夏かぜの原因探しはデメリットだらけ

2023/07/20 11:05:00 | 医療ニュース | コメント:0件

最近、ヘルパンギーナ、RSウイルス感染症がこどもの間で流行中だというニュースを時々耳にします。

罹患者数のグラフを見ますと、過去に類を見ないほどの患者数の多さで不安に感じておられる方も多いかもしれません。

ニュースではヘルパンギーナもRSウイルス感染症もいわゆる「夏かぜ」の一種だけどあなどれない病気だと説明されていますね。もちろんどんな風邪もあなどるべきではないし、風邪にかかったと思ったら、こじらせないように適切に療養すべきだと私は考えています。

そんなヘルパンギーナとRSウイルス感染症ですが、どのように診断されているかご存知でしょうか。

まずヘルパンギーナから見てみます。ヘルパンギーナとはピコルナウイルス科のエンテロウイルス属に属するウイルスの中で、主としてコクサッキーウイルスA群に属するウイルスによって引き起こされるウイルス感染症です。

「ヘルパンギーナ 診断方法」と軽く検索してみると、臨床微生物迅速診断研究会(The Association for Rapid Method and Automation in Microbiology:ARMAM)のホームページの質問箱というコーナーに次のようなやりとりが紹介されていました。

(以下、http://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon/herpangina.htmlより引用)

■ ヘルパンギーナの確定診断の方法について御教示下さい

【質問】
 前略、質問をさせて下さい。お世話になります。
 夏かぜの一つとして夏 (6・7・8月) ヘルパンギーナ (コキサッキーA) が幼児から学童に認められますが, 咽頭粘膜の発赤 (場合によっては白苔) を伴う高熱を認めます。原因としては, コクサッキーウイルスA群2・4・5・6・8・10型, 稀にB型やエコーウイルスも指摘されていますが, これらを確定診断する方法について解りやすく解説をいただきたいのですが・・・

 また一般開業医レベルで原因ウイルスの確定まで行う必要はあるのでしょうか??? 臨床症状と流行時期から判断してもよろしいものでしょうか???

 また, ヘルパンギーナの場合の休園・休校などの指示として適正なものがございましたら, 併せて御教示下さい。

【回答】
 質問に関して回答させていただきます。

 まず, ヘルパンギーナは御指摘のように, A群, B群コクサッキーウイルス,エコーウイルスなどのエンテロウイルス感染により発症します。したがって何回も罹ってしまう疾患といえます。

 その確定診断法としては, 患者の咽頭ぬぐい液や水疱病変部,糞便, (髄膜炎を合併した場合は髄腋) などを検査材料としたウイルス分離を行います。PCR法などによる遺伝子診断も可能ですが, 確定診断はあくまでウイルス分離が基本となります。ただしウイルス分離は, 生きた細胞 (乳のみマウス,初代サル腎細胞) や特別な設備が必要で, 手技も煩雑で時間もかかるため, 一般にはあまり行われません。

 血清学的診断法としては, 急性期と回復期のペア血清を用いた中和反応,補体結合反応などがあり, 4倍以上の特異抗体価の有意な上昇を認めれば診断補助となります。しかし臨床的意義はあまり認められません。中和反応は, 生きた細胞を必要とし, 操作が煩雑で, 結果を得るまで時間がかかるなど, 日常検査としての有用性は乏しいです。また補体結合反応では, エンテロウイルスの場合, 各型間での交差反応が多くみられるので, 確定診断としての臨床的意義は低く, 一般にはあまり行われません。

 以上のことを含め, ヘルパンギーナの場合, 臨床症状から比較的判断しやすいものであり, “原因ウイルスの確定まで行う必要はない”と考えられます。原因ウイルスの確定が必要なのは, 特効薬としての抗ウイルス剤が開発され, 市販されている場合です。ヘルパンギーナの治療法としては, 発熱や食欲不振への対症療法しかなく, 特に有効な予防法があるわけではありません。抗ウイルス薬は抗菌薬と異なり, どのウイルスにも有効な薬剤ではありません。インフルエンザウイルスなどのように, 抗インフルエンザ薬として特効薬が開発されると, それに伴い, 迅速抗原検出キットが開発されますが, エンテロウイルスの場合にはその開発は未だです。従って, 先生のおっしゃるとおり, 一般的には流行期や臨床症状による診断で十分なことがほとんどです。ただしエンテロウイルス感染は多彩な症状を示すので, ヘルパンギーナの場合も, まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎を合併する場合があります。その点は注意が必要かと思います。

