修正アトキンス食の10年
2014/02/13 00:01:00 |
お勉強 |
コメント:12件
Kossoff EH, et al. A decade of the modified Atkins diet (2003–2013): Results, insights, and future directions. Epilepsy Behav. 2013 Dec;29(3):437-42.
『修正アトキンス食は難治性てんかんを持った小児や成人への治療法として2003年から用いられてきた.
この「代替」ケトン食は,絶食や入院が不要で,蛋白やカロリー,あるいは水分の制限を行うことなく,外来で開始できる.
今回,継続的な使用から10年が経ち,難治性てんかんに対する治療としての修正アトキンス食に関する30を超える研究の中で,ケトン食と同様の効果と忍容性の改善を実証する結果を持って約400名の患者が報告されてきている.
修正アトキンス食は成人集団においてもますます使用されてきている.数々の臨床試験が食事療法全体の作用メカニズムへの洞察を提供してきた.
このレビューでは過去10年における修正アトキンス食の経験とともに,今後10年のてんかん治療における修正アトキンス食の役割の予測について議論する.』
今回はケトン食の一種である「修正アトキンス食」に関して学びたいと思います. もともと減量法として生み出されたアトキンス食を,てんかんの食事療法として確立されていた(古典的)ケトン食に近いものとして応用(修正)されたのが修正アトキンス食です.
この修正アトキンス食が本格的に行われるようになったのが2003年からということで,現時点で約10年の歴史を持つ治療法ということになります.その10年の間に出てきた関連論文をまとめたものが今回の論文です.
修正アトキンス食の最大の特徴はなんといってもその継続のしやすさにあります.
糖質の摂取量さえ制限していれば,カロリーも脂肪も蛋白質も制限する必要がないのでストレスが少ない食事法です.江部先生の提唱するスーパー糖質制限食に近い方法になります.
修正ケトン食は制限が緩いにも関わらず,てんかんに対して古典的ケトン食に引けを取らない臨床効果を表すということが最近わかってきています.
古典的ケトン食の場合は主に小児に適用されますが,厳しい食事制限のために継続するのが難しいです.
だいたい2年くらいを目標にされることが多いそうですが,古典的ケトン食はやめても臨床効果が残る場合があることが知られています.
しかし修正アトキンス食であっても最初の1ヶ月間のケトーシスがきっちりと確保されれば,その後ケトーシスが消えても症状を抑える効果が維持できる場合があるということもわかってきています.
そんな修正アトキンス食のプロトコールについても書かれていたのでご紹介します.
~修正アトキンス食プロトコール(2013)~
[開始]
・まずベースラインの血液検査(CBC, 肝腎機能,電解質,空腹時脂質プロファイル)を実施し,食事療法開始前の2日間の食事記録をつける
・高脂肪食は自由に追加
・炭水化物;小児10g/day,青年15g/day,成人20g/day(正味の炭水化物=総炭水化物-食物繊維;ただし糖アルコールは引かない)
・マルチビタミンサプリメントやビタミンDを含んだカルシウムサプリメントを毎日採る
・もしできれば最初の1か月間はKetCal® 4:1(400カロリーのシェイク)を毎日飲む.
・きれいな炭水化物フリーの液体を飲む
[モニタリングと維持(1か月目)]
・週に1回体重をチェック ・少なくとも最初の1か月は週に2回ケトン体をチェックする
・カーボカウンティングの案内を受ける(栄養士,書籍,インターネット,アプリ)
・抗てんかん薬を極力変更しない ・店で買える低炭水化物商品は極力避ける
[維持(2か月目以降)]
・1日の炭水化物量を5-10gまで増やしてもよい.抗てんかん薬を変更してもよい.既成の低炭水化物商品を使用してもよい(必要と思われる場合).
・3か月後に血液検査をフォローアップ(脂質プロファイル含む) ・尿ケトン体は毎週チェック ・3か月目に食事記録をつける
[中断]
1日の炭水化物制限を週に10gずつ上げて,60g/日まで緩める.その後週に1回,定期的に食事を置き換えていく.迅速にやめていく方法もある程度許容可能.
スーパー糖質制限食との違いの一つに,サプリメントの使用を勧めている点がありますが,
これは微量元素やビタミンが欠乏しやすい古典的ケトン食の流れを踏んでいるものと思います.
私は2年余りスーパー糖質制限食を継続していますが,個人的にはサプリメントは必須ではないと考えています.
