜組織を中心に局所的な「他者」を攻撃するシステムに寄与するTh17を抑制したりします。

Th17は、以前ブログ記事にしたアレルギーとウイルス感染症の共通点に関する記事で触れましたが、アレルギー抑制的に働く「制御性T細胞(Treg)」と共通の前駆細胞から分化したもので、

Th17>Tregであれば「異物排除」的にシステムが動き、Th17<Tregであれば「免疫寛容」的にシステムが働くということを紹介しました。

従って、IFN-γはTh17を抑制するという観点でこのバランスを「免疫寛容」の方、すなわち「自己」か「他者(非自己)」のグレーゾーンを「自己」的に取り扱う方向に免疫システムを仕向けることになり、

過剰に「他者」攻撃体制が強まった状態を鎮めてくれる方向に作用してくれるようです。ただIFN-γも出過ぎると、何でもかんでも「自己」だと認識してしまうことが影響してか、自己免疫疾患の発症にも関わっているとも言われていますので、ことはそんなに単純でもありません。

少なくともIFN-α/βが異物除去システム駆動で、IFN-γがその暴走を止めるブレーキという理解では一面的で、実際にはやはり両者が絶妙なバランスで保たれてはじめて「自己」を保つシステムがうまく回るのであろうと思われます。

別の視点で①IFN-α/βと②IFN-γを比べた時に、①IFN-α/βは主に「自然免疫」、②は主に「獲得免疫(適応免疫)」に働いているという見方もできるようです。

なぜならばIFN-α/βは自然免疫システムで「非自己」的病原体を認識する受容体、「Toll様受容体(TLR)」によって誘導されるからです。主にTLR3やTLR4という「TLR」が関わっているようです。

ただややこしいことに「TLR」には近年、獲得免疫にも関わっているTLR2などのタイプの受容体もあることがわかってきて、T細胞の表面にあるこのTLR2が刺激されるとIFN-γが産生されるという仕組みもわかっているようです。

いずれにしても「IFN-α/βは自然免疫が主、IFN-γは獲得免疫が主」という図式は崩れず、その意味でも①IFN-α/βの方が基礎となる部分で、②IFN-γの方がその基礎の上にできた追加部分という感じがします。


・・・毎度ながらとても話がややこしくなってきてしまいましたが、最後に冒頭の疑問に戻ります。

さてC型肝炎治療で行われるインターフェロン療法ではINF-αかINF-βを使用しています。

これらのIFN-α/βの単剤ではなく、これに「ポリエチレングリコール(PEG)」というものを付加した「ペグインターフェロン」と呼ばれる製剤がよく使われます。

「ポリエチレングリコール」と言いますと、最近話題のコロナワクチンでこれにアレルギーがある人は禁忌(絶対にワクチンを受けてはダメ)だと注目された物質ですが、

まさかここでつながってくるとは思いませんでした。この「ポリエチレングリコール」に関する考察も興味深いので別の機会で取り上げたいと思います。

今はともかくIFN-α/βの働きを通常よりも強める治療法がC型肝炎ウイルス感染症の治療に使われていると解釈してください。

INF-α/βはあらゆるウイルスに対して「抗ウイルス作用」、すなわち「ウイルス感染によってもたらされた異常な自己細胞を排除するよう仕向けるシステム」を駆動させるわけですから、

これが効かないという遺伝子型1型のC型肝炎ウイルスは、やはりその遺伝子型変化によって「ウイルス的ではなくなった」と考えるより他にないでしょう。

言い換えれば、「異常な自己」ではなく「他者」と判定される存在になったというべきでしょうか。

そういう意味でインターフェロンが効かないC型肝炎ウイルスは「細菌」的なウイルスですし、

だからこそまるで「細菌」のように、ターゲット特異的な構造を攻撃する「抗ウイルス薬」が開発されうるというわけです。

別の言い方をすれば、C型肝炎ウイルスは「細菌」と「ウイルス」のグラデーションの中で、非常に真ん中に近いくらいの立ち位置にいる病原体だということもできるかもしれません。

こうなると俄然、C型肝炎ウイルスの遺伝子型1型と2型とでは何がどう違っているのかという点にも興味がいきますが、

その難しい課題を解くための情報にはまだアプローチしきれないので今後の課題としておきましょう


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する