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間質性肺炎から考える「アレルギー」と「自己免疫」の関係性

category - ウイルス再考
2021/ 01/ 09
                 
新型コロナウイルス感染症の重症化例の主病態の「間質性肺炎」についてですが、

以前私は「間質性肺炎は内側からしか起こせない」という内容のブログ記事を書きました。

ウイルス感染症は自己システムのオーバーヒート状態」だという考えに至った背景には、

この主たる感染経路が飛沫であり、大多数の患者で呼吸器を中心に炎症を起こす病態であるにも関わらず、その炎症の主座が外表に近い肺胞ではなく、内部の間質となっているということも大きな根拠となっています。

今回はその「間質性肺炎」を切り口にして、もう少し考察を深めてみます。

「間質性肺炎」の原因は大きく、「①特発性(原因不明)」、「②膠原病性(関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、サルコイドーシスなど)」、「③その他(薬剤、カビ・羽毛・石材・アスベスト・超硬合金などの吸入)」の3パターンに分けられています。

このうち大多数の「間質性肺炎」は「①特発性」とされ、「特発性間質性肺炎」は厚生労働省の指定難病となっています。
            

そのように大部分が原因不明とされている「間質性肺炎」ですが、「②膠原病性(内因性)」と「③その他(外因性)」について深く考えることによって問題の本質が見えてくるかもしれません。

まず「②膠原病性」の「膠原病」とは何かと言いますと、「真皮・靱帯・腱・骨・軟骨などを構成する蛋白質であるコラーゲンに全身的に障害・炎症を生じる様々な疾患の総称」というのが定義です。

実は「膠原」という言葉が「コラーゲン」と同義です。コラーゲンは「間質」と呼ばれる細胞と細胞とを接着する構造の領域に多く含まれる、家にたとえれば柱や梁(はり)などの屋台骨構造に多く含まれる物質です。

「膠原病」という病気は古くはこの「コラーゲン」が変性(機能を失う)ことが原因だと考えられていました。ところが医学が発達するにつれて、実はその上流に自分の組織を間違って攻撃する「自己免疫」の病態が関わっていることがわかってきて、「コラーゲンの変性」はその中の結果の一つに過ぎないということになってきたんですね。

ですが、慣例的に「膠原病」という呼ばれ方は残り、「膠原病」は必ずしもコラーゲンがやられる病気だけを指さず、リウマチ性疾患や自己免疫疾患などの概念ともオーバーラップする概念として認識されてきています。

そんな「膠原病」に「間質性肺炎」が合併しやすいというわけですが、「膠原病」の発症機序に大きく関わっているのが「自己免疫」という病態です。

これは「自分の組織を自分の免疫が間違って攻撃してしまうシステムの誤作動」を指すわけですが、

私はウイルスとは「自己」的な要素と「他者」的な要素が混在している存在だということを過去のブログ記事でも述べて参りました。

そんなあいまいなことは起こらないだろうと、「ウイルス」は明らかに外敵であるわけだから、

とにかく接触したら炎症反応は起こるし、それが表面化しないのは免疫システムが炎症をうまく抑えているからだろうと、

私のこの主張に関して、あまり信憑性を感じておられない方もいらっしゃるかもしれません。

しかし「自己免疫」は、誰がどう考えても「自己」としか考えられない抗原を、「他者」だと判定し攻撃し続けるという現象が明らかに起こっています。

従って、何らかの原因によって、「自己」と「他者」とを取り違える現象は、人体の中ではおおいに起こりうる現象だと思います。

もっと言えば、「自己」的な物質を「他者」的と判断して、本当はそこに「他者」がいないにも関わらず攻撃体制をとり続けて身体全体のシステムが暴走してしまうという点において、

「自己免疫疾患」と「ウイルス感染症」にも共通性があるのではないかという考えにも至ってきます。

以前は「アレルギー性疾患」と「ウイルス感染症」の共通性についても考察しましたが、ここに来て「アレルギー」「自己免疫」「ウイルス感染」の3者もつながってきそうです。

そして「自己免疫」が「自己」的な要素を誤って「他者」的だと判断し攻撃し続けてしまう状態であり、

その一表現型として「間質性肺炎」という病態が起こっているのだとすれば、

「膠原病」に「間質性肺炎」が合併しやすいことは非常に理にかなっている現象だということになります。


ただ、そう考えると「③その他」の「間質性肺炎」に関してはどうでしょうか。

「③その他」というのは、一部の抗がん剤や「柴胡」や「黄耆」といった生薬を含む漢方薬、インターフェロンや免疫抑制薬などの「薬剤性で発症するパターン」や、

カビ、羽毛、石材、アスベスト、超硬合金などの吸入といった「外因性物質に対して発症するパターン」とがあります。

薬や羽毛に「自己」的な要素があるとは到底考えられません。しかしこれらの物質に対して「アレルギー」を起こす可能性は十分にあります。

そして「アレルギー」もまた免疫の暴走であり、これは言ってみれば「他者」的な存在を「他者」的だとまっとうにとらえて攻撃してはいるのだけれど、ただその攻撃体制が過剰に起こってしまっている状況なのであって、

