細菌とウイルスの違いと共通点とグラデーション

2021/02/06 13:30:00 | ウイルス再考 | コメント:0件

小難しくややこしい記事が続いていますが、大事なところなのでもうしばらくお付き合い頂ければ嬉しいです。

前回は「ウイルス感染症は自己システムのオーバーヒート」だという私の見解に関して、

完全なる「他者(非自己)」だと思える「細菌感染症」に対しても、「自己システムのオーバーヒート」の要素が存在していることを示しました。

では今回はここから発展させて、「細菌感染症」と「ウイルス感染症」は本質的にどう違うのかについて考えてみたいと思います。

それを考える前に、「細菌」と「ウイルス」の違いについてもう一度おさらいしておきたいと思います。

「細菌」は細胞構造を持つ自己複製可能な生物、「ウイルス」はDNA/RNAのいずれかをタンパク質で囲い込み細胞構造を持たず自己複製できない半端な生命体、とそれぞれ表現できると思います。

ウイルスが「自己」的な存在となりえたり、見事なまでにスムーズに自己細胞のシステムを活用できたりするのは、半端な構造であるが故でしょう。 一方でまるで「細菌」のように振る舞うウイルスがいることも以前の記事で触れた通りです。

具体的にはヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVなどのウイルスです。抗ウイルス薬で攻撃できるという特徴がありますが、抗ウイルス薬が開発できているウイルスは全体のなかで少数派です。

しかしそうしたウイルスが、「細菌」のような細胞構造を持っているかと言われれば、そうではありません。やはり原則通り「DNA/RNA+タンパク質の殻構造」という基本はこれらのウイルスでも変わりません。

抗ウイルス薬で攻撃できる少数派のウイルスには、何らかの「細菌」的にさせる要素が存在するのだと思われますが、

それがDNAのような安定構造を作れるかどうかに関わっているのではないかという推察はできますけれど、まだ確証までに至っていないという状況です。

他方で「細菌」と「ウイルス」にはこんな違いもありました。細菌の直径はだいたい1μm、ウイルスの直径はだいたい0.1μmと、直径に10倍程度の差があるというところです。

「ウイルス」に感染すると基本的に「抗体」が産生されます。 「抗体」は「抗原」と呼ばれる物質を認識することで免疫細胞を活性化させてその抗原を処理したり除去したりする働きを担っていると言われています。

特定の「抗原」に対する「抗体」を産生した経験はある程度記憶されると言われているので、次に同じ「抗原」と接触したとしても速やかにそれに対応する「抗体」がより強力に産生されるため、初めて接触した時よりも身体のトラブルは起こりにくくないということになっています。

ただ、この「抗原」として身体が相手を認識するためには小さすぎるとダメで、具体的には分子量(※微量な物質の大きさを示す単位のようなもの)が最低でも8000〜10000以上ないと「抗原」として認識されません

ものすごく小さいイメージの「ウイルス」ですが、実は「ウイルス」の分子量は数百万〜数千万くらいだと言われています。

しかし「抗体」が「抗原」を認識する「エピトープ」と呼ばれる部位の長さは一般的に5〜8個のアミノ酸分です。

アミノ酸は20種類ほどありますが、アミノ酸の分子量の平均は136.9ですので、エピトープの分子量は684.5〜1095.2ということになります。

この大きさのエピトープのものが分子量8000以上のものを認識しているということは、

「抗体」のエピトープ部分が認識しているのは分子量数百万〜数千万のウイルス全体ではなく、ウイルスのごく一部であろうことが容易に想定されます。

「ウイルス」に対する「抗体」を事前に作らせようという「ワクチン」の話で、「〇〇ウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体を作らせる」といった話を聞かれたことがある方も多いと思います。

一方で、「細菌」に対して「抗体」はあまり産生されていないようです。「黄色ブドウ球菌」に対する「抗体」とか、「大腸菌」に対する「抗体」とか、聞いたことがないと思います。

なぜならば、ウイルス全体でさえ認識できないわけですから、その10倍の長さを持つ「細菌」を認識するなんて無理であろうことは理解できます。

ただ、それであれば細菌の細胞構造の一部を認識する「抗体」くらいなら認識されてもよさそうなものですが、そういうものに対する抗体の存在もあまり聞きません。

他方で「細菌」に対する「抗体」が皆無というわけでもありません。

例えば「抗毒素抗体」といって、「細菌」が産生する「毒素」の毒性を中和するタイプの「抗体」があります。

またマイコプラズマやクラミジアといったタイプの「細菌」に対する「抗体」も検査としてよく行われます。

実はマイコプラズマやクラミジアといった「細菌」には「細胞壁がない」という特徴と、「細胞内に寄生する」という特徴があります。

多くの抗生物質は細胞壁の合成阻害剤なので、細胞壁を持たない人間の細胞は攻撃せず、「細菌」だけを攻撃することができるという仕組みを持っているのですが、

マイコプラズマやクラミジアには「細胞壁がない」ので、多くの抗生物質が効きません。それゆえこれらの「細菌」の治療にはマクロライド系やテトラサイクリン系という細胞壁合成阻害のメカニズムではない抗生物質が使用されます。

