こむら返り熟考
2014/07/28 00:01:00 |
糖質制限 |
コメント:6件
本日は糖質制限中に起こりうるトラブルとして、
比較的よく知られている「こむら返り」について、
自分なりに考察してみたいと思います。
まずこむら返りの定義から確認しますが、
こむら(腓)とは「ふくらはぎ」の事で、こむら返りというのはふくらはぎ起こる痛みを伴う筋肉の痙攣の事です。
ただ頻度が多いのがふくらはぎの筋肉であるというだけで、本質的にはどこの筋肉にも起こりえます。
健康人でも見られる現象であり、特に過激な運動や,発汗・下痢などの著明な脱水時に起こりやすいと言われています。
このこむら返りの発生メカニズムについてはさまざまな仮説が考えられていますが、
実はそのメカニズムは明確にはわかっていないというのが実情のようです。 ただそんな中でもわかっている部分をまずは見ていこうと思います。
筋肉が収縮するためには,それを動かす神経からの刺激が筋肉へ伝達される必要があります。
神経が刺激されると、神経の終末でカルシウムイオンの流入が始まり、
その刺激によってアセチルコリンという神経伝達物質が神経終末から筋肉のアセチルコリン受容体に向けて放出され、
アセチルコリンを受け取ったアセチルコリン受容体は、チャネルという扉を開いてさらにナトリウムやカルシウムといったイオンを筋肉内に取り込み、カリウムイオンを筋肉外へ排出させる事によって、
脱分極という現象を起こし電気刺激を発生させて、その事が結果的に筋肉の収縮を引き起こすという一連の流れがあります。
こむら返りの要因のひとつは、この神経刺激が何らかの原因で過剰に繰り返される事が一因だと考えられています。
この流れの中で、筋肉の収縮においてはカルシウムが一つ重要な役割を果たしている、という事がわかると思います。
神経と筋肉の周りに十分なカルシウムが存在していなければ、筋収縮ができなくなってしまうようにも思えます。
ところが、カルシウムというのは、生体の中でかなり絶妙にコントロールされています。
例えば、骨というカルシウムの貯蔵庫があり、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、ビタミンDそこから出し入れすることで常にカルシウムの量を一定にするよう調節されていますし、
また多少食事からのカルシウムの取り込みが少なくなったとしても、腎臓からカルシウムを再吸収することで再利用する働きを高める事で対応したりします。
さらにカルシウムは一部蛋白質にも結合しているので、予備タンクが様々に張り巡らされているわけです。
ところで血液検査の結果などで基準値というのがあると思います。
例えば、測定施設によっても差がありますが、総コレステロールなら140~199mg/dLといった範囲の事です。
基準値はあくまで平均値を元に算出された値(一般的には平均値±2SD)なので、少し基準値からずれたからといって異常というわけではありませんし、あまり気にしない事が多いのですが、
ことカルシウムに関して言えば、基準値は8.4~10.2mg/dLですが、これから少しでも外れるとそれは身体の中で何か異常が起こっているという目で見る必要があります。
それくらいしっかりとコントロールされており、カルシウムの過多や欠乏は普通起こらないということなのです。
逆に言えば、カルシウムに異常が出るということは、単に多い少ないというだけではなく、何かしら別の異常が起こっていることが考えられます。
その一つが循環障害(血流障害)です。
運動や脱水の要因がないのにこむら返りを頻繁に起こす人が時にいます。
このような場合は、糖尿病、尿毒症、慢性肝疾患(特に肝硬変)などの基礎疾患がある事が多いということが経験的に知られています。
糖尿病があれば血糖値が乱高下し血流が乱れ循環を悪くしますし、
尿毒症では腎臓の働きが弱まり、老廃物が外に出せなくなりますし、
肝硬変によって肝臓での蛋白合成能が弱まってしまうという事が起こります。
こうした事は皆、カルシウムの神経・筋肉への供給の阻害因子となることがわかると思います。
