医療がビジネスに乗っ取られ続けている

2024/03/14 12:00:00 | よくないと思うこと | コメント:0件

2023年3月27日、「ウゴービ」という名前の新しい肥満治療薬が製造販売が承認されたとのニュースがありました。

そして2023年11月15日に保険診療の中での金額が決まる薬価収載が決定し、2024年2月22日より実際に処方可能な状況となっています。

肥満に悩む人は多いと思いますので、このニュースは多くの人にとってシンプルに朗報だと受け止められるかもしれません。

ですが、私自身はこのニュースを「今の医療の歪みをすごく象徴する話」として受け止めています。

私が医師としてこの薬をどう評価しているかという話とは全く別次元の、非常に問題と感じていることがあるのです。

ただ、それを理解してもらうためには、少しこの薬にまつわる背景を説明する必要があります。

今回も少しややこしい話になってしまうかもしれませんが、なるべくわかりやすく伝えようと思います。

少しでも「今の医療にお任せしていたらよくない」という私の危機感が共有できればと思います。

まず薬には一般名と商品名の2種類の名前があります。

一般名とは純粋に化合物としての名称、商品名は製薬会社が恣意的に名付けた名前です。

そして、この「ウゴービ」という名前は商品名です。「ウゴービ」の一般名は「セマグルチド」と言います。

実はこの「セマグルチド」、今回初めて開発された薬ではありません。 実は同じ「セマグルチド」は糖尿病治療薬「オゼンピック」という名前で、2018年3月23日に製造販売承認を受けており、2022年5月25日に薬価収載されています。

ちなみに販売開始も2022年5月25日からとなっていますが、実はその前にFDA(Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局;食品、医薬品、動物薬、化粧品、医療機器、玩具など)の安全性・有効性を確保するためのアメリカの政府機関)からの指導を受けて一旦出荷停止の措置を受けるという一悶着もあったようです。

実はこの時点で私には大きな違和感があります。

非医療者の方にはピンと来ないかもしれませんが、要は糖尿病の治療薬として開発された薬を肥満治療にも応用し始めたという話なのですが、

普通こういう場合には、新しく薬の商品名を変えて売り出すというアプローチはしません。すでに販売されている薬の「適応拡大」という手順を踏みます。

例えば、今までは糖尿病の薬として承認されていたけれど、実際に患者さんに使用していく中で肥満にも有効であることがわかってきたというような状況で、製薬会社はこの「適応拡大」というプロセスを踏むことになります。

そうすると今までは糖尿病に対してしか保険が通らなかった薬が、肥満に対しても保険診療で使えるようになるというわけです。

当然ですが、一から新しい薬を承認してもらうプロセスに比べて、適応拡大の方が理論上、楽ですよね。

だって基本的な安全性はすでに最初の承認の際に認められているわけですから、追加で新しい適応病名での有効性を示すデータを出すだけで適応拡大が認められて然るべきです。

別の会社が製造したという話でもありません。「オゼンピック」も「ウゴービ」も同じ製薬会社が開発しています。「ノボノルディスク ファーマ株式会社」という製薬会社で、インスリンの製造販売でも有名な会社です。

ではなぜ、今回は「オゼンピック」の適応拡大ではなく、わざわざ「ウゴービ」と名前を変えて肥満症治療薬として販売したのでしょうか。

「オゼンピック」と比べて、薬の用量や使用方法が違うのでしょうか。いや、ほぼ同じです。週に1回注射する薬ですし、だいたい0.25mg〜0.5mgを維持用量とするところも、ほぼ同じと言っていいです。

違うところがあれば、増量する際の最大用量が、「オゼンピック」は最大で1.0mgまで「ウゴービ」は最大で2.4mgまで、という違いくらいです。

というか「ウゴービ」の添付文書上は0.25mgから開始して、1週間ごとに0.5mg、1.0mg、1.7mgを経て2.4mgを目指していくように(患者の症状に応じて適宜減量)という用法になっています。

それに対して「オゼンピック」の添付文書では0.25mgから開始し、4週間かけて0.5mgに増量、もし効果不十分であれば1.0mgへの増量も検討を、というニュアンスです。

