主体的な患者にとって苦難の時代
2019/07/19 16:45:01 |
主体的医療 |
コメント:2件
ぼちぼち私の南鹿児島さくら病院での勤務が終わろうとしています。
たいていの私の担当する患者さんは、いつもの薬をもらうために通っている患者さん達がほとんどなので、
後任の医師へ引き継ぐ場合もそれほど苦労はありません。「病状は安定しているので、よければ同じ処方を続けて下さい」ですとか、「時々血液検査を実施して下さい」といった具合になります。
ところが、中に私の診療を希望して遠方からわざわざ訪れた患者さん達を引き継ごうという時に難しいと感じる場面があります。
なぜならば私の診療に対するスタンスと他の医師のスタンスは大きく異なるからです。 例えば、私は少数例ですが1型糖尿病の患者さんを診療しています。
こうした患者さん達は糖尿病専門医のカロリー制限食指導を受けるも良くならず、自分の頭で考えて糖質制限治療を希望され私を見つけ出して受診された方々です。
私は相手が1型糖尿病であろうが何だろうが、患者さんが私を求めて診療を希望するのであれば私のできる事は全力を尽くすというスタンスです。
ところが多くの医師は1型糖尿病とみると、「専門外だから糖尿病専門医に診てもらった方がよい」と考える人が多いように思います。
その結果、私が診療を引き継ぐ相手を間違えてしまうと、結果的にその患者さんは糖尿病専門医の所に逆戻りとなりかねないわけです。
つまり多くの医師は、「医師主導型」の発想で動いているというのが本質的な問題点だと思います。
自分が責任を持って診ることができるものは診るけれど、自分の専門から離れた患者は診られないので、どこかよそで診てもらってくれと、そういう話になってしまうのです。
私は「患者中心型」の主体的医療です。私自身が1型糖尿病の専門家ではなくとも、患者さんが希望するとあればそれを理由に自分は診ないということは絶対に致しません。
たとえあまりにも知らない病気であったとしても、患者さんに知識不足を正直に伝えつつ、自分の全力は尽くすということも伝え、その上で診療を継続するかどうかを話し合うと思います。これが主体的医療の枠組みです。
ところがいざ患者さんが主体的に動こうと思っても、ほとんどの医師が「医師主導型」の発想でいれば、希望の治療を行うには非常に厳しい環境と言わざるを得ません。
患者さんはまず自分の希望を医師に伝えることから始めるわけですが、
その時常に「相手に否定されるかもしれない。断られたらどうしよう。」という不安と向き合わなければならなくなります。
例えば糖質制限を実践することが受け入れられたとしても、薬は望み通りにはならないかもしれないと、
常に医師に否定されるリスクに怯えなければならず、医師主導の枠組みの中にいる以上、どこまで行ってもその不安から解放されることがありません。
そんなことを言って、専門外の病気を無責任に診て、何かトラブルが生じた場合に責任が取れるのか、という意見もあろうかと思いますが、
それこそがまさに「医師主導型」の考え方の典型だと私は思います。責任は患者と医師とで折半されるべきであり、専門外の医師に診てもらうことを選んだ患者にも責任は存在します。
専門外という事を考慮に入れても、それでも診てもらいたいという希望が患者にあるのであれば、そのために全力を尽くすのが筋ではないかというのが私の考え方です。
総合診療マインドを持っている医師達は比較的こういう考え方と親和性が高いように思います。
私は昔から医師になる以上は「専門外だからわかりません」と言いたくない人間でした。
勿論、すべての医学の専門領域に対して専門家並みの知識を備えることなど不可能です。
だけれど「わかりません」で終わるのではなく、「今はわからなくとも、わかろうと努力する」ことはできると思うのです。
専門家に紹介することは間違いではありません。しかしその紹介した専門家も間違うことがあるという前提を忘れずに、
最終的にはその患者さんの問題を自分が解きほぐして良い方向へと導くという発想がなければ、ただ任せっぱなしで何も成長しない出来事が繰り返されるばかりです。
だから私には、「すべての専門医は総合診療医であるべきだ」という考えがあるのですが、
現状はおそらくそうではありません。総合的に診ない専門医や一般医と、少数の総合診療医で構成されているのが今の医療の実情だと思います。
正直言って主体的に動きたい患者さんにとっては非常にやりづらい時代だと思います。
しばらくは主体的な患者さんには辛い想いをさせてしまうかもしれませんが、
一刻も早く主体的な患者さんが全国どこにいたとしてもその主体性をサポートできるように、
私はオンライン診療の世界に飛び込んでみたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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主体的な治療について
もう少し食後ピーク血糖値を下げたく、薬を処方をしてもらおうと思い、初めて病院に行ったのは、糖質制限半年後でしたので、すべての数値はそこそこ改善していました。
問題なしと追い帰されそうになったので医師には、糖質制限中なので数値の改善はそのためであり、病態が改善しているわけではないことを説明し、後日、75g負荷試験で確定診断となりました。
主治医は元々、糖質制限非推奨の医師で、まったく主食を食べていないこと(40g/日)を説明すると、ちゃんと食べないと腎症になるとかいろいろ言われましたが、その場はとりあえず無視しておきました。
その後も毎回、検査結果は改善し(HbA1c6.9→5.4)し、その間(現在も)、食事内容、血糖値変動、その他必要なデータをまとめて通院の都度、提出してきました。ちゃんとやってますよというパフォーマンスの意味もありました。また、途中、LDL-Cが200弱まで上がりましたが、スタチンの処方はお断りし、食事療法のみで138まで下げました。
当初、αグルコシターゼ阻害薬を処方されましたが、思うように食後高血糖が改善されず、SGLT2阻害薬を試したいと
おもい、変更してもらいました。
主治医はこの薬剤はあまり処方したことがなかったようです。これは、予想通り、1日の血糖値を安定させるのに役立ちました。日々の記録から必要量を25mg→12.5mgと変更し、先月より不要判断し、いまは服用していません。次回の検査結果でどうなるかが課題です。
このように糖質制限、治療方針、薬剤などを自分で考え、たまたまかもしれませんが結果を出せたこともあり、今は、糖質制限に反対することはなくなりました。言うことを聞かないので諦められたのかもしれません。医者にとってはゆうことを聞かず、いろいろ注文する面倒な患者だったと思います。しかし、言うことをうことを聞かないなら「来なくて良い」と追い返されなかったのは幸いでした。これもちょっとは覚悟してましたが(笑)
主治医の考え方もこの1年で変わってきたように思います。糖質制限の強力な治療効果には反対する理由がなくなったようです。患者が医師を変えることもできるのではと大それたことを試みています。
余談ですが、血糖値の管理には自費でリブレを装着していますが、年間20万円以上になり、それなりに家計を圧迫しています。SMBGのみでは不可能な貴重なデータが得られます。私の血糖値コントロールの目標は70-140です。リブレなしでは考えられません。予防医学にももっと保険適用を考えてもらいたいと強く思う今日この頃です。
Re: 主体的な治療について
コメント頂き有難うございます。
今の時代、主体的医療を実践しようと思うと、患者側の確固たる意志とその想いを決して無下にしない医療従事者とが出会うより他にないように私には思えます。しかし多くの人はそこまで強くなれないし、一定の価値観を押し付ける医療従事者がほとんどです。西村さんの場合はそこの出会いがうまくいった稀なケースだと思います。
私ができるのは、患者がそこまで強い覚悟を持たずとも主体的であれることをサポートする医師になることだと思っています。
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