うつ病と認知症の関係

2013/10/18 00:01:00 | 認知症 | コメント:6件

うつ病と認知症の間には密接な関連があるとされています。

特に高齢者においてはその傾向が強くみられており、一般的にはうつは認知症(特にアルツハイマー型認知症)の前駆状態としても捉えられています。

また、うつも認知症もともに高齢者に多くみられます。65歳以上において抑うつ症状は約30%、認知症は約15%にみられると言われています。

これらは高血圧、糖尿病をはじめとした生活習慣病が近年増加してきていることとリンクしている現象に思えます。

そしてうつと認知症は併存しやすいという特徴もあります。

今日はなぜうつと認知症の間に密接な関連があるのかについて考えてみたいと思います。

うつ病にしても、認知症にしても、どうしてそういう事が起こるのかという原因は実はまだ十分に解明されているとは言えません。

よく言われる「うつ病でセロトニンが低下」、「認知症でアセチルコリンが低下」といった神経伝達物質のバランス問題は、一つの現象を説明しているに過ぎず、本当の原因はまだわからずじまいなのです。

しかし一つ注目されている事象があります。

それは「アミロイドベータ(※以下、Aβ)」と呼ばれる変性した異常蛋白の存在です。

認知症の原因となる病気の中で最も頻度の多い「アルツハイマー型認知症(※以下、AD)」という病気は、このAβが脳内の記憶に関連する領域を中心に蓄積していくという現象が明らかになっています。

一方、うつに関しても「うつとAβの量に相関があるのではないか」ということが複数の臨床研究で示されてきています。

それは本当だろうかと確かめようとしている研究があったのでそれを紹介致します。

Direk N, et al. Plasma amyloid β, depression, and dementia in community-dwelling elderly. J Psychiatr Res. 2013 Apr;47(4):479-85.

血漿Aβ濃度はADのリスク増大と関連がある。

我々は縦断的にうつとAβ濃度の関係を地域高齢者住民の調査で検討した。

ロッテルダム研究のAβを測定した980人の60歳以上の高齢者住民を対象とした。
うつはCentre for Epidemiological Studies-Depression scaleで11年間繰り返し調べた。

横断研究では認知症がなく、Aβ1-40が高値でうつ傾向がみられた。
この関連はその後の11年で認知症に進展した例にみられた。

縦断研究では認知症がなくAβ1-40やAβ1-42が低値であるとフォロー期間中にうつになりやすい傾向にあった。

これらの結果から横断研究ではAβが高値であれば認知症の前段階としてのうつになりやすく、縦断研究ではAβが低値でうつ状態になっており、うつの疫学はAβでは説明できない結果であった。


ある1時点での状態を評価するのが「横断研究」、それに対して一定の期間をかけて評価した項目がどう推移していくのかを調べていくのが「縦断研究」です。

一般的には縦断研究の方が信頼度が高いとされています。

Aβでうつと認知症の関係を説明しようとすると、普通に考えれば、

 正常:Aβ正常
 うつ病:Aβ軽く上昇
 認知症:Aβ大きく上昇 

という結果になると考えると思います。おそらくこの研究者の方々もそういう結果を予想していたでしょう。

しかし、実際は予想に反して、うつの人はむしろAβが低かったというのがこの論文の結果です。

さて、この結果をどう解釈すればよいでいいでしょうか。



こういう時にも事実を元に考えることが大事です。

まずうつ病の人が認知症になりやすいという疫学的な証拠はたくさん集積されてきています。これは事実です。

そしてADの人に脳内Aβが多いということにもほぼ間違いない現象です。

でもうつは必ずしもAβが高くなっていないという事実。


私ならこう考えます。

うつ病はAβを可逆的に除去しうる状態で、認知症はAβを処理しきれず蓄積してしまった状態ではないかと。すなわち、

 正常:Aβがたまっていない
 うつ病:Aβがたまってきたけど、まだ自分の力で除去できる可逆的な状態
  (Aβ上昇もAβ低下も両方ありうる)
 認知症:Aβがたまってきて、もはや自分の力では処理しきれなくなった不可逆的な状態(全員Aβ上昇)

実際にはそれぞれの中間の状態などボーダーラインやグレーゾーンが数多く存在していると思います。

そしてAβを除去する人体のシステムの一つとして知られているのが「ネプリライシン」という酵素です。

このネプリライシンはAβを分解する働きとともに、「インスリンを分解する」という役割も持っています。

糖質を取り過ぎてインスリンがたくさん出るとネプリライシンはAβを処理する前に緊急事態である高インスリン血症を抑えるために優先的にインスリンを分解しようとし、その結果Aβの分解が追いつかなくなりAβがたまっていく。

いろいろなことが一本の線につながってきませんか。

そしてAβを作る大元として私は酸化ストレスに注目しています。

酸化ストレスがかかることで蛋白の変性が起こりえます。それによってAβができるのか、それ以外の変性蛋白ができるのかということは個々の体質差があると思いますが、

いずれにしても最上流にある酸化ストレスという現象にアプローチできればそれが根本治療につながるのではないかと考えています。

だから酸化ストレスを減らしAβを蓄積させないようにし、なおかつインスリンの分泌も抑えることができる糖質制限はうつ病にも認知症にも有効であると考えます。

しかも私は、自分自身が糖質制限でうつを克服した経験を実際に持っているので、

うつ病も認知症も糖質制限で改善できるということをかなり強く確信しています。


たがしゅう
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コメント

 

