良い情報を広めるための工夫
2017/05/01 00:00:01 |
認知症 |
コメント:2件
新しい職場環境に移り、糖質制限、湿潤療法を始め、
様々な院内勉強会を計画しており、その中で認知症コウノメソッドの事もスタッフへ伝える必要があると考え準備を進めています。
コウノメソッドを学ぶ媒体は創始者の河野和彦先生の御尽力により関連書籍は医療関係者向けから一般書まで多数ありますし、
ネット上でもかなりの情報を手に入れる事ができるため、情報量には事欠きません。
問題はコウノメソッドを初めて知る人にどのように伝えるかということです。
というのもコウノメソッドの中にはとても一言では言い表せない程、日常診療に役立つエッセンスがたくさん詰まっています。
すべてを伝えようと思えばどうしても時間を多くとることが必然となってきてしまいます。 しかし情報量は多ければ多いほどよいというものではありません。
勉強会のような場では、聞いてくれる人の事も考えなければなりません。
どんなに価値のある情報でも、聴衆の理解するペースを無視して情報のシャワーを浴びせてしまえば、
その情報は右から左へ流れていくだけで、勉強会はたちまち無益な時間となってしまいます。
聴衆の集中力を持たせるという意味でも、聴衆に負担をかけないという意味でも、私はこうした勉強会は長くとも30分以内で収めるべきと考えています。とにかく最初のきっかけづくりに終始するのです。
細かい情報も伝えたいのはやまやまだけれども、最初の勉強会で長々としゃべった結果、面白くないと思われてしまえばせっかくの有益な情報が伝わらなくなってしまいます。こんな勿体ないことはありません。
ですから、認知症コウノメソッドの核となる部分だけをきちんと伝え、まずはとにかく興味を持ってもらい、
後はまた別に勉強する機会を設けたり、各々で自己学習してもらったりすることが、結果的に一番広まる事になるのではないかと私は考えています。
そういう意味で私は認知症コウノメソッドの核となる部分は概ね以下の項目ではないかと考えます。
・認知症の病名ではなく病態を把握する
・高価な検査の結果より、見た目や服装、印象、性格、歩き方や身体の傾きなどの情報を重要視する
・得られた情報から神経伝達物質の過不足(過活動、機能不全、枯渇)を推測する
・その推測した状況に応じて、神経伝達物質が働きやすくなる状況を必要最小限の薬を用いて人為的に作り出す
・製薬会社の規定に捉われず、患者によって当然異なる最適な薬の投与用量を患者の反応をみながら導き出していく
・導き出していった結果、高齢患者が多い認知症診療においては用いるべき西洋薬の投与量は常識外れの少なさである
・患者がよくなるのであれば、漢方薬でもサプリメントでも保険適用外の点滴療法でも取り入れる
この内容を15分でしゃべれるように準備して、
ゆっくりとしゃべったとしても30分以内に収まるようにスライドを準備しようと思っています。
この中で私が最も素晴らしいと私が思うのは、
高齢者に用いる薬の最適投与量が常識はずれの少なさであったという点だと感じています。
1999年に世界で初めての抗認知症薬ドネペジル(商品名アリセプト)が世に出て、製薬会社は初期投与量を3㎎で2週間、その後の維持量を5㎎にするようにとルールを定めました。
それまでは鎮静剤などで認知症患者の陽性症状を無理矢理抑え込むしかなかった状況の中に、
ドネペジルは華々しく登場し、当時の医師達に鮮烈な印象を与えたであろうと思われます。
しかし治らないということが前提として考えられていた当時の認知症診療の中で、
たとえドネペジルを使って悪くなったとしても、それは認知症が進行するためだから仕方がないことだと多くの医師が考えていたことでしょう。
しかしそんな中、河野先生はドネペジルを投与した患者さんを細かく観察し、経験を積み重ね、
多くの場合、症状の悪化が認知症の進行ではなく、薬剤の副作用であることにいち早く気づいたわけです。
ではどうすれば患者さんに益をもたらすことができるのかを突き詰めて考えた結果、
ルールに捉われずに薬の量を減らすことで、驚くほど少ない量での必要最小限投与に行き着いたのであろうと推測します。
つまりコウノメソッドの起源は、何より患者さんをよく観察するという事に尽きるのではないでしょうか。
この考えは今後様々な場面で応用できると思います。
患者さんに新薬を投与したり、投与経験のないサプリメントを使用したり、
あるいは糖質制限や湿潤療法などの新しい治療を始める場合に、患者さんの状態をつぶさに観察するよう努めます。
その結果、何か害になる事が起こった場合は、必ず自分が行った介入のせいでそうなった可能性を謙虚に考えるべきなのです。
そうであればより適した環境を作るために介入を弱める必要性も出てくるわけで、これを繰り返すことで一番良い落としどころが少しずつわかっていきます。
それがコウノメソッドから学ぶ一番大事なところではないかと私は思います。
この素晴らしさをきちんと伝えられるように
情報量を凝縮し、しゃべり方を工夫したりしていこうと思っています。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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日経メディカルより
2017/4/28 川畑信也(八千代病院神経内科部長)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kawabata/201704/551116.html
誤解を恐れずに極論を述べますと、認知症かどうかの判断は科学的な根拠によるのではなく、もっと「バタ臭い」、つまり患者さんの人生や生活の状況をコツコツ聴きながら、そして人間的なふれあいを通じて判断せざるを得ないのではないのかなと最近考えているところです。
私は、本当の臨床とは医師が1人の患者さん、そしてその家族と直接向かい合って人間的な接触を通じて認知症に進展しているのか否かの判断をすることだと考えています。
そして仮に正確な診断ができなくても、その患者さんが今後どうしたいのか、家族はどうしてほしいのかをくみ取って、患者さんや家族のその後の生活や人生に対して僅かながらでも医師としてできるアドバイスあるいはサポートができれば、それでよしと考えながら日々の診療を行っています。
◇ ◇
…川畑氏は平素はコウノメソッドに批判的だが、たまにはいいことを言うね
Re: 日経メディカルより
情報を頂き有難うございます。
> 本当の臨床とは医師が1人の患者さん、そしてその家族と直接向かい合って人間的な接触を通じて認知症に進展しているのか否かの判断をすることだと考えています。
> そして仮に正確な診断ができなくても、その患者さんが今後どうしたいのか、家族はどうしてほしいのかをくみ取って、患者さんや家族のその後の生活や人生に対して僅かながらでも医師としてできるアドバイスあるいはサポートができれば、それでよしと考えながら日々の診療を行っています。
この御意見に対しては賛同します。
診断にこだわる必要はどこにもありません。
診断をつけることは誤解を恐れずに言えば医師の自己満足です。患者さんは診断をつけてほしくて病院に来るのではないはずです。
糖質制限と絡めて考えれば、こうした医師としての基本姿勢はおそらく糖質制限否定派の医師も持っているはずです。
しかし結果的には患者さんの害となる事を行ってしまっている。問題はそのような基本姿勢に加えて、「自分が行っている医療は間違っているかもしれない」という謙虚な気持ちを持てるかどうかだと私は思います。
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