材料と環境整備

2017/05/30 00:00:01 | おすすめ本 | コメント:0件

私は糖質制限でうつ病を克服した実体験を持つ医師ですが、

世の中には糖質制限関係なしでうつ病を克服したという人もおられます。



うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 単行本 – 2017/1/19
田中 圭一 (著)


私はストレスマネジメントには、糖質制限に勝るとも劣らない効果があると考えています。

おそらくこの本には糖質制限関係なしにうつ病を克服できるほど優れたストレスマネジメントの方法が書かれているのであろうと思い、

興味を持って読み進めてみる事にしました。 著者の田中圭一さんはサラリーマン兼漫画家で、

勤めていたゲームソフト会社で過労に伴い営業成績が下がっていく経過とともに、

うつ病を発症するという自身の体験を、マンガでわかりやすく紹介されていました。

田中さんは自分がうつ病を起こした原因を「自分をキライになったこと」だと自己分析されています。

ささいなことのようですが、確かにこれは本質をついていると思います。

アドラー心理学における幸せのサイクルは「自己受容」に始まり、「他者信頼」「他者貢献」へとつながっていく流れでしたが、

自己嫌悪、あるいは自己否定はこれとは真逆であり、不幸せへと導く思考スタイルとも言えます。

こうした思考は自身に無駄なストレス反応を起こさせて、いつしか応答できなくなり疲弊する状況へと繋がりえます。

私自身の事を振り返れば、うつの真っ只中で仕事のミスが増え続けていた頃、「こんな医者がい続けたら世の中にとって迷惑だ」と自己嫌悪に陥った事は確かにありました。

そこから先のうつ病の克服方法が私は糖質制限でしたが、田中さんの場合は「自分を好きになる」というストレスマネジメントでした。

もう少し具体的に言うと、以下の4ステップです。

1. ありのままの自分を受け入れる
2. 「ーーねばならない」という考えは棄てる
3. ネガティブな言葉はやめて自分をほめる
4. アファーメーション(肯定的自己暗示):朝目覚めた時「自分をほめる言葉」を唱える


つまり根源的なストレスをもたらす思考スタイルを田中さんは根元から変えようと試みたのです。

おそらく田中さんのセロトニンは枯渇、もしくはセロトニン神経の疲弊はあったはずです。

以前の記事でも紹介したように、モノアミン仮説を前提としたうつ病治療戦略にとって大事なことは、材料と環境整備です。

田中さんは食事のことには一切触れていませんから、セロトニンの材料供給体制は一切変えずに、

毎朝「ボクは自分が大好き」だと暗示をかけ続けるなどアプローチでストレスに対する環境を整備していく事でうつ病に対応していったのです。

暗示で良くなるなんて信じられない人もいるかもしれませんが、

田中さんの場合は、この方法を3週間で気持ちが明るくなり、2ヶ月で自然と笑えるようになる経過をたどったそうです。

こうしてみるとストレスマネジメントにもなかなかの力がある事がうかがえます。

かたや私はそうしたアファーメーションなどは一切行わずに、糖質制限を行うだけで不思議と気持ちが晴れていく感覚を得ました。

糖質制限とストレスマネジメント、どちらの方法にもうつ病を治すポテンシャルはあると思うのですが、

田中さんのその後の経過でもう一つ注目すべき点がありました。

それは、季節の変わり目など気温が激しく変動する時期は、うつが再発しやすいということです。

おそらく田中さんは環境を整えてはいるものの、セロトニン機能は衰えたままの状態なので、

気温差などの外的ストレスで臨時のストレス反応が駆動され、そういう時だけストレス応答が不十分となり、うつになりやすくなっていたのではないかと推測します。

私の場合はうつ病克服から5年以上経ちますが、そういった気温変動での再発傾向は一切ありません。

今では私がかつてうつ病だったと言っても信じてもらえないくらい元気になっています。

途中で「アドラー心理学」というストレスマネジメント法に出会えた事も幸いしたかもしれません。


田中さんと私の経験から、

うつ病克服における糖質制限とストレスマネジメントの意義について見ていきましたが、

そうなると当然両方組み合わせればよりよい抗うつ効果が生まれるのではないかという発想は出てきて然るべきです。

ストレスマネジメントでうまくいかないうつ病には糖質制限を加え、

糖質制限だけでうまくいかないうつ病にはストレスマネジメントを加える。


そうすればかなりのうつ病はコントロールできるのではないかと私は考えています。


たがしゅう
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