医療業界を席巻するパターン思考
2021/05/31 08:50:00 |
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皆さんの中に「医師は難関の医学部受験、医師国家試験を乗り越えた頭のいい人達だ。きっと医師の頭の中では非常に複雑な思考が行われていて、素人が考えるよりもはるかに妥当な結論をもたらしてくれるに違いない」というように、
そこまで明確には思っていなくとも、医師の思考にある程度信頼を寄せている方も少なくないのではないでしょうか。
しかし私自身が医者になってみて、実際に医師の業務を体験してみてわかることは、はっきり言って医師の思考はそこまで複雑なものではありません。
なにしろ現代医療が拠り所としている西洋医学の「診断」をつけるという行為が、すでにパターンに当てはめるという「パターン思考」を示しているからです。
例えば、発熱の患者さんが来たときに、医者の頭の中ではいくつかの「パターン」が浮かんでいます。
風邪かもしれない、インフルエンザかもしれない、あるいは長続きしていたら結核かもしれない、はたまた今の状況であればコロナかもしれない・・・などと。
複数の「診断」名を思い浮かべながら、問診、診察、検査といった診療プロセスでどの「診断」が最も妥当であるかを判断するという作業を行っています。 このように複数の「診断」候補を考えることを「鑑別診断を挙げる」と表現しますが、
医者の中ではいかに多くの鑑別診断を挙げて、その中から妥当な「パターン」を抽出するかということが腕の良さを表すと言われています。
要するに「一つの診断に決め打ちせずに、多くの可能性の中から論理的根拠をもって判断する」という思考がよしとされているのです。
ところが、これは医学部教育や研修医教育の中で教わるような、ある意味理想型の話です。
実際の医療現場に出てみれば、そこまで毎回細かく考えてなんかいられないということはよくわかります。特に野戦病院であればなおのことそうです。
本当は発熱の患者に、風邪以外に、結核かもしれない、膠原病かもしれない、がん(腫瘍熱)かもしれない、薬剤熱かもしれない、などとあらゆる可能性を考えるべきだということがわかっていても、
日々多くの患者さんを診療しなければならないという忙しさに押されると、「おそらく風邪であろう」といった「パターン」に当てはめて診療してしまうことも多々あります。
忙しくて考えられないのであればまだしも、ある程度経験年数を重ねてくると無意識に行われるプロセスの省力化として、「今までの経験から考えれば検査をせずとも風邪だと判断できる」というように、
「パターン思考」はさらに簡略化されて、言わば安易に決めつける診療が平然と行われてしまう構造があるように私は診ています。
勿論、そうならないように気をつけてはいても、西洋医学中心医療の中で働いていれば、どうしてもそのような思考パターンに陥ってしまうということは、
今回のコロナ禍においてより浮き彫りになったように私には思えます。
医療における「パターン思考」の最も楽なところは、ある「パターン」に当てはめてしまえば、自動的にその「治療」も決まってしまうところにあります。
しかもその「治療」は多くの場合、「ガイドライン」と呼ばれる科学的根拠があるとされる診療指針(この科学的根拠がたいして科学的ではないことはこれまでも触れてきました)で、具体的な提案がなされています。
要するにそこに「考える余地」はほとんどないのです。医者はある意味でほとんど考えていないのです。
風邪のような急性疾患であればまだしも、高血圧症や糖尿病といった慢性疾患の治療になってくるともっとひどいです。
医者がやる作業は、患者の血圧をチェックする、140/90mmHg以上(最近はもっと低いかな・・・?)であれば、血圧が高すぎると考えて降圧剤の調整を考慮する、これがメインの思考です。
そこに家で血圧を測ってもらってその記録も合わせて評価するとか、塩分の摂り過ぎを注意する(この指導の妥当性にも怪しい部分はありますが・・・)といった多少のバリエーションはありますが、大元は「血圧が高ければ薬で下げる、血圧がよければそのまま、血圧が低すぎれば薬を減らす」といったシンプルな「パターン思考」で動いています。
糖尿病の方も一緒です。「血糖値が高ければ薬で下げる、血糖値がよければそのまま、低ければ薬を減らす」という作業をひたすら行っているだけなので、基準さえ把握しておけば医者ではない人でもできそうな作業です。
そんなシンプルな「パターン思考」であることが、コロナ禍でどうして浮き彫りになったかと言いますと、
「発熱とみればコロナ」という思考に医療業界全体が支配されてしまっていることを認めざるを得ない現象が散見されているからです。
昨冬にインフルエンザが激減したというニュースが話題になりました。
日本で昨冬にインフルエンザと診断された人は、たったの4人だったと言われています。国民のほとんどがマスクを装着したおかげだとか、コロナとのウイルス干渉のおかげだとか、様々な説がまことしやかに言われていますが、
私は「発熱とみればコロナ」という「パターン思考」が世の中を席巻してしまったことが主な原因だと考えています。
それが証拠に、インフルエンザ以外の発熱性疾患も軒並み減少しています。ウイルスの干渉現象が起こらないはずの「細菌」による感染症まで減っています。
マスクが効いたと考えるのも矛盾が生じます。それならばなぜコロナだけ収まらないのか、という話になってしまいます。
これは「発熱患者に対するパターン思考が、極端にコロナに偏ってしまった」ということを反映していると考えればつじつまがあいます。
要するにほとんどの医療者が発熱患者を診た時に、「コロナを最優先」に考えるようになってしまったということです。
現状、私が知る限りにおいても様々な発熱患者さんでコロナの検査が行われている状況を見るわけですが、
コロナとほとんど区別がつかないはずのインフルエンザも律儀に検査されているケースはほとんど認められません。コロナの抗原検査やPCR検査だけが行われている場合がほとんどです。要は「簡略化されたパターン思考」に陥ってしまっている、ということです。
