栄養学を一から建て直す
2014/08/03 00:01:00 |
栄養 |
コメント:8件
今の栄養学の中で三大栄養素として
「糖質(炭水化物)」「脂質」「蛋白質」の3つが挙げられていますが、
糖質制限の理論を知ると、その大前提に異議を唱えたくなります。
糖質に「必須糖質」はなく、摂らなくてもよい栄養素が主たる栄養素であるはずがないからです。
でもそこを修正すれば栄養学として再び成立するかと言われれば、必ずしもそうは思えません。
例えば、1日に栄養をこれくらい摂らないといけないという基準自体も疑わしいものです。
厚生労働省は「適切な栄養素を確保するために1日に平均350gの野菜が必要だ」と推奨していますが、350gって結構な量だと思います。
私は自分の人生を振り返って、1日に350gも野菜を取れた日はおそらくそんなには多くないはずですが、
それなりに健康に育つ事はできましたし、毎日野菜350g摂れていない人の方が大多数なのではないでしょうか。 一方で、断食で健康になっていくという事実を眺めてみても、
ヒトの身体がそんなに単純にはできていないという事を物語っているように思います。
このように栄養に関しては常識のウソがたくさん含まれていそうなので、
栄養士の資格を取ろうかと思った時期もありましたが、
今ある栄養学は糖質制限の理論を前提にしているわけではないので、
教科書を当てにするわけにはいかず、むしろ教科書に書かれている事が本当に正しいことなのかどうか、自分の頭で判断していかなければならないと思います。
ということで、少しずつでも現在の栄養学の事を知っていこうという事で、
まずは以下の本を読んでみることにしました。
すると冒頭に栄養学の起源について記されていました。
栄養学原論
渡辺 昌 著
「第1章 栄養学原論の位置づけ」
(以下、引用.前略)
【食と医療】
生きることと、病気になったときに治すこととは不可分の関係にある。
食はその両者に関係し、健康なときの食事、病めるときの食事、と経験的に伝えられてきた。
中国を起源とする漢方、漢方薬。インドのアーユルヴェーダに述べられるハーブや医療の知恵、エジプト・ギリシャ・ローマと伝えられた医学、
さらにはイスラム圏に伝えられ、ルネッサンス以後のヨーロッパで花開いた近代医学などは、いずれも食べる事と医療が不可分の関係にある事を示してきた。
Nutritionという用語はギリシャ語の「養う」という意味に由来し、看護のNurseと同じ語源である。
(中略)
【養生論と西洋医学の到来】
養生論では人体の「気」を充実させて無病息災を達成することが目指され、
そのために衣食住、性生活、呼吸法やその他の身体技法、入浴法、そして「心のもちよう」など、日常生活の万般のありかたが説かれた。
養生法には欲望の充足を制限して、心身の安定を重視する節制論的なものが多く、心のもち方など、心の問題がかなり入っている。
それは往々にして精神主義的なもの、宗教的なものとなった。
江戸末期から明治にかけて出版された養生訓は百家争鳴の状態であった。
幕末には蘭学としてオランダ医学が入っていたが明治に入りドイツ医学を導入することが決められ、それとともに旧来の東洋医学、漢方は捨てられた。
明治8(1875)年27歳で来日したベルツE Baelzは生理学と内科を教え、一時帰国をはさみ明治35(1902)年まで東京帝国大学教授として在職して多くの業績をあげた。
在職25年の記念講演で日本における西洋医学の発展を祝したが、
「日本では今の科学の”成果”のみを受け取ろうとし、最新の成果を引き継ぐだけで満足し、その成果をもたらした精神を学ぼうとしない」
と延べ、私たちの耳に痛い指摘となっている。
ベルツは日本人の食物と体力について研究し、と発表した。日本人は低たんぱく質の食事なのに健康で体力もあり、
フォイトVoitのいうようなドイツ人の栄養比はあてはまらない
日本見物をしたときの人力車車夫の耐久力に驚いたのである。
(後略)
健康だとか病気だとかいうのは、
あくまで医師が定めたルールで分類された恣意的な概念です。
ただヒトをヒトとして見た時に病気も健康も実在しません。
そう考えれば、食というものが健康と病気の両方に関係するというのは、ごく自然な話であり、
病気専用の食事というのではなく、全てのヒトを健康な方向へ向ける食の在り方というものがありそうに思えます。
さらに養生論の中では食事だけではなく、
衣食住、性生活、呼吸法、身体技法、入浴法、心の在り方など様々な視点が注目されており、
そして栄養も看護も語源は同じところにあり、健康というものがもっと広く捉えられていたことが伺えます。
ところが、近代医学が発展していく歴史の中で、
折角様々な角度から捉えられていた健康が、食事の中の栄養素、栄養比率にのみ目が向けられていくようになってしまったというのです。
そしてもう一つ興味深いことに、その栄養学を日本に広めたドイツ人医師ベルツは、
