精油について学ぶ

2017/05/02 00:00:01 | 植物から学ぶこと | コメント:0件

再発性のこむら返りの抑制に有効な疎経活血湯について学んだ際に、

生薬の中の主要有効成分である精油に注目し、それがアロマテラピーにも応用されている植物由来の成分だと知りました。

本日はこの精油とはどういうものなのかについて、考えてみたいと思います。

調べると日本アロマ環境協会というものがあって、そこにも精油の事について詳しくは書かれてはいるのですが、

「精油とは良いものだ」ということが前提で書かれているような風潮でバイアスがかかっているように思えたので、

以下の本を参考にしながら精油というものについてニュートラルに理解を試みる事にしました。



植物生理学 (大学の生物学) 単行本 – 1993/11
清水 碩 (著)
まず、植物にとってタンパク質、糖類、核酸、脂質などを生成する反応は、

植物代謝の中での主要過程であるところから、これを一次代謝と呼ぶそうです。

一次代謝で作られるものは基本的に生理的に重要なものばかりなのですが、中には植物体に多量に作られているものもあります。

多量に余っているがゆえに主要代謝過程から脇道にそれて、一次代謝で作られたものを材料にさらに別のものを作り出す代謝のことを二次代謝というそうです。

二次代謝の中で作られる物質には、比較的少量しか作られないが植物の生活に不可欠な物質や、

多量に作られるにも関わらず植物にとっての生理学的意義が不明の物質までさまざまあるようです。

前者の例としては植物ホルモン、後者の例としてはゴムが挙げられます。そして他にもアルカロイド、カロテノイド、アントシアン、タンニン、ステロールなども二次代謝の中で作られ、今回のテーマである精油もこの中に含まれます。


精油は、植物材料から水蒸気蒸留によって作られます。

その合成経路は途中までが動物でもみられるアセチルCoAからメバロン酸、さらにはステロイドホルモンを合成する経路と共通しています。

その先まで代謝を進めてテルペンと呼ばれる化合物にまで変化したものが精油となっていくようです。

精油はどの植物でも作られるわけではなく、マツ科、セリ科、テンニン科の分泌腺、腺毛などの特殊化する組織でごく少量ずつ作られます。

例えば人為的に精油1kgを得るためには、ラベンダーなら花穂を100~200kg、ローズなら花を3~5トンも必要とすることもあります。

精油はもとの植物種によってそれぞれ特有芳香を持つものが多いですが、その生理的な役割については不明な点も多いようです。

ただ種子の発芽や植物の生長を抑える効果のあることから、生存競争に勝つ武器であるという説もあります。

また、ある種の精油はカビや細菌の生長を抑制する作用があります(ハッカ、ユーカリなど)。

またその匂いで昆虫を誘引し、受粉に役立てているものもあるし、逆に昆虫、鳥を遠ざけて、摂食されないように役立っているものもあります。


ここまでの情報を私なりにまとめれば、精油というのは、

「植物が、他の植物や動物の主に嗅覚へ訴えかけて自身の生存に有利に働かせるために、余った成分から自身で作り出した揮発性物質」

といった感じなのではないかと思います。

精油の薬効についてはWikipediaに大変詳しく書かれていますが、

どうやらその薬効のin vitro(試験管内)で検証されているものがほとんどで、

またプラセボ効果との鑑別が難しいためにランダム化比較試験などのエビデンスレベルの高い研究を行うことが難しいという問題があり、

実際の薬効について明確に証明された研究結果はまだあまりないそうです。

しかし植物が産生した物質を適切に利用する事で疾患を治療することに成功している漢方サプリメントの存在を踏まえれば、

精油も適切に利用すれば疾患治療に応用することができるのではないかと私は考えます。

私はエビデンスがないからといって、それだけではその治療法の可能性を否定しません

それに仮にそれがプラセボ効果だったとしても、プラセボ効果を人為的に引き出せる方法なのだから有意義だとも思います。

とはいえ、良い匂いは良い作用をもたらすといった単純思考に陥るのは禁物です。心地よい刺激を繰り返す事には中毒形成の落とし穴もあります

その辺りのリスクや注意点をわきまえた上で適切に利用すれば、ストレスマネジメントの観点からも精油は有効活用できるかもしれません。


バラの良い香りは、ヒトなどの動物が自分を好むように仕向け、

自分を守るように従えさせるための、巧みな生存戦略の一つなのかもしれませんね。


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する