 また, 学校において予防すべき伝染病としてヘルパンギーナは明確に規定されたものではなく, その他の伝染病として第三種に含まれます。必要があれば学校医と相談の上, 学校長が出席停止などの措置をとることができ, 出席停止期間は伝染の恐れがなくなるまでとされています。エンテロウイルス感染の性質上, 回復後も2_4週間は便からウイルスが検出されるので, 急性期のみの登校 (園) 停止は流行阻止を目的としては期待できるものではありません。患者の状態によって判断するべきで, 発熱などがある場合や症状が重い場合は安静を保ち, 回復したら登校 (園) させてよいと思います。

(研究会名誉会員・中村 良子)

(後略、引用ここまで)



要するにヘルパンギーナは夏かぜの症状と口の中に発疹があって、かつ周りでヘルパンギーナが流行っているかどうかで診断されているということです。似たような話は水いぼの時にもありました

そして検査もできるにはできるけれど、特効薬があるわけでもないから実際的に行われないという話です。

でもこれっておかしな話ですよね。検査を行わない以上、ヘルパンギーナと診断するためには、周りでヘルパンギーナが流行っているかどうかは重要な情報であるはずです。

それではまだその情報がない段階の、その時期一番最初にヘルパンギーナと診断した医師は、どうやってヘルパンギーナと診断したのでしょうか。

おそらく「夏の時期にこどもが熱を出して風邪症状があって、口の中をのぞくと発疹があったから」ではないでしょうか。

それが別の病気ではないこと、たとえばインフルエンザやコロナなどの他のかぜ症状をきたす病気でないことは十分に確認されているのでしょうか。

私は小児科医ではありませんが、研修医時代に小児科診療の実情を経験しています。その頃を思い返してみても、たくさんの小児患者が押し寄せる中で、とてもではありませんが一人ひとりにそうした検査を実施する余裕があるようには感じられませんでした。

つまり、ヘルパンギーナの診断は医師の恣意性が高い言い換えれば客観性が極めて乏しいということが言えると思います。


続いてRSウイルス感染症の診断方法を確認します。同様にネット検索すると、次のような記事が見つかりました。

(以下、https://nakazono-clinic.com/blog/rsウイルス検査について/より一部引用)

(前略)

RSウイルス感染症とは主に乳幼児が感染する、いわゆる「風邪」です。

年長児や成人も感染しますが、多くの方は軽症の風邪症状で済みます。そのため、治療に特効薬はなく、それぞれの症状に対する対症療法のみとなります。

しかし、RSウイルスが問題となるのは新生児や6ヶ月未満の乳児が感染した時で、発熱、咳、鼻汁に加え重い呼吸器症状(ぜーぜー、呼吸困難など)を起こし入院となる事があり特に注意が必要です。

症状と鼻に細い綿棒を入れる迅速検査で診断しますが、RSウイルス迅速検査は外来では1歳未満しか保険適応ではありません

そのため、「保育園・幼稚園でRSウイルスが流行っているから心配」、「園で検査してもらうように言われた」と受診される方が多くいらっしゃいますが、1歳以上のお子さんでどうしても検査を希望する場合には、自費での検査となり、それと同時に診察も自費扱いとなります。

1歳以上で発熱や咳があるお子さんでRSウイルス感染が分かったとしても、特効薬はない事から、いわゆる「風邪」と治療や対応は同じで、登園も全身状態が良く症状が改善していれば問題はありません。

(引用、ここまで)



RSウイルス感染症の方は、検査はあるにはあるけれど1歳未満でしか保険適応になっていないということで、

1歳以上のこどもで夏かぜの症状があれば、検査も行われずにRSウイルス感染症だと診断されているのが実情のようですね。



要は、ヘルパンギーナもRSウイルス感染症も、基本的に検査が行われているわけではないと、

夏にこどもが風邪をひいて、小児科医が見て風邪症状だけなら「RSウイルス感染症」、風邪症状+口の発疹なら「ヘルパンギーナ」、ついでに言えば風邪症状+口と手足に発疹なら「手足口病」と診断されているということです。かなり適当な世界に私には感じられます。

今だとそこに「コロナ検査で陰性だったら」という要件も入っているかもしれませんが、コロナの検査に問題があることは当ブログで何度も指摘してきました。

もっと言えば、1歳未満に対して行うRSウイルス感染症の迅速検査にも同様の問題があります。そこにRSウイルスの抗原が検出されることと、今の風邪症状がその抗原に対して引き起こされているものであるかどうかの間には直接的な因果関係はありません

