自閉症と糖質制限
2013/10/21 00:01:00 |
お勉強 |
コメント:12件
Kern JK, et al. Evidence of neurodegeneration in autism spectrum disorder. Transl Neurodegener. 2013 Aug 8;2(1):17. doi: 10.1186/2047-9158-2-17.
『自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder;ASD)は以前に獲得した技術や能力の損失によって特徴づけられるほとんどの子供が発達退行を経験する神経疾患である.退行してきた患児でみられるように,ASDにおける神経機能の喪失は,神経変性として説明することができる.ASDにおける神経変性や進行性脳症の研究での根拠はあるが,ASDにおける神経変性の問題についてはいまだ議論の中にある.ASDの脳における神経変性の根拠は以下のものが挙げられる.それは(1)神経細胞の減少,(2)活性化ミクログリアとアストロサイト,(3)炎症性サイトカイン,(4)酸化ストレス, (5)8-オキソ-グアノシン値の上昇,である.このレビュー論文から得られた根拠は退行や以前に獲得した技術や能力を失うことを経験するASDの子供達における神経機能の喪失の基礎に神経変性という現象があり,ASDでの神経変性の問題に対処するための治療法の研究が保証されることを示唆している.』
こどもに糖質制限をすべきかどうか,という問題はいまだ議論の分かれるところだと思いますが,
私は基本的にはこどもにも糖質制限を勧めるべきだとする立場です.
なぜなら今の世の中で何も意識せずに/あるいは従来の健康常識で言われるがままの食生活を送っていたら,まず間違いなく糖質過多に陥ってしまうということ,
そして糖質制限で起こりうるトラブルよりも糖質過多で起こりうるトラブルの方がはるかに大きく根が深いからです. その事について考えさせられる,ある一つの病気があります.
みなさんは,「自閉症」という病気の事を御存知でしょうか.
自閉症(Autism)とは,Wikipediaによれば「社会性や他者とのコミュニケーション能力に困難が生じる障害の一種。先天性の脳機能障害とされるが、脳機能上の異常から認知障害の発症へといたる具体的なメカニズムについては未解明の部分が多い」とあります.
平たくいえば,世の中的に自閉症は「原因不明の発達障害」と位置付けらていると思います.
一方,精神疾患というのは糖尿病のように「HbA1cが高ければ糖尿病」というようにシンプルな客観的指標があるわけではありません.
最近精神疾患の診断基準として有名な「精神障害の診断と統計の手引き(DSM)」が第5版へ改版となりましたが,
この中では「社交性,コミュニケーションの質的損傷,および行動,興味,活動の制限されたまたは固定化したパターンをもつ神経学的障害のことを総称して,自閉症スペクトラム障害と呼ぶ」とされました.
要するに,一口に自閉症といっても「幅がある」ということです.
また,原因不明なのですが,アメリカではこの自閉症の患者数がここ20年で劇的に増加してきており,今や50人に1人のこどもにみられるまでに増えてきているそうです.
アメリカでは生活習慣病,糖尿病,メタボ急増の背景もあります.
症状の個人差,幅の広がり,近年患者数が急増してきていること,これらは現代の糖質過多環境と無関係でないように思えます.
そしてこの自閉症にも糖質制限が有効である可能性が見えてきました.
注目するのは,酸化ストレス,およびそれによって引き起こされる「神経変性」という現象です.
先の記事で酸化ストレスを減らすことができる糖質制限はアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に対しても有効であるかもしれないという事を述べて参りました.
今回紹介した論文では,この自閉症の神経機能の損失にも「神経変性」が関わってるという内容なのです.
実際,小集団ではありますが,自閉症患者へ中鎖脂肪酸を中心としたケトン食療法を半年間断続的に行って半数以上の患児の異常行動を中等度からかなりの程度まで改善させたという研究報告もございました(Evangeliou et al., 2003).
