抗ウイルス薬は自分で作っている
2014/12/30 00:01:00 |
おすすめ本 |
コメント:2件
エボラ出血熱や新型インフルエンザなど、
感染力の強いウイルス感染症の話題をよく聞くようになりました。
同じく感染症を起こす細菌に対する抗生物質の発展に比べて、
抗ウイルス薬の開発は著しく遅れています。
実際に臨床応用されている抗ウイルス薬は数えるほどしかなく、
具体的には、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVウイルスの6種類だけです。 予防治療も含めれば、子宮頸癌の原因とされるヒトパピローマウイルスに対するワクチンや、小児で呼吸器感染症の原因となるRSウイルスに対する分子標的治療薬もありますが、
前者の副作用の問題は以前も記事にした通りです。
そしてヒトに感染するウイルスは数百種類以上あると言われていますので、
その他圧倒的多数のウイルスに対しては、現代医療は直接的に対抗する手段を持っていないという事になります。
治療薬のないウイルス感染症に対しては、
対症療法を行いながら自然に回復するのを待つしかないというのが現状です。
しかしエボラ出血熱や新型インフルエンザのような強力な感染力を持つウイルスに対しては、
対症療法だけでは対処しきれずに致命的になってしまう事が危惧されています。
ではこうしたウイルスに対して我々は、治療薬ができるまでなす術がないのでしょうか。
いえ、突破口はあります。
というのも私達は自分の身体の中で、
あらゆるウイルスに対抗するための物質を作る事ができるからです。
サイトカインハンティング ―先頭を駆け抜けた日本人研究者たち 単行本(ソフトカバー) – 2010/7/2
日本インターフェロン・サイトカイン学会 (編集)
インターフェロンという物質をご存知でしょうか。
これは約50年前に日本とイギリスの二つのグループによってそれぞれ独自に報告されたウイルスの感染を抑制する液性因子です。
その名の由来はウイルスの増殖を阻止する干渉(interference)現象を起こしたことからきていると言われています。
インターフェロンは実際の医療現場でもC型肝炎の治療や、神経難病の一つである多発性硬化症の治療薬として利用されています。
インターフェロンを始め、細胞から放出され、種々の細胞間情報伝達分子の事をサイトカインと呼びます。
上記の本にはこれまでに見つかった(ハンティングされた)サイトカインの種類とその性質、歴史が記されています。
正直かなり難しい本ですが、ここから私が読み取ったメッセージがあります。
それは「サイトカインはヒトの身体にもともと備わった天然の抗ウイルス薬」だという事です。
またサイトカインはウイルスの種類に関わらず対応する事ができます。
というよりも、我々がウイルス感染症にかかって熱が出たり、喉が痛くなったり、下痢したりしますが、
あの反応そのものがサイトカインの仕業です。あれは異物を排除しようと身体が頑張っている証拠なのです。
ヒトの免疫には、未知の外敵に対応するデフォルトシステムである「自然免疫」と、
すでに感染した外敵に再感染しないように、あるいは被害を最小限にするために駆動するオプションシステムである「獲得免疫」とがあります。
サイトカインは前者の自然免疫の駆動時に、Toll-like受容体という監視役を介して役割を発揮します。
Toll-like受容体は、ウイルス表面の分子を認識するというよりも、リポ多糖、リポタンパク質、糖タンパク質、DNAやRNAの一部など、普段細胞表面で接するはずのない分子パターンを認識するとされ、
たとえ相手がどんなウイルスであっても、Toll-like受容体がそれを認識しようとするわけです。
現在までにヒトでは10種類のToll-like受容体が発見されています。
そして大事な事はサイトカインもToll-like受容体もタンパク質だということです。
タンパク質がなければ自然免疫もうまく働かないという事が容易に想像できます。
ではインターフェロンを外部から投与すれば、全てのウイルス感染症に対応できるのかと言いますと、
現実にはそれではうまくいきません。それどころかインターフェロンにはうつや間質性肺炎など重篤な副作用がある事が知られています。
これは外部から投与される外因性のインターフェロンと、自分で作る内因性のインターフェロンが根本的に違うということを示しています。
というのは内因性の場合は、相手のウイルスの種類に合わせてインターフェロンだけでない様々な種類のサイトカインの放出量やタイミングが絶妙にコントロールされているからであり、
外部から投与されるインターフェロンでは、その絶妙な調節ができないし、インターフェロンの種類も一種類しか使えないからだと思います。
新しい抗ウイルス薬を早く作ってくれと思っている人も多いかもしれませんが、
私はそんな事よりも、自然に備わった免疫を邪魔しない生活を心がける方がはるかに大事な事だと思っています。
糖質制限で免疫をかく乱する血糖値の乱高下を避け、
免疫物質の材料にあたるタンパク質をしっかりと補充する事がその基本です。
そうすることで未知のウイルス感染症にも立ち向かえると考えています。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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インフル強迫性社会
抗ウイルス剤というのは基本的に高額です。
日本のような恵まれた保険医療システムのない米国ではH1N1パンデミックの時に日本の何倍もの死者を出したというのは有名な話です。感染症の専門家によるインフルエンザの勉強会などではまずこの話題を盾に、抗ウイルス剤の必要性を説きます。そのために内科医は6割程度しか精度のない鼻から棒を突っ込む検査をセッセと外来でやらされます。患者側も会社から家族からもやってこいとか言われた患者が来ます。しかし、日本の保険医療では現実的にインフルエンザ患者には一律で抗ウイルス剤を処方しないとヤブ扱いされます。最悪ロシアンルーレットに当たってインフル脳症を起こしてしまうと「あの時抗ウイルス剤を処方されなかったら手遅れになった」とか逆恨みされて訴訟とか起こされかねないです。インフル患者⇒抗ウイルス剤は日本だけはもはや定番化していて多くの医者は疑問に感じながらも強迫観念的に検査・処方しているのではないでしょうか?インフルエンザの迅速検査と抗ウイルス薬は本来基礎疾患のある患者のためのものであり、健康な成人には医学的には不必要だと思います。それがなし崩し的にインフル患者すべてに検査と薬を出さなければならんという強迫観念的な空気を作りだしているのが日本の社会だと思います。そこには製薬会社の利益が絡んでいるのはいうまでもありません。殆どの患者は普通のウイルス風邪と同じく自宅で寝てるだけで十分でしょう。漢方薬を常備しておくとなおいいかもしれません。また日本人は風邪ひいても休まないから、風邪がなかなか治らないと言って医療機関を受診します。受診したところで対症療法薬が出されるだけです。
インフルの診断書がないと仕事すら休めない強迫性の社会観念を考え直すべきでしょうね。
Re: インフル強迫性社会
コメント頂き有難うございます。
考えれば考える程、日本の医療が迷走している事がわかりますね。
適正化のためにどこから手をつけていいのかわからなくなりそうですが、まずはインフルエンザにかからなくて済むよう自分と自分の患者さんの体調管理をしっかりとしていきたいと思います。
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