「食べ過ぎるな」ではなく「食べてもいい」
2015/08/23 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:7件
糖質制限批判派の方からよく誤解されている意見として、
「肉も脂も食べ放題なんて身体に良いわけがない」ということをしばしば耳にします。
糖質制限は基本的にカロリー非制限なので、
確かに「お腹いっぱいになるまで食べてもいい」などと私も患者さんに指導したりしています。
しかし以下に述べる事も実体験が欠如している人には理解してもらいにくいのですが、
そのようにカロリー非制限にしているにも関わらず、
多くの場合、自然と適切なカロリーの食事量のところで空腹感が収まり、食べ過ぎにならなくて済むというのが糖質制限の面白いところです。 というより、それが野生動物の自然の摂理というものだと思います。本来そうあるべきシステムです。
逆に言えば、高糖質食を食べているとその摂理を無視して容易に食べ過ぎてしまいます。
ヒトの身体には食べすぎると満腹感という感覚を発生させ、それ以上食べさせないようにするための防御システムが備わっています。
しかし高糖質食の場合は、血糖値の乱高下とともにドーパミン神経が刺激され、強力な報酬感がもたらされます。
その結果、満腹感という防御システムを無視して「まだ食べたい、まだ食べたい」という強烈な食欲が生み出されます。
そしてさらに食べすぎると今度は胃もたれ、胸焼け、呑酸などの消化器症状として身体から警告症状が発せられます。
実は、糖質制限を知る前の私はこの警告を幾度となく受けていました。にも関わらず、それでもまだデザートなどを食べ続けたりしている状態でした。今から振り返れば明らかに病的な状態だったと思います。
糖質制限のおかげで糖質の脳へ直接作用する物質依存の部分は取れ、幸い警告が出る前の満腹感が出たところで食事を終えることはできるようになったと思います。
しかし、長年ドーパミンに踊らされ、形成された過食の習慣依存の部分はなかなか取り去る事が難しいです。
確かに糖質制限批判派が言うように、「肉の食べ過ぎはよくない」部分もあると思います。
ただ世間的に言われるような「動物性脂肪が良くない」とか「動脈硬化が悪化する」といった、実は根拠の乏しかった俗説が理由なのではなく、
糖質制限的な目線で見ても、まずインスリンとグルカゴンの同時分泌刺激になるので、結果的に糖質ほどではないにせよインスリンが必要以上に出る事で脂質代謝が体内へ脂肪が蓄積する方向へシフトし、すなわち一定のところ以上は痩せにくくなる可能性を秘めています。
中には「お腹いっぱい食べて自分が標準までやせていないくせに、患者さんにそんな指導していいのか」という人もいるかもしれませんね。
またケトン産生の観点からしても、タンパク質は向ケトンと反ケトンの中間の性質を持った栄養素です。
あまり肉を食べ過ぎていると、ケトン体の産生量が控えめになります。私は糖質制限の本質的な万能性はこのケトン体をいかに有効に使えるか、という所にあると思っているので、この点も重要です。
あるいは高度の腎障害においては、流石にタンパク質が多い事が腎臓の負担となってしまうという難点もあります。
だから確かに「肉の食べ過ぎはよくない」のですが、
しかしそれでもあえて「お腹いっぱい食べていい」と指導するにはそれなりの理由があります。
それは一度でもダイエットに悩んだ事のある人ならわかると思います。絶対的な心の安心感です。
「食べ過ぎはよくない事はわかっている」→「でも欲に負けてどうしても食べてしまう」→「それは自分の意志が弱いからだ」
このような負の思考連鎖がダイエットに失敗してきた人の頭の中には渦巻いているはずです。
しかしその状況であえて「お腹いっぱい食べていい」と言うのです。言われた方はどう思うでしょうか。
ある人は本当にお腹いっぱい食べていいのかと疑うかもしれません、またある人はそう言われながらもおっかなびっくりで実行しきれないかもしれません。
しかし指導する医師からの「お腹いっぱい食べていい」というお墨付きは、まず最初の一歩を踏み出す際のモチベーションを与えます。
そして糖質制限を実行しながらお腹いっぱい食べていく事で、糖質の中毒性がとれていく、以前のような異常な食欲がなくなっていきます。
結果的には食べ過ぎずにすむようになり、実践者は自分が意志が弱くて食べ過ぎていたのではなく、糖質によって「食べさせられていたのだ」という事を学ぶのです。
さらに賢明な実践者は、そこから適切な摂食量を知り、自分の食事量をコントロールできるようになっていき、さらなる高みに進んでいく事ができるようになっていきます。
確かに理論は大事です。理論的には食べ過ぎる糖質制限よりも、適量の糖質制限の方が良い事は言うまでもありません。
しかしだからといって最初から「食べる量はこのくらいに押さえましょう」と制限指導されていれば、「食べ過ぎている自分の意志の弱さ」に対して負い目を感じながら糖質制限を実践することになります。
