下痢は過剰適応、便秘は消耗疲弊
2018/06/23 00:00:01 |
素朴な疑問 |
コメント:4件
以前「下痢は良いのか、悪いのか」という記事を書いた時に、
下痢の持つ肯定的な側面、すなわち異物を対外へ排出するための防御反応としての側面について紹介しました。
一方で果糖負荷試験という実験を行った際に私はおおいに下痢をしましたが、
これは果糖の悪影響から身を守るために身体が起こしてくれた反応かと思いきや、2日後に著しい高中性脂肪血症がある事が判明し、
防御反応として下痢が起こったというよりも、速やかに吸収され尽くされた後に吸収量が許容量を超えて起こってきた消化吸収障害の結果としての下痢の負の側面を知ることにもなりました。
下痢が起こった時にそれが意味する背景は複雑でしょうけれど、
少なくとも消化管の機能が一時的にせよ慢性的にせよ、異常な状態を示しているという事は言えるのではないかと思います。
では下痢とは消化管機能のオーバーヒート(過剰適応)なのでしょうか、それともシャットダウン(消耗疲弊)なのでしょうか、
本日はその疑問について考えるために、下痢はどのように起こるのかについて、改めて考えなおしてみたいと思います。
下痢の原因はさまざまですが、
大きくは①消化管の蠕動運動亢進、②消化管からの水分吸収の低下、③消化管粘膜からの消化液分泌亢進、が挙げられます。
普通に考えれば、①と③は過剰適応、②は消耗疲弊という事になりそうですが、ちょっと待って下さい。
消化管からの水分の吸収は基本的には浸透圧の差によって物理的に行われる現象(受動輸送)です。
水分吸収機能が低下して起こっているというよりも、水分が消化管に停滞している時間が長ければ水分はよく吸収されますし、
逆に消化管蠕動が亢進して水分と消化管が触れ合う時間が短ければ、あまり水分は吸収されずに消化管の中に水は残ったまま、すなわち下痢をしやすくなります。
だから②は消耗疲弊と見せかけて、①の過剰適応の結果として起こっている現象としてみることができるわけです。
他にも腸炎を起こした場合も下痢しますが、炎症機構が働き過ぎることも過剰適応病態です。
という事は、先天的な病態は別として、基本的に下痢は過剰適応病態、ということになります。
ではその逆に便秘はどうかということをついでに考えてみますと、
便秘の原因は逆に①消化管の蠕動運動低下、②消化管からの水分吸収の亢進、③消化管粘膜からの消化液分泌低下、と考えればよいので、
基本的に便秘は消耗疲弊病態と考えられます。
セリエのストレス学説になぞらえて消耗疲弊病態をとらえれば、軽症で可逆的な消耗疲弊と、重症で不可逆的な消耗疲弊とがあると考えられます。
平たく言えば、軽い便秘であれば治しやすいですが、こじれた便秘では治すのは難しくなってくる、ということになります。
しかし下痢にしても便秘にしても、過剰適応か消耗疲弊かの違いはあるにしても、
消化管の働きが健全ではないという点では共通しているわけですので、
下痢の防御反応的な良い面ばかりに注目するというのもバランスを欠いているように思えます。
ただ裏を返せば、便の状態を観察することは、
自分がストレスマネジメントがうまくできているかどうかを評価するバロメータになる可能性はあると思います。
つまり下痢気味の人はストレスに対して過剰適応傾向があるという事ですし、
便秘気味の人はストレスに対して消耗疲弊傾向があるという事になりますし、
下痢と便秘を繰り返している人は過剰適応と消耗疲弊の間を行き来しているという意味で、
非常にストレスに対して過敏な体質が隠れている可能性が想像されます。
そういえばこんな本があることを思い出しました。
女はつまる、男はくだる おなかの調子は3分でよくなる! 単行本(ソフトカバー) – 2014/12/9
水上 健 (著)
理由はよくわかりませんが、女性は便秘になりやすく、男性は下痢をしやすいという事が少なくとも疫学的にははっきりしているようです。
ここで便秘=消耗疲弊、下痢=過剰適応と置き換えれば、
男性はストレスに対して過剰適応しやすく、女性はストレスに対して消耗疲弊しやすいという可能性が見えてきますし、
やせ型女性でLow T3症候群を伴う脱力感を生じやすいという糖質制限界で言われている事象ともつながってくるようにも思えます。
とはいえ、ここまで単純化するのはさすがにやりすぎだと思いますが、
便の状態からストレスのかかり具合とそれに対する生体反応が推測できる可能性があるという点で
もしかしたら病態を理解する手がかりの一つとして利用価値があるかもしれません。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
「便秘悩み」でGoogle検索したら、約 2,280,000 件ヒットし、
「下痢便秘悩み」でGoogle検索したら、約 852,000 件ヒットしました。
この結果は一体何を意味するのでしょうか?...
