血糖値以外にも目を向ける
2014/07/27 00:01:00 |
お勉強 |
コメント:6件
最近,血糖値を上げない希少糖の話題を時々耳にします.
甘いのに血糖値を上げないという事で,糖尿病治療への応用に向けて世間では期待されていると思います.
しかし,そういうものであれば,エリスリトールを始めとして,
すでに世の中にはいろいろと存在していると思うので,
なぜにことさら希少糖が注目されるのかが,私にはよくわかりません.
また希少糖でなくとも,天然のもので血糖値を上げない甘味料はエリスリトール以外にも存在します.
そのうちの一つは漢方でもよく使われる甘草(かんぞう)です. 甘草とは,マメ科カンゾウ属植物の根や根茎を乾燥したもので,
その甘味成分は,一般にはグリチルリチン酸を指します.
グリチルリチン酸は厚生労働省添加物一覧にて,甘味料として許可されており,
甘味料としては非糖質系天然甘味料に分類され,ショ糖の200倍の甘味を有するとされています.
そうであるにも関わらず,グリチルリチン酸は血糖値を上げません.
そして高温下でも安定しているという点で,アスパルテームなどの人工甘味料と異なります.
また以前,風邪に葛根湯の記事で紹介した葛根湯にも甘草が含まれますし,
その時のコメントで,甘草単独でも風邪によいという御意見も頂きました.
また最近こんな論文を読みました.
Eu CH et al. Glycyrrhizic acid improved lipoprotein lipase expression, insulin sensitivity, serum lipid and lipid deposition in high-fat diet-induced obese rats. Lipids Health Dis. 2010 Jul 29;9:81. doi: 10.1186/1476-511X-9-81.
インスリン抵抗性症候群としても知られているメタボリック症候群はアテローム硬化性心血管疾患のいくつかの危険因子の集積と言われている.
脂質異常症はその症候群の特徴であり,ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)として知られる核内受容体のクラスの調節下での酵素,リポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の全身での減少と関連している.
グリチルリチン酸(GA)はトリテルペノイドサポニンであるが,スペイン甘草低木の根の主要な生理活性成分である.トリテルペノイドがPPARアゴニストとして作用する事を示す研究が出てきており,それゆえGAはインスリン抵抗性状態におけるLPLの発現を再開させるのではないかと仮定されている.
高脂肪食で誘導された肥満ラットに28日間GAの100mg/kg経口投与を行ったところ,血中グルコース濃度が有意に減少し,インスリン抵抗性恒常性モデル評価法(HOMA-IR)で示されるインスリン抵抗性が改善した(p<0.05).
LDL発現は腎臓,心臓,肝臓でアップレギュレートされ,GAのない高脂肪誘導肥満ラットでは逆の状態であった.
脂質代謝の観点からみると,GA投与は有意に中性脂肪を下げ,HDLを増加させる効果があり(p<0.05),血清の遊離脂肪酸,総コレステロール,LDLコレステロールの一貫した減少,及び調査した組織すべてを通じて組織内脂質沈着の有意な減少も伴っていた(p<0.01).
結論として,GAは非肝臓組織におけるLPL発現を選択的に誘導することで脂質異常を改善する能力のある化合物であるかもしれない.
GAに仲介されるインスリン感受性の改善がそのようなアップレギュレーションを起こし,そのことが組織内脂質沈着の減少と関連している可能性がある.GAのHDL上昇効果はGAの抗動脈硬化の性質を示唆している.
要するにグリチルリチン酸を投与する事によって,
肥満を改善させ,インスリン抵抗性を下げ,HDLコレステロールを上昇させるという,
あたかも運動をしたかのような効果が得られるようなのです.
なんだかメトホルミンを彷彿とさせる話ですね.
そんな良い事づくめの甘草ですが,
医療者の間ではよく知られた副作用があります.
それは「偽性アルドステロン症」といって,
ステロイドホルモンの一つであるアルドステロンがまるで過剰に分泌されているかのような症状を呈する状態の事です.
アルドステロンの主な働きは,腎臓の尿細管に作用してナトリウムを再吸収するとともに,カリウムを尿中に排出させることによって,
ナトリウムと一所に水を取り込むことで,身体の中に水分を保持させるということです.
逆に言えばアルドステロンが出すぎると,水分が身体の中に取り込まれ過ぎて,
高血圧になったり,浮腫が出たりしますし,
ミネラルのバランスは高ナトリウム血症,低カリウム血症となり,前者は意識障害,後者は筋力低下の原因になったりします.
甘草(グリチルリチン酸)には,同じくステロイドホルモンであるコルチゾールをコルチゾンに変換する酵素を阻害する作用があります.
それによってコルチゾールが必要以上に増える事となります.
そのコルチゾールはアルドステロンと同じ受容体にも結合し,アルドステロンの半分くらいのアルドステロン作用をもたらすので,
結果的にアルドステロンが出すぎることと同じ状態が起こってしまうというわけです.
グリチルリチン酸が運動と同じような事をもたらすというのも,
グリチルリチン酸がストレスホルモンでもあるコルチゾールを分泌させるという事も関係しているのかもしれません.
一方で,ストレスホルモンは一時的に出るのはよくても,長期間出続ける状態がよくないということもわかります.
こうした事はいずれも,
血糖値を上げないという事だけにとらわれていると見えない事です.
もしかしたら希少糖にも今はまだわかっていないだけで,
そのような負の側面がある事が今後わかってくる事もあるかもしれません.
いずれにしても物事を一つの側面からだけではなく,
多角的な視点で見ていくようにしたいですね.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
詳しくは分かりませんが…
まあ、だからこそ「いまさらかっ!」って感じですけどね。
Re: タイトルなし
情報を頂き有難うございます.
「希少糖=d-プシコース」かと思っていましたが,
広い意味でエリスリトールやキシリトールも希少糖に入るのですね.そうなるとすでにもう普及しているので,「希少」ではありませんね.
まだ手放しで喜べない
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20130913sh1
食品安全委員会で行われた、希少糖(レアスウィート)=Dプシコース の食品健康影響評価についての議事録が見れますが、
ラットを用いた実験では腎臓の肥大?といった作用が見られたようです。病理組織検査の結果は特に問題ないようですが、これはかなりの不安材料に思えます。
現状では液糖に希少糖を混ぜただけの、セイゲニストには見向きもされないような「ほとんど砂糖」の商品しかないようですから、味見も難しいですね。
TVなどで手放しに喜んでいる様子を見ると、もうちょっと多角的な視点が必要ですね。
Re: まだ手放しで喜べない
情報を頂き有難うございます.
血糖値を一定に保つ事は非常に重要な要素ではありますが,
血糖値だけに目を向けているとわからない事もあると思います.御指摘のように多角的な視点で見守っていく姿勢は大事ですね
カンゾウ属
「甘味成分としては、グリチルリチン、ブドウ糖、ショ糖などが含まれる」
Re: カンゾウ属
コメント頂き有難うございます。
某漢方大手会社に、甘草1gにどれだけの糖質が含まれているかを尋ねてみましたが、
明確なg数は記載されていないが、少量含まれ血糖値を多少上げる可能性がある、という趣旨の御返事でした。
鵜呑みにはできませんが、おそらく甘草の甘味の主成分はグリチルリチン酸だと考えてよいのではないかと思います。
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