本来の断食に回復食は必要か
2015/08/19 04:30:00 |
素朴な疑問 |
コメント:10件
糖質制限を突き詰めて考えていくと、私の興味は絶食療法に向かいます。
糖質制限の概念が存在するずっと以前から、絶食療法は断食と名を変えて、
それが病気から健康へと戻す確かな効果が歴史の中で脈々と受け継がれてきました。
もしも断食がただただ危険で何ら改善をもたらさない行為であったとすれば、このように現代まで受け継がれてはいません。
むしろその危険性を伝えるべく「断食をやってはいけない」という情報が流布されているはずですが、現実はそうなっていません。
しかし断食の世界では、「正しいやり方でやらないと危険だ」と伝えられている事もあります。その最たるものが「回復食」です。
「回復食」とは、長期間の絶食後、元の食事に戻す前に少しずつ量を増やしていく段階の食事の事を言います。
この「回復食」を正しい手順で行わないとむしろ危険な事になると言われているのです。 例えば、「断食合宿の帰りにラーメンを食べたら、強烈な腹痛で動けなくなり救急車で運ばれた」といったトラブルが報告されています。
そういったトラブルの可能性を少なくするには、経験的に少しずつ食事を戻していくと良いという事が知られてきたため、「回復食」の文化が形成されてきたと言えるでしょう。
しかしここで少し見方を変えて、400万年前くらいの人類の暮らしを想像してみましょう。
この時代には農耕もなく、狩猟採集が主体であり飢餓が日常的にありふれていた時代でした。
ヒトは生物誕生から46億年の歴史の中で、飢餓に対抗するための遺伝子を生き延びるために発展させてきたと言われています。
したがってその能力を最大限に用いて、食料があまり得られない時代でも、医療はまだ無かったにも関わらず、子孫を残し生き延び続けてきました。
その時代には本人が意図せずして間欠的に断食を行っていたと考えられますが、
そうした時に久しぶりに何らかの食料と出くわした時に、はたして回復食のようにちょっとずつ食べるという選択をしていたのでしょうか。
いえいえ、まずもって目の前の食べ物に無我夢中でむしゃぶりつく姿が容易に想像されます。
その時に回復食を守っていなかったからと言って救急車騒ぎとなる程の強烈な腹痛は当時も起こっていたのでしょうか。おそらく私はそうではなかったと思います。
つまり回復食を守らないとトラブルになるというのは、糖質文化における断食での注意点だと私は思います。
絶食状態というのは、いわば究極のケトン代謝状態です。
そのケトン代謝状態から高糖質食を摂取すれば糖質代謝に急ハンドルを切ることになるので、身体が適応しきれずトラブルを起こすのも無理もないと思います。
この糖質文化の中では回復食により徐々に食事量をとるという戦略をとれば、確かにケトン代謝から糖質代謝への切り替えがマイルドになっていくのでトラブルは少なくなるでしょうけれど、
古代人の世界ではそもそも食べるものに高糖質食はほとんどなかったわけですから、
回復食を意識せずとも、ほとんどの食べ物は低糖質食なので、目の前にあるものをあるがままに食べたところで基本的にはケトン代謝はケトン代謝のまま維持できると思います。
それゆえ古代においては、現代で言われるほど断食後の食事でトラブルは少なかったのではないかと私は想像します。
という事は糖質制限ベースにすれば回復食自体それほど意識しなくても大丈夫なのではないかと思うわけです。
しかし実際に私は3日間と8日間の自力断食を経験し、
回復食の知識と経験が乏しかったので、糖質制限ベースであまり量を気にせずマイペースに復食を行った事がございますが、
その時は結構下痢をしました。まるで久しぶりに使った消化管が本来の仕事を発揮できなかったような感じでした。
ただ腹痛とか仕事を休まないといけないようなトラブルは一切ありませんでしたので、
私の仮説もあながち間違ってはいないのではないかと自負しています。
もう一つ、この経験から食事というものの持つ負の側面も浮かび上がってきます。
というのは消化管機能を休ませてその働きを洗練させた状態では、食べるという行為を消化管はあまり歓迎していないように思えます。