それなら結果的には同じことをやっていると思われるかもしれませんが、当事者からすれば全然違います。
量を超えてしまう度に自分を責める負の感情が生まれ、その感情がまた身体を悪い方向に向けてしまうからです。
全てについて言えることですが、
人間には心がある事を忘れはいけません。心の問題は身体の問題と密接に関わっています。
理論的に正しい事だけではなく、目標につなげるためのプロセスをどう持っていくかを、ヒトの心理も踏まえた上でその方法論を考えて行くことで、
オーダーメイドで、よりきめ細やかな指導につなげていけるのではないかと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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実践の後押し
私が糖質制限を知った頃、夏井先生がテレビで「焼肉食べ放題で体力の限界近くまで肉を食べても大丈夫」と語っていた映像を見て、その表現の面白さと考えに大いに勇気付けられました。(笑)
少々オーバーな表現だったでしょうが、その方が間違った糖質制限(糖質と同時にタンパク質・脂質制限)にもつながること無く、理解しやすくて非常に良い表現だと思います。
説明を受ける側にしてみれば「食べてもいい」は強く背中を押してくれる一言に違いありませんね。
ところで、アメリカの番組で興味深いシーンがあったのでご紹介します。
http://www.nbcnews.com/nightly-news/video/sugar-less--how-one-family-of-five-is-cutting-back-on-the-sweet-stuff-510564931949
食事から砂糖を抜くチャレンジをするのですが、砂糖を抜き始めた当初は「tired」連発していても、数日後には体調の良さを実感する様子が出てきます。
日本はアメリカほど砂糖の摂取は多くないでしょうが、人によっては砂糖抜きが糖質制限の導入としても一つの手かなとも思いました。
そんなに変わるのかなと驚きました。
Re: 実践の後押し
コメント頂き有難うございます。
> 人によっては砂糖抜きが糖質制限の導入としても一つの手かなとも思いました。
今よりも少しでも糖質を減らすことを糖質制限と考えるならば、砂糖抜きも立派な糖質制限ですね。
「なぜ糖質を制限すべきなのか」を正しく伝え、その上でそのためのやり方を人それぞれでどうすべきかを一緒に考えていく必要があると思っています。
No title
夏が終わり、食欲の秋がやってきますね。ちょっと早いですけど。
脂ののった秋刀魚に新米の山盛りご飯!
農作物は糖質が中心!!
食後の梨も忘れません!!!
以前の自分ならほっこり顔
激しい食欲は糖質によって引き起こされていたというのは、実際に制限してみると本当によくわかります。
思い起こすと恐ろしいです。
それだけ食べれば片頭痛だって容易に起きるって(汗)
過去に自分に言いたくなります。
たがしゅう先生のおかげで今日も快適に仕事ができます。
ありがとうございます。
管理人のみ閲覧できます
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
糖質の持つ性質ににヒトは魅せられ文化までをも形成してきたという事だと思います。
本当に考えれば考えるほど根が深い問題です。
No title
糖質制限をはじめた時にはカロリー無制限という事が嬉しく魚や肉を異常なほど摂っていました。
1年たった今、家人に「小食になったね」と言われます。自分では食事量を制限している感覚がありません。いつも満足するまで糖質制限食を摂っているつもりなのです。
1年かかって適正な食事量を自分で知ることができたわけです。嬉しい事です。
もしはじめから糖質制限と共にカロリー制限していれば、身体的精神的問題が生じ糖質制限失敗という事になっていた恐れがあります(私の場合)
くんだみえ
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 1年たった今、家人に「小食になったね」と言われます。自分では食事量を制限している感覚がありません。
その感覚が大事だと思います。
頑張ってやっているうちはまだ自分のものになっていないと思います。
2014年5月23日(金)の本ブログ記事
「努力が常態となったとき」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-281.html
も御参照下さい。
一方で私にとっての「断食」「不食」もその領域です。
無理をせず気が付けば自然とできている状態になれればいいと思っています。
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