透析中止問題と主体的医療
2019/03/16 00:00:01 |
主体的医療 |
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本日は、先日話題になったとある総合病院で人工透析治療の中止という選択肢が外科医から示され、腎臓病患者の女性が死亡したというニュースについて考えます。
「意思決定不足」「コミュニケーション不足」「情報不足」が縁起でもない話の共通構造だ、ということを書いていた所ですが、
この透析中止問題も、終末期医療で取り扱うべき「縁起でもない話」の一つの形なのではないかと私は思います。
このニュースに対してマスコミに扇動されているであろう世論は、簡単に言うと「人の命を扱う医師が死ぬように勧めるような選択肢を提示するなんてけしからん」というものなのではないでしょうか。
しかし問題はそう単純ではないように私は思います。少なくともその外科医の先生が透析中止の選択肢をどのように提示されているかがわからない以上、外野はどうこう言うべきではないと私は思います。 本人と医師の合意の下にその選択が選ばれたのであれば、どんな選択でも尊重されるべきというのが私の基本的な考え方です。
ただし、今回ニュースになったケースでは、本人はともかく家族についてはその選択肢に納得されていたわけではなかったようで、
それがきっかけでこの問題が明らかとなった側面があります。
どんな選択でも尊重されるべきですが、大事なことにはその選択をするに当たって十分な情報が提供されていたか、ということではないかと思っています。
医学の情報について詳しくない一般の人からすれば、「透析は腎臓病の人が命をつなぐ手段」くらいに捉えておられるかもしれませんが、
実際には透析中止という選択をするかどうかに関わる情報はもっとたくさんあります。例えば、
・腎臓は血液をろ過して老廃物やミネラルを体外へ排出する働きを持つ臓器。腎臓が障害されると次第に老廃物が排泄できなくなり、尿毒症という状態を呈する。
・尿毒症とは、毒素がたまることで、意識障害、頭痛、呼吸困難、むくみ、かゆみ、食欲不振など様々な不快な症状が現れる状態のこと。これは患者さんを診ている限り、かなり不快な症状であるようだ。
・腎臓が障害された患者で尿毒症を回避するには、人工的に腎臓の肩代わりをしてくれる血液透析(もしくは腹膜透析)が必要となるが、血液透析の場合は人工透析機器につながれて老廃物を安定的に排出させるために、週に3回、1回4時間程度の時間、持続的に拘束される。
・血液透析を行うためにはかなり太めの点滴ルートを確保する必要があるが、それを週3回という高頻度で繰り返すのは技術的に難しいのと、何度も繰り返すと血管がつぶれて透析のためのルートを確保できなくなってしまう。そのため透析を継続的に行う患者に対しては、静脈と動脈を人工的に手術でつないで、血液の流れがゆっくりだけど見えにくい静脈に動脈の強い血流を流すことで身体の表面にボコッと飛び出た血管を作る必要があり、この人工的な血管を「シャント」と呼ぶ。
・シャントができれば、週に3回という高頻度で穿刺しても、透析用ルートの確保がしばらく容易となる。ところが、そんなシャントも何度も穿刺していると次第に血管が詰まってきて、透析ルートとして使えなくなってくる。その場合、他の血管でとりあえずの透析ルートを頑張って確保しつつ、可及的速やかにシャントの再造設手術の予定を立てないと透析が継続できなくなる。
・透析を続けていれば腎臓の肩代わりができて、腎臓がやられていてもずっと健康状態を維持できるのかと言われたらそうではない。長期に透析を繰り返している患者では、アミロイドと呼ばれる不溶性のタンパク質や未知の物質も含めて徐々に蓄積されていき、非常に難治の神経障害をきたしたり、背骨が破壊されていく等透析特有の合併症が起こっていくことがある。
・透析を中止すれば、そうした長期透析による合併症を避けることはできるが、前述の尿毒症の症状に見舞われることは避けられない。中止を決断される場合はそのことについて十分に理解しておく必要がある。
・透析中止後の余命は個人差が大きく、1週間~数か月程度まで様々である。
本来ならこのような情報が事前に提供された上で考えるべき事案だと思うわけですが、
私の想像では、これだけ家族から反発の声が聞かれているという事は、情報不足があった可能性が否定できません。
かたや医師側の責任ばかりが注目されるこの問題ですが、
もし情報不足が原因で本人が納得する選択をとることができなかったのだとすれば、患者家族側の情報入手努力不足の問題もはらんでいると私は思います。
この辺りは、いつも私が主張している主体的医療の観点で考えることで整理をすることができます。
こうした問題は自分で考えずに、「素人だからわからない」「先生にお任せ」という考えで問題の先延ばしをするからこじれてしまうのです。
延命治療においても「先生にお任せ」してしまう方は非常に多く見受けられます。その結果、望まぬ延命につながっていくケースも決して稀ではありません。
透析も同様で、これを中止するかどうかという自分の人生における重大な決断を、いかに専門家とは言えども他人である医者に委ねてしまっては、
その大事な自分の人生を医者の意図通りに導かれたとして文句は言えないのではないかと私は思います。
難しかろうと、素人で情報が乏しかろうと、
わかりやすい説明を求めたり、情報を集めようと努力したりして、
他ならぬ自分の決断を作りあげることが、こうした場面で求められることだと私は思います。
そして忘れてはならないことは、その一度下した決断は本人の希望でいつでも変更可能だということを強調しておく必要があります。
透析をしない方が結果的に苦しまなくて済むというのは医師側の一方的な価値観であって、その苦しみに対峙するのは他ならぬ患者さん自身です。
もしも事前の情報の検討で透析をしないという決断をしたとしても、実際に尿毒症の症状に見舞われて気持ちが変わるということは往々にして起こりうることであるはずです。
その時に医師は臨機応変に、勿論ある程度尿毒症が進行すれば救命が難しい場合もあるわけですが、
患者さんの決断に応じて臨機応変に自分ができる最大限のサポートをすることが主体的医療で求められる医療者の姿だと私は考える次第です。
十分な情報がある中で、十分に医師患者間でのコミュニケーションがとられ、
そして患者さん自身が主導権を持って決断された選択肢であれば、
たとえどんな結果になろうとも後悔はないはずだと私は思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
糖尿病性腎症に限らず、腎臓病の悪化を食い止めるのに糖質制限は行う価値のある有益な方法だと私は考える次第です。
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