8日間絶食中に水分は山ほど摂るのですが、その間には水様便や水そのものであっても肛門から排出されることはありません。
しかし食べた拍子に食べ物とともにかなり下痢をしてしまうのです。それは消化管が食べるという事の危険性を察知し異物を排除しようと働いているようにも思えます。
ところがその後も食べるという行為を繰り返しているうちに、身体も慣れるという事を覚えて下痢をしなくなり、食べたものの有効な成分だけを取り入れ、不要な部分は排出するという、消化管の持つさらに高次の機能をうまく働かせるようになります。
この原始的な機能(水分吸収+異物排除)と高次な機能(異物排除しつつ都合の良い部分だけ取り込む)の組み合わせは、ブドウ糖‐グリコーゲンシステムと脂肪酸‐ケトン体システムとの関係と似ているように思えます。
すなわち、食事が安定して生命を維持できているという状態は、「消化管のより高次な機能を腸内細菌のサポートも受けながら最大限に発揮する事によって、害毒を最小限にしつつ栄養を効率的に取り込んでいる状態」だと言えるかもしれません。
ならば私たちが断食から学ぶべきは、
食べる事が善とか、食べない事が善とか両極端にならずに、
食べる事と食べない事のバランスをうまく保つ事ではないかと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ケトン食中の断食
1年2ヶ月前に、7日間の断食をしました。
その頃の食事は、1日1食1,600kcalのケトン食でした。
いきなり断食を始め、断食を終えていきなり2,300kcalのケトン食を食べましたが、体の不調はありませんでした。
何年も前に、普通食でも同じように回復食を摂ったことがあります。
その時は、体が浮腫み、危険を感じました。
ケトン食をしていた時の断食中のβ-ヒドロキシ酪酸の値は、8Mmol/L以下でした。
日常の1日1食のケトン食で、糖質をほぼゼロ、タンパク質を30g以下に抑えると、8Mmol/L以上になることがあり、断食中より一時的とはいえ高くなります。
Re: ケトン食中の断食
貴重な体験報告を頂き誠に有難うございます。
> いきなり断食を始め、断食を終えていきなり2,300kcalのケトン食を食べましたが、体の不調はありませんでした。
高糖質食から断食だと代謝的に急ハンドルですが、ケトン食から断食への移行はいきなり始めても代謝的には実は緩やかなハンドル操作だったりするのですよね。
私もケトン食気味の糖質制限で1日1食で過ごす事が多いですが、普段気が向いたらいきなり断食したりしていますが、トラブルなく仕事できています。私は意図的にそうしていますが、古代の人類ではそうした代謝変化は日常的に存在していたのだろうと推測します。
> ケトン食をしていた時の断食中のβ-ヒドロキシ酪酸の値は、8Mmol/L以下でした。
> 日常の1日1食のケトン食で、糖質をほぼゼロ、タンパク質を30g以下に抑えると、8Mmol/L以上になることがあり、断食中より一時的とはいえ高くなります。
脂肪がどれくらい備わっているかもケトン値に影響しているのでしょうね。
私が8日間絶食をした時の7日目のβヒドロキシ酪酸の値は8156μmol/L(8.156mmol/L)でした。
食べながらにして8mmol/L越えというのはすごいです。やはりタンパクをかなり控えめにするのはケトンを上げる大きなコツなのですね。
ただそれはケトン代謝が十分に回っていればの話なので、糖質制限初心者の人がいきなり糖質ゼロ、タンパクゼロに行かないよう啓発していく必要もありますね。またこの辺り、落ち着いたらまた記事にさせて頂きます。
私も今日から思い立って断食中です。
ただ…私は断食に成功したことがないのです…
2日目朝に強烈な食欲に襲われ、自分に言い訳し、結局食べてしまいます…それも高糖質なものを。。
強烈な食欲に襲われる原因は、普段の自分の糖質摂取に関係あるのかなと思っています。
今回は絶対に乗り越えたいです!!
2日目の先にあるものをぜひ見てみたいです。
目標は10日間です。
宿便というものは本当に出るのか?
断食ハイとはどんなものか?
