思い込みの力は大きい
2017/10/22 00:00:01 |
医療ニュース |
コメント:10件
患者さんがメカニズムのよくわからないサプリや薬を飲んで自分の症状に効いたと言う時に、
おそらく多くの医者は「それはプラセボ効果だ」と考えるだろうと思います。
プラセボ効果とは全く薬効のない物質に対して、効くと思いこむ心理によってもたらされる症状の改善効果の事を言いますが、
薬効がないと思っていたけど実はまだ現代科学で解明されていないだけという可能性を忘れてはいけません。
一歩譲って、本当に改善させうるメカニズムが存在しなかったとしても、
プラセボ効果で何が悪いと私は思います。プラセボ効果を引き出して症状を改善に導いたわけですから、これは立派な医療技術です。
そんな中、いつも見ているケアネットニュースで次のような記事を目にしました。
高価な薬剤は「副作用」を引き起こしやすい可能性
提供元:HealthDay News公開日:2017/10/20
(以下、引用)
(前略)
対象は健康なボランティア49人。全員に「アトピー性皮膚炎治療に用いられているクリームを試してほしいが、皮膚が痛みに敏感になる副作用がある」と説明した上で、このうち24人には「安価な薬剤」と伝えてオレンジ色の箱に入ったクリームを使用してもらい、残る25人には「高価な薬剤」と伝えて青い箱に入ったクリームを使用してもらった。実際にはいずれのクリームも同一の内容で有効成分は含まれていなかった。
クリームを塗布した腕に熱による痛みを与えて耐性を調べる検査を実施した結果、「高価な薬剤」と説明を受けてクリームを塗布した人は痛みに敏感になっていることが分かった。この検査では、熱刺激を与えた後、痛みの程度を評価スケール(VAS)で評価してもらったが、高価な薬剤群では平均スコアが15点(軽度の痛み)だったが、安価な薬剤群では平均3点未満で不快感を訴えた者はほとんどいなかったという。
この結果を踏まえ、Tinnermann氏は「高価な薬剤は効果が強力な分、副作用も強いと予測されやすいのではないか」と考察。この研究に関する付随論評を執筆した米メリーランド大学のLuana Colloca氏もこれに同意し、「人は薬剤そのものだけでなく、その価格や静脈注射か経口薬かといった投与方法の違いによる影響を受けやすい」と指摘している。
さらに今回、高価な薬剤群でみられたノセボ効果が思い込みや錯覚によるものではないことも示唆された。Tinnermann氏らが研究に参加したボランティアに機能的MRIによる脳画像検査を実施したところ、高価な薬剤群でノセボ効果がみられた人では脳神経系の活性に特定のパターンが認められ、特に前頭前野での活性を介して痛覚の過敏性が生じている可能性が示されたという。
Tinnermann氏は、医療従事者に対し「薬物療法では薬剤に対する患者の期待や予測が大きく影響することを認識しておく必要がある。薬剤の副作用について患者に説明する際には、その伝え方に注意すべきだ」と助言している。
Colloca氏も「ノセボ効果を理由に必要な薬剤を使用しなくなってしまう可能性があるため、これは重要な問題だ」と強調。スタチンの副作用に筋肉痛が生じる可能性があることを知っているスタチン療法中の患者は、筋肉痛を訴える確率が高いとする最近の研究結果を紹介した上で、「スタチン療法を中止すると心筋梗塞や脳卒中リスクが高まることを示した研究結果もあることを認識しておく必要があるだろう」と指摘している。
(引用、ここまで)
プラセボ効果とは逆で、薬効のない薬に対して副作用が出るに違いないと思いこむ心理でもたらされる症状の増悪効果をノセボ効果といいます。
今回は副作用が出ると思いこみやすくなる要素として薬剤の価格に注目した点が面白いです。
しかもそれが健康な人であっても、高い薬の方が副作用が出やすいと考えてノセボ効果が現れたかもしれないという点も興味深いです。
それだとストレスマネジメント能力が落ちた病気の人ではなおの事ノセボ効果が強く出たとしても不思議ではなさそうです。
記事の中では「ノセボ効果は思い込みや錯覚によるものではないことを機能的MRI画像で示した」とありますが、
機能的MRIで特定の脳領域が活性化されたからといって思い込みや錯覚によるものではないとは言い切れないと私は思います。
というよりもむしろ、思い込みや錯覚の力が、人間らしい行動を生み出す元である前頭前野に大きな影響を与えうるといった方が正確なのではないかとさえ思います。
ところ変われば催眠療法なる一見怪し気な治療法で効果があったという話を聞くこともありますが、
これとて強力な思い込みを誘導手段であり、言ってみれば人為的な前頭前野賦活法だとも言えます。使い方によってはプラセボ効果もノセボ効果も導く潜在能力を持っていると私は考えます。
糖質制限指導にまつわっては、どうしても糖質依存症の問題と切っても切れない関係にあります。
重度の依存症患者はいかなる理屈も通用せず、どれだけ筋道立てて離脱のメリットを説明したところでそんな事は関係ないからとにかくその物質をくれと、
理屈に合わない行動をとられ、その対応にほとほと困り果てる場面が多々あります。
そんな時に催眠かけてでもいいから軌道修正をさせたいという考えが頭をよぎることがあります。
