行政が邪魔をする
2014/10/05 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:9件
糖質制限指導奮闘の毎日です。
先日は50代の男性、脳梗塞は起こしていないけれど、
動脈硬化性変化が非常に強く、その進行予防のために私の外来に来られている患者さんに糖質制限指導を行いました。
私はこういう方こそ糖質制限指導の価値があると思っています。
脳梗塞は一度発症すると程度の差こそあれ基本的に後遺症が残ります。
場合によっては一発ノックアウトで寝たきりになる可能性すらあります。
当たり前なようですが、脳梗塞は起こさないに越したことはないのです。
未然に防ぐのが一番の医療貢献だと思います。 実はこの患者さんは非常に不安の強い方で、
これまでに糖質制限を何度説明してもなかなか納得されない人でした。
何かにつけて「完全に抜くのは無理です」とか、「仕事の現場にはおにぎりしか持ち込めない」とか、
絶対に無理とは限らない理由で私の指導をスルーし続けて来られました。
でもここ最近、私がしつこく指導したからかどうかはわかりませんが、ようやくごはんを豆腐に変えるという形で、
糖質制限を実践されるようになりました。たまにカレーライスとか食べるとはおっしゃいますが、以前の事を思えばたいした進歩です。
そんなある日、この患者さんが健康診断の結果を持ってきて私にこう言いました。
「コレステロールが高いっていう結果が返ってきたんですが・・・」
糖質制限の事がわかれば、コレステロールに関する理解も抜本的に見直す必要があるということもわかります。
糖質制限をするとコレステロールの動向は様々ですが、時々上昇するというタイプの人がおられます。
しかしそれはその人に応じた好ましい変化が起こっていると解釈すべきなのです。
なぜならLDLコレステロールは血管の炎症が起こっている部位に修復材料を運ぶ「運び屋」で、
HDLコレステロールは炎症の修復で用いた材料を回収する「回収屋」であって、
それそのものが動脈硬化を起こす原因ではないからです。
従って、糖質制限後にコレステロールが上昇するタイプの人は、
それだけ全身に修復すべき箇所があるということであって、
必要だから身体がそれを合成しているというわけです。
それをまた薬で下げるなんて事ははっきり言って本末転倒です。
しかし世の中の健診の仕組みでは、「コレステロールが高い=動脈硬化リスクが高い」という誤った常識で、
行政が一律に定められたコレステロール値で、健診結果という形式張った形で患者を医療機関へ受診するように勧め、
医師や栄養士がコレステロールを下げるための食事指導、薬物療法を行う、という型にはめてきます。
これだと健診など受けない方がいいという意見が出るのもわかります。
せっかく糖質制限を理解しかけていた冒頭の患者さんが、
行政の無責任な指導によって、再び糖質制限をやめようとしてしまったのです。
これでこの患者さんがもし脳梗塞を起こしてしまっても、行政がその責任を問われる事はまずないでしょう。
私は患者さんへ必死に今までの常識の間違いを説明しましたが、
短い外来の時間、そして元々不安の強いこの患者さんに、どこまで理解してもらえたか、わかりません。
しがない一医者の意見より、しっかりとした体制を持った(ように見える)行政の健診システムの方を信用してしまったかもしれません。
この日は、なんともやりきれない気持ちになりました。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
大きな壁
目の前で苦しんでいるひとを助けるヒントを持っていてもそれを伝えられないジレンマに口惜しい思いです。一般的、常識的ではないという大きな壁は本当に有効な情報を求めている人にこそ立ちはだかっているものなんだと痛感しています。
元気出して下さいね!
毎日の診察、お疲れ様です。
せっかく救える患者さんが目の前にいるのにお辛いですね。
まだまだ理解されないことが多い糖質制限ですが、これが当たり前の世の中になる日まで挫けず頑張りましょう!素人の私も身近な人にどんどん勧めています。
それにしても、みんな糖質が大好きですね。ホント、いくら言ってもダメだこりゃ〜って感じです。特に親の世代になるともういけません。薬を飲んでさえいれば安心なんですよね。でも、私も諦めません。草の根運動でがんばります!