たがしゅう先生の記事の言葉をお借りしますが、1合目から2合目に登って景色を眺めてみたい、です。
そしていつか頂上にたどりつきたいです。(私の目先の目標はマイナス10キロダイエットです)
これからもブログ更新たのしみにしています(*^^*)
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
山、是非登って見てください。今まで見たことのない景色がそこには広がっています。
勿論危ないと思ったら引き返すのも自分の自由です。臨機応変に突き進んで頂ければと思います。私も引き続き自分の見た世界を表現していきたいと思います。
管理人のみ閲覧できます
管理人のみ閲覧できます
脳アレルギー
ケトン食で検索していたところ先生のブログに出会いました。
僕は99年頃より医学会ではほとんど知られていない臨床環境医学と分子整合栄養医学の認知普及をライフワークとしてきました。一人でも多くの医師にアレルギーの真実やビタミンミネラルの重要性を知っていただき、診療に取り入れてほしいと願って活動してきました。僕は医師ではなく患者側の一人です。
臨床環境医学(アメリカ環境医学)では絶食は食物アレルギー治療の基本として行われています。ケトン体の理解だけでは無理があるのです。
アメリカ環境医学のマーシャル・マンデルの絶食の章
http://www.21sense.com/danjiki.pdf
アメリカ環境医学のメンバー、小児科医のドリス・ラップ医師が長年診療場面を撮影してきた多数の映像がYOUTUBEでみられます。誘発中和療法や除去5日以降の食物負荷試験によって誘発された多動や鬱などの脳アレルギーの様子です。
ドリス・ラップ医師HP
http://www.drrapp.com/
Is Your child Suicidal
(子供が自殺したがるか)
http://www.youtube.com/watch?v=ulSTilm6CRU
Allergic reaction to mold causing hyperactivity and thoughts of suicide
(多動や自殺念慮の原因となるカビのアレルギー反応)
http://www.youtube.com/watch?v=q0v3rUmH3zY
続き
http://ichikawashimin.web.fc2.com/lecture.html
ハウスダストやカビ、揮発性化学物質などのない部屋で汚染の無い安全な水だけで絶食をするとアレルゲンが次第に体から代謝排泄されて少なくなっていきます。するとマンデルが述べているように今まで苦しんできた症状が急激に悪化する場合があります。それを離脱と言います。自傷他害や精神症状がある場合は拘束服が事前の患者承諾で使用される場合もあります。
そして4日目くらいから消化器官からすべてが排泄され体内の代謝が完了すると全ての症状が治まります。その4日目から12日目くらいを環境医学では「急性の過敏期」と言い、負荷試験を行うと隠れ型の食物アレルギー症状が劇的に再現するのです。真実の食物アレルギーではその期間を利用して食物負荷試験を行いアレルゲンを特定してきました。
例えばピーター・ラデツキー「環境アレルギー」青土社 で紹介されている少年はトマトの負荷試験で凶暴な暴力が暴発しています。大人数人で抑えこまねければならないのです。その映像がアメリカの有名トーク番組で本人ともども紹介された映像です。
ピーター・ラデツキー「環境アレルギー」
http://www.seidosha.co.jp/index.php?%B4%C4%B6%AD%A5%A2%A5%EC%A5%EB%A5%AE%A1%BC
Dr. Doris Rapp - Children's Allergies to Food & Environment
https://www.youtube.com/watch?v=fRDpcWZUEiU&feature=PlayList&p=FC338CD0041015CA&index=0&playnext=1
喘息があったり頭痛がある患者は絶食は行えません。窒息したり脳の浮腫の脳ヘルニアで死亡する可能性があるからです。ですから回復食はアレルゲンでない食物で行わないと患者を死亡させる危険性があります。このことを知らなかったために何年か目に断食道場で死亡者が出たそうです。
アレルギーからの絶食療法など
皆さんご存じだとは思いますが、YOUTUBEの方にはNHKBSで放送されたフランスのテレビ局の「絶食療法の科学」がアップされています。
https://www.youtube.com/watch?v=oA-eI2WQLRU
ここではロシアの主に精神疾患対象とドイツの主に関節リュウマチ対象の絶食療法が取材されています。アメリカ環境医学の場合は1920年代に故アルバート・ロウ医師が食物アレルギーで除去食を考案されてからその真実が知られるようになってきたのです。それをより発展させたのが化学物質過敏症発見者の故セロン・G・ランドルフ医師でした。日本では1960年代に群馬大学小児科名誉教授の故松村龍雄氏がいち早く食物アレルギーに気付きランドルフ医師と交流されてきました。
歴史上でも様々な記録があります。ピポクラテスの「チーズで具合が悪くなる人がいる」ルクセチウスの「食べ物は人によっては毒となる」は食物アレルギーを端的に表現しています。そして何よりブッダやキリストが食物アレルギーからの解放を歴史的に証明していると考えられます。
ブッダが40日間の断食の末に悟りを得たこと。キリストが7日間食料も水もないいまま荒野をさまよったときに神の啓示を得たこと、などの言い伝えは食物による脳アレルギーで本来の能力を阻害されてきた宗教家が、絶食によってそれから解放され、本来あるべき知能がバースト状態に跳ね上がったことを意味すると考えられます。
ラップ医師は治療で治った発達障害の子供たちがとても知能が上がることを述べられています。例えば「環境アレルギー」で述べられてい少女マーシャの例です。この子は小児精神病として入院したこともあるのですが、実際は食物アレルギー・化学物質過敏症だったのです。治療前のIQはたったの57、治療後は127になりました。
Can fluoride cause severe depression?
