そもそも病気とは何なのか
2014/03/31 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:8件
私は日常診療で御高齢の方を診る機会が多いです。
そうした方の中には「自分は病気だらけだ」と言って来院される方も少なくありません。
先日もそのようにおっしゃり原因不明の手足のしびれの精査のため当科を受診された70代の女性がいらっしゃいました。
その方には高血圧症、脂質異常症、糖尿病、慢性心不全、シェーグレン症候群、原発性肺高血圧症、関節リウマチなど、様々な病名がつけられており、それぞれに対応する薬が併せて20種類も出されているような状態でした。
医療が発達して病気を病気として認識できるようになったと言いますが、
ここで私はふと思いました。
「もしも医療が発達していない時代だったら、この人はただの体が弱ったおばあちゃんなんだろうな・・・」
はたして病気とは一体何なのでしょうか。 そんな事を根本から考え直させられる一冊の本を紹介します。
感染症は実在しない (インターナショナル新書)
岩田 健太郎 | 2020/4/23
著者の岩田健太郎先生は、医療界の中ではかなり有名な先生です。
国内有数の有名総合病院や、国外での多数の診療経験を持ち、感染症学のプロフェッショナルとして37歳の若さで神戸大学の教授に就任されたスーパーエリートの先生です。
診療の傍ら、講演も数多くこなし、上記の本以外にも積極的に執筆活動に取り組まれています。若手医師にとってはケアネットTVという医療情報番組で多数の番組にも出演されており、非常にわかりやすい説明にも定評があります。
さて、この本の中には「病気というものは実在しない」という、一見「えっ?」と思うような事が書かれています。
もう少し詳しく言えば、「病気とは実在するものではなく、ある現象を規定し、ネーミングしたものに過ぎない」というのです。
確かに、糖尿病一つとっても、HbA1c6.5%以上の人を「糖尿病」と呼ぶという,あくまでルールに基づいて糖尿病の人かどうかが決められています。
しかし,実際には糖尿病でない人が糖質を摂取してもグルコーススパイク(血糖値の変動)は起こります。ただ糖尿病と呼ばれる人とそうでない人でその程度が違うというだけです。
そうした状況の中、どこからが糖尿病と呼ぶか、呼ばないかを分けるのは、人の「恣意性」が関わっています。
極端に言えば、「グルコーススパイクが起こること」=「糖尿病」と仮に定義したら、国民のほとんど全員が「糖尿病」ということになります。
自分は糖尿病じゃないからまだそこまで糖質制限は厳密にしなくてもよいという考えを聞くことがありますが、
糖尿病であろうとなかろうと、生きて行く中で糖質の摂取量に応じて、グルコーススパイクを受け、それに伴う酸化ストレスを受け、人は年老いて死に近づいていきます。
そうした人生のラインを歩いていく中で、病気というものにこだわらなければ、糖質制限をするのはいつだって良いようにも思えます。
一方で病気だと認識される事には害もあります。認識される事でその病気に対応する薬を強く勧められる事です。
今の医療ははっきり言って薬中心主義で成り立っています。それはもう医師も患者もどっぷりとこの主義に浸かってしまっています。
だからその不自然さになかなか気がつく事はありませんが、薬というのは身体にとって不自然な現象を人工的に起こすという側面があります.
高血圧に降圧剤,脂質異常にスタチン,糖尿病に血糖降下剤,慢性心不全に利尿剤,膠原病にステロイドなどと,根本的な原因がわからないまま身体に不自然なことが積み重なっていけば,果たしてどうなっていくでしょうか.
それに薬には相互作用というものがあります.薬が積み重なれば重なるほど身体の中で起こる現象は複雑怪奇を極めます.
その一つの結果が冒頭の,いわゆる「病気だらけ」の弱った高齢女性なのです.
こうなるともはや,病気でそうなっているのか,薬でそうなっているのか訳が分からなくなります.
病気と認識することは既知の治療法につなげることができるという良い側面もありますが,
糖質制限の観点を持つと,その既知の治療法そのものも正しいのかどうかを見直さなければならないので,必ずしも良いことになるとは限りません.
