濡れ衣を着せられた漢方薬

2015/02/01 00:01:00 | 漢方のこと | コメント:2件

先日漢方の勉強会に参加しておりましたところ、

「柴胡」という生薬について学ぶ機会がありました。

風邪という病気に対して西洋医学がほぼ無力だというのはこれまでも述べてきたところですが、

漢方薬を使えばいろいろと多角的なアプローチが可能です。

普通風邪というのは最初に症状を感じてから3~5日程で症状のピークを迎え、

抗生物質の使用の有無に関わらず、1~2週間で改善するというのが典型的な臨床経過です。

しかし、患者さん側の立場でみて、どういう時に風邪で病院に行くかということを考えてみますと、

多くの場合、症状が一番きつくなってきた3~5日目の時に行く事が多いのではないかと思います。 ところが実際にはその時期はすでに症状のピークを迎えているわけですから、

その後どんな治療をしようが症状が良くなっていく事がほとんどです。

ですから、その後効果がないはずの抗生物質を飲んでも効いた気がして、世間には「風邪で抗生物質を飲めば治る」という誤解が生まれてしまうわけです。

ただ中にはそういう臨床経過をとらずに、その後いわゆる「風邪がこじれてしまう」という事があります。

そういう時期には西洋医学は本当に無力で、せいぜい咳止めを出したり、痰切りの薬を出したりするくらいで、

そんな治療は対症療法なので、当然ながら根本的ではありませんし、場合によっては治るのが遅くなったりします。

実はそんなこじれた時に役に立つのが「柴胡」という生薬で、それが含まれる代表的な薬が「小柴胡湯」という漢方薬です。

そして柴胡が風邪に効くメカニズムはだんだん明らかにされてきています。

例えば柴胡の主成分であるサイコサポニンという成分はステロイド様の作用があり、抗炎症作用を発揮するということがわかっています。

またウイルスが入って来たときに急性期にはTNF-αやIL-1といったサイトカインが発現し、

脳内のプロスタグランディン合成を高め、視床下部で発熱を起こし悪寒、頻脈などの現象を起こして外邪を排除しようとする反応が起こります。

また、それに引き続いて、第2段階のサイトカインとしてIL-6, IL-8, IL-2というサイトカインが発現するようになります。

IL-6は急性相の蛋白合成を高め、医療者の中ではおなじみのCRPという炎症反応を反映する物質を作ります。

IL-8は顆粒球の活性化を起こし、ロイコトリエン、活性酸素などと合わせて、プロスタグランディンが合成され発汗という反応が起こります。

またそうした反応が長引くことで、結果的に血清鉄が低下して味覚障害、口内の違和感を生じる事があります。

そしてIL-2はリンパ球を活性化し、インターフェロンを合成する事で抗ウイルス作用を発揮します。

実は柴胡剤は最後のIL-2を介した経路を高めて、亜急性期の風邪に効果を示すという事がわかってきているのです。


ところで、医療者の間で、漢方に詳しくない人でもよく知られている事象として、

「小柴胡湯とインターフェロンの併用は間質性肺炎を起こすので禁忌」というものがあります。

間質性肺炎というのは肺の空気の入っている部分以外を占める間質という場所に難治性の炎症を起こし、

発熱、咳、息切れなどの臨床症状が進行し、最悪呼吸不全のために死に至る事もある怖い病気です。

間質性肺炎自体も原因不明である事が多く、近年増加してきている事が示されてきていますが、

薬剤が原因で起こる場合の筆頭として「小柴胡湯」が挙げられているのです。こういう事が原因で漢方薬をよく思っていない医師も多くおられます。

ところが、あたかも「小柴胡湯」が間質性肺炎の原因のように扱われていますが、

私は一緒に用いられているインターフェロンの方が本質的な原因だと考えています。実はここにも西洋医学絶対主義の闇があります。

インターフェロンはC型肝炎の治療法として確固たる地位を確立している薬剤ですが、

先に述べたように小柴胡湯もインターフェロンの合成を助ける作用があるので、

この二つを合わせて用いると、ただでさえ不自然に高められているインターフェロンをより高めてしまうために、

結果的に間質性肺炎という不自然な病態が起こってしまうのではないかと思います。

そして小柴胡湯とインターフェロン製剤のどちらが不自然にインターフェロンを高めるかという事を考えれば、

もともと植物に含まれる成分から発見された柴胡を主とした「小柴胡湯」よりも、

特定の成分を抽出して薬にしたインターフェロン製剤の方が不自然だと考える方が妥当ではないでしょうか。

ところが現代医療は西洋医学中心で構築されていますので、エビデンスのあるインターフェロン製剤よりも、

エビデンスがなく怪しいと思われている「小柴胡湯」という漢方薬の方が犯人扱いされてしまう構図があるのです。

それが証拠にインターフェロン製剤の単独使用でも間質性肺炎の副作用は報告されていますが、

小柴胡湯の単独使用では、副作用としての間質性肺炎の発症頻度は一般集団と比べて特別高くないという調査結果が報告されています。

自然界に存在するものを食べたりしている分には決して起こり得なかった特定の成分の上昇が、

それまでに起こり得なかった病気を作り出していってしまっているのではないかと思います。

同様のことはセロトニン症候群にも言えます。

普通に生きている分には起こり得なかったセロトニンの上昇が、SSRIという薬の登場によってそんな病態が発生するようになってしまったわけですから、

不自然な状態を作るという事が、いかに身体に負担をかけるかという事をうかがい知る事ができると思います。

漢方薬が必ずしも安全だというわけではありませんが、

少なくとも西洋薬より不自然な成分上昇をきたす事はないでしょうし、超多成分系ならではのメリットもあると思います。

そしてそこから自然に備わったメカニズムをフル活用する食事療法の重要性が見えてくると思います。


たがしゅう
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コメント

その通りですね

2015/02/02(月) 17:24:20 | URL | アンチスタチン主義 #-
たがしゅう先生
まさにその通りですね。感冒などに短期的に柴胡を使うのは何の問題もないと思いますよ。一方でインターフェロンは強力な免疫抑制薬なので単独でも間質性肺炎くらいは起こるのは当たり前。インターフェロン=高額=製薬会社の収入源なので、間質性肺炎の真犯人にされたら収入が減って製薬会社にとって不都合な真実だというのは容易に想像できます。それを多少緩衝するために漢方薬を共犯にしてしまうというのはどうなんでしょうね?

Re: その通りですね

2015/02/02(月) 23:40:10 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
アンチスタチン主義 さん

 コメント頂き有難うございます。

 西洋医学の闇、製薬会社の闇、本当に根深いと思います。

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