(フッ素化合物は重い鬱病を起こしますか)
http://www.youtube.com/watch?v=FDGQCiF2-rY&feature=relmfu
僕が映像や資料を公開していますので是非ご覧ください。マーシャやネッド少年のことはラップ医師の著書Is This Your Child?(対訳)やEnvironmentally Sick Schools(シックスクールと表示、字幕付き)に症例として取り上げられています。環境アレルギーの記述はブリーフケースの症例その他にあります。
映像
http://yahoo.jp/86eXEg
資料
http://yahoo.jp/fH9Puy
TVドキュメントの関節リュウマチについては、アメリカ環境医学のクリーンルームでの研究があります。食物アレルゲンと環境暴露をゼロとすると患者の50%が寛解、30%が改善、残り20%が変化なしと結果が出ています。
続き
分子整合栄養医学HP
http://www.orthomed.org/
http://www.orthomolecular.jp/
精神科医エイブラム・ホッファー
本書をお読みになる方へ
エイブラム・ホッファー
マーシャル・マンデル(Marshall Mandell)博士は先駆的な生物ー生態学的医学者である。人体のあらゆる組織、器管が、環境に存在する非常に多種多様な化学物質との接触で、不利な反応を起こす場合のあることを明らかにした。化学物質はすべて、それが皮膚から入ろうと、肺から吸入されようと、消化器管から吸収されようと、不利な反応を起こすことがある。このことは中枢神経にも当てはまる。
アレルギー反応も含めてどのような種類の代謝異常でも、これまでに知られているあらゆる精神病と同一の症状の原因となり得るということは、医師、特に精神科医にとっては、とても信じ難いことである。私自身もかつては同様に信じられなかったのであるから、彼らの立場がよく分かる。私は20年前から,セロン・ランドルフ博士の業績を知っていたが,ビタミンや、ミネラルの適量補充を用いた栄養学的方法に、実際上すべてを集中していたので、私の関心はアカデミックなことにとどまっていた。多くの人々にとっては適量というと大量を意味し、よく知られている「ビタミン大量療法」である。しかし、入院や外来で最大の努方をして、薬物療法、電気ショック療法、栄養法、補充療法など、現代医学のあらゆる方法を精神療法と併用して、あるいは併用なしに駆使したが、慢性精神分裂症はよくならなかった。
年とともに私のところは、十分な治療効果のみられない実に多数の慢性患者がとどこおり始めていた。約5年前から私はこのグループとの関係をさらに深めてきた。私はマンデル博士や食事療法とビタミン療法を専門とする精神科医ウイリアム・H・フィルポット(WilIiam H.Phillpott)の業績を知るようになった。私はある研究会でマンデル博士の映画を拝見し、関心をもち始めた。私はアレルギーについてはあまり知らなかったし、その研究方法もよく分かっていなかったので躊躇はあったが、結局患者によっては首をつっこまざるを得なくなった。
精神分裂症の16歳の女の子は、最初の精神科医の治療にもそのあとの私の治療にも全く反応しなかった。ある日、何も効果がないので、彼女は慢性の治る見込みのない分裂症患者になるしかないと、私ははっきり悟った。こう悟ってしまうと私は事を行なう決心がついた。彼女に4日間の絶食をすすめた。4日目になると彼女は正常になっていた。25年を超える私の経験上、こんなことは初めてだった。
彼女は牛乳やその他の食物に対しアレルギーであった。―杯の牛乳を飲ませると、1時間後に再び精神症状を示した。その後の2年間に160名の患者に絶食をさせた。約100名で同様の効果がみられた。このことは他の食事療法とビタミン療法を専門とする情神科医にも確認されている。人の脳はいろいろな物質に不利に反応して、分裂症的になるのだということに、もう疑問はない。脳のアレルギーが、精神病の中で最も恐ろしい病気、精神分裂症――の原因となるのであれば、学習障害、行動異常、うつ病、不安等についてもきっと同じに違いない。そして事実その通りなのだ。
私はマンデル博士に深く感謝している。何故なら彼が業績とその知識を他の人達に熱心に分け与えてくれたお陰で、そうでなければ今でも病人でいたはずの非常に多くの患者を治すことができたからである。この本に書かれていることは、病人でいる人々に何らかの援助をしようとしているすべての人にとって、非常に重要なことがらである。すべての病気はアレルギー的基盤または要素をもっている可能性があり、これはマンデル博士が「生物ー生態学(バイオエコロジー)」と呼んでいるもので、特別の注意を払う必要があろう。この分野で彼とその同僚達は,精神科も含めて、医学のあらゆる面で測りしれない貢献をなしてきた。
ホッファー博士はJournal of Orthomolecular Psychiatryの編者であり、
Huxley Institute for Biosocial Researchの所長でもある。
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