「ワクチンは正しい」という前提による解釈の歪み

2021/12/02 16:30:00 | ワクチン熟考 | コメント:2件

コロナ禍で様々な情報発信者がいる中で、非常に気になっている団体があります。

それは「こびナビ」という団体で、ホームページには「新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの正確な知識をお伝えすることを目的として集まったプロジェクト・チーム」と紹介されています。2020年2月に発足し、4月には県庁の感染対策本部にも参画され、国のワクチン担当大臣とも接触できて、医療監修を行う立場にもなっています。

構成メンバーは比較的若い世代のドクターが多く、全体としてアメリカの有名大学や研究機関での専門職の肩書きを持っておられる方も多い印象です。いわゆるエリートドクター集団という印象を受けます。

一方でこの「こびナビ」が発信する情報は、一言で言えば「ワクチンは科学的に安全だから、心配せずにみんな打ちましょう」だとまとめられるように思います。ワクチンの有効性や安全性を示す様々な医学論文を紹介していたり、ワクチンに対する誤情報や偽情報に対する訂正を行ったりする活動をしばしば見かけます。

ただその情報発信の仕方が非常に偏っていると私には感じられ、個人的には非常に問題を感じています。

そんな中、「こびナビ」の副代表をされている木下喬弘ドクターが次のような本を書かれていたので購入し、読んでみることにしました。

みんなで知ろう! 新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話 単行本(ソフトカバー) – 2021/11/26
木下 喬弘 (著)


この本を読む限り、木下ドクターの主張をまとめるとこうです。

・ワクチンは人類を病気から救ってきた医学の発展がもたらした科学の叡智である
・しかしワクチンに関する誤情報・偽情報が根拠もなく流布されたことで折角の叡智の恩恵を受けられないという悲劇が起こっており悲しい限りである
・この本ではなぜワクチンの有効性や安全性が確かであるかを科学的根拠をもとに解説する


私も一介の医師ですので、正直この主張は医療者から至るところで聞かれます。この主張に賛同される人もきっと多いだろうと思います。

ただこの主張には、誤情報や偽情報の問題はさておいたとしても、ワクチン接種後の副反応や後遺症、あるいはワクチン接種後の死亡など実際に観察されている出来事に悩む人々が知りたいことに答えられないという大きな欠点があると私は思っています。つまり「ワクチンは正しい」という前提にあまりにも偏り過ぎた主張だということです。

ある意味でこのコロナ禍はワクチンというものの本質を見直す最大の好機だと私は考えています。「ワクチンは正しい」という前提を見直して然るべき現実の事象もたくさん観察されてきていると思います。

逆に言えば、その前提が見直せないまま社会が営まれているが故に世界はかつてない分断へと突き進んでしまっている状況で、これは非常に大きな問題だと私は感じています。

例えば、コロナワクチンのかつてないほどの副反応の多さは、ワクチンの正しさを見直すきっかけのひとつですが、木下ドクターはこれに関して次のように述べています。

(p24-25より引用)

(前略)

つまり、ワクチンを接種したあとに、熱が出たり、頭が痛くなったりといった、風邪を引いた時のような「副反応」が起こるのは、身体の中で免疫が活性化されていることの現れなのです。

(中略)

このような「まるで風邪を引いたかのような症状」は、接種した翌日にピークを迎え、長くても4〜5日でほとんど消失します。また風邪の症状と同じように、解熱薬を使って抑え込むことが可能です。

(引用、ここまで)



つまり、「ワクチン接種後の副反応は免疫を活性化するための必要なプロセスだ」という主張ですね。「ワクチンは正しい」という前提に立てばすごく自然な主張に思えます。

ところがそう考えると、これまでの副反応が少なかったインフルエンザワクチンや麻疹ワクチンをはじめとした副反応の比較的少ない不活化ワクチンのようなワクチンでは必要なプロセスが十分に起こっていないということになります。

少なくとも、「副反応は必要なプロセスだ」というこの主張は、なぜコロナワクチンでは従来ワクチンに比べて副反応が多いのかという疑問には全く答えられていません。

またそうやって紐解いていくと、木下ドクターの主張には、ワクチンの負の側面についてあまり言及しないという構造が散見されていることに気づきます。

例えば、コロナワクチン接種後の重大な問題として挙げられる心筋炎やギラン・バレー症候群について木下ドクターは次のように述べられています。

(p35-37より一部引用)

mRNAワクチンを接種したあとに起こる心筋炎は、若い男性に起こりやすく、1回目の接種より2回目の接種に多いことがわかっていますし、ほとんどがワクチンを接種してから1週間以内に起こるというデータが揃ってきました。