しかし,病気があろうとなかろうと,
人が健康であるためにどうすべきかということを
考える事が大事だと私は思います.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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病名は何にする?
と、お医者さんに言われたことがあります。
だから、病名が決まらないと治療方針が立てられない、と。
まず病名ありきなんですね。
不思議ですよね、それでも私は現実に症状に苦しんでいるのに…?
この症状がどんな名前であろうと、有効な治療で改善しさえすれば、私はそれで満足なのに…?
病気という言葉について、考えた出来事でした。
考えても余計にわからなくなりましたけれどね(笑)
お医者さんは「治してあげたい」
患者さんは「治りたい」
双方その気持ちにいつわりはなくて、目的は一緒ですよね。
でも、ついた病名によって、つけた病名によって、
それから先の道が自動的に決まることもあるんですよね。
だから、「病名は何にする?」というちょっとおかしな質問が生まれることもあるんですね。
「病気」ってなんでしょうね…??
この問答、深いですよね!(^^;)
「生理痛ごときで来ないで欲しいのよね」と婦人科で看護師さんに言われた昔を思い出しました…。
薬剤師さんの書いた本
廣済堂新書 宇多川 久美子
http://www.amazon.co.jp/%E8%96%AC%E5%89%A4%E5%B8%AB%E3%81%AF%E8%96%AC%E3%82%92%E9%A3%B2%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%84-%E5%BB%A3%E6%B8%88%E5%A0%82%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E5%AE%87%E5%A4%9A%E5%B7%9D-%E4%B9%85%E7%BE%8E%E5%AD%90/dp/4331517853/ref=pd_sim_b_2?ie=UTF8&refRID=1XEN4CH9C04WXDS23HPQ#reader_4331517853
中味検索が、出来ます。
高齢の方が飲んでいる薬は余りに多いです。
不定愁訴に対して、安易に薬が処方され過ぎています。
私の母の場合もそうでした。7種類くらい。
私から医師に話して、少し減らしてもらいました。
薬の中には、副作用が少なくて、効果の良いものもあるかもしれませんが、5種類以上になると、かえって健康に害があるのではないでしょうか。
抗生物質が多すぎると思います。
Re: 病名は何にする?
コメント頂き有難うございます.
病名はいわば人間が作ったシステムです.病気もしかりです.そういうものだとわかった上で付き合っていくべきではないかと私は思います.病気に縛られすぎないようにしたいですね.
Re: 薬剤師さんの書いた本
情報を頂き有難うございます.
心掛けること
怪我や病気の予防を心掛ける者としては「一旦、身体の部品が壊れてしまえば完璧に治ることはない。」そういう気持ちで糖質制限にも取り組んでいます。
医師であるたがしゅう先生には怒られるかもしれませんね…。
Re: 心掛けること
コメント頂き有難うございます。
> 怪我や病気の予防を心掛ける者としては「一旦、身体の部品が壊れてしまえば完璧に治ることはない。」そういう気持ちで糖質制限にも取り組んでいます。
> 医師であるたがしゅう先生には怒られるかもしれませんね…。
とんでもないです。別に怒りませんよ(笑)。
人体にはどうしても「不可逆的な変化」というのはあるので、マルコさんのご意見はある意味正しいと思います。
一方で、人体には不可逆的変化にさせないようにするための様々なシステムが備わっています。糖質制限で免疫のかく乱を最小限に抑え、そうしたシステムをフル稼働させる事でどこまで改善するかという事に関しては未知の可能性があると私は思っています。
No title
川の下流を綺麗にするには上流から綺麗にするしかないですね。夏井先生が番組で炭水化物は毒だとはっきりおっしゃっていて勇気あるなあと感動しました。
元来肉食の我々にとって炭水化物はせいぜい良くて嗜好品過ぎれば毒にしかならない、そろそろ義務教育で肉や魚で森林に住むチンパンジーとの共通祖先から分かれたと教えて欲しいところです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
私も勇気あるパイオニアの先生方の姿勢に感銘を受けています.このまま共感する人が増えて,世の中が変わっていくといいですね.
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