実際にやってみないとわからないこと
2013/10/22 00:01:00 |
よくないと思うこと |
コメント:4件
私は糖質制限をすることによってうつ病がよくなるという事を自分で体験しています。
そして糖質制限の事を勉強していけばいくほど、うつ病だけでなく、認知症や自閉症など幅広い範囲の精神疾患にも糖質制限が有効である可能性を秘めているという考えに及んでいます。
しかし先日も紹介した糖質制限批判本である『本当は怖い「糖質制限」:岡本卓 著』での「第3章 糖質制限が病気をつくる」の中で、「糖質制限で,うつ病になる」という記載もありました。
これは聞き捨てなりません。というより全く納得がいきません。なぜなら私は糖質制限で実際にうつ病がよくなっているのですから。
今回はこの「糖質制限で、うつ病になる」の項について検証したいと思います。 それではまず、この項で何が書かれているのかを確認してみましょう。
~以下、抜粋~
うつ病は対人関係、夫婦関係、仕事の悩み、身内の死などで心に大きなストレスをかかえると、脳内神経細胞間の情報伝達量が不足したり、脳内神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが減少して、発症するといわれています。
セロトニンは、主に魚類、肉類などの動物性タンパク質から分解されるトリプトファンという必須アミノ酸と、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウムなどの微量栄養素から合成されます。
このセロトニン不足に糖質制限が大きくかかわっているのです。このようにいうと、「糖質制限をしている人は肉類を多く食べます。したがって、セロトニンの原料であるトリプトファンも十分補っているはずなのに、なぜセロトニンが不足するの」と、疑問がわいてきませんか。
実は、炭水化物はセロトニン産生に大きくかかわり、トリプトファンを他のアミノ酸よりも増大させる作用があるのです。
たしかに、タンパク質を多くとる糖質制限食では、トリプトファンの摂取量が増えるのですが、糖質を制限すると、トリプトファンを合成する働きが低下してしまうのです。
1998年、オランダのマルクス博士らは、「糖質が多くタンパク質の少ない食事は、糖質制限食に比較して、トリプトファンとその他のアミノ酸の比率が高くなる」と証明しました。
そして実験により、「ストレスを与えた場合、糖質制限食でタンパク質が多い食事は、うつ状態、活力の低下、コルチゾール(ストレスホルモン)の上昇などが認められるが、糖質の多い食事ではそのような作用はなかった」としています(Appetite 1998;31:49-65)。
つまり、トリプトファンを多く含むタンパク質をいくら食べても、糖質をとらなければうつ病になりやすい、ごはんの代わりにいくらステーキを食べてもセロトニンは不足する、ということです。
~抜粋、ここまで~
著者の論理をまとめるとこういう事になります。
「うつ病はセロトニン不足で起こる」
→「炭水化物はセロトニンの元であるトリプトファンの取り込みを増やす」
→「糖質制限食は炭水化物が少なくなるので、トリプトファンが取り込めない」
→「トリプトファンが取り込めないとセロトニン不足になって、うつ病になる」
一見まともな論理に見えます。
そして、紹介されていた論文も確認しましたが、どうやら高炭水化物低タンパク食(炭水化物66.2%、タンパク質3.6%)に比べて、高タンパク食低炭水化物食(炭水化物40.4%、タンパク質26.3%)の方がトリプトファンの濃度が確かに低いようです。
それでは次にどうしてそういう事が起こるのか、栄養学的な背景を確認してみます。
ヒューマン・ニュートリション 基礎・食事・臨床 第10版
JS Garrow
WPT james
A Ralph 編
日本語版監修 細谷憲政
人類栄養学のバイブルであるこちらの本によりますと、トリプトファンと脳機能に関連して次のように書かれています。
(以下、抜粋)
トリプトファンとフェニルアラニンとチロシンの脳への取り込みは大型中性アミノ酸(large neutral amino acids;LNAA:ロイシン、バリン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニン、メチオニンが含まれる)に特異的な輸送システムによって担われている。
バリン、ロイシン、イソロイシン(まとめて分岐鎖アミノ酸という)も同じシステムで輸送される。
インスリン分泌を刺激するデンプンや糖を摂取するとこれらの分岐鎖アミノ酸は筋肉に取り込まれ選択的に血漿中濃度が低下する。
この分岐鎖アミノ酸の低下は脳への取り込みで競合するトリプトファンやチロシンに有利に作用する。
これにより、脳内でトリプトファンから5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT;セロトニン)生合成の誘導が起こるため、高炭水化物食を摂取した後には眠気や気分の変化が生じると説明できると考えられている
(抜粋、ここまで)
これを簡単にまとめると
「糖質摂取」→「インスリン分泌」
→「分岐鎖アミノ酸が筋肉に取り込まれ、そのおかげでトリプトファン取り込みやすくなる」
→「トリプトファンからセロトニン合成」
