進み続けた者だけが見える世界

2019/10/18 15:00:01 | おすすめ本 | コメント:0件

我が師、夏井睦先生の新刊「患者よ、医者から逃げろ その手術、本当に必要ですか?」を読みました。



患者よ、医者から逃げろ その手術、本当に必要ですか? (光文社新書) 新書 – 2019/10/16
夏井 睦 (著)


今回は過去2作の糖質制限関連の話題から離れて、原点回帰で湿潤療法、特に熱傷の湿潤療法が確立されるまでどのような経緯をたどったかということが描かれ、

その中で夏井先生がどのように考えて、誰とどのように出会って、それまでの医学の歴史の中で誰も気づかなかった湿潤療法を「なつい式湿潤療法®︎」という形式にまで昇華していったかを示し、

さらにはその思考過程から生まれた、今まさに現在も進行中の人間の中に潜む深い問題点についても鋭く切り込むといった盛りだくさんのような内容でした。

私は登山について特別詳しいわけではないのですが、

読書と登山にはちょっと似たような所があるように感じています。 どちらもまず、基本的に自分の力で先に進めるものだということです。

そしてどちらも最初の腰を上げるのが大変、一旦足を踏み入れさえすれば気力も体力もある前半は難なく進められるけれど、

後半になるにつれて次第にしんどくなって、途中で投げ出したくなってくる。けれどその苦労を乗り越えてたどり着いた先には、

頑張って最後まで進んだ人にしか見えない景色が待ち構えているという共通点です。

夏井先生の今回の本の内容は、この例えで言うならば、登山道の入り口に興味を引くような催しが行われていたり、

序盤は初心者でも歩きやすいように適度な舗装や手すりなどの工夫が随所に施されていたり、

中盤から後半にかけて進めていくのがきつくはなってくるけれど、鮮やかな森や深い谷など目を引く絶景が立ち並び、その先に何があるのか気になって前に進まずにはいられなくなり、

そして頂上に登った際に見えた景色は圧巻だった、という感じだったと思います。


今回の本で言う「入り口の気になる催し」というのは、「いつかセザール・フランクのように本を書こうと考えるようになった」という表現です。

浅学にして「セザール・フランク」という人物を知らなかった私は、冒頭に掲げられたこの文章に「ん?どういうこと?」という風になってしまうのでした。

勿論、夏井先生もそれを知らない人がいることを承知のようで、その後まもなく「セザール・フランク」がどういう人かの説明が始まります。

実は「セザール・フランク」という人は文筆家ではありません。全く異分野の人であるにも関わらず、なぜ「セザール・フランクのように本が書きたい」と思ったのか、まえがきの説明の段階ではわかったような、少しモヤモヤが残るような不思議な違和感を与えられつつ、本章へと読み進めていく流れになります。

しかし「セザール・フランクのように」という言葉の意味は、実は全てを読み終えたときにその言葉がさらに強力なインパクトを持って読者を印象づけることになるのです。

「あぁ、なるほど」と感じると同時に、私は人生でただ一つ、たった一つのことをやり遂げるということでも、実はそこに心血を注いで集中することは並大抵のことではないのだということを学びました。

そしてその大変な努力を乗り越えた人にしか見えない景色というものがあり、そこにたどり着くために何が最も大切なことなのかを本全体を通じて感じ取ることができました。

本章の内容もさることながら、その構成に今回も圧倒されました。

さて、その登山道にどのような工夫が凝らされ、どのような絶景があったのかということは、

次回以降紹介していきたいと思います。


たがしゅう
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