「検査正常」は大丈夫を保障しない
2014/07/19 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:8件
血液検査は情報の宝庫です。
医学の発達により、血液を詳しく調べる事で様々な事がわかるようになってきました。
肝機能、腎機能、貧血、炎症反応、血糖値、ホルモン、栄養状態など、挙げればキリがないくらいたくさんあります。
しかしそれだけたくさんの事がわかるようになったとはいえ、
血液検査にも無論限界はあります。
今の技術では測定できないというだけで、我々の身体には未知の物質がおそらくまだたくさんあると思います。
だから「血液検査が正常であること」は、
必ずしも大丈夫であることを保障するものではないのです。 いや、むしろ「検査は正常だけど症状がある」という人こそ、注意深く対応する必要があると私は思います。
そういう人は、ともすれば精神的な原因のせいにされ、真の原因から遠ざかってしまうことになりかねないからです。
原因にこだわって、それが突き止められる場合と、そうでない場合とがありますが、
原因がわかればその後の対応は大きく変わるので、これは非常に価値があることなのです。
例えば、最近こんな患者さんを経験しました。
80代の男性ですが、高血圧で内科に、腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、前立腺肥大症で泌尿器科でそれぞれ対応する薬プラスαが処方されていました。
こういうケースは大変多いです。本来であれば、全ての処方を一括で管理する総合診療医がいることが望ましいのですが、
日本では総合診療医はそうはいってもまだそれほど定着しておらず、
この方のようにそれぞれの専門クリニックにかかられてしまうのです。
複数のクリニックにかかると何が問題なのと申しますと、
ひとつは薬の相互作用のリスクが高まるという事があります。
一応だいたいの患者さんは、他所でもらった薬の内容も全てわかるようにした「おくすり手帳」というのを持参されるのですが、
各クリニックが忙しい診療の中、おくすり手帳をチェックして、他所で出ている薬との相互作用を逐一チェックしているかと言えば、必ずしもそうなっていない状況があると思います。
実際この患者さんも案の定、胃薬が微妙に重複していたり、鎮痛剤が塗り薬と貼り薬でそれぞれ別々の医院から処方されたりしていました。
でも相互作用は薬剤師がチェックしてくれるのでは、と思われるかもしれませんが、
ここでもパターナリズムがその邪魔をします。
禁忌にあたる組み合わせであれば薬剤師も医師に指摘しますが、
上記の胃薬が重なる程度の事であれば、医師に遠慮してなのかそのままスルーされる事も多いのです。
さて、そんなこの患者さんがある日の夜から急に手が震え出して、
翌朝両手も震え、さらに頭も震え、その後嘔吐もきたすようになり救急車で私の所へ運ばれてきました。
緊急入院で一切の薬を中止し点滴を行いながら、様々な検査を行いました。
その結果、血液検査は正常、脳MRIも正常、脳波も正常と、加齢性変化以外にこれといった異常が見つからないのです。
ただ入院後、この方の震えは入院後次第に落ち着いていきました。
最終的に原因は薬の副作用だったと判明しました。被疑薬は神経の痛みやしびれを取るための薬でした。
薬の血中濃度というのを測る事がありますが、それは抗てんかん薬や免役抑制薬など一部の薬剤に限られます。
痛み止めの薬の血中濃度を図るのは一般的ではありません。
だからこの患者さんでは血液検査で異常はなくとも、そこに確かに異常は存在したのです。
私は直ちにその薬を今後飲むのをやめるよう指導し、さらにこれを機に薬を一旦整理するよう提案し、無事退院の運びとなった経緯です。
このように検査で異常がない事だけで安心してはいけません。
症状がなくなって初めて、真に安心できるのではないかと思います。
しかし、原因を探しても探してもわからないということも実際にはあるでしょう。
そういう時にはとりあえず症状を和らげるという事もまた重要になってきます。
その為に糖質制限や漢方治療は有用な手段になると私は考えています。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ブドウ糖とケトン体
脳とケトン体についてすこし質問です。
糖質制限をしていると、脳はブドウ糖ではなくケトン体をエネルギー源として代用できる…というのは糖質セイゲニストの常識ですが、
果たしてケトン体でどこまで代用できていると思いますか。
少し調べてみると江部先生は専門書を引用して50~75%とという数字を出しているようです。
それを聞くと、糖質摂取なしにここまで補えるという意味では非常に高い値に思えますが、一方で75%程度しか働かないのか?という風にも思ってしまいます。