要するに後発の肥満症治療薬「ウゴービ」の方が積極的に使うように添付文書上示されているということなのです。

あと注目したいのは、「オゼンピック」が販売開始となって、「ウゴービ」が承認されるまでの期間の短さです。

2022年5月25日に「オゼンピック」販売で、2023年3月27日「ウゴービ」承認ですよ。一年も経っていません。しかも「オゼンピック」に比べてガンガン使うような用法用量の内容を承認です。

ここから販売された後の状況を慎重に評価して、肥満症への適応拡大を検討したわけではないということをうかがい知ることができます。おそらく製薬会社が肥満治療薬としてラベルを貼り直す方が売れるという判断の下での販売戦略なのでしょう。

深刻なのは、そんな製薬会社の利己的かつ無理のある提案を、承認する側の政府がすんなりと認めてしまっていることです。

コロナ治療薬の特例承認や、認知症新薬(アミロイドβ抗体)の迅速承認の時と同じ拙速さ、思慮のなさ、歪んで突き進む感じを覚えます。今回だけたまたま失敗したというレベルの間違いではなく、構造ごと歪んでいるのです。

もはや審査など名ばかりの出来レースになってしまっているほど政府と製薬会社は癒着していると思えるわけですが、

実は私が感じる歪みはこれだけではありません。

これだけならまだ「販売戦略の上手な製薬会社とその問題を見抜けない無能な政府」として理解することもできると思いますが(それでも十分に問題ですが)、実はもう一つ大きな問題があるのです。


そもそもこの「セマグルチド」という薬が糖尿病治療薬として使われていた時から、この体重減少の効果はよく知られていました。

「セマグルチド」はGLP-1作動薬というタイプの糖尿病治療薬で、当ブログでも過去に少し触れたことがあると思いますが、ざっくりとおさらいします。

GLP-1作動薬というのは、GLP-1というホルモンを出すように細胞を刺激する薬です。そしてGLP-1とは「Glucagon-like peptide-1(グルカゴン様ペプチド-1)」の略で、簡単に言うと消化管に食べ物が入ってきた時だけインスリン分泌を促す、腸管から分泌される消化管ホルモンです。

食べ物が入ってきた時だけインスリンが出るので、この薬を単独で過剰に使用したとしても理論上は低血糖は起こらないとされています。糖尿病治療薬の歴史の中では比較的新しい薬で、現在糖尿病治療の現場でSGLT-2阻害剤と並んで多く使われるようになってきていると私は認識しています。

余談ですが、同じく糖尿病治療薬としてよく使われているDPP-4阻害薬は、このGLP-1や同様の消化管ホルモン(作用はちょっと違う)であるGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide:グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)を分解するDPP-4という酵素の働きをブロックすることで、GLP-1と似たようなメカニズムで血糖値を下げます(そして単独で低血糖を来さない)。

そしてGLP-1やGIPを総称して「インクレチン」と呼び、DPP-4阻害薬とGLP-1作動薬のことを「インクレチン薬」と総称することもあります。

さて、脇道に逸らしてしまいましたが、今回はあくまでもGLP-1作動薬に注目するとして、

先ほど引き合いに出したSGLT-2阻害薬も、GLP-1作動薬と同様に体重減少効果があることで知られる糖尿病治療薬です。

SGLT-2阻害薬が体重減少をもたらすメカニズムはすごくわかりやすいです。SGLT-2阻害剤は簡単に言えば摂り過ぎた糖を尿中に排泄する薬(しかし排泄し過ぎない薬)です。

つまり薬剤による糖質制限で、体重減少効果がもたらされているという話です(なぜ糖質制限で体重減少がもたらされるかについては江部先生のブログをご参照いただければ幸いです)。

ただし、薬剤による糖質制限は弊害もあるということは過去に当ブログでも取り上げてきました。メカニズム的に妥当であっても、食事で達成するのと薬で達成するのは同質ではないということもここで確認しておきましょう。

