文献情報を思考の樹に組み込む

2018/04/20 00:00:01 | 読者の方からの御投稿 | コメント:15件

ブログ読者のEtsuko さんから、以下のコメントを頂きました。Etsuko さん、有難うございます。

(以下、引用)

【2018-04-18 Etsuko

崎谷先生の本はインパクトがあり、
前々から興味を持っていましたが、
「警戒心」から読んだことはありません。

乳酸を毒物扱いされていることで、
他の内容についても懐疑的になりました。

引用文献の数が多ければ良いというものではないです。
現代では間違いが認められた文献の情報も、
紛れ込んでいるのではないかと心配になります。

信頼性できる文献を選択する事にこそ、
価値があると思います。

(引用、ここまで)

引用文献の数が多ければ多いほど信頼ができる、という意見には私は異議を唱えます。

Etsuko さんがおっしゃっているように崎谷先生の書籍には膨大な引用文献が記載されていますが、

実際の文章を読んでその引用文献の内容とを照らし合わせてみると、本当にそのすべてにきちんと目を通したのかと疑いたくなるような引用のされ方をしています。

このことは、文献は使い方次第で如何様にも利用できるという事を示しているようにも思えます。


多くの糖質制限反対派の論法に共通することとして、「文献ですでに証明されている」というような言い方をされることがあります。

しかしこういう言い方をされる方は「文献が間違っているかもしれない」という可能性をまず考えようとしません。

なぜならば、もしも文献が間違っていれば自分の主張の根幹が崩れる事につながり、説得力が失われてしまうからだと思います。

裏を返せば、それくらい自分の主張の根拠が文献に依存している部分が大きいということです。

引用文献が多い文章を書かれている先生は、「自分の主張にはこれだけたくさんの根拠が付いているんだ。どうだ!参ったか!」という感じに思っておられるかもしれませんが、

玉石混合の文献、あるいは表面的な部分を自己都合に合う形で利用された文献をたくさん引用されてしまえば、むしろその主張の根幹が揺らぐのではないでしょうか。

糖質制限批判の根拠を文献に頼っている人、糖質制限肯定の論文も世の中にはたくさんありますが、それに関してはどういう見解なのでしょうか。

本当に文献の根拠を重視するならば、否定論文と肯定論文が混在している状況をみて、「結論はよくわからない」という事にならなければおかしいと思います。

そもそも、統計を巧みに利用して情報操作されている文献は論外だとして、きちんとした計画で正しく行われた研究の結果を示す文献であっても、私は妄信すべきではないと私は考えています。たとえそれが糖質制限に肯定的な文献であっても、です。

なぜならば集団的な調査は平均化することで個性を潰すリスクを伴っているからです。

私は炭水化物中心の食生活で健康長寿をはたしている人達の謎は、糖質制限肯定論文をくまなく読んでいても解けてこないと思っています。

またストレスマネジメントの問題などは、文献に答えがのっていない事だらけです。

要するに、文献ではわからない事は世の中には山のようにあるということです。そうであるにも関わらず、文献がたくさんあれば正しいだなんていうのはおかしいと私は思います。


では文献は全くあてにしなければよいのかと言えば、そういうわけではありません。

大切なことは、事実をもとにして考えた思考の樹にその文献の情報が適合するのかどうか考える作業だと私は思います。

例えば私の思考の樹には、「自然が根幹にあり、そこに適切な人為を加えることで最も健康な状態が維持される」という考えが根幹にあります。

糖質制限もストレスマネジメントもその根幹に沿うので私の思考の樹の主軸をなしています。

そんな私が、先日紹介したアマゾンのチメイン族が炭水化物多めの食生活で健康を保っているという情報を見た時、

私は糖質制限推進派だからといってその情報を一概に否定したりはしません。なぜならばチメイン族は極めて自然な生活スタイルを維持している集団だからです。

そして次に、「なぜ炭水化物を摂取しているのに健康を保てているのだろうか」という疑問へ私の思考は向かいます。

そのような考察はそのチメイン族の元文献をくまなく読んだとしても書かれていません。なぜならば文献はそのような私の疑問を意図して書かれたものではないからです。そうなれば自分の頭で考えるしかありません。