(中略)

さらに、mRNAワクチン接種後の心筋炎は軽症であることがほとんどです。

イスラエルからの報告では、mRNAワクチン接種による心筋炎の約76%は軽症、約22%は中等症と報告されていて、アメリカの「CDC(アメリカ疾病対策予防センター)」も飲み薬や安静治療ですぐによくなることが多いとしています。

一方で、新型コロナウイルスに感染した場合、10万人あたり11人に心筋炎が起こる上に、重症化したり死亡したりすることもあるため、こちらの方が厄介と言えるでしょう。

(中略)

また、ギラン・バレー症候群という病気も、ウイルスベクターワクチンが原因で起きていることがわかりました。

(中略)

重症な場合は呼吸筋の力も弱まり、自分で息ができなくなるため、人工呼吸器が必要となることもあります。

ただし、ウイルスベクターワクチンによるギラン・バレー症候群の頻度は5〜10万回に1回程度と非常に稀です。

(引用、ここまで)



要するに「ワクチン接種後の重大な副反応は稀だしほとんど軽症だから心配しないで」という主張ですね。

ですが、稀でもこうした事象がワクチンによって起こるということは木下ドクターも文章の中で認めているところではありますし、

稀ながらそうした事実が確認される以上、「ワクチンは科学的に安全」という主張に矛盾が生まれてきます。

また、ワクチン接種後の心筋炎は軽症が約76%、中等症が約22%と言及されていますが、なぜか重症例についての言及がありません。

さらにそもそも「中等症の心筋炎」とはどういう状態なのかを引用されている文献、さらにはその文献が参考にする診断基準が定義されている文献にまでさかのぼって確認してみたところ、「中等症の心筋炎」という状態が定義されているのではなく、あくまでも病理学的又は免疫組織化学的に心筋の炎症が証明された例を「心筋炎」と定義し、ここで言う「中等症の心筋炎」というのは、その「心筋炎」状態になりやすいとされるリスク因子が中等症レベルに存在している「心筋炎」患者という意味だとわかりました。

例えばどんなものが心筋炎のリスクかと言いますと、血清トロポニン、心筋炎を起こしやすいとされているウイルスの感染歴証明、徐脈性不整脈や房室ブロックといった心電図異常があるか、心エコーで左室機能の低下や心臓の器質的な疾患がないか、心臓MRIの所見の違いなどが挙げられています。

「軽症の心筋炎」という用語もここでは前述のような「予測のリスク因子が少なかった」という意味で、心筋炎自体の重症度が軽症であったという意味ではないということです。逆に言えば76%もの人が事前のリスク因子がほとんどないのにワクチン接種後の「心筋炎」になっているという見方で捉え直すとむしろワクチン接種の影響の大きさを感じる情報です。

で、実際にはワクチン接種後に何人の人が重症の心筋炎になったのかを原著論文で調べてみますと、これがいまいちよくわからないのです。

そもそもこの研究はイスラエルで2020年12月20日から2021年5月24日の約6ヵ月の間にファイザー者のワクチンを1回または2回受けた約256万人のレジストリを後ろ向きに検証した研究で、その中で診断基準心筋炎疑いとされた人は54名で、その中で少なくとも確実に重症とわかったのは2名で、1名は心原性ショックを起こし、もう1名は既知の心疾患があった上でワクチン接種後に心筋炎疑いで入院加療を受けるも退院後すぐに原因不明の死を遂げたと書かれています。

また54名のうち、29%(14名)で心エコーでの心機能異常が確認され、17%(8名)が軽度の機能障害、4%(2名)が軽度〜中度の機能障害、4%(2名)が中度の機能障害、2%(1名)が中度〜重度の機能障害、2%(1名)が重度の機能障害と書かれていました。

ただこちらの軽度、中等度、重度の判定基準がまたよくわかりません。中等度の人がどの程度の状態におかれていたのかは論文を隅々見ても書かれていませんでした。一方で14名の心エコーでの心機能異常をきたした人の中で、少なくとも5名は心機能の回復が確認されていないと書かれています。この辺りの人達の心機能異常の程度によってはワクチン接種後の重症例ケースは増えてくる可能性があります。