さらにケトン食のメカニズムで触れた,アデノシンという物質が,内因性の神経調節因子,すなわち天然の抗てんかん薬として作用し,自閉症行動の改善に一役買っているという可能性が指摘されています(Masino et al., 2011)。
もちろん,全てが全てこれで自閉症が治るとまではいかないかもしれませんが,
自閉症の根本的な治療法が確立されていない中で,これは大きな福音になるのではないでしょうか.
それと同時にこどもの病気の中にも原因不明とされているものは他にも多くありますが(アトピー性皮膚炎,気管支喘息,てんかんなど),
間接的に糖質の過剰摂取が関わっていると考えられる場合も多々あります.
特に,ちょっと大雑把な見方かもしれませんが,近年患者数が増え続けている病気に関しては,なおのこと糖質の関与があるのではないかと勘繰ってしまいます.
一方糖質を制限することで予想されるデメリットで一番大きなものは,成長障害です.
強い糖質制限であるケトン食には,低身長という副作用が起こりえます.
どうやら正常の脳発達において2~8歳の成長期には脳でののブドウ糖代謝率が成人の2倍になるというデータがあるということが関係していそうです(Chugani HT, Phelps ME.Imaging human brain development with positron emission tomography. J Nucl Med. 1991 Jan;32(1):23-6.).
しかし古典的ケトン食(糖質4%)はともかく,個人的には江部先生のスーパー糖質制限食/修正アトキンス食をベースとした無理のない糖質制限であれば,そうした糖質需要を下回るということはまずないのではないかと思われます.
ともあれ,原因不明な病気に対しても,「有害なものをまずは抜く」ということが肝要です.
いったんフラットな状態にして,それでも残る問題に対してさらに対策を考えるという姿勢です.
これは糖質制限,湿潤療法,認知症コウノメソッド,がん治療問題,精神科の過剰投薬問題などに共通して求められる原理だと考えます.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ここも、悩みのポイントです
この話題、待ってました。
我が子は中学1年の女子と、小学4年男子
共にスキーの選手です。
糖質制限が子供にも良い影響を与えるだろうということは、私も感じます。
必ずや頭がすっきりして、勉強に集中できるでしょう。息子に限っては、遊びに集中していますが・・・
しかし、今戦っているライバル・・・よく食べて体の大きな子どもたちに、糖質制限食をする我が子が勝てるのだろうか?
スキーはもちろん技術が第一ですが、やはり体格も必要です。体重があれば、早いです。
人生の中では何分の一?ではありますが、競技人生10~15年の間、どのような栄養管理をすればよいのか、悩んでいます。
大人の選手と、成長期の子供では話もきっと、違うでしょう。
我が子が成長した頃に、ある程度の結論がでてくるのでしょうか・・・
自分の頭のなかで葛藤しています。
たがしゅうさんのブログを人伝で聞いてなら毎日欠かさずチェックしています。大変勉強になります。
さて、低身長と糖質制限についてですが、塩野七生、ローマ人の物語にゲルマン人は身長が高いのは、主食が肉食生活でローマ人が身長が低いのは主食が小麦だから、と書いてありました。
ゲルマン人は当時は狩猟民族であり、糖質を摂取してる生活をしていたとは考えられません。
私の場合は糖質制限生活をして肉食生活をすれば身長は高くなると考えています。
科学的根拠もなく、最初の書き込みが批判的になってしまいましたが、たがしゅうさんの活動は応援しています。
これからも、どんどん発信して下さい。
自閉症スペクトラムと食事制限
自閉症に気づくきっかけが、ひどい偏食ということがあります。
小児科ではある特定の食べ物に固執する子の鑑別診断に自閉症があげられます。
どうやって食事制限にもっていったのでしょうか。
興味あります。
神経細胞の保護と身長のどちらをとるか、
悩ましいですね。実際やるのは家族なので、
とくにお母さんが暴走しないかどうか。
以前アトピー性皮膚炎の食事療法で、
何人も栄養障害をおこしたのを経験してるので、
若干及び腰になるのは避けられないかも。
1型糖尿病のように、命にかかわる場合は別ですが。
炭水化物はすべておやつと説明しているのですが、