しかし意図していなくても、私の疑問の解決に役立つ情報が含まれている可能性はあります。その一つが「チメイン族には寄生虫の感染率が高い」という情報です。

その情報を自分で手に入れることによって、「土着の食べ物を長期間摂取している人は細菌や寄生虫ごと食事を摂ることで炭水化物が多くても微生物が処理する事によって宿主である人体は弊害を受けずに済んでいる」という仮説に到達することができます。

このように文献の情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、文献の情報を自分の思考の樹に組み込んでいく作業が大切だと私は考えます。

その組み込む作業を行っている過程で、もしもうまく組み込めない場合は、そもそもの思考の樹がどこかで歪んで間違った方向に進んでいる可能性を考えなければならないとも思います。


例えば、もしも私が「糖質制限は危険」という思考の樹を持っていたとすれば、

チメイン族の文献情報はすんなりと理解することができると思いますが、

5大陸18ヵ国の13万5千例以上を約7年半追跡して行った炭水化物摂取量が多いほど総死亡率が上がることを示した大規模疫学前向きコホート研究結果を示したランセットの論文(Dehghan M, et al. Lancet. 2017 Aug 28.)は、

なぜそういう結論になるのかという事を自分の思考の樹に照らし合わせて考えなければなりません。

その結果、納得のいく仮説を導き出せなければ、思考の樹自体が間違っているか、文献の信頼性が乏しいかということを検証する方向へ思考を進めていかなければなりません。


糖質制限を批判している人達はそうした思考プロセスをはたしてきちんと踏めているのでしょうか。

自説に都合の良い文献だけを無批判に取り入れて、自説に都合の悪い文献は無視するようなことになっていないでしょうか。

文献を正しく利用できるかどうかは、

芯のしっかりとした思考の樹が自分の中に育っているかどうかに関わってくると私は思います。


たがしゅう
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コメント

2018/04/20(金) 02:20:43 | URL | 瀬川里香 #-
文献の情報を鵜呑みにしてしまがちです。
いろんな情報があるので、何がただしいのか、よくわからないですね。
情報をえて自分でも調べて、情報をえるのがいいのかもしれないですね。

管理人のみ閲覧できます

2018/04/20(金) 05:20:18 | | #
このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: タイトルなし

2018/04/20(金) 06:53:04 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
瀬川里香 さん

 コメント頂き有難うございます。

 得られた情報を丸ごと信じるか信じないかの思考パターンではおそらくいつまで経っても思考の樹は育てられないと思います。
 文献に限らず、入手した情報のどこが正しくて、どこが間違っているのか、自分の今までの考察や経験と照らし合わせて判断し必要に応じて組み入れていく作業が思考の樹を育てるために必要なことなのではないかと私は思います。

Re: 変換ミスです

2018/04/20(金) 07:12:49 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
愛読者 さん

 誤変換の御指摘有難うございます。
 修正させて頂きました。

No title

2018/04/20(金) 16:27:58 | URL | Etsuko #-
いつも興味深い記事をありがとうございます。

この度は、私のコメントを取り上げて頂き、
ありがとうございます。

活字で印刷、製本、「先生」と呼ばれる人が書いた書籍は、
間違いなく正しい情報だと、純粋に思っていました。
情報過多の時代になり、取捨選択の必要性に、
ようやく気付いたところです。

私の中に芽吹いた「思考の樹」、
自分なりにしっかりと育てたいと思います。

Re: No title

2018/04/20(金) 16:39:19 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
Etsuko さん

 コメント頂き有難うございます。

 おかげさまで思考の樹を育てるのに必要な思考の種を頂く事ができました。
 今後もよろしければご都合よい時にコメント頂けると喜びます。何卒宜しくお願い申し上げます。

No title

2018/04/20(金) 19:47:32 | URL | #-
ある情報に出くわした時に、
それが全て正しいとか間違っているとか思うのではなく

一見正しいと思えたものでも、
間違っている部分が有るのでは?と疑ってみる。

一見間違っていると思えたものでも、
正しい部分が有るのでは?と疑ってみる。

ということなのでしょう。

情報全体又その一部分に関する正誤の判断は、
他の数多の情報と比較することによって、
なんとかなりそうな気がします。

でも、正誤の判断をしているのは、自分自身の思考です。
そこで、自分自身の思考は正しいのかどうか?という問題にぶち当たります。
なんだか無限ループに陥りそうです。

で、取り敢えずは自分が正しいと思った道をずんずん進んで行って、
あれ?なんか変だなと躓いた時にじっくり思考してみるというのが
現実的な解なのでしょう...

