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「炭水化物は人類を滅ぼす【最終解答編】」書評

category - おすすめ本
2017/ 10/ 21
                 


我が師、夏井睦先生の待望の新刊本が出版されました。

前著、「炭水化物は人類を滅ぼす」も、その生命史を俯瞰するような切り口で、

糖質制限の妥当性を説明し、さらになぜ糖質が神格化されるほど人間の文化の中に根付いたのかという事について、

多くの状況証拠を結び付けて、非常に説得力のある仮説として私達に提案される名著でしたが、

今回はさらにスケールの広い考察が積み重ねられ、「炭水化物が人類を滅ぼす」という未来が、

そんなに遠い先ではなく喫緊の課題となる事に対し警鐘を鳴らし、その危機的状況に対して人類がどう立ち向かうべきかを独自の視点で提言された壮大な作品です。
            

前著の時点でも相当多くの学びがありました。それから数年間曲がりなりにも糖質制限について考え続けてきた私ですが、

そんな私が読んでも多くの新しい発見や気づきを与えてくれるという点でとにかく驚きの一言です。

中でも私が一番驚いたのは「ドーパミンから全生命史・全人類史を読み直してみる」というテーマで語られた本の後半部分でした。


ドーパミンは当ブログでも以前に紹介していますが、

報酬系に作用する事で習慣や依存・中毒を形成する事に関わる神経伝達物質です。

糖質摂取で血糖値が上昇する事でドーパミン分泌が刺激されるという点で糖質制限とも深い関わりがあり、

糖質制限を始めようにも始められない人が8割以上にも昇る理由を一部説明できるという点でドーパミンについて知る事は大変重要なわけですが、

そんなドーパミンについて夏井先生はこの本の中で次のように述べられています。

(以下、引用)

私が(ドーパミンについて)疑問に思った点を列記すると、次のようになる。

●なぜ、ドーパミン分泌神経核(A10神経)は「高血糖」だけに反応し、「正常値の血糖」には反応しないのか?
●報酬系が、食欲や性欲などの生命維持と種族維持に必要な部門と、中毒性・依存性という生命維持に反する部門の両方に関わっているのはなぜか?
●コカイン、高血糖、各種嗜好物質など、多種多様な物質に対して、なぜA10神経は同じ反応をするのか?
●「人に褒められる」ことでもA10神経が同様に反応するのはなぜか?「他者からの賞賛」という非物質に反応するのはなぜか?
●あらゆる無脊椎動物、あらゆる脊椎動物の脳・中脳神経系にドーパミンが存在するのはなぜか?
●あらゆる脊椎動物の脳でドーパミン産生細胞が見つかっているのに、ドーパミン濃度が高いのは知能の高い真猿類とヒトだけなのはなぜか?なぜ、他の脊椎動物ではドーパミン濃度が低いのか?
●あらゆる無脊椎動物の脳でドーパミン産生細胞が見つかっているのに、一部の昆虫(ハチ、アリ、シロアリ)の脳のみでドーパミン濃度が高いのはなぜか?
●そもそも、神経細胞はどのようにして神経伝達物質を獲得したのか?


これらの疑問についてさまざま調べてみたが、解答は見つけられなかった。どれを見ても「How」ばかりで「Why」がないのだ。

であれば、自分で考えるしかない

集められる限りの情報を集め、状況証拠となりそうな証拠の断片を拾い上げ、それらを繋ぎ合わせて、

最も蓋然性の高いシナリオを自分の手で組み立てていくしかない

(引用、ここまで)



