糖質制限と成長について
2014/07/20 00:01:00 |
糖質制限 |
コメント:10件
本日は,こどもに対して糖質制限を勧めるべきかどうかを考える上で,
最も議論となる「低身長」の問題について私の視点で切り込んでみたいと思います.
厳格な糖質制限に相当する(古典的)ケトン食では,低身長の副作用が報告されています.
成長と言えば「成長ホルモン(Growth Hormone:GH)」が頭に思い浮かぶかもしれませんが,
実際に成長促進効果をもたらすのは,GHによって産生される「IGF(Insulin-like growth factors:インスリン様成長因子=ソマトメジン)」であるようです.
難治性てんかんの幼若児に古典的ケトン食を開始して,12ヶ月後に成長速度が著明に鈍化(-4.1SD)し,
てんかんを抑えるケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸の値が増加するのとは逆に,ケトン食の開始早期にはIGF-1の値が低下しやすいことが報告されています.
また,ケトン食を続けていると開始前と同じIGF-1濃度に戻るようですが,
それでも成長速度は遅くなっているということで,IGF-1の値だけでは低身長の副作用を説明しきれないようです.
私はこの問題を考える上で鍵を握るのは「インスリン」だと考えています. そもそもヒトは,胎児や新生児の時点でケトン体が高値で存在しているという事は,
今年の初頭に産婦人科の宗田先生が証明して下さいました.
成長ホルモンの分泌は脳の下垂体という部位で起こり,睡眠によって分泌が促進されると言われています.
この成長ホルモンが肝臓や骨端軟骨をはじめ,いろいろな組織においてIGFを分泌させ,成長を促進させます.
通常,成人の頃には骨端線が閉鎖してしまうよう遺伝子でプログラミングされているので,
こどもの頃にどれだけIGFの効果を受けるかという事が,
身長が伸びるかどうかの鍵を握っているのではないかと思います.
こどもが新生児から乳児へと育つときに,
一般的には離乳食が始まりますが,ほとんどの場合この離乳食は高糖質食です.
高糖質食によって血糖が上昇し,高インスリン血症がもたらされ,こどもは食事の度にインスリンにさらされる事になります.
インスリンはIGFと同様に成長を促進する同化作用を持っているので,
成長という観点でみれば,低糖質食のこどもに比べて,高糖質食にさらされる事によって,
もともとのIGFに加えて,追加のインスリンの作用も受け続けることになるので,
身長を伸ばす点という点で有利に働く可能性があります.
一方,別の観点でみれば,
もともとケトン体-脂肪酸システムという新型エンジンを基本エネルギーとしていた体質を,
高糖質食によってブドウ糖-グリコーゲンシステムという旧型エンジンに強制的に切り替えられる事になります.
それによって1日3食食べないと持たない体質になっていきますし,
人によってはこの時体質の変化に耐えきれず,アレルギーやアセトン血性嘔吐症,てんかんなどのトラブルを起こします.
要するに,「こどもは高糖質食によって身長が伸びやすくなる代わりに身体のトラブルを起こしやすくなる」という事になると思います.
そうなると,身長をとるか,健康をとるかの究極の選択になってしまうようにも思えますが,
はたして糖質制限をずっと続けていると成長速度は遅いままになってしまうのでしょうか.
私はそうは思いません.
これまで高糖質食にさらされていたこどもの食事を糖質制限に切り替えるというのは
いわば旧型エンジンを一気に新型エンジンに切り替える行為です.
ケトン体をエネルギー源として有効に使うためには,基礎インスリンの作用が必要です.
高糖質食に慣れていたこどもは,それまでブドウ糖と追加インスリンの旧型エンジンにエネルギーを頼り切っており,
新型エンジンを動かすのに大事な基礎インスリンをしばらく使っていなかったので,
基礎インスリンの扱いに慣れるのにしばらく時間がかかります.
古典的ケトン食の導入直後に成長速度が落ちるのはこの基礎インスリンがうまく使えないためではないかと思います.
そして,古典的ケトン食の一般的な継続期間の目安は2年間とされているので,
その先どうなるかという事を示すデータは残念ながらありません.
しかし私の予想では,その先時間が経てば徐々に基礎インスリンの扱いに慣れていき,それだけでも十分な同化作用,すなわち成長促進作用を発揮する事ができるようになるのではないかと思います.
そして,もし最初から高糖質の離乳食にさらすことなく糖質制限をしていれば,
ケトン体高値で始まったこどもは,もともと基礎インスリンの扱いには慣れたものなので,
この同化作用を十分に発揮して,すくすくと育っていくのではないかと思います.
だから私はこどもにも糖質制限はすべきだと考えています.
それに,もし仮にその仮説が間違っていて身長が低くなったとしても,
健康である事の方がよほど大事な事だと私は思います.