マクロライド系、テトラサイクリン系の抗生物質は、いずれも「細菌」のタンパク質の合成を阻害する働きをもっていて、多くの抗生物質が細胞壁を壊すことで殺菌的に働くのに対して、これらの抗生物質は静菌的に働く抗生物質だと言われています。

つまり「細菌」を殺すのではなく、それ以上増殖するのを止めるという作用機序を持つのであって、あとはその増殖を止めている間に人間の免疫機能がうまく処理してくれるのを期待する薬ということになります。

そういった作用機序のため細胞壁を持たない「細菌」にも効かせることができます。

この薬が人間のタンパク質合成を阻害する心配はないのかと思われるかもしれませんが、タンパク質を合成する細胞内の”工場”に相当するリボソームが人間と「細菌」とで違うので、一応その心配はないと言われていますが、

一方でマクロライド系には抗菌作用とは異なる抗炎症作用が認められいたり、

テトラサイクリン系には歯牙形成への有害作用があることも報告されていたり、人体へのタンパク質合成阻害の可能性も考えられる事実が発生していますので、

もしかしたら「細菌」と人間のタンパク合成システムをそれほど明確に区別しきれていない部分があるのかもしれません。

一方で「細胞内に寄生する」というマイコプラズマやクラミジアらの「細菌」の性質は、実は「ウイルス」のそれとそっくりです。

というのも、「細胞内寄生菌」は単独で増殖をすることができず、増殖するためには必ず宿主の細胞内にあるシステムを利用する必要があるからです。

「ウイルス」のように完全に細胞内でしか増殖できない「細胞内寄生菌」のことを「偏性細胞内寄生菌」と呼び、稀にいる細胞内でも細胞外でもどちらでも増殖することができる「細胞内寄生菌」のことを「通性細胞内寄生菌」と呼びます。

その稀な「通性細胞内寄生菌」の例としては結核や腸チフスが挙げられるようですが、ほとんどの「細胞内寄生菌」はマイコプラズマやクラミジアのような「偏性細胞内寄生菌」です。

ちなみに菌ではありませんがトキソプラズマやリーシュマニアといった「原虫」も「偏性細胞内寄生」の性質を持っています。

ともあれ「ウイルス」に似た性質の「細菌」にしか「抗体」が作られていないという点も考慮しますと、

あるいは「細菌」と似た性質を持つ「ウイルス」も稀ながらいるという冒頭の見解も踏まえていきますと、

「細菌」と「ウイルス」にはその中間的な存在があり、生態系の中にそれぞれグラデーションとして存在している可能性が浮かび上がってきます。

極めつけは下記の本に書かれていた「アミノアシルtRNA合成酵素」についての情報です。



ヒトがいまあるのはウイルスのおかげ
武村政春 (著)


著者は東京理科大学理学部教授の武村政春先生で、巨大ウイルス学というのを専門に研究しておられる方です。

巨大ウイルスというのは、通常0.1μmくらいの大きさのウイルスではなく、0.2μm以上の大きさで遺伝子のゲノムの大きさが300kb以上の大型のDNAウイルスのことで、今見つかっているものの中で人や家畜に対する病原性は持っていないとされています。

そして「アミノアシルtRNA合成酵素」というのはタンパク質を構成するアミノ酸を合成するのに必要な酵素で、タンパク質合成は細胞が増殖するための要ですから、自分で細胞増殖するためには必ず20種類のアミノアシルtRNA合成酵素があることになっています。

ウイルスは自力では全く増殖することができないわけなので、このアミノアシルtRNA合成酵素は一つも持っていないのが通例であるわけですが、

実はこの巨大ウイルスには4つだけアミノアシルtRNA合成酵素を持っていたり(ミミウイルス)、19種類アミノアシルtRNA合成酵素を持っていたりするもの(クロスニューウイルス)があるんだそうです。

こうなると「細菌」側から見ても、「ウイルス」側から見ても、それぞれ中間的な存在がそれぞれのグラデーションで存在しているという姿が見えてきます

こちらの書籍、他にも大変興味深いことが書かれているので、折りをみてまた紹介できればと考えています。


・・・本題の「細菌感染症」と「ウイルス感染症」の本質的違いに入る前の前置きが随分長くなってしまいました。

本題についてはまた次回に持ち越しということで、今回のまとめとしては「『細菌』と『ウイルス』は明らかに違うし、免疫による認識のされ方も攻撃のされ方も違っている。けれど世の中には『細菌』と『ウイルス』の中間的な存在がそれぞれのグラデーションで存在している」というところになると思います。

以上を踏まえて次回こそ「細菌感染症」と「ウイルス感染症」の本質的違いについて切り込んでみたいと思います。


たがしゅう
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