2013/10/19(土) 10:41:01 | URL | 刀鍛冶 #mQop/nM.
アミロイドβとインスリン、インスリン分解酵素のお話は
ためしてガッテンで観て知りました
http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20120926.html
でも同番組で強化インスリン療法とかも紹介してるので
反省や自己批判はしないんですかねNHKは(^^ゞ

先生質問です
糖質を摂取してからそれが酸化ストレス(=活性酸素?)に
なるまでのしくみを教えて下さい

Re:  

2013/10/19(土) 14:01:32 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
刀鍛冶 さん

 コメントと御質問を頂き有難うございます。

> 糖質を摂取してからそれが酸化ストレス(=活性酸素?)に
> なるまでのしくみを教えて下さい


 糖質を摂取し血糖値が上がると、身体に必要な蛋白質が変性(細胞内の非酵素的糖化反応)し、活性酸素が産生するといわれています。また糖化により、活性酸素を除去するSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)という酵素も変性し失活し、結果的に活性酸素が増えて、酸化ストレスが増大するというのがメカニズムの一端です。

 そして高血糖は高血糖でも、持続的な高血糖よりも「平均血糖変動幅増大」と「食後高血糖」の方が大きな酸化ストレスリスクとなるということがJAMAの論文で報告されています(Monnier L, et al. Activation of oxidative stress by acute glucose fluctuations compared with sustained chronic hyperglycemia in patients with type 2 diabetes. JAMA. 2006 Apr 12;295(14):1681-7.)。

No title

2013/10/19(土) 22:21:08 | URL | SLEEP #mQop/nM.
たがしゅうさん

面白い記事がありました。
http://ggsoku.com/tech/brain-flushing-toxins-out-during-sleep/

認知症の祖母を見てると夜中浅い眠りで、朝六時ごろ起きてごはんを食べてから居間で寝てます。糖質制限すると夢も見ないぐらい深い眠りで短時間で驚くほど疲れが取れますが、皮膚や粘膜がそうであるように脳内も糖質制限で強く健康になるのかもしれませんね。

個人的経験で言えば糖質制限で頭頂部の禿げも吹き出物もハウスダストアレルギーから来る目や鼻の痒みも治りましたが、頭の中も外も治してくれるとしたらまさにノーベル賞ものですね。

Re: No title

2013/10/20(日) 07:50:01 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
SLEEP さん

 貴重な情報を頂き有難うございます。

 「グリンパティック系」という言葉は正直初めて聞きました。

 睡眠の質の重要性を意識することにつながりますね。勉強になります。

> 個人的経験で言えば糖質制限で頭頂部の禿げも吹き出物もハウスダストアレルギーから来る目や鼻の痒みも治りましたが、頭の中も外も治してくれるとしたらまさにノーベル賞ものですね。

 同感です。

 有効性、守備範囲の広さ、即時性という意味からもiPS細胞以上の貢献度だと思います。

ケアネットから

2013/12/23(月) 22:56:43 | URL | わんわんこと長谷川 #n.5uQ5aw
公開日:2013/12/23

2050年には1億3,500万人が認知症に

 国際アルツハイマー病協会(ADI)は、世界の認知症患者数が2050年までに3倍以上になる可能性があると、12月11日、ロンドンで開催されたG8認知症サミットで発表した。
 現在、世界の認知症患者は推定4,400万人だが、2030年には7,600万人、2050年には1億3,500万人になると予測されるという。1億3,500万人という数字は、ADIが「2009年世界アルツハイマー病レポート」で推定した数よりも17%多い。
 今回の報告は、世界における認知症患者の分布が最富裕国から中・低所得国に移行することも予測しており、2050年には認知症患者の71%を中・低所得国居住者が占めるという。広い地域で均質の認知症ケアが必要となり、そのための研究を世界的な優先事項としなければならない。ADIは、政策決定、保健・社会医療サービス、医療制度の策定を同程度に重視するよう奨めている。

 G8認知症サミットでは、認知症研究と政策の新しい国際的アプローチを模索している。ADIのMarc Wortmann氏は、「G8の国だけでなくすべての国が、認知症の研究を持続的に増進していかなければならない」と述べている。ADIは、「認知症の蔓延に対して政府、産業、非営利団体共同の世界的な行動計画が緊急に必要である」としている。

 * * * * * * * * *

健康で長生きしたいですね。
高齢化の進展 イコール 認知症患者は増大するという風に、単純に考えずに、認知症の原因究明をしてほしいものです・・・。

Re: ケアネットから

2013/12/23(月) 23:48:04 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
わんわん さん

 情報を頂き有難うございます。

> 「認知症の蔓延に対して政府、産業、非営利団体共同の世界的な行動計画が緊急に必要である」
> 高齢化の進展 イコール 認知症患者は増大するという風に、単純に考えずに、認知症の原因究明をしてほしいものです・・・。


 全く同感です。しかし2050年までには糖質制限の理解者、実践者はおそらくさらに増えると思います。

 試算通りにはさせないように私はできる努力を続けたいと思います。

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