催眠のノウハウなど学んだ事がないので、そんなことが可能なのかどうかわからないのですけども、
調べてみると日本医療催眠学会という学会もあるようで、実は知る人ぞ知る治療法があるのかもしれません。
というわけで、実は先日この医療催眠学会の集まりに私参加して参りました。
その模様は機会があればレポートしたいと思いますが、催眠の技術は学べなかったものの、なかなか独創的な内容で面白い学会でした。
こんな話をしていると、たがしゅうがどんどん怪しい方向に向かっていると思われる読者の方も多いかもしれませんが、
私としては今まで考えてきた内容が有機的につながっていき、その帰結としてこうした治療法に興味を持つようになったと思っています。
不確かな決めつけの情報で判断するのではなく、可能性を感じたら極力自分の目で確かめるスタンスが大事だと思います。
その点で言えば、記事の最後のスタチンの話には全く可能性を感じません。
なぜならスタチンは筋肉痛をきたすメカニズムを持つ薬であり、筋肉痛が出るのはノセボ効果だとするのは明らかに間違っているからです。
スタチンの真の副作用である筋肉痛の問題を放置して、スタチンで心血管リスクが減少するという信頼度の低い研究結果を理由にスタチンを勧めるなんていうのは愚の骨頂です。
私は常に目の前で起こる事実を大事にする医師でありたいと思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
糖質を避けてるつもりでも、食べたくなってこの間食べてしまいました。
催眠療法で糖質を食べたくなる気持ちが薄れればすごいです。
催眠療法きになります。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
催眠療法はまだ存在を知ったばかりなので糖質依存症にどれほど利用できるかはまだ未知数です。引き続き学んでいきたいと思います。
しかしいずれにしても自分の心と向き合う事が基本と思います。
思い込みが人間らしい行動を生み出す元
おもしろかったです。
テニスの錦織選手のマイケルチャンコーチは、錦織さんをただ励ましてるだけ(語弊があるかも?)だったり、
今まで見た映画やドラマで、主人公の大きな転機になったとても印象的な言葉を思い出すと、
「あなたは何だってできるのよ」
「君は本当は、いい子なんだよ」
「すべてはうまくいきますよ」
究極の、その子を心から励ます言葉なのです。
自分は大丈夫なんだと信じて(思い込んで)、主人公はみな頑張れます。
薬さえいらないんじゃないかと思いました。
信じる=思い込むなのかもしれません。
催眠学会に「あなたは超優秀」って植え付けてほしいですね。でも、悪用されたらよくないですね。
Re: 思い込みが人間らしい行動を生み出す元
コメント頂き有難うございます。
> 「あなたは何だってできるのよ」
> 「君は本当は、いい子なんだよ」
> 「すべてはうまくいきますよ」
> 究極の、その子を心から励ます言葉なのです。
そうですね。
心が身体に及ぼす影響は大きいと思います。
疑わないことが強い力をもたらす場面というものがあると思います。
催眠
催眠はどうしても怪しいイメージがついてしまっていて胡散臭く見えますが、
欧米をはじめとして疼痛コントロールやトラウマ治療にエビデンスがあります。
ぜひ勉強してみてください。
勉強するには、学会が1番です。
で、今日本ではおそらく日本催眠医学学会が最もきちんとしていると思います。
11月初めに鹿児島で学会がありますので、覗いてみてはいかがでしょうか?
http://www.jshypnosis.com/
No title
「こんな話をしていると、たがしゅうがどんどん怪しい方向に向かっていると思われる読者の方も多いかもしれませんが、」
全くそうは思いません。
私は、ものすごく興味があります。
アメリカの精神科医ブライアン・L・ワイス博士の書籍を読み、
「催眠療法」を知りました。現時点では解明できなくても、
「目の前で起こる事実」を受け入れざるを得ないと思いました。
人の意識というものが何なのか、
知りたくてたまりません。
Re: 催眠
情報を頂き有難うございます。
獣医学会にしても催眠医学学会にしても、
私が興味を持ち始めた領域の学会が私が鹿児島に来てから鹿児島で立て続けに開催されるなんて、まるで何かに導かれているようで不思議な思いがします。
是非とも催眠医学学会の雰囲気も味わってみたいと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
そのように思って頂き有り難いです。私の意図は伝わる人にはきちんと伝わっているという想いを新たにすることができます。
これからも常識にとらわれずにヒトのためになる学びを続けていきたいと思います。
糖質はどうやってたちきればいいのかわからないです。
お腹がすいてしまって御飯食べたくなります。
一人でやるのは限界があると感じます。
Re: タイトルなし
あせらずにできることから一歩ずつ、です。
最初から完璧主義を目指す必要はありません。試行錯誤しながら目標に近づいていくものと私は思います。
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