旧来からの事実を紐解いていく

2014/11/18 00:01:00 | 漢方のこと | コメント:2件

先日漢方の勉強会で,「鶏鳴下痢(けいめいげり)」という現象について学びました.

これは「鶏が鳴く頃」,すなわち「明け方の一番気温が下がる頃に起こる下痢」の事を指します.

排便が起こるのは,「食物を摂取して消化管が刺激を受けて便意をもよおしてから」というのが普通の流れですから,

まだ何も食べていないはずの明け方に下痢が起こるというのは病的な現象だというわけです.

なぜ鶏鳴下痢が起こるかという事に関して,漢方的には「腎虚」と「冷え」が関わっているとされています.

腎虚というのは,簡単に言えば「老化」で,もともと備わった生体エネルギーが衰えた状態で,

一方,冷えは低体温という事ですから,代謝が落ちてうまく身体の機能が働きにくい条件です.

従って老化をベースに明け方の寒い気温で消化管の機能が低下して下痢をしてしまうのが「鶏鳴下痢」の西洋医学的解釈という事になります. またこの「鶏鳴下痢」,漢方では「食癪(しょくしゃく),酒癪(しゅしゃく),寒疝(かんせん),みな此の病を作す」と古くより言われています.

食癪とは暴飲暴食で,酒癪は酒の飲み過ぎでお腹が痛くなること,

寒疝とは,寒冷を受けたり、飲食することで起こる腹痛を指しますので,

冷えのみならず,食事や飲酒によっても引き起こされるという事も,ずっと昔からよく観察されていたという事です.

ではなぜ,食事や飲酒によって鶏鳴下痢が引き起こされるかを考えてみますと,

やはり糖質の摂取とともに水分を引き込み,水分がたまったところが冷えて低代謝となるためではないかと思います.

糖質の摂取と水分の保持には腸管におけるナトリウム-カリウムポンプがグルコースと共輸送するというシステムが関わっています.

従って外気によって冷やされようと,水分を過剰に引き込んで冷やされようと,同じ現象が起こるということです.

漢方的にはこの「鶏鳴下痢」に対して「真武湯」や「啓脾湯」という漢方薬が用いられます.

前者は身体を温める生薬が主体で,後者は水をさばく生薬が主体でこの症状に対応しようとしているのですが,

寒さや食事や飲酒が要因になるのというのであれば,

糖質制限をして自律神経を整えて寒さ対策を行い,糖質によって引き込まれる余分な水分を排除する事も,

より有効な治療法になるのではないかと思います.



つぶさに観察されていた昔ながらの現象が,

糖質制限理論を組み込んだ新しい医学によって解明されていく様子は,

実に興味深いものがあります.


たがしゅう
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コメント

低カリウム血症ハイリスク

2014/11/18(火) 08:45:58 | URL | アンチスタチン主義 #-
今回の記事とは直接関係ないかもしれませんが、私の経験では
糖尿病歴が長い患者に甘草を含んだ漢方薬を長期に内服させると、低カリウム血症~筋融解症になりやすいようです。ご注意ください。
おそらくカリウムチャンネルに関連があるものと推定されます。

Re: 低カリウム血症ハイリスク

2014/11/18(火) 19:27:09 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
アンチスタチン主義 さん

 コメント頂き有難うございます.

 御指摘の通り,甘草の多用は低カリウム血症や偽性アルドステロン症の副作用に注意が必要です.漢方と言えどむやみやたらに使用するのはよくありませんね.

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