血流がなければカルシウムが末端まで行き届きにくいですし、
腎不全ではカルシウムが再吸収できないし、肝硬変では蛋白にくっついたカルシウムが蛋白ごと減ってしまうからです。
カルシウムが足りない、という事態を見たときは、単にカルシウムを補充するだけではなく、
そうした代謝障害の存在にも目を向ける必要があるかと思います。
糖質制限を行うことは基本的に血糖値の乱高下を少なくして
血流の乱れを改善する行為なので、こむら返りが改善する方向に働くはずなのですが、
負の遺産として動脈硬化や肝機能障害、腎機能障害が残っている場合は、
そのリアルタイムに改善する血流に対応しきれずにカルシウムの補充が必要になってくるのかもしれません。
一方、マグネシウムは、カルシウムの調節機構が暴走しないように調節する働きがあり、
筋肉においては弛緩させる働きを持っています。
カルシウムがアクセル役だとすれば、マグネシウムはブレーキ役なので、
マグネシウムの存在もこむら返りの発症予防には大変重要になってくると思います。
なおこむら返りがふくらはぎに起こりやすい理由は、
ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)には人体最大の腱、アキレス腱が付いており、そこに老廃物がたまりやすい事がその理由だと考えられているようです。
またこむら返りは夜にも起こりやすいとも言われていますが、
循環障害があると寝ている姿勢では老廃物を血流で運びにくいという事で説明できます。
こむら返りを予防するには血流を良好にすることが大事だという事ですね。
そんなこむら返りですが、漢方薬の芍薬甘草湯が有効である事がよく知られています。
後日そのメカニズムに迫って、漢方的な目線でもこむら返りについて考察してみたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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私にはタイムリーなお話
私の場合、糖質制限を始めて数年後からこむら返りが起きる、また不眠、便秘傾向解消のためマグネシウムのサプリメントを摂るようになりました。摂りすぎるとお腹が緩くなることもわかり、そうすると摂るのをやめたり、量を減らしたり調節しています。
ところで私は数週間前に日本に滞在しましたが、その時にサプリメントは持って行きませんでした。そして甘草入りハーブティー(ティーバッグ、一般のスーパーに売られているもの))を持って行き利用していました。
これの飲み始めはすごく調子が良く、環境が変わると便秘がちになる私なのにサプリメントもなしで、とても快腸でした。だから毎晩1杯飲んでいたのです。
しかしだんだんこむら返りが起きる、早朝覚醒、昼間の強烈な眠気といった症状が出ました。
お通じがとても良いというか、量も多くて、もしかして出すぎてミネラル不足になったのか?でも私の場合マグネシウムが不足だと便秘になりやすいはずなのに、とか色々と思いめぐらせて、ネットで探ってみたら、昨日のエントリーにあった甘草の副作用の「偽性アルドステロン症」に当たりました。
それで飲むを止めて数日すると症状はなくなりましたので、やはり「偽性アルドステロン症」の傾向だったと思います。
私が不思議なのは、このティーバッグは特に治療用のハーブティーではなく普通のお茶として販売されているものですが、商品には薬効が高いので1日2杯までとの注意書きはついています。しかし私は1杯しか飲んでいませんでした。
そこで「偽性アルドステロン症」はコルチゾールが出過ぎることが原因ということですが、コルチゾールについては、ローカーブでコルチゾールが増えるという批判を目にしたことがあります(しかしその批判に対しては一時的に増えても後落ち着くという反論もあります)。もしかして私のように普段からマグネシウムが不足勝ちな人はコルチゾールが多い、そこで甘草の成分で一層コルチゾールが増え「偽性アルドステロン症」になりやすいということは考えられるでしょうか?
Re: 私にはタイムリーなお話
御質問頂き有難うございます.
