ササミ負荷試験(追試)
2017/09/02 00:00:01 |
人体実験 |
コメント:6件
私が人体実験を繰り返し行っているものだから、
ひとり私の友人が自分も実験の被験者になってもいいと申し出てくれました。
そのお言葉に甘えて、以前私が行ったササミ負荷試験と全く同じ試験をその彼にも受けてもらいました。
これで被験者数N=2となりました。受けてくれた私の友人を仮にAさんとします。
Aさんは私と同年代ですが、身長171cm、体重63cm、BMI 21.5と、運の良いことに私とは違って太りにくい体質の方です。
糖質過剰摂取していても、本人がお腹周りを気にするくらいの太り方はしますが、周りから見てもそんなに太ったように見えません。
その代わり難治性の手荒れやアレルギー体質を持っているという方です。 糖質制限に関しては私の影響もあって、緩やかな糖質制限レベルの事は意識されていますが、
周囲の環境など様々な要因もあって、十分な糖質制限は実践できていないという状況にあります。
そのAさんに朝絶食で来て私が準備するゆでたササミ327gを食べてもらうように指示し、
食前、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後、300分後、360分後の計8回採血を行いました。
そして私と同様、血糖、インスリン、ケトン体、グルカゴン値の推移を確認してみることにしました。
ササミ327g
(一食あたりの目安)
エネルギー 343kcal 536~751kcal
タンパク質 75.21g (300.84kcal) 15~34g
脂質 2.62g (23.58kcal) 13~20g
炭水化物 0g (0kcal) 75~105g
ただ、ササミ327gはやせ型のAさんにとってはかなり多い量であったらしく、
食べるのに20分近く経って、食べた直後は重たく身体がだるい感じがしたそうですが、それはしばらくしたらすぐ良くなったとのことでした。
また6時間の実験中に体調不良は一切ありませんでしたが、360分後の時点で空腹感を生じてきたとのことでした。
さて、気になる結果は以下の通りです。
実測血糖(mg/dL) 実測3ヒドロキシ酪酸値(μmol/L)
食前 88 234
30分後 89 102
60分後 91 78
120分後 90 85
180分後 86 109
240分後 92 129
300分後 88 526
360分後 86 795
(血糖基準値:70~109mg/dL 3-ヒドロキシ酪酸基準値:85μmol/L以下 )
インスリン値(μU/mL) グルカゴン値(pg/mL)
食前 7.2 157
30分後 8.4 172
60分後 20.8 253
120分後 25.0 315
180分後 24.0 312
240分後 11.9 327
300分後 6.9 249
360分後 4.6 189
(インスリン基準値:1.7~10.4μU/mL グルカゴン基準値:70~174pg/mL)
ちなみに前回の私自身のササミ負荷試験の結果は以下の通りです。
実測血糖(mg/dL) 実測3ヒドロキシ酪酸値(μmol/L)
食前 88 556
30分後 91 367
60分後 106 210
120分後 96 111
180分後 96 80
240分後 92 232
300分後 85 536
360分後 82 597
(血糖基準値:70~109mg/dL 3-ヒドロキシ酪酸基準値:85μmol/L以下 )
インスリン値(μU/mL) グルカゴン値(pg/mL)
食前 5.3 165
30分後 9.4 185
60分後 37.2 265
120分後 21.3 259
180分後 10.4 213
240分後 7.9 173
300分後 5.7 163
360分後 4.5 160
(インスリン基準値:1.7~10.4μU/mL グルカゴン基準値:70~174pg/mL)
まず私との違いとして目につくのは、血糖値の変動がほとんどないということです。
アメリカ糖尿病学会(ADA)(2004)の見解では「タンパク質は血糖に変わらない」とされていますので、
どちらかと言えば、Aさんの血糖推移の方が教科書的な典型パターンだと思います。
一方でインスリンの方は私と同様、上昇してはいますが、私と比べてその上昇具合が軽度です。太りにくいというのも納得がいきます。
ケトン体の推移も私とよく似ています。タンパク質負荷によって刺激されたインスリンの影響でケトン体は一時的に下がっています。
しかしその後絶食時間が長くなるにつれ、インスリンの減少と入れ替わるようにしてケトン体が急上昇してきています。
私よりも急激に上昇してきている印象で、急上昇のタイミングとAさんが空腹感を感じたタイミングがほぼ一致しています。
私の場合はケトン体が上昇している300分後、360分後の時点でも強い空腹感は特に感じていませんでした。ケトン体を使い慣れているか否かの違いであるように思います。
一番興味深いのはグルカゴン値です。
私よりもインスリンの出が少なくて、血糖値が上がっていないという状況ですので、
私よりもグルカゴンの値が少ないことが予想されます。もし私以上にグルカゴンが出ていたら、インスリン<グルカゴンとなり、血糖値が上がっておいてもらわないと説明がつかないからです。
しかし結果はその予想を覆すように私よりもグルカゴン値が高いというものでした。
しかも基礎値よりも高い状態が食後6時間以上継続しています。私は5時間後に基礎値に戻っているにも関わらずです。
この矛盾に関して、ビシッと来る答えを私はまだ見つけ出せていませんが、
一つの可能性としてはインスリンの絶対量だけではなくインスリン抵抗性との関連を考える必要があります。
インスリン値が私の方が高くても、私には肥満がありインスリン抵抗性がAさんより高いため、