という様な内容を、たがしゅう先生が以前ブログで
既に取り上げていたような気がします。
どの記事だったかは思い出せませんが(^_^;)

2018/04/20(金) 21:14:43 | URL | NM #-
私は糖質制限を始めてからHbA1cが年々上昇し、元々は正常値でしたが今は基準値を越えてしまいました。夏井先生のブログからも、糖質制限で血糖値が上昇してしまう人は私だけではないと思いました。

糖質制限で体調が良くなる人もいれば体調を崩す人もいる。血糖値が下がるはずでも、上昇してしまう人もいる。人は皆それぞれです。文献や統計の結果に当てはめるのではなく、一人一人に目を向ける姿勢が大切と思いました。文献が正しいとか正しくないとか、糖質制限が良い悪いとか議論するのは、終わりのない迷路のようです。

糖質制限で血糖値が下がったりアレルギーが良くなっても、西洋医学同様「抑えている」だけです。糖質を食べ血糖値が上昇したりアレルギーが出てしまうなら健康とは思いません。何を食べても高糖質摂取でも、トラブルを起こさず健康長寿、こちらが真の健康と思いました。

潜在意識の中の心の問題に取りくみ、抱え持っている価値観を手放し、生き方を変える事を学びながらレメディーを使っています。それは慢性疾患は治らないというハーネマンの教えを越え、海外のホメオパシー団体からも関心が寄せられています。

価値観を抱え持っていると負の感情を発生させてしまいます。一番のストレスを発生させてしまう価値観を手放した今は、杉花粉の時期に糖質を食べ、風邪を引いて黄色の痰が出てきて、明らかに気管支で炎症が起きていても、もう喘息は出ません。交感神経優位の時に症状が出るのはストレスが強いから、私の病気を作り出していたのは糖質ではなくストレスです。

病気にも心の在り方は大きく関係しています。急性疾患や急な症状に西洋医学は必要です。ですが心を見ずに科学的根拠だけを見て、慢性疾患や難病、精神病、発達障害の症状を薬で抑えても、治癒に導く事は不可能です。症状を薬で抑える西洋医学の医師よりも、心も体も治癒に導く治療者が真の治療者と思いました。ですが人は他人の心の中を覗く事は出来ません。病気を治せるのは自分自身しかいません。

Re: No title

2018/04/21(土) 07:24:14 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
> 正誤の判断をしているのは、自分自身の思考です。
> そこで、自分自身の思考は正しいのかどうか?という問題にぶち当たります。
> なんだか無限ループに陥りそうです。


 コメント頂き有難うございます。

 そうですね。そもそも人間は不完全な生き物、自分の思考が正しいとは限りません。
 それ故、「自分はもしかしたら間違えているかもしれない」と頭のどこかに据えておくことは大事なことだと私は思います。死ぬまで考え続ける哲学者のスタンスが私には合っています。

 2016年3月29日(火)の本ブログ記事
 「私は哲学者でありたい」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-677.html
 も御参照下さい。

Re: タイトルなし

2018/04/21(土) 07:32:57 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
NM さん

 コメント頂き有難うございます。

> 私は糖質制限を始めてからHbA1cが年々上昇し、元々は正常値でしたが今は基準値を越えてしまいました。

 私も実際の患者さんで寝たきりの超高齢者の方で入院の管理下でまったく糖質を摂取していないのに血糖が上昇し続ける事態を目の当たりにした事があります。その方の場合は、原因不明の炎症反応を伴っており、ストレスホルモンであるステロイドを外部から投与することでようやく血糖が治まり始めました。

 このことも、血糖値上昇の背景には糖質のみならず、見えないストレスの影響が関わっている事を示す傍証の一つではないかと思います。御指摘の通り、見えないストレスに最も適切に立ち向かえるのは他ならぬ自分自身だと私も思います。

 2017年1月23日(火)の本ブログ記事
 「ストレス性血糖上昇への意識」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-850.html
 も御参照下さい。

2018/04/21(土) 23:44:23 | URL | NM #-
お返事ありがとうございます。

健康診断の結果ですが、その他に上室性期外収縮多発で引っ掛りました。簡単には動悸と不整脈でしょうか。こちらも調べてみるとストレスでしょうか。半年後の再検査までに治したいと思います。