> ところで私は数週間前に日本に滞在しましたが、
> そして甘草入りハーブティー(ティーバッグ、一般のスーパーに売られているもの))を持って行き利用していました。
> これの飲み始めはすごく調子が良く、環境が変わると便秘がちになる私なのにサプリメントもなしで、とても快腸でした。だから毎晩1杯飲んでいたのです。
> しかしだんだんこむら返りが起きる、早朝覚醒、昼間の強烈な眠気といった症状が出ました。
> 普段からマグネシウムが不足勝ちな人はコルチゾールが多い、そこで甘草の成分で一層コルチゾールが増え「偽性アルドステロン症」になりやすいということは考えられるでしょうか?
一般の甘草入りハーブティーを1日1杯飲んだくらいの量で,
偽性アルドステロン症になるとはちょっと考えにくいです.
また後日記事にしますが,甘草はこむら返りに有効な芍薬甘草湯の構成生薬ですから,こむら返りをむしろ改善の方向に持っていきます.
ルバーブさんの症状は偽性アルドステロン症ではなく,もともとこむら返りの起こりやすい状態が,甘草入りハーブティー以外の何らかの要因でぶり返したのではないかと推測します.
こむら返りの要因は本記事で考察した通り,いろいろな要因があるので残念ながら一概に言い当てる事はできません.
管理人のみ閲覧できます
たんぱく質のとりすぎもこむら返りを起こすのでは?
最初はMEC食だったのですが、6ヶ月目頃から体重増やこむら返り、眠気などの症状がでました。
そんな時、アメリカのドクターの話(Dr.Attia)では、彼は1年半後に同じような症状に悩まされ、たんぱく質の量を減らしたといいます。それまでは毎日200g以上の肉を食べていたそうですが、たんぱく質のとりすぎは、糖質過多と同じような症状がでて、マグネシウムやポタシウムを消耗させるといい、多くの人が糖質制限で躓く原因だというのです。ケトジェニックダイエット(LCHP)ではたんぱく質120gが提唱されているというのを聞き、私もたんぱく質を制限し脂質、塩を増やすこと、たまに魚にしたりで体調が戻りました。日本の多くの糖質制限を推奨する医師はたんぱく質の量を制限しないのがほとんどのように、見受けられます。
先生はどのように考えられますか?
Re: たんぱく質のとりすぎもこむら返りを起こすのでは?
コメント頂き有難うございます。鋭い着眼点だと思います。
タンパク質代謝は複雑なので、それがどのようにこむら返りにつながるか私の知識では解説困難ですが、可能性はあるかもしれません。
というのも、糖質制限(低糖質、高脂質、高タンパク)で対応困難な病態を、
ケトン食(低糖質、高脂質、低タンパク)で克服できるというケースが見られるからです。
> 日本の多くの糖質制限を推奨する医師はたんぱく質の量を制限しないのがほとんどのように、見受けられます。
> 先生はどのように考えられますか?
高タンパクの有害性は、高糖質の有害性に比べてはるかに軽いです。
従来言われていた腎機能への影響も、相当悪化した状態でない限り心配する必要はありません。
ですので、私自身も基本的に制限しませんし、基本的にはそれでよいと思っています。
しかし中にはそれでは解決できない何らかの問題を抱える人がいます。そういう人へはその時に糖質に加えてタンパク質も減らすように指導、すなわちケトン食の選択肢を提示します。
将来的にはそれでもさらに対応困難な病態に対しては絶食療法が応用できればいいとも思っていますが、ステップが進めば進むほど難易度が高くなるのが難点です。
No title
ストイックな糖質制限をはじめてすぐに、56キロから53キロに減りました(身長156CM)。若返り効果やその他もろもろ良い事づくめです。
今は、糖質制限に加え、たんぱく質のとりすぎに注意してい、高脂質を心がけています。現在は、ほぼ54キロで安定しています。
たぶん、栄養が満たされてきて、必要以上に食べないよう、体が教えてくれているような気がします。糖質に過剰に反応するようです。
以前と比べて、おなかがすかないし、食事の量がぐんと減りました。仕事上付き合いが無ければ、絶食は簡単な気がします。絶食は危険との声ありますが、たぶん、健康体であれば、普通の生活していても、運動しながらでも1-3日はできると思います。
もし、絶食できたら、その効果をご連絡したいと思います。
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