それで気になる臨床効果ですが,
難治性てんかん(※抗てんかん薬では制御できない)の患者434名に適用され,208名(48%)が50%以上の発作減少,11名(26%)が90%以上の発作減少,そして55名(13%)が完全に発作フリーの状態になったということでした.
これはどんなに薬を調整してもよくならない辛さを考えればものすごい事だと思います.一方でそれでも抑えられないてんかんもあるということも同時に知っておかなければなりません.
最近,修正アトキンス食は,ケトン食が続けられなくなった小児から,青年期から成人へ適応範囲を広げつつあります.
さらにケトン食で効果が示唆されるてんかん以外の病態(脳腫瘍,アルツハイマー病,ALS,片頭痛など)に対しても修正アトキンス食で効果があるかどうかについても研究が進められているようです.
それにしてもさまざまな可能性を秘めた糖質制限/ケトン食,
ますます興味深いですね.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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尿中ケトン体について
今回は修正アトキンス食についてですね。興味深く読ませて頂きました。私は、昨年12月頃からケトン食を模索し始め、今年に入ってから本格的に中鎖脂肪酸ケトン食にチャレンジしています。約一か月経過して、現在の尿中のケトン体が2+前後で落ち着いてきているのですが、(因みに血糖値は60~70の間)江部先生のブログを拝見すると修正アトキンスに近い、スーパー糖質制限を長年実践されている江部先生は尿中ケトン体は陰性とのこと。私が関心を持っているのは緩衝作用で尿中のケトンがいずれ陰性になって行くのかどうかなのですが、ケトン食を長期に続けられている方々は尿中ケトン体は常に陽性(2+前後)をキープされているのでしょうか?私の場合はMAXで4+だったこともあり、3+がしばらく続き、現在1+~2+前後になっています。もちろん、断食を入れたり、中鎖脂肪酸(ココナッツオイル、MCTオイル)の摂取量を増やしたり、運動でグリコーゲンの枯渇を促進してやるとケトン体が跳ね上がることは分かっているのですが、小手先のテクニックのように思えてなりません。先日、ケトン体分画の検査を受けて結果待ちなので血中のケトン体が判明したら精査してみたいと思っております。長くなりましたが、尿中のケトン体の推移について教えて頂ければ嬉しく思います。お忙しいところ大変恐縮ですが、宜しくお願い致します。
Re: 尿中ケトン体について
御質問頂き有難うございます.
> 尿中のケトン体の推移について教えて頂ければ嬉しく思います。
全体的にみると,しっかりケトン食を実施している人はいつも尿ケトン陽性になっている事が多い印象ですが,体内の水分量や酸化・還元バランス,腎血流動態や尿量,ケトン排泄などの様々な要素が関連するので一概には言いにくいと思います.
ただ今回の論文にも書いていますが,最初のケトーシスをきちんと誘導できれば,その後はケトン体が仮に出ていなくても効果が維持する傾向があるようです.要するに強力な代謝変化を起こす契機を与えることがケトン食の本質であるようで,そういう意味ではケトン値そのものに拘泥しすぎなくてもよいのかもしれません.
No title
>炭水化物;小児10g/day,青年15g/day,成人20g/day
・スーパー糖質制限16-20g/食*3=48-60g/day
ですので、修正アトキンス食はスーパー~というより
釜池式に近いという解釈でよいのでしょうか。
釜池式レベルの糖質制限だと
市販品はほぼ使用不可(せいぜいツナ缶やうずら卵水煮ぐらい?)ですし
味付けの種類もかなり絞られますね。
てんかん治療のためとはいえ子供には大変だなと思う一方
最初から炭水化物の味を知らなければ欲求も起こらず継続できるのかも知れませんね。
なんちゃってケトン食の場合
なんちゃってケトン食開始、はや2年がたちます。
近々の検査結果を報告いたします。
ケトン体分画
総ケトン体 3506μmol/L
アセト酢酸 600μmol/L
3ヒドロキシ酪酸 2906μmol/L
尿中ケトンを調べたことはありませんが、なんちゃってケトン食開始時は尿にケトン臭がありました。三ヶ月位で消えたので再吸収開始かな?などと思っています。
脂肪酸4分画
ジホモγリノレン酸 21.2μg/mL
アラキドン酸 287.9μg/mL
エイコサペンタエン酸 315.7μg/mL
ドコモヘキサエン酸 438.2μg/mL
EPA/AA比 1.10・・・・・・これ重要
血糖値関係
HbA1c 5.6%(NGSP)
血糖値 102