著者の論理通り、高炭水化物の方がセロトニンを高めやすいということになります。
それでは本当に糖質制限をするとセロトニンが下がってうつ病になってしまうのでしょうか。
いえ、そうではありません。すでにケトン食のメカニズムの記事で紹介したように、実際にはケトン食のような強い糖質制限を行うことで、セロトニン系が賦活されることがわかっているのです。
さぁ、はたしてこの二つの矛盾する現象をどう解釈すればよいでしょうか。
ここから先は私の考えになりますが、
トリプトファンを有効に利用できるようにするための鍵は糖質ではなく、インスリンにあると考えます。
糖質制限を実践中は理論上、基礎インスリンのみが分泌されている状態になります。
トリプトファンに限らず、摂取した蛋白質を有効に取り込み血となり肉となるための同化ホルモンとしてのインスリンの役割は実は基礎インスリンで十分なのです。
一方で糖質を摂ると追加インスリンが分泌されるので、さらにトリプトファン濃度が高まり、この瞬間非常に多幸感が生まれ、その後眠気を生じます。この現象はセロトニンの乱高下によって起こっているとも考えられます。
別の言い方をすれば、不自然なセロトニン上昇とも言えます。
それでは、著者が紹介された論文では著者が糖質制限食と称する高タンパク食低炭水化物食(炭水化物40.4%、タンパク質26.3%)では、うつ状態、活力の低下、コルチゾール(ストレスホルモン)の上昇などが認められるという結果、これはどう説明すればよいでしょうか。
ここで糖質の依存性の問題を思い出して下さい。
糖質を日常的にとっていると、普段のエネルギーを糖質に頼るようになります。糖質が切れるとまた新たな糖質を欲する、というようにタバコのニコチン切れと同じ状況になります。
そういう糖質に依存した状況では、追加インスリン分泌でないと満足のいくセロトニン上昇が得られないようになり、結果的にストレスを回避することができない状態に陥る、だからうつ状態になるのではないかと思うのです。
中途半端な糖質制限ではなく糖質を徹底的に排除し、依存状態から逃れてケトン体エネルギーを中心としたシステムに切り替われば、おそらく基礎インスリンでも十分トリプトファンは合成され、その結果ケトン食でセロトニン系が賦活されているのではないかと考えます。
今回の場合は私の考えも仮説止まりなので、どちらが正しいのか科学的にはまだ決着がつけられないのかもしれませんが、
どちらが正しいのかは私の実体験が教えてくれています。
やはり実際に糖質制限をやらない人は、
糖質制限について語る資格はないと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
うつ症状と糖質制限 そして低血糖
いつも熱意と愛情にあふれるブログありがとうございます
実体験をもとに判断する! とても大切ですね
一般論ではなく一人一人の中で何が起きているのかをきちんと洞察するのも重要だと思います
甘いものを摂った時の快感を得るためにチョコレートや甘いものにはまって抜け出せなくなっていた方をたくさん見てきましたので、糖質をオフし、同時に食べ物を変えてセトロニンの合成能力自体を高めることが大切だと感じています
うつ症状や低血糖症の方の糖質制限導入当初は全員がスムーズに改善するわけではありません。
ご本人が原因をよく理解して、自分から取り組むことが大切です。
サポート役としては、初期に起きうる様々なことの予測をして適切なアドバイスをすることが求められます。日々勉強です。
今後もブログ楽しみにしております
TrueLifeより
P.S.台風が近づいていますので皆様お気をつけて
Re: うつ症状と糖質制限 そして低血糖
コメントを頂き有難うございます.
思うに糖質を摂取し追加インスリン分泌でセロトニンを増やすという方法は「付け焼刃」,あるいは「その場しのぎ」なのだと思います.長くは持ちませんし,その中毒性がさらなる依存心を生み,悪循環を作り,そこから抜け出せなくなります.SSRIなどの抗うつ薬と近い構図です.
一方,糖質制限ベースで基礎インスリンで十分にセロトニンを増やすことができるようになることは,「底力を作ること」だと思います.慣れれば多少のストレスには耐えられるようになるということを私は実感しています.
マラソン選手が少ない心拍で最大限のパフォーマンスを発揮する感じと似ていますね.
>サポート役としては、初期に起きうる様々なことの予測をして適切なアドバイスをすることが求められます。日々勉強です。
私も同じく日々勉強ですが,糖質制限を知る前に比べると何倍も大きく生きがいを感じています.
質問
糖質制限でうつ病が良くなったという内容にとても興味があります。
うつ病の薬は飲まれていたのでしょうか?
Re: 質問
御質問頂き有難うございます。
> うつ病の薬は飲まれていたのでしょうか?
はい、飲んでいた事があります。
その結果、糖質制限の抗うつ効果は、薬のそれをはるかに上回る効果だと実感しました。
2013年9月24日(火)の本ブログ記事
「うつ病と糖質制限」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-32.html
も御参照下さい。
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