栄養学の功績をそのまま受け取る日本人の姿勢に警鐘を鳴らす一方で、
自身の栄養学の理論で説明しきれない、日本の人力車車夫の体力に驚いたのだというのです。
本来ならこうした事実を目にした時点で、「はたして自分の栄養学理論は本当に正しいのだろうか」と、
見直さなければならなかったであろうものを、そうされることなくズルズルと現代まで来てしまったのではないでしょうか。
「なぜ低タンパクだったのになぜ車夫は十分に働く事ができたのか」
栄養が足りなくても、というより栄養が足りていないからこそ身体能力が発揮されるような状況もあったのではないでしょうか。
今の栄養学を取り巻く環境を見渡してみると、
その基本は完全に「プラスの栄養学」となっていると思います。
「○○が足りないから△△を食べなさい」「□□を食べないと栄養失調になります」
確かに世の中に栄養失調の人はたくさんおられるのは事実です。
しかしその本質は栄養が足りないことではなく、実は過剰に取り込まれた栄養によって引き起こされた「代謝障害」にあるとしたならば、
我々が新しく考えなければいけない事は栄養を足す事ではなく、不要な栄養を取り除くことだと思います。
マイナスの栄養学という観点でみて、今あるプラスの栄養学とどこで折り合いをつけるべきか。
果たして栄養素はどこまで減らしてよいものなのか。
そんなふうに栄養について、これから少しずつ見直していきたいと思っています。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
精神科医師A
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042633.pdf
さて、炭水化物には目標量が設定されています。総論3頁の解説を読みますと、目標量とは「生活習慣病の予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量」とありますが、「そのための研究の数並びに質はまだ十分ではない」と明記されています
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042628.pdf
Re: 精神科医師A
情報を頂き有難うございます。
> 目標量とは「生活習慣病の予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量」とありますが、「そのための研究の数並びに質はまだ十分ではない」と明記されています
なるほど。深く読み込めば「明確な根拠はないけどとりあえず目安として定めている目標値」という事が書かれているのですね。
しかし、国民の果たして何人がそこまで深く理解してくれるでしょうか。
国が公的に目標値を提示したら「それだけ食べないといけないのだろう」と思うのが普通の感覚だと思います。
やはり常に自分の頭で考える事を忘れてはいけませんね。
不要な栄養と、更に
おかげさまで体調も整ってまいりました。
ありがとうございました。
糖質と、
食品添加物・過剰な農薬も気をつけるべきと常々考えております。
外食時それらを避けるのは困難ですが、うちで作る時なるべく摂らないよう工夫したいものです。
先日の東京オフ会の学習会で、大柳珠美先生は
「糖質制限は重要だが、添加物はもともとこの世の自然界に存在し得ない物を無理やり化学的に作り出された物。日常的摂取はむしろ糖質以上に危険で深刻だと感じている」・・と仰っていました。(危険性の低い添加物もあるが)
「給食で死ぬ」
大塚氏・西村氏・鈴木氏 共著 (コスモ21)
荒れていた中学の生徒たちをコンビニ食品まみれの生活から引き離し、給食を無農薬・低農薬の米に変え発芽玄米を入れる,メニュ-に青背魚を積極的に組み込む,親や生徒への食育推進,・・などによって学校から非行・不登校がなくなった実録本です。
大量の砂糖が低血糖症やキレる脳を作ることにも触れています。
カップめん、スナック菓子、清涼飲料水、(腐らない?!)菓子パン、ファストフ-ド、インスタント食品、加工食品・・などは 不要と、我が家の位置づけもずいぶん定着しました。 それでも低農薬食品ばかり買えませんし、この時期どうしたって市販のアイスに手が出たりと(手作りアイスなど簡単なのですけどネ;)なかなか全廃とは行きませんが、、
数年前よりは大幅改善です。
そう、おとといアメリカ大手会社から、何時間たっても溶けないアイスクリ-ム が発売されたというニュ-スが。怖すぎます-。
Re: 不要な栄養と、更に
コメント頂き有難うございます。体調も戻っておられるようで何よりです。
> 糖質と、
> 食品添加物・過剰な農薬も気をつけるべきと常々考えております。
御指摘の通りだと思います。
私達の周りには100%安全な食材というものは無いと思った方がいいと思います。特に流通が発達し、保存料、合成着色料など様々な食品添加物を使わざるを得なくなった現代においては尚更です。
