その目で見ないと見えない
2014/01/07 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:6件
先日スタチンの事を記事にしました。
私は自分からは極力スタチンを処方しない方針の医師ですが、
世の中にはスタチンを積極的に処方する立場の医師の方が多数派だと思います。
議論はあるにしてもコレステロールを下げるという行為の有用性そのものが医学的に疑念が抱かれる状況なのだから、
コレステロールを下げる派と下げない派で半々くらいになってもよさそうなものです。しかし実際は下げる派が圧倒的多数派です。これには理由があると思います。
それはおそらく、そうした医師がスタチンを用いる以外にコレステロールを下げる有効な手段を知らないからです。
高糖質食をそのまま放置していると多くの人は中性脂肪が高く、LDLコレステロールが上がり、HDLコレステロールが下がるというパターンの脂質異常がみられるようになります。
その状態をそのまま放置していると動脈硬化が進行し、全身の臓器に様々な支障をきたしていきます。
この事実は医師ならば誰でも経験的に知るところです。
通常はこの状況に対して医師はまず一般的な食事・運動療法を勧めます。
この場合の一般的な食事療法の骨子というのは
「食べ過ぎないようにしなさい」
「脂っこいものは控えるようにしなさい」
「バランスのよい食事をしなさい」
というものです。2年前の自分がまさにそういう指導をしてしまっていました。
しかし、これでは多くの場合うまくいきません。
この事を理解するには糖質が空腹感を助長するということ、そして糖質が中毒性を持つということを知る必要があります。
カロリーを減らす、すなわち量を減らすということは満腹感が減ります。にも関わらず糖質はしっかり摂っているから強い空腹感が食後に襲ってきます。その満腹感がないというストレスとそれでも襲ってくる空腹感の波を耐え続ける強い精神力を持ち合わせている人でないとこの食事指導は成功しません。
もちろん、いわゆる「脂っこいもの」をいくら控えても当然糖質の影響は取り除かれませんし、糖質を含めて栄養バランスを考えても当然同じことです。
次に運動ですが、運動するとインスリン非依存的に血糖が筋肉によってエネルギーとして消費されます。
しかし運動をした後も空腹感を感じます。その空腹時に糖質を摂取しすぎてしまうと折角の運動効果が帳消しになってしまいます。従って運動の効果を維持するには運動して消費した分以上に糖質をとらないことですが、日常的に激しい運動をして糖質をかなり消費している人でない限り、空腹感に打ち勝って運動した以上に食べないようにするというのはこれまた相当の精神力が必要です。
こうした理由により、多くの場合は上記のような食事・運動指導ではうまくいかないのです。そのうまくいかないという事実も多くの医師は経験的に知っていますが、今述べたような理由だとは思っていない医師が大多数だと思います。
そのような状況で多くの人は徐々に動脈硬化が進行していく、ある人は脳梗塞になったり、またある人は心筋梗塞になっていったりしている。多くの良心的な医師はその状況を何とかしようと思ってます。
そんな時にコレステロールを下げると心筋梗塞のリスクが下がるというデータがあって、またコレステロールを下げることができる有効な薬があると聞けば、それを処方するというのは医師として無理もない発想だと思います。
しかし動脈硬化の真犯人は「血管の炎症」です。
そしてその「血管の炎症」は何らかの要因によって引き起こされた酸化ストレスを起源に持ちます。
その酸化ストレスを最も日常的に受けうる行為が「食事」です。食事の中に糖質がたくさん含まれていれば血糖値の乱高下をきたし酸化ストレスを起こします。それを普通の人は1日3回、おやつも含めれば1日4回以上受け続けていることになります。
糖質を摂りすぎると余剰な血糖値が脂肪に変換され、結果的に中性脂肪が増加します。
さらに繰り返される酸化ストレスによって引き起こされた「血管の炎症」を修復するために、身体はコレステロールの働きを総動員して炎症の終息に向け働きかけます。その結果、炎症を修復する材料を運ぶLDLコレステロールが上昇します。
しかし酸化ストレスがかかり続けた状況では一部のLDLコレステロールが酸化型LDLコレステロール(いわゆる超悪玉コレステロール)に変化し、動脈硬化はさらに拍車をかけて進行してしまいます。
