「効く」という事実を大事に

2014/11/22 00:01:00 | 漢方のこと | コメント:4件

なぜ糖質制限で「風邪」が軽症化するのかと言いますと、

身体が治ろうとする力を邪魔するものを排除し、治るために必要な物質の材料をしっかりと補うからです。

西洋薬での対症療法の多くは、基本的に治ろうとする力を犠牲にして症状を軽減する方法ですので、それと比べると全く違うアプローチをしている事がわかります。

一方で、今日は漢方の「風邪」に対する戦略について考えてみたいと思います。

そもそも漢方は「診断」にこだわりません。

西洋医学による治療の場合、ひきはじめであろうと多少時間がたった状態であろうと「風邪」は「風邪」、抗生物質や一般的な風邪薬などが処方される事になると思いますが、

漢方の場合は、同じ「風邪」であっても刻一刻と変わる身体の状態によって

使うべき最適な漢方薬が異なるという特徴があるのです。 例えば、本ブログでとりあげた麻黄湯葛根湯は、風邪のひきはじめ(急性期)に用いる代表的な方剤ですが、

これらは実証といって比較的体力のある人に使う方剤であって、

同じ急性期でも高齢者や虚弱体質の人などには、桂枝湯(けいしとう)や麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)という方剤を使ったりする場合があります。

また少し時間が経った風邪には「小柴胡湯(しょうさいことう)」や「柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)」という方剤を使ったり、

風邪がなおるはずの時期に空咳だけやたらと残るような状態には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」という方剤が有効であったりします。

さらに鼻水が主体の風邪には「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」、喉痛が主体の風邪には「桔梗湯(ききょうとう)」という方剤を使います。

またなかなか治らない風邪に対しては「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という方剤で、体力全体を立ち上げる戦略もあります。


このようにまず漢方には「風邪」一つとっても、用いる漢方薬の選択肢が様々あって、

その人の状態に合わせたオーダーメイドの治療であるということです。

一辺倒に抗生物質や風邪薬を処方する西洋医学に基づいた治療よりよほど丁寧だと思いませんか。

すぐれた漢方医は、自分が風邪をひいた時に数時間おきに飲む漢方薬を変え、1日か2日で治してしまうという話もあるほどです。

ただ「なぜこの状態にこの漢方薬が効くのか」という理由に関しては、はっきり言って経験則に頼っているところが大きいです。

従って漢方療法には、糖質制限ほどの百発百中さはありません。

しかし、なぜ漢方が効くのかというメカニズムの解析は少しずつではありますが進んできています。

例えば麻黄湯はエフェドリンという交感神経を高める成分によって汗をかかせて解熱させます。

これは身体の治ろうとするメカニズムを手伝っている事がわかりますし、

一方で使うタイミングや状態を間違えると動悸がしたり頭痛がしたりしてしまう事もわかります。

あるいは補中益気湯には抗酸化作用がある事がわかっていますので、弱った身体によいというのも頷ける話です。

これも身体が治ろうとするのを邪魔しない発想です。

漢方薬というのは動植物、一部は鉱物から抽出した複数の生薬の混合物、すなわち食べ物のようなものです。

糖質制限のような食事療法に通じますが、

食べ物や食べ方を変えるというアプローチは、

基本的には自然に備わったメカニズムを大きく変えることなく、メカニズムの駆動の仕方を調整するというアプローチなのだと思います。

だから「風邪」という異物排除のための一連の生体防御反応にかかる期間を短縮できるのではないかと思うわけです。


「なぜ効くかわからないけど確かに効く」

この事実を無視せず、きちんと経験を蓄積し続けてきた所に漢方の良さがあると私は思っています。

今の医学で解明されていなくても、後で理由がわかってくる事もあるということです。

そういう意味で事実をありのままに残しておくことは、

後の時代での検証に非常に役立つと思います。


たがしゅう
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コメント

No title

2014/11/22(土) 06:56:14 | URL | 栗田 #U7CTLDyk
たがしゅう先生

私は45歳男です。もう20年間風邪の症状が出てません。抗菌剤鎮痛剤も20年以上使っていません。若い頃、すぐに薬を用いてました。特に頭痛に対しての対症療法として安易に鎮痛剤を服用していました。薬を遠ざけてから免疫力が高まった事がわかります。

糖質制限をはじめた今、益々風邪を引きにくい体質になった気がします。それは体質が大きく変わった事を実感しているからです。糖質をやめて口腔内が常にサラサラした唾液で満たされています。舌苔がなくなりました。これは倦怠感等の不快な症状がなくなった事、よく眠れるようになった事(早朝覚醒なくなった)のあとにあらわれてきました。便秘や下痢も糖質制限してからおこりにくくなり良い事ばかりです。

Re: No title

2014/11/22(土) 07:11:15 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
栗田 さん

 コメント頂き有難うございます。

> 糖質制限をはじめた今、益々風邪を引きにくい体質になった気がします。それは体質が大きく変わった事を実感しているからです。糖質をやめて口腔内が常にサラサラした唾液で満たされています。舌苔がなくなりました。これは倦怠感等の不快な症状がなくなった事、よく眠れるようになった事(早朝覚醒なくなった)のあとにあらわれてきました。便秘や下痢も糖質制限してからおこりにくくなり良い事ばかりです。

 単一の薬では決して成し遂げられない、糖質制限の奥深さを表していますね。素晴らしいです。

No title

2014/11/22(土) 10:14:21 | URL | アンチスタチン主義 #-
日本の臨床現場は「風邪=抗生物質・消炎鎮痛剤・抗ヒスタミン剤」がほとんどですからね。
あまり意味のないクスリをもらうためだけに受診
軽い気持ちで行くと酷い目に遭うかもしれない
TENとかSTSとかアナフィラキシーとかですね。
風邪で診療所でクスリもらって、クスリの重篤な副作用で入院とか誰でも起こりうるわけで
特に食習慣や生活習慣の乱れている人は要注意でしょうね。病気にもなりやすい上にクスリで重篤な副作用もでやすい。
結局は健康維持というのは自己責任です。
ただし重篤な細菌感染症の場合は、抗生物質が命を救う事もある。副作用のリスクを上回る必要性があるのかをよく考えてクスリを処方すべきだし、それに納得して内服すべき。
風邪症状の場合は重症や長期化でないかぎり受診しないというのも一つの防衛策ですが、クスリを飲みたくなければキッパリと断るようにしましょう。
また医療機関を受診する人はクスリの危険性についてネットや書籍でもっと勉強しましょう。
漢方薬は短期使用であれば重篤な副作用のリスクはほとんどないですが、長期内服すると血圧上昇、カリウム低下、間質性肺炎など副作用のリスクが出てきますので、漢方薬=安全と思わないほうが賢明です。
結局クスリはリスクをはらんでいるので、できるだけ飲まずに済ますにこしたことはないという事に尽きますね。





Re: No title

2014/11/23(日) 07:26:54 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
アンチスタチン主義 さん

 コメント頂き有難うございます。

> 漢方薬=安全と思わないほうが賢明です。


 私も「漢方薬=安全」とは思っておりません。しかし西洋薬に比べたらずっと良心的な医療だと思っており、深く学ぶ価値があると思っております。

 御指摘のように基本は薬を使わないようにというのが私のスタンスです。

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