断続的に人為を加える

2017/05/03 00:00:01 | ふと思った事 | コメント:0件

自然が生み出した構造の複雑さには目を見張るものがあります。

漢方を学んでいると私はつくづくその事を痛感するのです。

複雑な自然界を私達は自分達の頭の中でなんとか理解しようと様々な手法を用いますが、

そうした努力をしても、それでも私達の理解を優に超えている存在だと私は思うのです。

傷の湿潤療法に関してみても、一番すごいのは傷ができた時にそれを修復するように働きかける人体のメカニズムです。

直ちに止血機構が働き、新規の細胞分裂が開始され、その環境を整える滲出液が分泌されるという、

人間の科学がいくら発達したといえ、人間が作り出した物質が傷を治すという試みにはことごとく失敗しています。それが故に消毒も外用剤も使わない湿潤療法はもっとも早く綺麗に治るわけです。 それが故に私の医師としての基本的治療方針は、「自然に備わったメカニズムを極力邪魔しない」というものになるわけですが、

全てを自然に任せてよいかと言われれば、そうではないとも考えています。

湿潤療法が見事なのは、適切に人為を加えることで自然の持つ治癒力をさらに効率化しているところです。

ケガをして、いくら自然のメカニズムが素晴らしいからといって、そのまま放置していればかさぶたになるというのは皆さん御承知の通りです。

傷が治るためには、一種の細胞培養液である滲出液が乾燥しない環境を保持する事が必要で、かさぶたはその環境を作るための自然のシステムなのかもしれませんが、

これを人為的に傷にくっつかずなおかつ蒸れないように滲出液を適度に吸収してくれる素材で被覆することで、

傷を治す自然のメカニズムをさらに効率的に働かせることができるわけです。

この「適切な人為を加える」というのがポイントです。適切な人為ということは、適切な時期に人為を取り除くのも必要だということです。

いくら被覆材が素晴しかろうとも、傷が治った後まで装着する必要はありません。いつまでもくっつけていたら汗や皮脂
なども分泌しにくくなり邪魔です。

ですから自然のメカニズムを最大限に活かしたい場合に加える人為は、恒常的ではなく断続的に行うべきと私は考えます。


私はこの「被覆材で湿潤環境を整える」という行為と、

漢方、サプリメント、ビタミン、西洋薬などを用いて病気を治そうとする行為には共通構造があると思っています。

これらは言ってみれば、自然が常日頃行っている恒常性維持(ホメオスターシス)のための複雑な身体反応をサポートしようとする人為です。

しかしその人為を加えっぱなしにしていると、やがて加えた人為による歪みが新たに恒常性を乱すことにつながってしまいます。

だからこうした薬をずっと飲み続ける事は、きっと正解には行き着かないのであろうと私は思うのです。

邪魔なものを取り除く糖質制限で複雑な自然のメカニズムを最大限に発揮させ、

それでも克服できない困難が現れた時のみ、自然のメカニズムを邪魔しないような人為的な薬を断続的に使用し、決して永続的に使用するのではなくいつかは卒業を目指す。

これが内科医の私が考える私の中での理想的な治療方針です。


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する