中性脂肪・コレストロールは高めですが、あまり気にしておりませんです(笑)。
その他(肝・腎等)特に問題ありませんでした。
脂肪酸の数値、桁外れに規定値をはるかに超えております。 脂肪がエネルギー源になっているように思えます。
食事内容は普通に糖質制限食(脂肪摂取はオリーブオイルが主で、肉・魚は毎日食べております)です。 中鎖脂肪酸の摂取はしておりませんし、もちろんサプリメントは摂っておりません。 L-カルニチンの摂取は気にしてます。フレンチでは必ず子羊です。(ミトコンドリヤさん頑張って~~!)・・笑・・
総ケトン値、多少高くても血糖値との相関関係はないのかな?などと考えておりますが、そこんとこどうなんでしょう?・・・・
No title
糖質制限を始めてから丸二年ですが、頭痛、立ちくらみ、眩暈などが明らかに減りました。これらは弱いてんかんと言えるのかもと最近思います。難治性の激烈な頭痛という人も結構いますね。
人間はサバンナへ進出して肉食主体になっていって同時に脳も大きくなったわけですから、肉食しないと脳の調子がおかしくなるというのは理に適ってる印象です。肉は健康に良くないというのは良く聞きますが実はビタミンやミネラルの宝庫ですし。
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> >炭水化物;小児10g/day,青年15g/day,成人20g/day
> ・スーパー糖質制限16-20g/食*3=48-60g/day
> ですので、修正アトキンス食はスーパー~というより
> 釜池式に近いという解釈でよいのでしょうか。
確かに,今回紹介したプロトコールでは御指摘のようにスーパー糖質制限食というより釜池先生の糖質ゼロ食に近いかもしれませんね.
一般に修正アトキンス食の炭水化物制限は10~30g/日程度で,原法のアトキンス食では100g/日の制限です.てんかんの治療に限らなければ多少緩めの制限でも十分に効果が期待できますので,そういう意味でスーパー糖質制限食に近いかなという感覚でおりました.
Re: なんちゃってケトン食の場合
コメント頂き有難うございます.
素晴らしいデータ,流石です.
> 総ケトン値、多少高くても血糖値との相関関係はないのかな?などと考えておりますが、そこんとこどうなんでしょう?・・・・
「血糖低め+ケトン体高値=脂肪酸―ケトン代謝がうまく利用できている」という印象ですが,
血糖とケトン体に相関関係があるかどうかに関しては,私もはっきりとした事はわかりません.
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> 糖質制限を始めてから丸二年ですが、頭痛、立ちくらみ、眩暈などが明らかに減りました。これらは弱いてんかんと言えるのかもと最近思います。
それは的を射ていると思います.
例えば,てんかんと頭痛の共存があることは結構言われている事です.
尿中ケトン体
おそらくケトン体の利用とか再吸収がよくなるからだと思います。
まだ開始して1カ月前後ですので 尿ケトン2+は普通です 3カ月か遅くても6カ月ぐらいで尿ケトンが陰性化すると予測します。
ただし 時々糖質を摂っている方や緩めの糖質制限にしてからまたスーパー糖質制限にした当初などはまた尿中ケトン体が出ます。
尿ケトン体陰性化は エネルギーシステムの切り替え完了の目安になるのかなと思っています。
たがしゅう先生ブログでは 様々な程度の糖質制限(ケトン食)が紹介されていましたので、そのすべてて尿中ケトン体が陰性化するかどうかはわかりません
carpediem さんは以前から血糖値が60―70だったのでしょうか?理想的な血糖値はたぶん個人個人で違いがあるのでしょうがちょっと低めの印象です。
快適なら問題ないのでしょうが糖新生をもう少し活発にするためにアミノ酸(たんぱく質)やビタミンB群を摂ると血糖値ももう少し高めに安定しケトン体からのエネルギー産生もより効率よくなるような気がします。アミノ酸の量やバランス、ビタミンB群とケトン体の利用効率についてはもう少し詳しく調べてみたいと思います。
Re: 尿中ケトン体
貴重な御意見頂き有難うございます。
私の糖質制限指導は江部先生のスーパー糖質制限食/修正アトキンス食をベースにしていますが、
本ブログで時々取り上げるように患者さんの指導の遵守具合には幅があり、なかなか実際の糖質摂取割合を把握するのは困難です。
御指摘のように様々なパターンがあるので、尿ケトン体についても結構バリエーションがあります。
ありがとうございます。
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