なお2年のケトン食を実践後にもとの食事に戻したところ,1年後に身長が普通食のこどもに追いついたとする報告を示した論文もあります(Kim JT, et al. Catch-up growth after long-term implementation and weaning from ketogenic diet in pediatric epileptic patients. Clin Nutr. 2013 Feb;32(1):98-103. doi: 10.1016/j.clnu.2012.05.019. Epub 2012 Jun 30.)
どうしても糖質制限していて身長が気になるという方は,制限具合を弱めるというのも一つの方法でしょう.
でも私は思うのですが,
『糖質を制限する事は人類の健康を保つための基本原理』という考えに立つと,
「こどもの時だけ糖質を摂った方がいい」という例外を認める考え方にはすごく違和感を感じるのです.
体質を切り替える際のマイナートラブルというのはあるにしても,
基本的には人類皆共通で,
太ったヒトもやせたヒトも,こどもも大人もお年寄りも,
おしなべて糖質を制限すべきと考えた方が私は腑に落ちるのです.
ただし,あくまで実体験を伴わない私の頭の中での考えなので,
参考程度にして頂ければ幸甚です.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
私は膝の成長痛に小学校の頃悩まされました。もしかしたら蛋白質、脂肪酸、ミネラル不足のためではないかと、自分の短い足を見て思うことがあります。
またADHDの子供や授業中良く寝ている子供、喘息、アトピー、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患持ちの子供にはぜひ糖質制限を試してほしいと心底思います。
No title
今年仙川で先生講演ありがたく拝聴致しました。
本日内容も実にわかりやすく安心感を得ました。
私わナカサム氏とも親交頂き、杉並区の病院・医師・警察と、私の20余年の重症糖尿病が3カ月でインスリン離脱し正常値改善した事に何ら反省ない悪徳と言える機関に。糖質制限食改善結果をもって岡田以蔵になるべく行動しています。
江部先生、夏井先生、タガシュウ先生達の本意ではない行動だと理解しておりますが、自身が体験した事を社会へ問題提起したいと行動しています事お許しいただきたいです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> 私は膝の成長痛に小学校の頃悩まされました。もしかしたら蛋白質、脂肪酸、ミネラル不足のためではないかと、自分の短い足を見て思うことがあります。
成長痛に関しては以前ナナモリさんやにこさんからもコメントを頂きましたね.
2014年6月16日(月)の本ブログ記事
「アレルギーの原因は糖質にあり」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-305.html#comment2330
のコメント欄も御参照下さい.
私は成長痛にケトン体不足が関わっているのではないかという考えですので,SLEEPさんの実感と一致しますが,真実はどうなのでしょうか.
まだわかっていない事が,これからどんどんわかっていくかもしれませんね.
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
ただ問題提起は結構な事ですが,あまり熱くなりすぎないようにいきましょう.
負の感情は,さらなる負を呼び込むだけですので.どうか冷静沈着に.
管理人のみ閲覧できます
グルコース摂取の骨芽細胞への影響
http://s.webry.info/sp/good-looking.at.webry.info/201507/article_16.html
Re: グルコース摂取の骨芽細胞への影響
情報を頂き有難うございます。
> Columbia大学による研究では、骨芽細胞へのグルコースの取り込みは骨芽細胞の分化、骨形成、グルコースの恒常性にとり必須であることが明らかにされ、骨と糖代謝とクロストークの重要性が示されたとありました。
糖質は非必須ですが、グルコースは必須だと思います。
ただ問題は成長においてデフォルトの100mg/dL前後でいいのか、それ以上の量が望ましいのか、という事だと思います。
ここは意見の分かれる所だとは思いますが、私は基本的にデフォルトで充分と思っています。例えば小学生がおじさん化しているなどのニュースを聞いたりすると、必要以上のグルコースがよいとはとても思えません。
はじめまして
PS 遺伝40%食事60%というデータもあります。祖父母両親の子供の頃はどうだったでしょう。いわゆる早稲と晩生があります。私の見る限り、小学校高学年から高校1年生くらいまでの間の、いつ伸びるかは、遺伝的要素が大きいと思います。
Re: はじめまして
コメント頂き有難うございます。
先生からコメント頂けて誠に恐縮です。
三島先生におかれましては、こどもへの糖質制限がいかに安全でメリットがあるかという事を、どんな医学論文よりもよほど確かに実証なさっていると思います。素晴らしいです。
御指摘のように身長における遺伝的要素は大きな割合を占めると思います。
一方で環境的要因で鍵になるのはしっかりタンパク質を確保できているかどうかという点ではないかと私は考えています。
ケトン食で低身長が問題になるのは、人為的にタンパク質まで制限する所に起因するからではないかと思うのです。
2015年10月5日(月)の本ブログ記事
「歴史を検証して真実を導く」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-631.html
も御参照下さい。
管理人のみ閲覧できます
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