話を戻して、GLP-1作動薬はどういう理屈で体重減少をもたらすのでしょうか。

これは「胃排泄能抑制」と「中枢性食欲抑制作用」です。要は薬を飲むことで食欲がわかなくなるし、胃の動きが悪くなるのです。

これは体重減少効果と言えば、薬の主作用のように聞こえるかもしれませんが、

同じ現象の表現を「消化器症状、食欲減退」と変えれば、糖尿病治療薬の副作用として認識されうるものではないでしょうか。

これが保険診療の中で、あたかも「医学的に認められたダイエット薬」のように使用されることに私は強い危機感を覚えています。

実際私が関わるオンライン診療の業界で、このGLP-1作動薬によるダイエットを謳い、

この薬を処方している自由診療のオンライン診療クリニックも結構あり、そこで行われているオンライン診療が倫理的に問題があるという声が独立行政法人国民生活センターという組織に寄せられているとの話も聞きました。

有害事象には目を向けさせることなく、ひたすらにメリットしか強調しないスタンスはコロナワクチンでの接種推奨圧力に通じるものがあり、

どちらの背景にもお金が絡んでいるという構造も共通しています。やはり医療は残念ながら構造ごと歪んでしまっているのです。

極め付けは、この一連の流れについての日本医師会のスタンスです。

GLP-1作動薬によるダイエット目的でのオンライン診療が自由診療で行われていることが話題に挙がっていた頃、

2022年3月2日、日本医師会はこのようなオンライン診療に対して次のように苦言を呈していました

①健康な人が医薬品を使用することはリスクがある
②医薬品の適正使用の観点から、このような行為を禁止すべき
③医薬品は、治療が必要で効果が期待される人に対し投与されるべきであり、国民の健康を守るべき医師が治療の目的を外れた使い方をするのは医の倫理に反する



つまり「糖尿病ではない健康な人にGLP-1作動薬を処方するような診療を行うべきではない」という主張だと思います。

また2023年10月25日にはこうも述べています

GLP-1受容体作動薬を適応外のダイエット目的で使っていることは「処方」ではない



それは一見正当な日本医師会としての主張に聞こえるかもしれません。

しかしそれであれば、たいした市場調査も行われないまま、あっという間に承認された「ウゴービ」を、

より「オゼンピック」よりも積極的な使い方を推奨しており、より副作用のリスクが高まって然るべきの「ウゴービ」を、

日本医師会としては全力で批判してもらわないとつじつまが合わないのです。

さもないと、どれだけ不適切な使用が行われていたとしても、保険診療で認められてそのルール下で処方されてさえいれば問題ないというダブルスタンダードを自ら許しているようなものです。

まるでコロナワクチン接種による死者・後遺症患者がどれだけ発生しても、専門家による審議会が「重大な懸念は認められない」と言っているから大丈夫と判断し続けている、厚生労働省と同じではないですか。

あなた達が信じてやまない保険診療は、それほどまでに信用に足るものであると言えるのでしょうか

もっと言えば、私はオンライン診療でGLP-1作動薬を使うこと自体が悪いとまでは思いません。

そのリスクを周知し、糖質制限などの別の選択肢も提示した上で、その上で使用したいという患者へは慎重に経過を追いながら使うという選択肢はあっても良いと思います(私のオンライン診療ではしませんが)。

悪いのは、途中で解約できないとか、副作用が出てもフォローやサポートを受けられないとか、いつの間にか定期購入にさせられているなどの、およそ診療とは言えない悪徳ビジネスとしての側面についてだと思います。

オンライン診療で肥満症に対してダイエット目的で処方すること自体が悪なわけではないはずです。

これは邪推になってしまうかもしれませんが、日本医師会としてはオンライン診療を認めたくないだけなのではないかと。

日本医師会はずっとオンライン診療を「対面診療の補完的役割」と位置付け続けています。

つまりオンライン診療は対面診療よりも下だと考えているということです。新しい選択肢ではなく、自分達よりも不完全な存在だと思っているということです。

そういった傲慢な姿勢で安易にオンライン診療を批判し続けたことが、

今回ウゴービの承認・販売については何も言わない、それどころかそれまでの強気の発言と矛盾するという結果を生み出したのではないかと私は思います。


一連の話で私の危機感を伝えることができましたでしょうか。

医療は医学の進歩によって国民の健康を守る方向へ整っているのではなく、

資本主義の流れに絡みとられて、国民の健康はそっちのけで一部の人達が儲かる方向へと歪め続けられているのです。

もはや医療は構造ごと歪んでいて、そこに自浄作用を期待することは極めて困難な状況にあるのです。

そうなれば私たち自身が心を入れ替えて、立ち上がるより他にないと私は思います。


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する