それぐらいが限度かもしれません。
Re: ここも、悩みのポイントです
いつもコメントを頂き有難うございます。
> 我が子が成長した頃に、ある程度の結論がでてくるのでしょうか・・・
> 自分の頭のなかで葛藤しています。
悩むところですよね。
私にはまだこどもがいないので、好き勝手な事言ってますが、
実際子を持つ親の立場としては悩むのが当然だと思います。
エビデンスはこれから我々が作っていきましょう。
Re: タイトルなし
はじめまして、コメントを頂いて有難うございます。
> 塩野七生、ローマ人の物語にゲルマン人は身長が高いのは、主食が肉食生活でローマ人が身長が低いのは主食が小麦だから、と書いてありました。
> ゲルマン人は当時は狩猟民族であり、糖質を摂取してる生活をしていたとは考えられません。
> 私の場合は糖質制限生活をして肉食生活をすれば身長は高くなると考えています。
貴重な情報と御意見を頂き有難うございます。
こどもへの糖質制限はそれぞれが考え抜かなければならない問題です。
こうした情報はそれを考える上で非常に参考になります。
これからもできる限り続けて参りますので、宜しくお願い申し上げます。
Re: 自閉症スペクトラムと食事制限
現場からの貴重な御意見を頂き深謝申し上げます。
> 自閉症のお子さんに食事制限をするのはとても大変です。
> 自閉症に気づくきっかけが、ひどい偏食ということがあります。
> 小児科ではある特定の食べ物に固執する子の鑑別診断に自閉症があげられます。
> どうやって食事制限にもっていったのでしょうか。
> 興味あります。
なるほど、言うは易し、行うは難しですね。
ただこの夏、難治性てんかんへケトン食療法を積極的に推進されているある病院の小児科へお邪魔して、患者さんにもいろいろとインタビューして参りましたが、
親御さんの情熱は相当なものでした。
古典的なケトン食は続けるにはなかなか難しい食事療法ですが、
「それまでの1日に何度も発作に見舞われる日々を思うと全然苦にはならない」とおっしゃっていました。
家族がどれだけ食事療法に真剣に取り組めるかどうかも重要であると思います。
管理人のみ閲覧できます
Re: タイトルなし
貴重な情報を有難うございます.
是非とも見させて頂きたいと思います.
No title
私が尊敬(膨大な知識の持ち主)する人の一人、「松岡正剛氏」がこんな書評を書いて下さっておりましたので紹介します。
アラン・ホーウィッツ&ジェローム・ウェイクフィールド
『それは「うつ」ではない』
どんな悲しみも「うつ」にされてしまう理由
http://1000ya.isis.ne.jp/
の1522話です。少し長いですが、ご参考まで・・・
Re: No title
いつも有益なコメント情報を頂き誠に有難うございます。
興味深いですね。またゆっくりと読ませて頂きます。
J-GLOBALで検索
小児てんかん症患者における長期実施およびケトン食中止後の追いつき成長
http://jglobal.jst.go.jp/detail.php?JGLOBAL_ID=201302292268275601&q=%E3%82%B1%E3%83%88%E3%83%B3%E9%A3%9F&t=0
元論文はこれです
http://www.clinicalnutritionjournal.com/article/S0261-5614(12)00119-7/fulltext
J-GLOBALで”糖質制限”や”ケトン食”を検索してみて下さい。興味ある文献がたくさんみつかります
http://jglobal.jst.go.jp/
Re: J-GLOBALで検索
いつも貴重な情報を頂き誠に有難うございます。
> Catch-up growth after long-term implementation and weaning from ketogenic diet in pediatric epileptic patients
>
> 小児てんかん症患者における長期実施およびケトン食中止後の追いつき成長
朗報ですね。
これでこどもにも糖質制限/ケトン食を勧める理由がまた増えたかもしれません。
じっくり読んでみようと思います。
また先生からの情報依存にならないよう、自分でも情報を見つけられるように頑張りたいと思います。ご指導頂き誠に有難うございます。
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