軌道修正は至極困難
2013/10/07 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:6件
糖質制限という有効かつ確実な食事療法の選択肢があることを知った以上は、
できるだけ多くの人をその恩恵に預からせてあげたいと思うのが人情です。
私は糖質制限が理論的に正しいことを認めている医師なので、長期安全性がないだの、エビデンスがないだのという戯言には目もくれず、自分の関わる多くの患者さんへ糖質制限の選択肢を提示し続けています。
そんな中、実際にはそうした介入が非常に難しい患者さんもおられます。
それは、すでに糖尿病の治療が他医で導入されている患者さんです。
例えば、先日もこのような患者さんがおられました。
70代の男性、長年の2型糖尿病があり、アマリール1mg(SU剤の一種:24時間強制的に血糖値を下げる薬)、セイブル75mgを内服されています。HbA1cは6.8%(NGSP)です。それ以外に心臓弁置換術を受けて降圧剤やらスタチン(コレステロールを強制的に下げる薬)やらかなりの量を内服されています。さらには前立腺癌もあって抗がん剤の治療を受けた歴もある方です。
数年前には軽症の脳梗塞も起こされたということで神経内科外来の方にも通院されているのですが、
この方が、両足のじんじんとしたしびれ感と時々目が一時的にかすむという訴えで私へ相談されました。
患者さんは「脳に何か起こっているのではないか」ということを心配されています。
糖尿病でSU剤内服中ということで、目の症状については低血糖を頻発している可能性を考えた私は、患者さんに糖尿病の治療状況について尋ねます。
すると毎朝6時には血糖を測定しており、その値が90~109mg/dLくらいだと言われます。
また、糖尿病の治療は近くの内科医院で受けており、薬も全てそこで処方されています。そしてその医院の先生に「糖尿病の治療はうまく行っている」と説明されているのです。
しかし私がさらに「食後の血糖値を測ったことはあるか?」と尋ねると、それははないと言います。
普通に主食を3食食べられている方なので、食後高血糖は必発です。おそらく血糖値の乱高下を繰り返しており、主食の摂取量が少なめの時にSU剤による過剰な血糖降下で相対的な低血糖が起こって目のかすみを訴えられている可能性を強く疑います。
さらに両足のジンジンに関しては前立腺癌の治療をした泌尿器科医から抗がん剤の副作用だとの説明を受けていました。じゃあどうすればいいのかという患者の問いに対しては様子をみるしかないと言われているそうです。
しかし長年の糖尿病歴から糖尿病による神経障害の合併症の可能性を疑った私は、神経伝導速度という軽い電気刺激で神経の伝わり具合を調べる検査を実施しました。
その結果、少し専門的になりますが、腓腹神経(ひふくしんけい)という糖尿病性神経障害でやられやすい神経を中心にやられている典型的なパターンであることがわかりました。
さらに脳画像は幸い以前の比べて大きな変化はありませんでしたが、脳の入り口に当たる首の血管の動脈硬化の程度を超音波検査で調べてみたところ、以前に比べて血管がかなりボロボロになっているということまでわかりました。
いったい何をもって「糖尿病の治療はうまくいっている」なのか理解に苦しみます。
この状態を打破するためには、とにかく可及的速やかに血糖値の乱高下を防いで、低血糖の抑制と合併症のこれ以上の進行を食い止めることが肝要になります。そのためには糖質制限が治療の核になります。
しかし、そういう患者さんに糖質制限を勧めるためには、まず低血糖を起こしうるSU剤(アマリール)を止めて頂く必要があります。SU剤を飲みながら糖質制限を行うと余計に低血糖を起こしてしまうからです。
私はまず血糖値を上げるものが何なのかを説明し始めました。
そして普段日本人が当たり前のように食べている米の中にいかに多くの糖質が含まれているかということを「ごはん茶碗1杯=角砂糖17個分」の画像を提示、印刷してその紙に説明内容を書き込みました。
さらに今SU剤を処方してもらっている医院へ、食事を気をつけて頑張ってみるのでSU剤を一旦中止にしてもらうよう頼んでみるようにアドバイスをしました。
それから数週間後、再びその患者さんが戻ってこられました。
私は「その後どうなりましたか?」と尋ねつつ、おくすり手帳の内容を確認させてもらったところ、
なんと変わらずアマリールは処方され続けています。
どうしてかと尋ねると、患者さんはこう答えました。
「向こうの先生には糖尿病の治療はうまく行っていると言われましたよ。」と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・愕然としました。
この話を聞くと、血糖値とHbA1cだけで糖尿病の良し悪しを判断する医師がいかに罪深いか、わかっていただけるのではないでしょうか。
血糖値とHbA1cの値がよくてもこの患者さんの病状は何一つよくなっているところはないのです。
この患者さんはかかりつけの医師のことを信頼しきっています。こういう人に糖質制限の恩恵を受けてもらうべく軌道修正をかけることは至難の技です。
まとめると、いくつかのハードルがあることがわかります。
①まず患者さん自身に主食(糖質)が糖尿病によくないということを心から納得してもらわなければならない
②患者さんに薬の副作用を正しく認識してもらわなければならない
③糖質制限を実践してもらわなければならない
④糖質制限を実践してもらうにあたって、薬をあらかじめやめてもらわなければならない
⑤薬をやめてもらうために薬を処方してもらう医師に糖質制限のことを理解してもらわなければならない
