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がん免疫療法は不完全な全細胞攻撃

category - がんに関すること
2021/ 01/ 15
                 
前回、「免疫チェックポイント阻害剤」という「がん免疫療法」と呼ばれるカテゴリーの治療について私なりに考察を致しました。

その結果を一言でまとめるならば、「免疫チェックポイント阻害剤は過剰自己攻撃反応を促進する薬」であって、

その効果の延長戦上に間質性肺炎、自己免疫疾患、サイトカインストームといった免疫の暴走状態があるという見解をお示ししました。

実はこの「がん免疫療法」のカテゴリーに入る治療は「免疫チェックポイント阻害剤」だけではありません。

もう一つ、これは以前も当ブログで取り上げたことがある「CAR-T療法」を含む「エフェクターT細胞療法」という治療があります。

「エフェクターT細胞」とは、がん細胞を直接攻撃し破壊したり増殖を抑制したりする免疫細胞の総称です。

具体的には細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞γδT細胞NK細胞、NKT細胞などの細胞群を指しています。
            

NKT細胞だけはまだ当ブログで扱ったことがありませんでしたが、B細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK細胞に続き、第4のリンパ球と称されている細胞です。

1986年に現国立研究開発法人 理化学研究所の谷口克客員主管研究員らによって発見された比較的歴史の浅いリンパ球で、NK細胞の性質を持ったT細胞であることから「NKT細胞」と名付けられたそうです。

T細胞が基本的にタンパク質を抗原として認識するのに対して、NKT細胞は糖脂質を抗原として認識するという違いがあるそうです。一方でNK細胞と同じ性質を持っているので主要な役割は「異常な自己」の排除です。

細胞傷害性T細胞(CD8陽性Tリンパ球)が、がん細胞やウイルス感染細胞などのようにMHCクラスⅠが発現した「自己」細胞の中に生じた異常を検知して、その「異常な自己」をアポトーシスに導くのに対して、

NK細胞やNKT細胞は同じがん細胞やウイルス感染細胞でもMHCクラスⅠが発現しなくなった変形度合いの強い「自己」細胞を「異常な自己」としてパーフォリンなどの細胞溶解型タンパク質で処理するという違いがあります。

そしてヘルパーT細胞はこうした「自己」「非自己」判別システム全体を活性化させる司令塔的ポジションでしたし、

γδT細胞はMHCクラスⅠではなく、もっと原始的な構造を認識して(詳細は不明)「非自己」の排除に働きかける細胞だということでした。

従って、総じて「エフェクターT細胞」と称される細胞の一群は、すべてがん細胞を攻撃しうるわけですが、

正常細胞からがん細胞までの状態にグラデーションがあると考えた時に、

正常細胞の度合いが強いいわゆる「がんもどき」だとか早期のがんに相当するがんに対しては微小な「自己異常」を検知し排除する「細胞傷害性T細胞」が、

それ以降のがんや末期がんと呼ばれて正常細胞の構造が無秩序に破壊されてきているがん細胞に対しては、明確な「自己異常」を検知するγδT細胞、NK細胞、NKT細胞といった原始的な自然免疫システムを構成する細胞群が、

それぞれ自己異常の程度に応じて役割を分担して、「自己」の秩序を保っていると考えることができます。

そんながん細胞を何らかの形で攻撃しうる「エフェクターT細胞」を活性化させる治療法のことを「エフェクターT細胞療法」といいます。

「エフェクターT細胞療法」のひとつ「CAR-T療法」は、患者自身のT細胞を取り出して、それに特定の抗原だけを強力に認識するよう遺伝子改変を加えて、その改変したT細胞を患者の体内に戻すという治療法です。

遺伝工学的に改変して特定の抗原だけを認識するようになった受容体のことを「キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)」といい、そのように改変されたT細胞のことを「CAR-T」と呼ぶわけですね。

さて、この「CAR-T療法」の一つである「CD19認識CAR-T療法」で患者さんのTリンパ球にCD19を抗原として認識する遺伝子改変を加えたものを点滴製剤にした製品を「チサゲンレクルユースル(商品名:キムリア)」と言います。

この「キムリア」、何と約3400万円という超高額の薬です。実に「免疫チェックポイント阻害剤」1年分に相当する高さです。

ただ「免疫チェックポイント阻害剤」のように月に1回定期的に受ける薬ではなくて、「キムリア」は1回だけで終了する治療法ではあります。

ですが、その1回の治療を行うことが実は結構大変です。まず「キムリア」は患者さんの「自己」リンパ球から作るとは言え、CARの遺伝子改変を加えたら、元に戻した際に身体にあるリンパ球をはじめとした免疫細胞がこれを「異常な自己」と認識して拒絶反応を起こしてしまうことが知られています。

