認めない医師と立ち向かう医師
2015/01/12 00:01:00 |
イベント参加 |
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栄養療法に関わる医療従事者向けに開かれている、
第18回日本病態栄養学会年次学術集会に参加してきました。
昨年も参加させて頂きましたが、栄養士さん達を中心にとても多くの医療従事者が集まる会です。
スケジュールの都合上、全日程参加する事は出来ませんでしたが、
今回もいろいろな意味で勉強になりました。
私は糖質制限の視点で同学会における様々な発表を拝聴して参りましたが、
この2015年においても、まだまだ従来の栄養学が幅をきかせているという事がよくわかります。 例えば、とある立派な経歴を持つ海外留学もされ、数々の学会で名誉な賞を受賞されている先生が、
「心筋梗塞の予防の為にはLDLコレステロールが正常値であっても、スタチンを使って出来るだけ下げた方がいい」というような事を平気でおっしゃるのです。
その根拠として発表者の先生は自験例を提示され、
日本動脈硬化学会がガイドラインで提示しているLDLコレステロールの管理目標値<100mg/dLを下回っているにも関わらず、
心筋梗塞を起こしている人が結構いるというデータを示されていました。
ところがここでこの先生は、「LDLコレステロールを100mg/dL未満にもっともっと下げなければならない」という論調になってしまうのです。
冷静になって考えれば、LDLコレステロールが低いのに心筋梗塞を発症しているのであれば、
「LDLコレステロールをもっと下げましょう」ではなく、「スタチンでLDLコレステロールを下げるという戦略そのものが間違っていたのではないか」、という考えに行き着きそうなものです。
しかし、そうならないのはこの先生の頭の中に「コレステロール悪玉説」が強固に存在しているからではないかと思います。
またこの先生は同時に、魚のアブラに多く含まれるEPAやDHAなどω3系脂肪酸の摂取を勧められておられました。
その理由として、ω3系脂肪酸に血液をサラサラにする効果があることに加えて
細胞膜の構成成分であるリン脂質を構成する脂肪酸にω3系が多いという事を示されていました。
その理屈で言えば、同じく細胞膜を構成するコレステロールをスタチンでどんどん下げるのはどうなんだと、
質問しようかと思いましたが、角が立ちそうなのでやめました。
非常に偉い先生であっても、そのような自己矛盾に気がつかないのです。
本当に学歴は関係ないのだなぁと、改めて感じた次第です。
その一方で、旧体制に果敢に立ち向かっている先生もおられます。
千葉県の産婦人科医、宗田哲男先生です。
宗田先生は昨年に引き続き、胎児-新生児における高ケトン血症についての御発表をなさいました。
昨年は胎児、新生児にはすべからく高ケトン血症が存在するという事を証明され、
ケトン体の安全性を示す世界で初めてのデータを示され、我々に衝撃を与えました。
今回はさらに、胎盤と臍帯(へその緒)の血液を比較されたデータを示されました。
普通に考えると、胎盤と臍帯血のケトン体は同じではないかという気がしますが、
実際に測定してみると、胎盤でのケトン体(=β‐ヒドロキシ酪酸)中央値2114.3μmol/L)の方が臍帯血でのケトン体(中央値729.6μmol/L)より有意に高かったというのです。
一方で血糖値に関しては、胎盤(中央値74.5mg/dL)と臍帯(中央値79.0mg/dL)と差がなかったそうです。
この事は、ケトン体は安全であるばかりか、生命の分化・発達において、ケトン体がいかに重要な役割を占めているかを示すものであります。
糖質制限を受け入れたくない学会の意向があってなのか、
宗田先生の発表時間は1日目の一番最後、夕方の遅い時間になってからでしたが、
それでも会場には実にたくさんの人がこの発表を聞きに来られていました。
非常に理路整然とわかりやすい語り口で話される様子をみんな真剣に聞き入っていました。
そして、今回会場にいる誰一人として否定的な見解を述べる人は出ませんでした。
世の中の反応が確実に変わってきている事を肌で感じましたし、厳しい環境において自分のメッセージを発し続ける宗田先生の姿勢には心打たれるものがありました。
歴史的な転換点というのは、案外こんな風にさりげなく起こっているものなのかもしれません。
医療に対する不審、医師の傲慢さ、不適切な対応が取りざたされる現状においても、
旧体制を守り続ける医師がいる一方で、宗田先生のようにそれに立ち向かわれている先生も確かにおられるのです。
その姿に尊敬と感動を覚えました。
私も宗田先生のように立ち向かえる医師になりたいと心から思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
ゆっくりお話しできなくて残念でした。これからも楽しく頑張って行きましょう。過分なご紹介恐縮です。
Re: No title
> 先日はお会いできてとてもうれしかったです。
こちらこそ!です。
コメント頂き有難うございます。
また次にお会いできる日を楽しみにしております。今後とも宜しくお願い申し上げます。
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