ずっと緩い糖質制限でしたが、昨年12月頃たん白不足、鉄不足を改善しようと、肉、卵中心のスーパー糖質制限にしてみました。チーズも良く食べていたのでMEC食でしょうか。そしたら今までなかった生理前の気分の落ち込みがあまりにも酷くてだめと思いました。そこで卵、肉中心、糖質量100~150gの緩い糖質制限に戻してしまいました。糖質を摂取しながら動物性脂肪の取りすぎが原因とも思いました。

糖質制限を始めた頃もいきなりのスーパー糖質制限で、動悸、不眠の症状で、半年で止めてしまいました。どうもやっぱりスーパー糖質制限は合わないと感じています。

難しいのと勉強不足で分からないのですが、インスリン抵抗性が関係しているのか、それもただのストレスなのか分からないです。教えていただけると助かります。

運動不足も大きいと思います。スクワットを始めてみました。

すみませんが宜しくお願いいたします。

Re: タイトルなし

2018/04/22(日) 05:54:59 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
NM さん

 御質問頂き有難うございます。
 
 診察していないのではっきりした事は言えませんが、あくまで参考意見として聞いて頂ければと思います。

 動悸、不整脈が出て、かつ糖質制限で悪くなるという事からかなりストレスフルな交感神経過緊張状態があることが示唆されます。
 深い深呼吸を習慣づけることや、マインドフルネス(瞑想)を生活の中に取り入れることがまず必要と思います。

 そしてその状況であればあまり糖質制限とか理論的なことにこだわらずに、快療法やBOOCS法の発想を取り入れてみるのもよいかもしれません。すなわち「身体が喜ぶことを行う」ということです。

 この時、食事であれば、味のおいしさにだけ注目するのではなく、食べた後に身体が楽になるかどうかに注目します。
 例えば甘い食べ物で一時的にはおいしさで満たされたとしても、その後頭痛や吐き気、下痢などが襲ってくる場合はNGとします。
 また食事だけでなく、運動についてもスクワットをやりたいと本心から思われるのであればやってよいですが、「やらなければならない」という使命感から行うのであれば快へはつながらないので止めておくことを私はおすすめします。

 そうやって「快」を大事にすることで、まずは交感神経過緊張の状態を元に戻すようにしてみるのです。
 元の状態に戻ったら、その上で糖質制限をするかしないか改めて選べばいいと思います。
 
 もしも自力で交感神経過緊張を治すことができなければ、すでにホメオパシーは活用されているようですが、漢方治療に頼ってみるのも一つの方法だと思います。お近くの漢方医への受診も御検討下さい。

2018/04/22(日) 07:12:17 | URL | NM #-
ありがとうございます。

理論的な事に拘るのは私の悪い癖です。ホメオパシーでも副交感神経の刺激法を勉強したのに意識が欠如してました。45年間このような生き方してきました。

心も体も喜べる事意識します。色々と気付かせて頂きありがとうございました。

2018/04/22(日) 23:33:53 | URL | NM #-
度々すみません。21日、22日の江部先生のブログが気になりました。

いつも受けてる健康診断では、空腹時血糖の検査はありません。HbA1cの数値だけで、一昨年が5.4、昨年が5.6、今年が5.8でした。

タンパク尿と尿糖の検査キッドを持っているので、80gの糖質を食べて、2時間後に検査してみましたが、共に検出されません。尿糖はいままで出たことはありません。

食後高血糖は尿に出るとか、ストレス性の血糖値上昇は尿に出ないとか分かりませんが、私には理論的に考えるのは良くないので、ストレス性の血糖値上昇という事で、これ以上は考えません。

半年経っても改善されなければ、漢方も考えてみます。

Re: タイトルなし

2018/04/23(月) 06:21:14 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
NM さん

> 80gの糖質を食べて、2時間後に検査してみましたが、共に検出されません。尿糖はいままで出たことはありません。

 それであれば少なくとも食後血糖は180mg/dLは超えていないであろうということで、HbA1cとしてもHbA1c5.4~5.8%も臨床的に問題な数値だとは思いませんし、何も問題はないのではないでしょうか。

 自分の中で「HbA1cが年々増加している」と解釈するとストレスになりますが、「HbA1cが正常範囲の中で誤差変動している」と解釈すればなんていうことはありません。あまり数値そのものに惑わされず、精神状態も含めた体調を重視されることをおすすめします。

 2017年7月15日(土)の本ブログ記事
 「血糖値に人生を支配されない」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1029.html
 も御参照下さい。

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