そして徐々に身体機能が弱まり、老廃物を回収してくれるHDLコレステロールの量が下がっていくというわけです。
そんな状況でスタチンを処方することがどういう意味を持つでしょうか。よほど超悪玉ばかり増えている状況であれば多少のメリットはあるかもしれませんが、多くの場合はコレステロールを下げることは身体の修復能力、すなわち抵抗力をも弱めてしまうことにつながります。
こういうことがわかれば、どんどん悪くなっていくデータに対してまずすべき事は、スタチンを処方することではなく、糖質を控えることだという事は自明の理だと思います。
つまり、こうした事実を知らないからこそ多くの医師はスタチンを処方するのです。
同じ現象を見ていても、その目で見ないと見えないということが世の中にはあると思います。
私は糖質制限の理論を知り、知らない世界のことを知ることの重要性をも学ぶ事ができました。
これからも探究心旺盛に勉強していきたいです。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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酸化ストレス
記事にありました
「血糖値の乱高下は酸化ストレスを起こす」
とは、どのようなメカニズムで生じるのでしょうか?
血糖と酸化との関係がいまいち分かりません。
いつかブログで取り上げて頂ければ幸いです。
応援しております^^
Re: 酸化ストレス
御質問頂き有難うございます.
> 「血糖値の乱高下は酸化ストレスを起こす」
> とは、どのようなメカニズムで生じるのでしょうか?
糖質を摂取し血糖値が上がると、身体に必要な蛋白質が変性(細胞内の非酵素的糖化反応)し、活性酸素が産生するといわれています。また糖化により、活性酸素を除去するSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)という酵素も変性し失活し、結果的に活性酸素が増えて、酸化ストレスが増大するというのがメカニズムの一端です。
そして高血糖は高血糖でも、持続的な高血糖よりも「平均血糖変動幅増大」と「食後高血糖」の方が大きな酸化ストレスリスクとなるということがJAMAの論文で報告されています(Monnier L, et al. Activation of oxidative stress by acute glucose fluctuations compared with sustained chronic hyperglycemia in patients with type 2 diabetes. JAMA. 2006 Apr 12;295(14):1681-7.)。
このあたりは後日まとめて記事にしたいと思います.
スタチンは、こわい
強すぎる薬は、副作用がこわいです!
チームバチスタ4でおもしろいシーンがありました
今回の記事とは関係のないことなのですが、今日からフジテレビでチームバチスタ4が始まったので見ていました。
すると、食事のシーンで、仲村トオルさんが演じる厚生労働省の白鳥さんが、肉だけを食べていて、店員にご飯とスープはいらないと言うセリフがありました。
もしかして、このドラマは、暗に糖質制限を広めようとしているのかもしれません。以前までのシリーズでも、確か白鳥さんは肉ばかりを食べていたと思います。
ドラマがきっかけで糖質制限が普及すればいいのですけどね。
関係のない内容で失礼しました。
Re: スタチンは、こわい
コメントを頂き有難うございます。
スタチンの意義を正しく理解すれば、処方すべき場面はぐっと少なくなると思います。そのためにも糖質制限の理論と効果を知ることは不可欠です。
Re: チームバチスタ4でおもしろいシーンがありました
情報を頂き有難うございます。
> 今日からフジテレビでチームバチスタ4が始まったので見ていました。
> すると、食事のシーンで、仲村トオルさんが演じる厚生労働省の白鳥さんが、肉だけを食べていて、店員にご飯とスープはいらないと言うセリフがありました。
そうなのですか。興味深いですね。
シリーズもののドラマ「バチスタ」でわざわざ描写を変えたというのであれば何か意図があるのかもしれませんね。もし仲村トオルさんが実生活でも糖質制限をしている、というのであればさらに面白いのですが。
それにしても、今シーズンは医療系ドラマ花盛りですね。
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