従って、「キムリア」を点滴する前の約3日間程度、もともとあるリンパ球の数を拒絶反応を起こしにくい1000/μL以下に減らすために、いわゆる「抗がん剤」治療を受けることになります。

抗がん剤により死ぬ一歩手前の状態までリンパ球を減らした上で、「キムリア」を投与すれば拒絶反応を起こさずに新しい改変リンパ球達も自分のリンパ球として生着し、本来遺伝子改変によって期待されたCD19を過剰に発現したがん細胞を攻撃するという役割をようやくはたすことになります。

だから「キムリア」による治療はある意味で命がけの治療です。少なくとも抗がん剤に耐えうる体力が残っている必要がありますし、

それを乗り越えたとしても「キムリア」にはもう一つ重大な問題があります。それは「サイトカイン放出症候群を起こす可能性が非常に高い」ということです。

副作用に「サイトカイン放出症候群」があるというのは「免疫チェックポイント阻害剤」でも見られた特徴でしたが、頻度が圧倒的に違います。

例えば、「免疫チェックポイント阻害剤」の「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)」の「サイトカイン放出症候群」の発現頻度は4.5%と報告されていますが、

「キムリア」による「サイトカイン放出症候群」の発現頻度はなんと77%ほとんど必発といっていい副作用です。

「キムリア」が標的抗原とするCD19は急性リンパ性白血病や非ホジキンリンパ腫といったB細胞系造血器悪性腫瘍に多く発現しているので、それが故に「キムリア」はこれらの白血病に対する治療薬となっています。

一方でCD19は抗体産生に関わる正常の「B細胞」にも発現しているので、「キムリア」投与により正常免疫が阻害される要素はありますし、

「キムリア」で起こる「サイトカイン放出症候群」は体内残存白血病細胞量が多い症例で発症・重症化しやすいという事実も観察されていることから、

「サイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)」が起こる要件としては、「自己」的な細胞を過剰攻撃するT細胞の活性化の要素に加えて、それにより分化・誘導されるB細胞の無秩序化が大きな要因となっていることが推察されます。

言い換えれば、がんのような無秩序「異常自己細胞増殖」状態において、さらにT細胞を活性化させて「自己」を攻撃させるようなことをすると「サイトカイン放出症候群」にぐっと近づくし、

もともとがん化している細胞が免疫の担い手であるリンパ球系の細胞である場合はなおさら近づきやすいということなのかもしれません。

ちなみに「キムリア」で「サイトカイン放出症候群」が起こった場合、非感染性のインフルエンザ様症状で始まるという情報もあり、この点についても興味深い

「サイトカイン放出症候群」に対する対処法としては、抗IL-6抗体医薬であるトシリズマブ(商品名:アクテムラ)が推奨されているようです。今、コロナの治療薬としても話題になってきている薬ですね。

「間質性肺炎」における病理学的な現象としての「線維化」には「IL-6」というサイトカインの増幅悪循環である「IL-6アンプ」が関わっているという話がありましたので、これをブロックすることが「サイトカイン放出症候群」の治療となりうることは理にかなっているわけです。

一方でトシリズマブは、自己免疫機序で起こる関節リウマチの治療薬でもあるわけですから、ここでも「自己免疫疾患」と「サイトカインストーム」の病態の共通性を認識することができます。

そしてもう一つ、「サイトカイン放出症候群」に対して、トシリズマブの治療反応が鈍い場合には、次にグルココルチコイドの投与を推奨するともされています。グルココルチコイドというのはいわゆる「ステロイド」です。

これはすなわち「抗IL-6抗体」医薬では効かないけれど、「ステロイド」なら抑えうる「サイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)」があるということを意味しています。

この辺り、コロナに対してもデキサメタゾン(ステロイド)の方が、トシリスマブ(アクテムラ)よりも重症化率を下げる効果のインパクトが強いという現時点での情報ともリンクします(2021年1月14日現在)

「抗がん剤前処置」「サイトカイン放出症候群」と大きな問題はこの2つですが、他にも「キムリア」には高頻度で様々な副作用が起こります。

例を挙げれば、脳症(21%)、感染症(28%)、低γグロブリン血症(39%)、(キムリア投与後も回復しない)血球減少(12ー55%)、腫瘍崩壊症候群(4%)などです。


・・・こうして見ると、3400万円も支払って(※保険適応なので患者自己負担は20万円以下ですが)、ほとんど拷問のような内容の治療にしか私には思えないわけですが、

それでも「がん(白血病)が治る(寛解する)」という治療効果が期待されるが故に、この治療法が保険で認められているのだと思います。

ちなみに「キムリア」の添付文書に記載されている再発・難治性急性リンパ芽球性白血病に対する全寛解率(完全寛解(CR) 又は血球数回復が不十分な完全寛解(CRi)[98.9% 信頼区間])は、82.0%[64.5%, 93.3%]で、