もっと言えば、「発熱患者さんは(コロナの可能性があるので)お断り」という医療機関が増えてきたことも、「発熱とみればコロナ」という「簡略化されたパターン思考」に医療業界が支配されていることの表れだと思います。
それでは研修医時代を思い返し、きちんとインフルエンザも含めた鑑別診断をしっかりと挙げて診療するのがよいのでしょうか。
・・・実は私はそうは思いません。この「鑑別診断(たくさんのパターン)を挙げて、その中から一つのパターンに当てはめる」という思考そのものを見直す必要性を強く感じています。
それは「病気とは患者自身(の表現型)である」という主体的医療の立場に立つと見えてくる視点なのですが、
要は「なぜその患者さんが発熱反応を起こしているのか」ということが大事であるわけです。
それも「風邪だから」とか「結核だから」といったようなパターンに当てはめた理由ではなく、もっと根本的なところでの発熱の理由です。
発熱というのは、よく言われるように、身体が必要に迫られて起こしている防御反応です。この反応によって異物を除去したり、身体の壊れた部分を修復しようと頑張っているサインです。
ということは身体の中に異物や壊れた部分があるということを意味しています。
そうなると異物や壊れた部分を探すことも大事かもしれませんが、同時にその修復反応がつつがなく行われるための環境を整えたりサポートしたりするアプローチも重要になってきます。
そして特に何度もこの発熱が繰り返されている状況の場合は、あらゆる場所が壊れているのかもしれないし、場合によっては異物ではないものまで異物だと誤認してしまうほどにシステムがオーバーヒートしてしまっているのかもしれません。
そうすると異物を一生懸命探すこと、西洋医学の価値観で言えば「鑑別診断を挙げること」にこだわるのではなく、とにかくシステムのオーバーヒートが収まるように身体を調整していく必要性はより強くなってきます。
というよりも身体の調整という行為が最も大切で、そこさえきちんとなっていれば、多少の異物や身体の故障箇所は適切に修復する流れを維持することができるのだと思うのです。
では何がシステムのオーバーヒートを引き起こしているのかという個別の要因について考えて、その要因に応じた対処を考えるのが主体的医療の基本姿勢です。
勿論、これも大きな意味では「パターン思考」なのかもしれませんが、個別の事例に対しては定型的なパターンに当てはめることはできず、患者さんに応じた個別的対応を考えなければなりません。
例えば、システムのオーバーヒートの原因が「仕事でのプレッシャーにある」場合は、ただ単に風邪薬や血圧を下げる薬を出すだけではなく、その患者さんが「仕事に対してどのような価値観を持っているか」とか「産業医とはうまく連携がとれているのか」などといった状況を確認し、対処法を検討していく必要があります。
システムのオーバーヒートの原因が「周りからの評価を下げないように無理していい人を演じ続けていること」にあるのだとすれば、その構造がある可能性を指摘した上で、「多様な価値観の在り方について紹介する」ことが助けになる場合もあると思います。
一般的な医療のやり方より実はよほど手間がかかり、大変な作業で、時には原因が見つからないことさえあるかもしれませんが、
それでも「病気」と呼ばれる状態に対する根本的な治療アプローチとなりえるやり方だと私は思っています。そういう医療を私は「オンライン診療」というフィールドで広めようとしているのです。
「発熱とみればコロナ」の概念に医療業界が縛られていることを患者さんは苦々しく思うかもしれませんが、
実は患者さんの方も、西洋医学の「パターン思考」に縛られて行動してしまっているという構造に気づいてもらいたいと思います。
体調が悪くなれば、病院に行ってお医者さんに相談すると、その素晴らしい頭でお医者さんは間違いのない診断と治療方針を導いてくれることでしょう、と。
ほとんどの患者さんはそんな風に考えると思いますが、そこで行われている医師の思考は結局は「簡略化されたパターン思考」です。
患者さんの個別の事情はほとんど考慮されないまま、現代医療の中で定められているいずれかのパターン(鑑別診断)に当てはめられて治療方針が決まります。
せいぜい食生活の一部を尋ねられるくらいで、それも「血圧が高いのは塩分を摂り過ぎているせいだ」というパターンに当てはめられてしまうかもしれません。本当に塩分を摂り過ぎているかどうか把握できていないのに、本当は別の個別的事情に血圧を上げる要因があるかもしれないのに。
ただもし、例えばその発熱に「結核」が関わっているとしたら、「抗結核薬」という薬を使った方がよいという場面はあると思うので、
西洋医学のパターンに当てはめることが全てよくないとまではさすがに言いません。しかし細菌感染症を起こすということは、それだけ身体のシステムが大きく乱れているということを意味しています。
「抗結核薬」でとりあえずの対処を行うことはよいとしても、そもそもなぜそこまでシステムがオーバーヒートする事態に見舞われたのかという根本的原因が追及されない限りは、
また病気は同じ形、あるいは別の形でひずみを生じ、別の「病名」としてその患者さんを苦しめるだけなので、これは本当の意味で治療したということにはなっていないと私は思うのです。
ですので、今回の記事を通じて読者の皆さんに知ってほしいことは大きく2つです。
・医者の思考は特定の形式に当てはめるパターン思考である
・医者のパターン思考では病気の根本的な原因にはアプローチできないので、個別の事情は患者中心で検討していく必要がある(患者が一番個別事情を把握している)
病気を根本的に治療したいのであれば、この構造を知っておくことは必須だと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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