たがしゅう先生、お忙しいと思いますが、是非気分転換して楽しい時間を設けて下さいね。
Re: 大きな壁
コメント頂き有難うございます。
> 医者でもないわたしの言葉は彼女には届きません。
医者でも声が届かない事もよくあります。
大切な事は一歩踏み出す勇気だと思うのですが、
糖質制限に関して言えば、それができない人はあまりにも多いです。
誰に言われるでもなくここまで自発的に伝えたいと思う原動力、それだけでも眼を見張るものがあると、そこには何かあるに違いないと分かって頂きたいものですね。
Re: 元気出して下さいね!
御心配頂き有難うございます。
やり切れない気分になる時もありますが、それでもカロリー制限でじりじり悪くなるのを見守るしかなかったあの頃に比べたら百倍やりがいがあります。へこたれずに指導を続けていきたいと思います。
No title
ご無沙汰しております。昨年の江部康二先生の件での書き込み以来の書き込みです。
毎日拝見させていただいています。
ぶしつけな質問で申し訳ないのですが、先生の脳梗塞予防の考え、特に薬の選択を伺いたいです。
私もLDL-Cを下げないといけないなんて考えてはおらず、超音波検査である程度のプラークを見つけた場合にエパデールやバイアスピリンを処方しています。
糖質制限でもプラークが微妙に大きくなっている人にでくわすとちょっと「エパデールだけじゃダメなのかなぁ」と感じてしまいます。
先生はどのような薬を選んでいますか?もしよろしければ御教授いただきたいです。
Re: No title
御質問頂き有難うございます.
私の場合は,脳梗塞未発症の人に対しては食事療法が第一義です.
糖質制限でうまく行っていない場合は,細かく病歴を聴取しその精度を確かめます.大抵の場合,そこに何らかの問題がある場合はほとんどですが,もしそれできちんとできているにも関わらず進行する場合は,さらにタンパク質制限を加えたケトン食への移行も考慮します.
一方,脳梗塞をすでに発症した人であれば,抗血小板薬か抗凝固薬を原則使用します.
バイアスピリンは副作用の観点から極力使用しません.プラビックスかプレタールを使う事が多いです.
心房細動があるなど塞栓性機序の要素が強い場合は,抗凝固薬の使用を優先します.
抗血小板薬と抗凝固薬の併用は原則行いません.
ただ最近は食事療法が徹底できるような方なら薬剤を終薬する選択肢も検討するようにしています.
ちなみにエパデールはあまり処方しません.不自然さを感じるからです.
何らかの事情でコレステロールを下げる治療を行わざるを得ない場合は,スタチンではなくゼチーアを選択します.
Re.行政が邪魔をする。
私の母70代半ばも市の検診を受ける度に脂質異常を指摘されています。
数年前の糖質制限をまだ知らない頃の私は母に医療機関の受診を勧めましたが
近所の方が自らも「高コレステロールだが気にしていない、年齢いったら高値は
当たり前」と言っていたと私をかわしておりました。
翻って今の私がいるわけですが、、、、、、
今も母は元気です。近所の方に感謝です。
Re: Re.行政が邪魔をする。
コメント頂き有難うございます.
> 近所の方が自らも「高コレステロールだが気にしていない、年齢いったら高値は
> 当たり前」と言っていたと私をかわしておりました。
よい助言だとは思いますが,それだけでは50点だと思います.
「高糖質のままの高コレステロール」なのか,「低糖質での高コレステロール」かで意味が変わってくるからです.是非とも後者で健康を守って頂きたいと思います.
No title
御教授いただきまして有り難うございます。
私は糖尿病医で糖質制限指導を行っています。名前も糖質コントロールなんてつけています。
先生もお困りのようになかなかこの食事方法、知らない人は知らないというか興味がないので、指導に四苦八苦しています。
7月から公開講座も始めたので、参加した方が患者として当院に来る場合は良いのですが、そうでない場合の指導は難しいです。
脳梗塞未発症の人に対しては食事療法が第一義です.
私もまったくその通りだと思っています。が、しっかり食事療法を実践して頂ける方は少なく、そういう方にプラークを見つけた場合の治療開始というか導入のような形で(スタチンを使いたくないので)エパデールを使っています。正直言って、うちのクリニックにかかっている患者さんが脳梗塞になった場合の「糖質制限への悪評・風評」につながることも恐れています。
幸い公開講座は新聞に広告を載せるので徐々に知られるようになり、電力会社(沖縄電力)にも呼ばれるようになりました。地道にやっていくつもりです。
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