再発・難治性CD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する奏効率(完全奏効(CR)又は部分奏効(PR))[99.06%信頼区間]は、58.8% [39.8%, 76.1%]でした。

相手が他の治療でなかなか反応しない「再発・難治性」という枕言葉がついている白血病なので、それでも当事者にとっては価値を感じられる治療であるかもしれません。

しかし82.0%と58.8%の中に不十分な寛解状態も相当数含まれているであろうことを考えますと、必ずしも満足のいく治療成績とは言えないのではないでしょうか。

でも、全く効かないわけではない。確かに効いている症例は存在すると。

なぜ過剰に自身を攻撃するように仕向ける治療法が、なぜがんに効くことがあるのでしょうか。

「免疫チェックポイント阻害剤」は本来であれば「自己」として攻撃しないはずのT細胞に無理矢理攻撃するよう仕向ける薬でした。

「エフェクターT細胞療法」のひとつ「CAR-T療法」は、「自己細胞を犠牲にしつつ無秩序に増殖した『異常な自己』たるBリンパ球系造血器悪性腫瘍細胞を徹底的に攻撃するようにTリンパ球に遺伝子改変を加えたものを導入する治療法でした。

いずれにしても本質的には「他者」も「自己」も両方とも攻撃するように仕向ける治療法であり、言ってみればこれらは「手の込んだ全細胞攻撃」であり、本質的には一般の抗がん剤治療と変わらない治療行為です。

なのになぜ、一般の抗がん剤治療で効かないがんに対してわずかながら治療効果を上回ることができるのでしょうか。

それは「2つのがん免疫療法が、一般の抗がん剤に比べると不完全に全細胞を攻撃するから」ではないかと私は考えます。

確かに全細胞攻撃をすると、正常細胞を犠牲にしつつもがん細胞も死滅するので、

なぜがん細胞ができたかという原因はともかく、目の前からがん細胞は消えてくれます。そういう意味では一般の抗がん剤治療も効くと言えば効きます。

ですが、「がん免疫療法」の場合は免疫学的な機序を利用してはいるが故の「がん細胞」に集中した全細胞攻撃になっています。

「それこそががん治療じゃないか」と思われるかもしれませんが、「がん細胞」の本質は「自己」細胞なので、

それは多かれ少なかれ、自分自身を攻撃することになり、特にそれがTリンパ球という免疫の要の細胞によって起こされた場合は、

「がん細胞」を攻撃しきったところでハイ終了となるわけではなく、ブレーキを失ったことで「サイトカインストーム」へとつながる自己過剰攻撃状態へとつながってしまうということになるのだと私は考えます。

この「がんを敵」だという発想の下に組み立てられた治療では、どこまで行っても誰もが期待する「がんが治った」と言われる状態に持っていくことは構造上不可能だと私は思うのです。

ちなみに、「キムリア」の遺伝子改変を行う際にはレトロウイルスというウイルスが遺伝子に組み込まれる性質を利用して行うそうです。

それならば「キムリア」の「サイトカイン放出症候群」の発生率が77%であることを踏まえますと、「サイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)」の原因はやはりコロナなどのウイルスなのではないかと思われるかもしれません。

しかし私はそうではないと思います。なぜならば「キムリア」の中にウイルスが入っているわけではなく、あくまでウイルスの性質を利用して遺伝子改変されたTリンパ球を導入することで発症しているということ、

それに「キムリア」の投与を受ける患者さんや、「免疫チェックポイント阻害剤」の投与を受ける患者さんは、すでにがん細胞という異常自己細胞増殖状態にあり、それは言ってみればT細胞の暴走一歩手前の状態の状態です。

このような条件下で、ダメ押しの一手としてT細胞の活性化を促すような介入を行ったら、それは「サイトカインストーム」になるだろうと思います。

逆に言えば、末期がんの状態はまだT細胞の過剰活性化が起こらずに何とか踏みとどまっている状態ですから、

正常細胞をがん化させる刺激を極小にして、身体のエネルギーが余計なことに使われないよう環境さえ整えれば、

まだ可逆的に元の正常細胞に戻しうる状態にあると私は考えます。それを実際に成し遂げた人達が「劇的寛解」と呼ばれる現象を引き起こした末期がんサバイバーの人達だと思います。

サイトカインストームのきっかけはウイルスであったとしても、その流れを最後まで推し進めているのは心理と連動したリンパ球系細胞の過活動状態です。

すなわち、がんを悪化させるも、サイトカインストームにつなげるも、その鍵は自分自身が握っていると私は考える次第です。


たがしゅう

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