「食べる事はリスクである」という考えを基本に、食べなくても済む場合は食べない、なんとなくで食べているのを止める。だけどもみんなで食べる楽しみの場は共有する、など普段の生活の中で折り合いをつける必要性を感じています。
2014年3月15日(土)の本ブログ記事
「食事もリスク」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-211.html
も御参照下さい。
No title
かなり前tsunco先生にお声掛けいただいて以来、時々、糖質制限関連のサイトに書き込みをしている教育学徒です。
<食育>に関心を持つものとして、「栄養学を一から建て直す」-とくに「マイナスの栄養学」の観点から、何かの参考にして頂けたらと思い、大昔のエピソードを紹介いたします。
日本の栄養学者も引き合いに出す<食育>源流の一人:村井玄齋。
美食家『食道楽』のあとは、断食その他今でいう糖質制限等に傾倒していきます。
脚気論争でも論陣を張った玄齋。
最終的には、当時の医学界でも、脚気の原因が玄米に含まれていたビタミンB欠乏であることが「認められた」状況に、断食家:村井玄齋はこう言うのでうす。
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 引用↓
脚気病は白米病と称する位で、白米を常食するものや或は人口食のみを主食とするものが、ビタミンのB欠乏より生ずるという事は既に天下公知の学説になって居ります。果たしてその通りにビタミンのB欠乏のみが単一の原因であるならば、断食をすると愈々ビタミンが欠乏して病勢が進まなければなりませんのに、事実はそれと反対で、脚気病は二週間乃至三週間断食すると全快します。断食で全快する総ての病気は何でも成分の不調和より生ずるもので、断食すると、過剰の成分が先づ排泄され、自然に過不及が平均される為でせう。されば脚気病はビタミンの欠乏の病気ではなく、ビタミン欠乏の為に生じた成分不調和の病気と称した方が適当かもしれません。
『婦人世界』18-6;1923
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 引用↑
百年近く前の事なのに、と思わずにはおれません。
栄養学は、大きな脱皮を求められています。
たがしゅう先生の益々の御活躍を祈念しております。
Re: No title
情報頂き有難うございます。
すごいですね。まさに私が考えている事と同じような事を明記されていますね。
糖質制限の理論も全くないような時代なのに、圧巻の一言です。それと同時に非常に勇気付けられる想いがいたします。
脂肪酸について
私も栄養学に大変興味が湧いてきました。ぜひたがしゅう流のマイナスの栄養学(引き算の栄養学)を研究していただきたいです。
ところで長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸という言葉を最近よく目にし耳にします。たいていは後者の摂取を進める文脈です。後者の方が代謝が早く体に溜め込まないからいいという話です。ただ色々調べてみてもそんなに前者が悪いという感じもしません。糖質で言うところのGI値のようなものがもし脂肪酸にあるなら、前者のほうがいいのではないかとも考えました。
確実なのは後者の方が高価だということです。特にココナッツオイルは極めて高価だと言えると思います
そこでこの二つの脂肪酸の比較、後者を推す栄養学的論調はいわゆる産業の要請によるステマなのではないかと思いました。
マイナスの栄養学からは脱線しますが、たがしゅうさんはいかが思われますか?
Re: 脂肪酸について
御質問頂き有難うございます。
> ところで長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸という言葉を最近よく目にし耳にします。たいていは後者の摂取を進める文脈です。
> そこでこの二つの脂肪酸の比較、後者を推す栄養学的論調はいわゆる産業の要請によるステマなのではないかと思いました。
> マイナスの栄養学からは脱線しますが、たがしゅうさんはいかが思われますか?
中鎖脂肪酸は生化学的にケトン体を生成しやすい性質があるとされています。
中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸の違いは炭素数の差によるものなので、それだけでケトン体産生能に差が出るというのは興味深い所だと思います。
確かにココナッツオイルがヒト本来の食事かと言われると不自然な印象を受けますね。その辺り、また折をみてじっくり考えてみたいと思います。
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