自らの感覚でいえば決して集中力は落ちてないように思えますし、特に問題もなく、むしろ、いつも冴えているくらいの気持ちなのですが
それこそ、思い込みなのではないかとも思ってしまいます。(夏井先生も頭がよくなったような気がする、みたいなことを書かれていますね)
糖質制限で血糖値が安定し、ケトン体も安定的に供給され、安定的に脳が働き続けるという状態は、ブドウ糖をエネルギー源としている人とは違い、集中力の波があまり無いように考えられますから、
そういう有利な点はあるでしょうが、脳の要求するエネルギーを万全に供給するためにはブドウ糖を利用する方が有利ではないのか?と思っております。
先生はどの様に考えられますか。
私も周囲に糖質制限について聞かれる際、「やっぱり脳には糖分とらないと…」と言われることも多く、簡単に代用できることは伝えるのですが、
そうは言っても「脳の唯一の栄養源はブドウ糖」という考えの人だらけですから、イマイチ自分でも伝えにくいもので。。
Re: ブドウ糖とケトン体
御質問頂き有難うございます。
> 果たしてケトン体でどこまで代用できていると思いますか。
50~75%というのは妥当な数字だと思います。
誤解してはいけないのは、糖質は身体にとって不要ですが、ブドウ糖は身体にとって必要なエネルギー源だということです。
我々は糖質を取らなくても、我々は糖新生のシステムでブドウ糖を安定供給し続けています。
進化の歴史から考えると、古生物の時代から備わっていたブドウ糖-グリコーゲンシステムという旧型エンジンに、新しいケトン体-脂肪酸システムという新型エンジンが搭載され進化してきたのが今の人類です。
我々が糖質制限を実践している最中も、旧型エンジンは最低限駆動しつつ、ケトン体を存分に利用しているという状態であり、それが50~75%くらいの利用率、ということなのでしょう。
またブドウ糖が過剰に存在する時には、脳はケトン体よりもブドウ糖を優先的に利用します。その事がなぜか「ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源」と解釈されるようになってしまったのだと思います。
薬を簡単に考えてない
薬を処方してもらったら、その患者さんがお金を出したり、保険組合がお金を出したり、国や市町村がお金を出しているのでしょう。無駄になった薬代は、収入が限られるお年寄りや、医療費でパンクしそうな国が払っていると思うと、本当に無駄使いになる、もったいないと思いました。
薬の種類が多すぎて重複して副作用も現れて、薬をやめたとしても返品できるわけではなく、しかも身体には無駄に負担をかけさせて、良いこと無しですね。こういうところでも医療費の削減を考えられないのでしょうか。
Re: 薬を簡単に考えてない
コメント頂き有難うございます.
御指摘の通りです.薬絶対主義による過剰投薬の問題は,誰もが真剣に考える必要がある問題だと思います.
糖質制限が世に広まれば,きっと大幅な医療費の削減につながるでしょう.
しみじみと…
いつも楽しく拝読させて頂いております。
そして、色々と学ばせて頂いております。
本日の薬の処方に関する話、本当に困ったことだと思います。
そして、多くの医師がたがしゅう先生のようなお考えと姿勢であれば日本の医学はどれほど良くなるかと思わずにいられませんでした。
それは多くの患者にとって福音であるばかりか、無駄な投薬を減らすことに繋がり医療費の大幅な節約にも成りますから。
先生の思いを理解し受け止めることが出来ない患者さんも少なくないご様子を悲しく思います。
悲しい現実が山のようにありますが、先生の努力に救われる方々も多いと思いますので今後も後奮闘下さい。
Re: しみじみと…
コメント頂き有難うございます.
今の医療の在り方には様々な問題を感じています.そうした問題と私なりに私のやり方で向き合っていきたいと思います.
乱診乱療 過剰検査も
「医療殺戮―現代医学の巨悪の全貌」
「よくもここまで騙したな これが[人殺し医療サギ]の実態だ! いのちを奪いながら金を奪うワンワールド支配者」
全否定は良くないですが、最近このような本が増えています。
厚労省と学会とメーカーが結託して税金を奪い取るシステム。その額は呆れかえるほど膨大です。
国民が自立しなければ、医者に訴えても期待できないでしょう。
糖質制限食が広まれば、一気に変わるか。
Re: 乱診乱療 過剰検査も
> 国民が自立しなければ、医者に訴えても期待できないでしょう。
> 糖質制限食が広まれば、一気に変わるか。
コメント頂き有難うございます.
御指摘のように糖質制限の理論は医療の在り方を大きく変えると私は信じています.
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