たまたま無関係のRSウイルス抗原(もっと言えばただの類似構造物)を引っ掛けただけで、実はたとえばライノウイルスに対して炎症を起こしているかもしれない可能性を否定できない検査なのです。

結局、検査で陽性だから「RSウイルス感染症」と診断することと、こどもが夏に風邪症状をきたしたから「RSウイルス感染症」と診断することには、適当な判断という意味で本質的な違いはないということです。

しかし「RSウイルス感染症」の場合は、それでも比較的気軽に検査できてしまうことがさらに問題を複雑化させます。引用文中にもあるように、「保育園や幼稚園からRSウイルス感染症かもしれないから検査を受けてきてほしい」と要請され、RSウイルス感染症の検査希望で小児科を受診される患者さんが後を絶たないようなのです。

園の人からすれば、医師からお墨付きをもらった「RSウイルス感染症」という診断名を使って、その子の登園を正当に禁止したり、正当な判断として休園の措置を取りたいという希望があるのでしょうけれど、

その大元の「RSウイルス感染症」の検査がそもそも当てにならないし、医師の「RSウイルス感染症」という診断基準自体も適当だし、しかもその検査費用は1歳以上のお子さんだと自費負担になってしまうわけです。

この「RSウイルス感染症」問題についての医師側の苦悩はこちらの記事にも詳しく書かれています。記事を書かれた小児科医の先生は「RSウイルス検査をしまくったところで、流行を食い止めることはできない」ともおっしゃっていますね。


このように現代医学が支持する「病原体病因論」を前提とした病気というものの取り扱い方によって、

普段私たちが意識しないところで社会に様々な歪みをきたしているということがよくわかると思います。

ここまでの話を踏まえた上で、改めて冒頭のヘルパンギーナ、RSウイルスの大流行のニュースを振り返りますと、

私には今、種々の風邪ウイルスが猛威を振るっているのではなく、

夏という体調を崩しやすい時期に、一定の割合で発生する風邪症状をきたしたこども達に対して、

「病原体病因論」に基づいた医師側の文化的価値観、誤解を恐れずに言えば一種のブームのような感覚によって、「ヘルパンギーナ」とか「RSウイルス感染症」などのラベルが貼られているだけ
、であるように私には思えます。

そのラベリングを行うことでメリットがあるのであれば、そのやり方も理解はできます。でも特効薬もない、信頼性も乏しい、ただ不安を煽られるだけなのであれば、そのラベリングにはデメリットしかないように思います。

「RSウイルス感染症」と診断を受け取った保育園や幼稚園にはメリットがあるでしょうか。いや、一見メリットがあるように見えて、不確かな情報に踊らされ、結果的にこどもや保護者に無意味な負担をかけてしまっていると私は思います。

こどもや保護者が何も疑わないうちは表面上それでもいいかもしれませんが、この構造が理解されれば不当にこどもの権利を侵害しているということで、園として大きく信頼を失うというデメリットへの転換が起こる可能性をはらんでいると思います。園としてはいつ爆発するともしれない大きな爆弾を抱え続けているようなものです。


夏のこどもの風邪症状に対して原因探しにこだわる必要はないと私は思います。

何が原因であろうと、まずは適切に療養することです。その上で保護者はこどもを観察し続けること、

発熱はしんどいけれど身体が治そうと頑張っているサインなのだとわきまえて、保護者はそれを氷枕や水分の提供、下着の交換などで応援するように関わること、

真っ赤な表情はうまくいっているサインだと認識すること、逆に真っ青な表情は自力でのコントロールが難しいサインかもしれないと認識し、

他の呼吸音が苦しそうだったり、意識がもうろうとしているなど、他の危険なサインがないかどうかも合わせて観察し、迷った場合は病院に連れていくという方針
で、

こどもの夏かぜと向き合うのが、今のところ一番バランスが良いのではないかと私は考えています。

大変残念なことに、何も考えずに気軽に病院へ受診してしまうと、歪みに歪んでしまった医療の犠牲になるという世の中になってしまっています。医師に全てを任せる人だけがその犠牲となり続ける構造です。

そのような犠牲者が少しでも減らすための選択肢として、「主体的医療」について伝え続けたいと思います。


たがしゅう
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