また、この研究は心筋炎を調べようと思って行われたものではなく、後からデータを振り返って心筋炎が疑われるという患者を振り返っているだけで、

研究チームが参考にしたという心筋炎の診断基準もあくまで「疑い」を示すもので、心筋炎を確定するようなものではありません。実際、確定診断のために必要な心筋生検が行われた例は54例のうち、1例のみということでした。

おそらく退院直後に亡くなられた症例で心筋生検が行われたものと思われます。なぜならば生きているうちに心筋の組織を取ってくる作業は非常に侵襲的(患者へのダメージが大きい)からです。

つまり、この後ろ向き研究における心筋炎の検出方法では、適切に心筋炎を検出できていない可能性があります。後ろ向きに見て心筋炎だと疑われる54名の中で確実に重症例と言える人は2名だけだったかもしれませんが、他の255万9950人程度の中でワクチン接種後に重症化した人、あるいは原因不明の死を遂げた人の中に心筋炎が見過ごされたという重症ケースが混ざっている可能性を否定できません。

対して木下ドクターは「コロナ感染で発生したとされる心筋炎の方は10万人中11人だ」というデータを、ファイザー社のワクチン治験データから紹介し、ワクチン接種後の心筋炎より頻度が高いことを強調しておられますが、

原因がコロナ感染であろうと心筋炎の臨床診断の難しさは変わりません。しかしそれでも製薬会社の治験データに乗るくらい確実に心筋炎だと診断できるケースというのはどういう場合かと言いますと、

考えられることとして、以前にも記事にしましたように、「原因不明の急死」、特に若い人が急に亡くなったケースでは「急性心筋炎」を疑い、解剖で心筋を組織学的に調べて診断が確定するということがあります。

おそらくコロナ感染で心筋炎だと診断されたケースはほとんどがそれだと考えられます。逆に言えばそれ以外で確実に心筋炎だと言い切る方法は考えられず、ましてや「軽症の心筋炎」ほど確定診断を行うのが難しい状態はありません。一方でワクチン接種後の心筋炎の方はあいまいな基準で抽出されたごく少数の心筋炎の疑いの患者の中で心筋炎あるかどうかが判断されています。しかもほとんど心筋生検は実行されていません。

この状況の違いでワクチン接種後とコロナ感染後の心筋炎の頻度を比較するのはアンフェアというか、わからないというのが正直なところだと思います。

加えて、もう一つ気になるのは「10万人に11回というコロナ感染後の心筋炎の頻度」が「多い」ことを認めるとして、木下ドクターはワクチン接種5〜10万回に1回起こるギラン・バレー症候群の副反応は「非常に稀」と評価しています。

5万人に1人だとすれば、「10万人に2人の頻度」でギランバレー・症候群は起こることになります。

10万人に11人という頻度」は「多い」けど、「10万人に2人という頻度」は「非常に稀」と評価する感覚に恣意性を感じてしまうのは私だけでしょうか。

10万人に2人」が「非常に稀」だと評価するのであれば、「10万人に11人」も「非常に稀」だと判断するのが、私の感覚です。しかも両者の数字を算出するに至る心筋炎の検出努力の具合には明らかに差があります。



ただ、おそらくですがこのような評価の不公平性や、解釈の矛盾に対する非言及は、意図的に行われているわけでは決してないと私は思います。

すべてはワクチンは正しい」という前提に立って世界を眺めることによって生み出されていると私は思いますが、

この本には木下ドクターの思考について、さらに少し理解が深まる記述が書かれていましたので、

後日改めて、もう少し掘り下げて解説してみようと思います。


たがしゅう
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コメント

いつも勉強になります

2021/12/07(火) 14:47:43 | URL | G-なおたろ@ #-
いつも更新をありがたく拝見しております。
あまりコメントは致しませんが、真偽を見極める参考にとてもありがたい内容に感謝しております。いつもありがとうございます。

Re: いつも勉強になります

2021/12/07(火) 20:01:24 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
G-なおたろ@ さん

 コメント頂き有難うございます。
 またいつもご覧いただき感謝申し上げます。
 今後も私の思うところを書き綴って参ります。何かの参考になればうれしいです。

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