卵が悪いわけがない
2014/03/30 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:13件
肉、卵、チーズを食べる事に主眼をおく「MEC食」は、
糖質制限の理論の大事な部分を踏まえた非常に有用な食事療法の一つだと思います。
「シンプルイズベスト」とはよく言ったもので、
やはりシンプルであることは周りに普及させていく上でとても大切な事ですね。
そういうわけでMEC食のノウハウは短い時間でエッセンスを伝えなければならない外来診療でとても役に立ちます。
最近は私もよく「特に肉、卵、チーズをしっかり食べて下さいね」というフレーズをよく使うようになりました。
ところが、そういう指導を続ける中でまたしても従来の常識の壁とぶつかる事になりました。 それはある日の外来診療での出来事でした。
たがしゅう「というわけで、肉、卵、チーズは特にしっかり食べるようにして下さいね。」
患者さん「卵なら好きだからよく食べていますよ。」
たがしゅう「どのくらい食べているのですか?」
患者さん「毎日必ず1個食べていますよ。」
たがしゅう「1個は少ないですよ。どうして好きなのに1個しか食べないのですか?」
患者さん「どうしてって…、卵を食べ過ぎるとコレステロールがたまると言うじゃないですか?」
…そうなんです。
「卵はコレステロールの塊で、コレステロールは血管をドロドロにする恐ろしいもの、だから1日1個までしか食べてはいけない」
そういうイメージが世間には根深く根付いているのです。
しかも、それをやせ細り栄養失調となっている御高齢の方が言われたりしているのだから困ったものです。
まず、コレステロールそのものを敵視してはいけません。むしろコレステロールは人体に不可欠な物質です。
そもそもコレステロールというのは脂質の一部ですが、全身の細胞膜の構成成分となる非常に基本的な物質です。
また脳の乾燥重量の約6割は脂質であり、体内にあるコレステロールの4分の1は脳に存在しています。
即ち脳がきちんと働くためにもコレステロールは不可欠だということです。
さらに生体内で様々な生理活性を持つホルモン、消化吸収を助ける胆汁酸、神経の電気信号の伝達をスムーズにする絶縁体となるミエリン鞘(髄鞘)の構成成分にもあります。
加えてコレステロールには抗酸化剤としての作用もある事もわかっています(Smith, L. L. (1991). "Another cholesterol hypothesis: cholesterol as antioxidant". Free Radic. Biol. Med. 11: 47–61. PMID 1937129)。
そんな大事なコレステロールなのに、一概に悪いものと取り扱われてしまっているのが悲しいかな今の現状なのです。
コレステロール悪玉説を元にコレステロールをただ低下させているだけのスタチンの功罪については以前も取り上げましたが、
コレステロールそのものは悪いものではなく、悪いのはそのバランスであって、そしてそのバランスを崩しているのは炭水化物(糖質)であるという事を知っておかなければなりません。
卵には多くのコレステロールが含まれていること自体は事実ですが、だからと言って卵を1個までしか食べてはいけないというのは明らかに間違っています。
よくよく考えれば卵なんてものは、そこからひよこという生命体が生み出されるくらい完全な栄養素が含まれている食べ物です。
そんな栄養たっぷりの食べ物が悪いものであるはずがありません。
悪いのはいっしょに食べる炭水化物であり、これがせっかくの卵のコレステロールを悪玉コレステロール優位のバランスに乱してしまっているというわけです。
患者さんとのやりとりの中で例え患者さんが「卵はしっかり食べている」と答えても、
ほとんどの場合、それが1日1個を超えないということ、そしてそれは世の中に根付いてしまっている誤った常識のせいだという事を知りました。
それからは私は患者さんに対して、コレステロールのバランスを乱す炭水化物(糖質)を控えてさえいれば、卵は3個でも5個でも、毎食でも食べてよいとお話しするようにしています。
自分と患者さんのギャップを意識しつつ、一つずつ軌道修正しかなければなりません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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質問?
「卵は何個食べてもいいんですか?」と何度も何度も同じ質問をしてくる知り合いがいるんです。
最初はまともに答えたり、コレステロールの動画をみせたり、糖質制限の本もかしました・・・
それでも同じ質問をしてくるので、これは質問をしているのではないのだと気付きました。
Re: 質問?
