短期的には成功でも、長期的には失敗のことがある

2017/02/22 00:00:01 | 失敗学 | コメント:0件

先日、漢方の名医の先生を囲む勉強会に参加して参りました。

ものすごく豊富な経験と卓越した治療技術を持っているにも関わらず、とても謙虚で何歳になっても学ぼうとする姿勢を持っておられ、私が大変尊敬している方です。

その先生がこんな事をおっしゃっていました。

「漢方医学にはなぜ効かなかったかという事に対する原因の考察が不足している。たとえ間違っていたとしてもいいから、効かなかった原因に対する自分なりの仮説を立て、それを検証すべきである」

これはまさに、失敗を次の成功に活かすための失敗学の考え方そのものであるように思うのです。 確かに、漢方の古典には、これこれこういうケースにこの処方が効きました、というような事は実に細かく記載されています。

しかし、「この処方ではうまくいかなかった。その原因はこうである」という記載はないわけではありませんが、比較的少ないかもしれません。

そして実際に取り組んでみればわかりますが、漢方は全てのケースに効くとは限りません。

言い換えれば再現性が低いという事にもなります。科学的な思考が強い人はこういう事に価値を見出しにくいかもしれませんが、

再現性が低いことが価値がないのではなく、再現性を保つための理論の構築が十分ではないという事だと思うのです。

それはすなわち、その問題をさらに突き詰める価値があるという事を意味します。特に漢方は実際に著効例が存在するわけですから。

そうした著効例を再現性高く得るためにはどうすればいいのか、これからも考え続ける必要があるという事なのだと私は考えています。


前述の漢方の名医の先生はこんな事も指摘して下さいました。

「漢方が効いた、効いたと喜んでばかりいてはいけない。それは単に一時的な効果に過ぎないだけかもしれない。その改善が歪みをもたらして長い目でみると結果的に悪い結末をもたらしているという事だってあるかもしれない。

だから10年とか20年とか長いスパンで患者の状態を追いかけていくという姿勢も必要だ」


医学関係の学会でしばしば執り行われる症例報告発表の多くは、

短期間の検証、せいぜい数年程度のスパンでこの薬がよかった、あの治療がよかった、この症例に難渋したというような報告ばかりです。

さまざまな発表を聞いて勉強してきたとしても、長期間を検証する視点がなければ木を見て森を見ずの状態に陥ってしまっているかもしれません。

その事を一番イメージしやすいのはステロイドにまつわる治療です。

ステロイドは確かに劇的な抗炎症作用をもたらし、自己免疫疾患や感染症をはじめとする炎症が主病態になるような病気の改善に他ではない貴重な治療効果をもたらします。

その反面、長期的に使用する事で様々な副作用が出る事がよく知られている薬です。

これはある種ドーピングのような側面があるように私には思えます。

すなわち、ステロイドを外部から投与する事でドーピング的に自分の持つ限界能力を超える力を発揮する事ができますが、

その状態が続けば身体の代謝に破綻をきたし、ドーピングに頼り続けた人間が晩年廃人のようになるが如く、長い目でみた時に害をきたします。

これは糖質の人体に対する影響と共通構造を持っているようにも思えます。

糖質も短期的には元気が出たり、ストレスに対抗したり、幸せを感じたりする効果があるわけですが、

長期的に糖質にさらされていると、糖尿病、動脈硬化、老化をはじめ様々な害があるということはこのブログの読者の方々ならよく承知されている所だと思います。

だから漢方も一時的に良いことは必ずしも長期的に良いとは限らないという視点を持って学ぶ事が大事だと思うのです。


ここで誤解してほしくないのは、10~20年の安全症例が出るまで漢方薬を使ってはいけないということではありません。

それだと「糖質制限は長期的安全性のエビデンスがない」と言って批判してくる医者達と同じです。

そうではなくて、一時の改善に慢心する事なく長い目で健康の問題を考えていきましょう、ということです。

そして長期的な安全を考える上で本当に大切な事は、プラスの発想ではなくマイナスの発想だと私は考えています。

漢方だろうとサプリメントだろうと、プラスの発想は必ず人体に何かしらの負荷をかけます。

従って一時的にプラスに頼る場面はあるにしても、その未知の負担による悪影響を最小限にするためには、いつかはそのプラス要因から離れる必要があるという事です。

一方のマイナスの発想は、身体にとって不必要なものを除き、人体本来の力を十分に発揮させるというアプローチです。

悪いものを取り除くわけですから、プラスの発想に比べて、長期的な安全性が確保されやすいという事は容易に理解できると思います。

そのように長期安全性を考える上では「優秀な物質をプラスする事よりも、明らかに有害な物質をマイナスしていく姿勢」を大事にすべきです。

その事を漢方の名医の先生から再確認させられたように思います。


たがしゅう
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