私も神経内科医の端くれですから、

一般的な医師達の中では比較的脳に詳しい方の部類に入ると思いますが、

それでも引用文の中の夏井先生の疑問には何一つ答えることができません。

そもそもこのような疑問が浮かび上がる事自体がすごいことです。

あらゆる無脊椎動物の中でドーパミン濃度が高いのはハチ、アリ、シロアリのみ」だとサラッと書いておられますが、

この事実にたどり着くにはあらゆる動物のドーパミン濃度について調べ尽くさなければならないという事になります。

当然ヒトの医学書には隅から隅まで読んでもそのような事は書かれていません。汎動物学の視点がないとたどり着けない疑問です。

従って私よりはるかに優秀な神経内科医であろうと、あるいは世界最先端の脳科学者であろうと、

おそらく夏井先生の疑問に答えることはできないであろうと思います。糖質制限についての知識や経験がなければなおの事そうです。

しかし夏井先生はその答えを自力で導き出されました。

おそらくそのために気の遠くなるような数、多種多様な資料を調べに調べられたのであろうと推測します。

ある領域でブレイクスルーを起こすためには、その領域だけを学ぶのではなく、その領域外の事も積極的に学ぶ必要があるという教訓を与えてくれているようにも思えます。

そしてその夏井先生が導いた結論は、非常にシンプルな言葉でドーパミンという物質の本質を表すことに成功します。

私も本が出るまでの間、新しい創傷治療のサイトで時々更新されるヒントを元にその本質が何かを考え続けていましたが、

結局その答えにはたどり着くことはできませんでした。そしてこの本を読むことでようやくその答えがわかりました。

言われてみれば納得で、「コロンブスの卵」とはまさにこの事だと思いました。

その答えが人類の危機的状況の話へとつながり、終盤になるにつれて大きな説得力とともに現実味を帯びてきます。

そして最後に夏井先生が出された最終解答へと導かれるという構成になっていました。


糖質制限実践者にとってはまさに必読の書です。

前半はこの本で初めて糖質制限に触れる人がある可能性に配慮してか、

糖質制限にまつわる基本的な情報が書かれていて読みやすくなっていますが、

中盤あたりから徐々に生命の本質に迫っていく内容となり、正直言って十分に読み解くには骨が折れる内容です。

しかしながら所々の文章に独特の夏井先生節があり、その表現に和まされたり、身近なたとえで理解を助けてもらえたりと、

読書の息継ぎ地点が要所要所で準備されています。

頑張って最後まで読み進めれば、糖質制限の継続に悩み揺らいでいる人達に、

迷いなく糖質制限を続けていく勇気を与えてくれる一冊になっていると私は思います。

私もいつかこんな本が書けるようになりたいです。


たがしゅう
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コメント

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No title
たがしゅう先生、

もう、お読みになったのですね。

私なんか、始めの数ページと、エピローグのさわりだけ。
早く、その美酒を味わいた~い。
Re: No title
たかはし 先生

 コメント頂き有難うございます。

 後半は難しいですが、非常に読み応えのある内容になっています。流石夏井先生です。
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No title
只今読み進み中です!
ひたすら面白く、そして夏井先生の博識な知識量にただただ驚くばかりです。

「炭水化物が人類を滅ぼす」に出逢って、長年の疑問が氷解し夏井先生のHPに出逢い、そしてたがしゅう先生のブログに出逢えました。
他にも糖質制限を実践される諸先生方にも巡り会えました。

たがしゅう先生や夏井先生の考えに触れる事で、まず何が疑問なのか、どうしてそうなるのか、何故そうなるのかと、たとえ間違いだとしても自分の頭で考える、間違いなら何故間違いなのか、とにかく考える事の重要性、必要性と面白さを再度教えて頂きました。

一見なんの関係性の見えないものが突き詰めると繋がっていたり、全く真逆だと思っていたものが重要に関わり合っていたりと、糖質制限や医学医療の分野に限らず、何故そうなのかを考える事の面白さ、楽しさ、必要性重要性を再認識しています。
たがしゅう先生、ありがとうございます。

これからも考える事の面白さ楽しさを発信し続けてくださいね。
Re: No title
きき さん

コメント頂き有難うございます。

「なぜ」を考えることは本当に大事と思います。
そして既成の概念にとらわれずに事実を元に考えていく姿勢も同じくらい大事です。
これからも私のできる範囲で、「なぜ」を考え続けていきたいです。