インスリン絶対値が私よりAさんの方で低くとも、インスリンの効き具合が私よりAさんの方で高いという可能性があります。
そしてその実際のインスリンを打ち消すために十分量のグルカゴンをAさんが出しているという考え方です。
もう一つの仮説としては、グルカゴンにとって血糖上昇はあくまでも副次的な効果で、血糖上昇以外の別の大事な働きをなすためにAさんのグルカゴンが急上昇しているという可能性です。
グルカゴンに関しては生理学的意義について調べを試みましたが、
断片的にいろいろな事実はわかってきているものの、どうやらはっきりとした意義はまだわかっていないようなのです。
今回は何とも謎が残る結果となりました。
ただ一つ言えるのは、同じタンパク質負荷でも体質によって起こる代謝変化には個人差が大きいということです。
数値だけで画一的に病気とそうでないものを区別しようとする現代の血液検査でのやり方には本質的に無理があるという事を教えてくれているようにも思います。
数値はあくまで参考に、その人の身体の中で起こっている現象を適確に想像することが大事ということかもしれません。
今回の結果を見て読者の皆様はどのように感じられましたでしょうか。
御意見どしどし募集しております。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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推測ですが
糖新生にはグルカゴンよりも直接的には副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)が働くようですので、こちらの血中値もきになるところです。
ご存知かもしれませんが、鹿児島と言えば納先生のこちらの実験が参考になると思います。
「患者の立場での糖尿病臨床研究
その7) 健康成人17名におけるインスリン拮抗ホルモンの動き」
http://www5f.biglobe.ne.jp/~osame/shiminn-igaku-kouza/tounyobyo/tonyoubyo-7/7-tonyobyo.html
まさに人それぞれではありますが、共通項はグルカゴン・成長ホルモン・副腎皮質ホルモンが大きく関わっていることでしょうか。
私的には、暁現象がある人のインスリン及びインスリン拮抗ホルモンの値が非常に気になるのですが、また機会がありましたら試験して頂けると嬉しいです。
Re: 推測ですが
コメント頂き有難うございます。
納先生のデータは存じていましたが、久しく見ておらず改めて見てすごいデータですね。
グルカゴンだけでなく、血糖上昇の可能性があるホルモンをすべて測定しているのですね。
ただこれはブドウ糖負荷試験ですね。
しかもグルカゴンの推移が私と違っていて、
私はグルカゴン値は360分後も基本横ばいで推移しているのに対し、
納先生実験の健康人ボランティアは240分後にインスリンの急降下に合わせてグルカゴンが急上昇しています。
ますますグルカゴンというものの本来の役割がわからなくなってきました。
何か特定の役割を持っているというよりも、全体の中で働き方が変わるフレキシブルな因子の一つとして捉えた方がよいのかもしれません。
ふと思ったこと。
「糖新生」って、いつ、どの時間に起こっているのでしょう。
また、糖新生の強弱の波はあるのでしょうか。
糖質制限をしていない人と、常に糖質制限をしている人では、
糖新生の頻度が違うと想像します。
常に糖質制限を行っている人と、糖質制限をしていない人とでは、
様々な「負荷試験」の傾向に特徴が見られるのかなと思いました。
「糖新生」だけでなく、「節約遺伝子」「腸内環境」など、
変化をもたらす要因は様々だと思います。
奥行きがあり過ぎて、脳内がますます混乱します。
でも、その混乱が、ワクワクの源です。
人体って凄いです。
Re: ふと思ったこと。
> 「糖新生」って、いつ、どの時間に起こっているのでしょう。
> また、糖新生の強弱の波はあるのでしょうか。
基本的には低血糖を起こさないよう日常的に行われていると思いますが、
血糖値が高い時は弱まり、低い時は強まるというように強弱もあります。
PSMF
Aさんはケトジェニック水準で糖質制限を実践された経験はおありでしょうか?
ケトジェニックやったことがないのに、pure proteinを食べてたったの5時間後に
βヒドロキシ酪酸が500超(最大795)μM/Lも上がったということであれば
「蛋白質を食べ過ぎると、ケトンは出ない」
の俗説にあてはまるのは、特殊な属性を持つ人
(主にインスリン抵抗性肥満ないし糖尿病罹患者)に限った話なのではないか??
などと思いました
低脂質高蛋白質(ほぼ純粋な蛋白質)はダイエット業界では空腹感を抑えるなどと言われるものの
Aさんのように6時間で空腹に苛まれる人も居たりして、個人の感想が一定しませんね
空腹感を抑えるためには3時間ごとにちまちま食べろということなのでしょうかw
pure protein負荷実験、面白いです
乳蛋白ではまた違った結果が出るものと期待します
おそらくホエイ、カゼイン、全乳でそれぞれ微妙に違う結果になるでしょう
Re: PSMF
御質問頂き有難うございます。
> Aさんはケトジェニック水準で糖質制限を実践された経験はおありでしょうか?
Aさんは基本的に緩やかな糖質制限~通常食レベルです。
空腹感は脳が作り出す感覚であり、そのメカニズムは複雑で把握しきれません。
普通に考えれば空腹感は食事するタイミングを示すサインという事になりますが、飽食の現代においてはそのサインが過剰に駆動された結果、本当は食事を欲していないのに空腹感が駆動されるという場面も散見されるように思います。
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