コメント頂き有難うございます。
> 「卵は何個食べてもいいんですか?」と何度も何度も同じ質問をしてくる知り合いがいるんです。
説明して理解されたようでも実は全然理解されていないという事ですね。
私もいろいろな患者さんと接していてそういう事を日々感じています。理屈でわかってもこれまでの常識や実体験とあまりにも食い違い過ぎて結局納得ができないのだと思います。
その壁を打ち破れるかどうかは、実際に糖質制限をやってみて恩恵を受けられたかどうかが大きいです。逆に言えば糖質制限を体験をしていない人はいつまでたっても糖質制限を理解するのは難しいですね。
従来の常識の壁
従来の常識って自分でもびっくりするくらい染み込んでいることが多いですよね。糖質を減らしてその分他のものを増やしてお腹はすかない食事。。。。と頭の中では聞いてわかってはいても、実際にそれまでよりたくさんのお肉や卵を料理するにつけ「そうは言っても、こんなにたくさんお肉食べていいのか、こんなにたくさん油使っていいのか、やっぱり茹でた方がいいかも。。。」みたいな思いが自然と湧き上がってきていました。
慣れると、その沢山お肉や卵を食べる食事が、つまりは糖質制限というものだという新しい常識が、やっと頭の中に備わるような気がしますし、今や、当初の私と同じように感じる人に出くわすと、懐かしい感じさえします(笑)
その染み込んだ常識の切り替えに先生のブログがとても役に立っています。これは単に「卵は1日1個」から「何個食べてもいい」など、事実に関するものだけでなく、先生が様々な表現方法で書かれてあるものをまとめてわかりやすく解説してくださっている部分が大いにあります。
例えば、「糖質とブドウ糖は違う」や「三大栄養素の中の炭水化物は必須栄養素ではない」という表現(昨年11月25日や12月29日の記事です)。目から鱗でした。片手間にフェイスブックなどで情報を得ていると、こういう肝心なところがあやふやで、実はあやふやである事すら知らないままだったりして、更にそのまま、新たに別の情報を読む、の繰り返しをしていました。先生のブログに出会ってから、とてもすっきり効率よく理解できるようになったのと同時に、新たに情報を得る時にも有効に働いているように思います。
これからも先生のブログ楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。
Re: 従来の常識の壁
コメント頂き有難うございます。
> その染み込んだ常識の切り替えに先生のブログがとても役に立っています。これは単に「卵は1日1個」から「何個食べてもいい」など、事実に関するものだけでなく、先生が様々な表現方法で書かれてあるものをまとめてわかりやすく解説してくださっている部分が大いにあります。
> 例えば、「糖質とブドウ糖は違う」や「三大栄養素の中の炭水化物は必須栄養素ではない」という表現(昨年11月25日や12月29日の記事です)。目から鱗でした。
以下の記事の事ですね。
2013年11月25日(月)の本ブログ記事
「栄養ドリンクの真実」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-99.html
2013年12月19日(日)の本ブログ記事
「許容と推奨では雲泥の差」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-135.html
お役に立てて何よりです。そのように言って頂いて私としても大変やりがいを感じます。これからも宜しくお願い申し上げます。
「有名人」は効果あり?
最近、卵を毎日2.5個(訳あって半端)食べています。しかし、30回噛む方がよほど難しいと感じているこの頃です。
以前、糖質制限しているタレント(福山雅やGACKTさん)を引き合いに出せば、女性が糖質制限に取り組みやすくなるかも、という記事がありましたね。
卵についても有名人の例を出せば、案外受け入れてくれそうな(淡~い)期待を感じますが、どうでしょう?
江部先生のサイトに『“鉄の女”が成功 卵ダイエット “糖質制限食”のお手本』の記事がありました(残念ながら、元記事はリンク切れの様です)。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1090.html
こちらにはダイエット中のメニューが掲載されています。
http://marumaru0717.blog34.fc2.com/blog-entry-426.html
ニュースソースはサッチャー財団なので、ガセではなさそうですね。
問題は、ある程度年配の方でないと、サッチャーさんそのものを知らない可能性があることでしょうか・・・
Re: 「有名人」は効果あり?
コメント頂き有難うございます.
確かに有名人効果はかなり大きいですね.先日も福山雅治さんが糖質制限をしているという話題を出したら女性の反応がよかったという事が確かにありました.
マーガレット・サッチャーさんは卵ダイエットをされていたのですね.歴史的な背景には詳しくありませんが,イギリス初の女性首相という偉業を成し遂げたすごい人だと思います.