きっかけの差異こそあり、「他者攻撃体制が過剰に起こり続けてしまっている」という点では共通していると言えるのではないでしょうか。


「薬剤性で発症する間質性肺炎」に関して、もう少し考察を深めてみますと、

すべての薬にアレルギーを起こす可能性があるわけですが、すべてが均一に「間質性肺炎」を起こしうるわけではなくて、やはり「間質性肺炎」を起こしやすいという一定の傾向が認められます。

抗がん剤は基本的に全細胞攻撃なので、免疫担当細胞にもダメージが加わることで全体の免疫システムを維持できなくさせる可能性を持ちます。

ただそんな中でも「間質性肺炎」をより起こしやすい抗がん剤として、例えばブレオマイシンという抗がん剤の作用機序をみてみますと、

なんとブレオマイシンはもともと放線菌が産生する抗生物質で、細菌の構造だけではなく動物細胞との共通構造も攻撃するということで抗がん効果を発揮する「抗腫瘍性抗生物質」と呼べるものでした。

しかもブレオマイシンは皮膚や肺以外の臓器には抗菌活性が認められず, 皮膚および肺以外の臓器では急速にブレオマイシンが不活性化されるという特徴があるそうで、

なおかつブレオマイシンには他の抗がん剤とは違っていわゆる免疫抑制作用はありません。

このことから、ブレオマイシンが肺にダメージを与えること自体は説明可能ですが、それが「間質性肺炎」になるという機序に関しては、「細菌」を攻撃するという要素が関わっている可能性が考えられます。

実は一部の抗生物質(ミノサイクリンなど)でも「間質性肺炎」を起こすことが知られます。しかし一方で抗生物質は肺炎の治療として使われる物質でもあり、「間質性肺炎」の副作用は全体からみれば多いわけではありません。

ミノサイクリンは静菌作用を持つ抗生物質です。そしてミノサイクリンは抗炎症作用や神経保護作用があるということもわかっています。

このマイルドに効き、一見よい効果をもたらしているようにも思える抗生物質の効き方が、何らかのバランスを崩して「間質性肺炎」の発症に寄与しているのだとすれば、

肺における「細菌」の存在が、間質における細胞群の暴走を起こさないようなストッパー的な役割をしている可能性がもしかしたらあるのかもしれません。


他の例でいきますと、一昔前に一部の肺がんに対する画期的な治療薬としてもてはやされた「ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)」も「間質性肺炎」を高率に発症することが後に判明した抗がん剤ですが、

この作用機序は、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor:略してEGFR)という細胞の増殖、血管新生、浸潤、転移などに重要な役割を果たす受容体の伝達因子であるチロシンキナーゼという酵素を阻害することによって、肺がん細胞の増殖を抑えるというものでした。

で、このEGFRはがん細胞だけではなく、正常な細胞増殖あるいは細胞修復にも関与する受容体であることから、この機能を妨げるゲフィチニブは正常肺細胞の繊維化を修復出来なくなるのではないかという機序が想定されているようです。