極めて乱暴で単純に浅知恵を以って解釈すれば、下痢よりも便秘で悩んでいる人の数の方が多く、下痢と便秘の両方で悩んでいる人の数は下痢または便秘のどちらか一方で悩んでいる人の数よりも少ないのではないか?と推測(妄想?)してしまいます。
上記の推測に基づいてを半ば強引に推論してしまえば、人間は消化器系に消耗疲弊を発生させやすいストレスをためてしまう生き物なのではないか?と言えるような気がします。
と言うことで、まず消耗疲弊としての便秘への対策としては、
「過剰適応か、消耗疲弊か」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1147.html
に「消耗疲弊に対しては、何は無くとも休ませてあげることが第一義だと思います。それが可逆的な消耗疲弊であればなおのことそうです。」と有るように食事の量や回数を減らしてみるのが良いのかな?と思います。
このことは、
「食べなくても便は出る」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-905.html
によっても裏打ちされるのではないかと思います。
と、長々と書きましたが、明日の朝もしも排便が無かったら、自分は動揺してしまうのかも知れません。
上記のことが頭で分かっているのにも拘らずです。
もしかしら自分は「排便依存症」なのかも知れません。
そんな疾患名は聞いたことありませんが(^_^;)
で、適応過剰としての下痢への対策としては...自分は下痢に悩まされたことは殆ど無いので分かりません。
ただ、下痢は放置した方が良い場合が多いのではないかな?という気がします。
IBS等の場合は別だと思いますが、食中毒の下痢に対して止瀉薬なんて禁忌ですから。
最後に、下痢と便秘の両方で悩んでいる人の数が少ない件についてですが、これは、
「糖質摂取への過剰適応と敗北」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-767.html
で説明可能なのではないか?という気がします。
No title
ずっと便秘でしたが、糖質制限やもろもろの食事改善で便秘が改善されてきました。でも、アイスコーヒーを飲んだだけで下痢をしたりするようになり、「お腹が弱くなったか~」と悲観していましたが、先生の記事を拝見し、「悪いことばかりではないかも」と思えました^^
いつも興味深い記事をどうもありがとうございます。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
また当ブログを非常によく読み込んで頂いており恐縮です。
セリエのストレス学説になぞらえれば、
「①可逆的な消耗疲弊」→「②可逆的な過剰適応」→「③不可逆的な消耗疲弊」と病状が進行していくので、
消耗疲弊病態である便秘の方が頻度が多くてしかるべきかもしれませんね。
また「人間は消化器系に消耗疲弊を発生させストレスをためてしまう生き物なのではないか」という御指摘も的を射ていると思います。
例えば、自律神経障害が中核にありストレスとの関連も強く示唆されるパーキンソン病で最も早期に現れる前駆症状は便秘であるという事も明らかにされています。
2017年3月15日(水)の本ブログ記事
「腸管の異常は神経の異常へ通ず」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-904.html
も御参照下さい。
便秘と下痢が混在している状況は、今まさに病期のステージが入れ替わりつつある数少ない過渡期の時期をみているのかもしれませんね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> アイスコーヒーを飲んだだけで下痢
> 「悪いことばかりではないかも」と思えました^^
そうですね。適応しようと頑張ってくれている証ですからね。
ただあまり続くようであれば過剰適応かもしれませんので、身体をいたわってあげることが大事と思います。
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