しかし晩年は認知症であったと聞いています.そこに科学がなかったために一時的なダイエットで終わってしまったのでしょう.そこが惜しいところです.
玉子、、、ため息。
これ素人でも広く認知されてるのでは?
(このブログの読者だけ?)
本も出ているし。
、「卵は週に1~2個!毎日1個は多すぎます!」
と中堅の医師。
「ああ、そうなんですね~」と言葉だけの私(笑)
内心「この人、イケてないよな~、勉強不足?」
若いのにすごく残念です。。。
もう自分で防衛するしかないですよね(笑)
Re: 玉子、、、ため息。
コメント頂き有難うございます。
厚生労働省が「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、それまで成人は男750ミリグラム、女600ミリグラムを上限としていた食事からのコレステロールの目標量を撤廃した事はすでによく知られています。
そうした情報が入っても、自分で考える事を放棄している医師は従来からの慣習に従い、コレステロールの多い卵を目の敵にして「1日卵は1個まで」という指導を依然として続けているという状況が実際にあります。
御指摘のように、自分の頭で考え、自分の身を守るのが一番確実な方法だと思います。
2015年5月21日(木)の本ブログ記事
「相手が誰でも原理はブレない」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-606.html
も御参照下さい。
ありがとうございます!
参照記事も教えてくださり
ありがとうございます!
LDLコレステロール
MECよりのLCHPを始めて、1年半くらいになります。
先日、心疾患で入院したところ、血液検査でLDLが問題になりました。
HDL 80
LDL 314
中性脂肪 42
です。
強硬にコレステロールを下げる薬を進められましたが、頼み込んで今回は待ってもらえました。
次回の診察時までには、LDLを下げないと、薬が必至です。
(心疾患のため、継続診察が必要なのです。)
肉やラード、チーズやバターなどの脂肪分の摂りすぎが悪かったのか。やっぱり、卵(一日3個)が悪かったのか、と悩みまくりです。
野菜の摂取量を増やして、肉や脂肪分をもう少し減らすべきか、ちょっと混乱しております。
糖質は、ほとんど摂っておりません。
野菜やチーズなどに含まれるくらいです。
アドバイスを頂けると、ありがたいです。
よろしくお願いいたします。
Re: LDLコレステロール
御質問頂き有難うございます。
> HDL 80
> LDL 314
> 中性脂肪 42
確かにこの数値だと従来医療に準ずる多くの医師がスタチンなどの内服薬を勧めて来るだろうと思います。
ですが、中性脂肪が正常範囲~やや低値ですので、このLDLの中に動脈硬化に寄与する酸化型LDLは少ない事が想定されます。
2014年8月27日(水)の本ブログ記事
「木も見て森も見る」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-401.html
も御参照下さい。
従って、これでもし体調が悪くないのなら、私なら迷わず薬なしで経過観察を勧めます。
しかし、「心疾患で入院」という点が少し気になります。この数値だけれど心疾患が起こり体調が悪いという事であればコレステロール合成系がオーバーヒートしている可能性があります。すなわち遺伝的にコレステロール合成系に異常がある家族性高コレステロール血症の可能性があります。
私が唯一スタチンの投与を検討するのが家族性高コレステロール血症の方です。ハウスブレンドさんもコレステロールの高さだけで言えば家族性を考慮すべき値なので、もし心臓の具合が悪いというのであればオーバーヒートしたコレステロール合成系を弱める目的で、私でももしかしたら少量スタチンの投与を検討するかもしれません。
2014年10月15日(水)の本ブログ記事
「酸化ストレスがコレステロールを増やす」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-451.html
も御参照下さい。
ただ、ハウスブレンドさんと同じようなコレステロールの数値で心疾患も持っているけれど、ケトン食療法を徹底されて動脈硬化を改善させていった患者さんを私は知っていますので、この辺りは主治医との相談という話になってくると思います。
No title
ご丁寧なお返事をありがとうございました。
ご紹介いただいた記事も、大変参考になりました。
心疾患は、不整脈なので私としては主因はストレス、睡眠不足、過労等であったろうと思っております。
その他の体調は、全く悪くはありませんでした。
先生のご判断と主治医が同じというわけにはいかず、そこが難しいところですが、経過観察をお願いしてみます。
その間に、多少なりともLDLが下がればいいのですが・・・
ありがとうございました。
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