私的に注目なのは、このEGFRが「上皮」の成長を促進する受容体であるという点です。

実は「上皮」と「間質」は対の概念です。臓器の機能や構造を定める活動的な部分が「上皮」であり、それを支える屋台骨的な部分が「間質」です。

「上皮」の働きを、しかも肺領域に限局してブロックさせたことによって、相対的に肺の「間質」の機能が非制御状態に陥ってしまったとみることができそうです。


最後にもう一つ、漢方薬やインターフェロンによって引き起こされる薬剤性間質性肺炎には別の共通点があります。

それはいずれも「抗ウイルス効果を発揮し過ぎることによって起こっている」ということです。

そもそもインターフェロンは天然の抗ウイルス薬と言われています。

また間質性肺炎を起こすとされる漢方薬の作用記事にはこのインターフェロンを含めたサイトカインの産生を促すとわかっている生薬が含まれているものが多いです。

つまり抗ウイルス性物質を外因により増やしすぎると「間質性肺炎」が起こってしまうということです。これはどのように解釈すればよいでしょうか。

抗ウイルス効果ということはウイルス感染細胞をアポトーシスに導く効果、すなわち「異常な自己」を排除する免疫のシステムが駆動されている状況です。

これは免疫システムの中ではMHCクラスⅠという自己の名札に異常が出た場合に対処してくれるNK細胞が担当してくれる部分が活性化する状況とつながります。

ストレスがNK細胞活性を低下する、笑いがNK細胞活性を高めるということからも推察されるように、NK細胞が高まった状態というのは副交感神経優位状態です。

さらに交感神経系が好中球を活性化し、副交感神経がリンパ球系を活性化するということ、NK細胞がリンパ球の流れを汲んでいる血液細胞であることも踏まえますと、

抗ウイルス効果が発揮されすぎている状態というのは、「リンパ球系細胞の過活動状態」だと捉えることができます。

そして「リンパ球系細胞の過活動状態」は「アレルギー」の病態ともリンクします。

「アレルギー」は「他者を過剰に攻撃し続けている状態」です。これに関わっているリンパ球は主として、MHCクラスⅠの名札のある細胞の異常を察知する「CD8陽性Tリンパ球(細胞傷害性Tリンパ球)」、MHCクラスⅠのついていない「異常な自己」細胞を排除する「NK細胞」です。


・・・ここまで大変複雑なことを考えてきましたので、少し整理しましょう。

「間質性肺炎」は多くの場合原因不明とされているわけですが、「原因がわかっている」というタイプの「間質性肺炎」の病態をつぶさに観察することで、その正体がおぼろげながら見えてきました。

・間質性肺炎は原因はともかく自身の異物除去反応(「他者」的要素攻撃反応)が過剰に活性化されて起こる現象の一つ
・間質性肺炎には「アレルギー」性の病態と、「自己免疫」性の病態とがともに密接に関わっている
・「アレルギー」性の病態とは、「他者」的要素を攻撃し過ぎる状態、「自己免疫」性の病態とは「自己」的要素を誤って「他者」的と誤認して攻撃し過ぎる状態
・「自己」的要素の「他者」的としての誤認という意味で、「ウイルス感染症」と「自己免疫疾患」には共通性がある
・「他者」的要素を攻撃し過ぎる状況で、細胞生物学的に起こっているのは「リンパ球系細胞の過剰活性化」
・「リンパ球系細胞の過剰活性化」には、「細菌」の不在や「上皮」特異的な抑制、「内因性抗ウイルス性物質(インターフェロンなど)」の相対的過剰などが関わっている可能性がある


難し過ぎる話かもしれませんが、私にとっては医学の根幹を揺るがす重要なテーマです。

この考察を完成させることによって、今まで別の病気と思われていたものが明確な根拠を持って有機的につながっていく可能性があるので重要な意義があります。

あとは、「自己」的要素を「他者」的要素だと誤認させてしまう要因は何であるのか、ということをもう少し詰める必要があるのと、

「間質性肺炎」の所見として「CD4/CD8の比」というものがあります。実はこれが間質性肺炎の原因によって一定ではありません。

ここを切り口に「間質性肺炎」についてさらに深めると、有機的な結合についてもう少し明確にすることができそうなのですが、

長くなるので今回はいったんここで止めておくことにします。

難しい話について来るのが苦ではない人は、どうかもうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。


たがしゅう

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コメント

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No title
たがしゅう先生

 私は従来ひどい花粉症に悩まされていましたが、糖質制限(とワセリン塗布)により、ほぼ無症状になりました。
 糖質制限が花粉症に効くとの話は、江部先生のブログや夏井先生のHPに多数寄せられており、その理由としては、高血糖による内部炎症が治まる(軽くなる)ことにより、免疫系が正常になると説明があったように思います。

 とすると素人考え的には、間質性肺炎の治療や予防にも糖質制限食が有効な手段になるように思えるのですが、その可能性について何かお考えがあれば教えてください。
Re: No title
タヌパパ さん

 御質問頂き有難うございます。

> 間質性肺炎の治療や予防にも糖質制限食が有効な手段になるように思えるのですが、その可能性について何かお考えがあれば教えてください。

 「間質性肺炎」の患者さんに糖質制限でアプローチした実際の診療経験はないので、あくまでも予想としてお答えします。

 「間質性肺炎」は「自己システムのオーバーヒート状態」なので、この状態で糖質制限を行ってもおそらく厳しいというのが私の考えです。
 糖質制限はたとえるならば、火事の火種を止めるような作業です。相手がボヤであればまだ糖質制限で押さえ込むことは可能ですが、大火事が相手であれば今さら火種を止めたところで燃え尽きるところまで行ってしまいます。「間質性肺炎」はこのたとえにおける大火事の状態です。

 一方でボヤの方はと言いますと、これが実は花粉症などのアレルギー性疾患であったり、まだこじれていない段階の関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患であったりするのではないかと私は考えています。これらの状態が深刻化して「間質性肺炎」を合併するというのであれば私の中で話は非常にすっきりします。従って、糖質制限は間質性肺炎の治療には有効でないけれど、間質性肺炎の予防には有効だと私は考える次第です。
No title
たがしゅう先生

なるほど、です。有難うございました。