今回のケースでは一生懸命説得した結果、①~④までは何とかうまく行きかけていたのですが、⑤を進める際の「糖尿病の治療はうまく行っている」という一言で①~④までの事もすべて覆されてしまった形です。
理屈はどうあれ、この患者さんは長年かかっているかかりつけ医の事を完全に信頼しきっている、言い換えれば盲信してしまっているのです。
・・・このかかりつけ医に怒りにも似た失望感を覚えます。
個々の患者への対応だけではどうしても限界があります。
こうしたブログ活動を通じて、わかってもらえる人に確実に糖質制限のことを伝えていくことが、
糖質制限の普及において遠いようで一番の近道なのではないかと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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それぞれの道
>このかかりつけ医に怒りにも似た失望感を覚えます。
*********
カルピンチョ先生のブログに、
ぼくのおうちのはなし が書かれていましたが
http://低糖質.com/review/cat12/post_178.html
糖質制限をすることによって健康を取り戻せることを自ら実践し、知っている私たちからすると本当に患者の立場にたたない医師に、怒りを覚えます。これは、医師による「暴行・障害・殺人」ではないのか・・・。
リチャード・バーンスタイン先生は、このような医師、米国糖尿病学会に対し、「患者をレイプするもの」「精神の異常な者」と、著書『糖尿病の解決』の中で指摘されています。
岡本卓 著『本当は怖い「糖質制限」』 詳伝社
を読みました。
このドクターは、この本の第3章で、『糖質制限で、がんになる・うつ病になる・認知症骨粗しょうになる・心臓病、脳卒中になる』 と言っています。
引用している文献を含め、誤解・曲解のパレードですね。東大医学部と、ハーバード大学で学んだ方でそうです。
唖然の一言です・・・。
******************
『論より証拠』
私は、健康を守って、100歳jまで生きて見せます。
こういうことって多いかもしれませんね
糖尿病の場合はたがしゅう先生がおっしゃるように何をもってコントロールが良いとするかというゴールが患者には見えないことが原因なのでしょう。
一番簡単に説明できる方法は数値ですから見かけ上の数値が標準値の範囲内に入っていれば良好といい、それを受けた患者は良好という言葉に安泰を求めるということになるのでしょう。
この患者さんは自分の主治医が良好といっているのにたがしゅう先生がコメントをつけるので疑問と場合によってはこの先生どうして俺の病気にケチつけるんだというような想いがあるのかもしれません。
私の周りにも糖尿病の人はいますがそのほとんどが平気でご飯食べたりカツカレー食べたりしています。
これだと毎食後高血糖は起こっており血管の内皮にストレスを与えているので症状は良くならないでしょうね。
一般の糖尿人の認識ってそんな人が多いような気がします。
Re: こういうことって多いかもしれませんね
いつもコメント頂き有難うございます。
おっしゃる通り、このようなケースは非常に多いです。その度に悲しい思いをしているのが現状です。
医師も患者も、一刻も早く変われる人から変えていく必要性を強く感じます。
Re: それぞれの道
いつも応援有難うございます.
なぜかこの日のわんわんさんのコメントが迷惑コメント内に入っておりました.原因不明ですが,遅ればせながら返礼コメントをさせて頂きます.
>岡本卓 著『本当は怖い「糖質制限」』 詳伝社
>を読みました。
>このドクターは、この本の第3章で、『糖質制限で、がんになる・うつ病になる・認知症骨粗しょうになる・心臓病、脳卒中になる』 と言っています。
> 引用している文献を含め、誤解・曲解のパレードですね。東大医学部と、ハーバード大学で学んだ方でそうです。
> 唖然の一言です・・・。
まったく同感です.
私も読みましたが,とにかくひどい内容でした.机上の空論もはなはだしいです.
こうなると学歴,まったく関係なしです.
大事なことは「自分で考える力」を持っているかどうかだと思います.
五年前に、うつ病を発症
五年前にストレスから発症される
強迫障害で入院半年を経験しました。
あの当時は、仕事、家の事情で生きる事が辛く食事出来ない状態で…
とにかくおにぎりだけを口に放り込む事が3ヶ月くらい続いてました。
食後血糖は、だいぶあったはずですね…
頭はもうろう状態で脚は痺れ、
攣るの毎日でした。
手は、震え←今考えれば、低血糖
その後、二年前に定期検診で空腹時血糖が500を超えて即入院
しかし、インシュリン注射をしてもなかなか下がらず…
おかしいなぁ~と思い
糖質制限食の本を見つけ今にいたってます。
体重は10キロ減り
鬱の症状も良くなり鬱の薬は、要らなくなってます。
今は、食後血糖を、見ながら
インシュリンの注射は、やめています。
体調も良くなってきました。
自己判断ですが…
かかりつけの、医師には、
糖質制限食に話になりません(笑)
Re: 五年前に、うつ病を発症
貴重な体験をコメントして頂き誠に有難うございます。
症状の改善、薬の減量、順調なようで何よりです。
>しかし、インシュリン注射をしてもなかなか下がらず…
おかしいなぁ~と思い
糖質制限食の本を見つけ今にいたってます。
そのようにまず疑うということが変われる人になるための第一歩だと思います。
ヒロパパさんも「自分で考える力」を持っていると言えますね。
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