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バランスを崩す事の怖さ
食欲に対しても大きな影響を与えます.
以下の本によれば,卵巣を摘出されたラットは過食行動をとり,肥満かつ怠惰になると言います.
卵巣の摘出によりエストロゲンが失われると,エストロゲンによって抑制されるリポ蛋白リパーゼ(LPL)が脂肪細胞の周りにたくさん存在するようになります.
このLPLが脂肪細胞へ脂肪を次々と取り込んで内臓脂肪として蓄積します.
すなわち本来エネルギーとしてすぐに身体で使わなければならない脂質が,強制的に備蓄されていってしまうのです.
そのためラットは「備蓄はあるのにすぐにエネルギーが使えない」という理不尽な状況に追い込まれてしまい、
それを何とかするために過食行動にかられ,そしてますます太っていくため怠惰にもなるというわけです.
従って,エストロゲンは肥満の制御において極めて重要な物質ですが,
ただ増やせばいいというものではありません.
自然のバランスを乱してまでエストロゲンを補充すると思わぬ副作用が出てくる場合があります.
本日はもう一つ別の目線でこの問題を考えます.
実はエストロゲンが増えると,血液は凝固状態に傾くという事が知られています.
エストロゲンはいわば排卵というイベントを起こさせるための誘導ホルモンという見方もできると思いますが,
排卵という現象自体が卵が卵巣の表面を破って出てくるものであるため、この時必然的に出血が起こります.
おそらくはその現象をスムーズに終えるために,一時的に身体が凝固能を高めて出血しにくいようにしているものだと思われます.
しかし人工的にエストロゲンを増やしている状況では,時期がいつであろうと凝固能が高まり続けているので,血栓が作られやすいということになります.
そんな事を考えていると,神経内科の学会誌にこんな症例報告が掲載されていました.
臨床神経2014;54:423-428
『男性型脱毛症用薬フィナステリド服用中に若年性脳卒中を発症した2症例』
頭の髪の毛が薄い状態の事を医学的には「禿頭(とくとう)」と言いますが、
禿頭患者の毛根部にある毛嚢という場所では、
男性ホルモンであるテストステロンをジヒドロテストステロン(Dihydrotestosteron:DHT)へ変換する酵素である5α-還元酵素の活性が高まり、DHTの濃度が上昇している事が示されています。
男性型脱毛症用薬フィナステリドは、この5α-還元酵素を阻害する酵素です。
この薬を使うとDHTの濃度が下がり、それが発毛に良いと考えられています。
しかしそうすると、テストステロンが増加しすぎて、男性機能に副作用が出そうなものですが、
実際に測定すると使用しない人に比べて、テストステロンの増加に有意差はないようです。
その理由としてテストステロンがエストラジオール(E2)という、エストロゲンの一つに変換されるからだと考えられています。
つまりこの薬の副作用はエストロゲンのそれと共通する部分があるのです。
例えば、先日取り上げた女性化乳房も、フィナステリドの副作用として報告があります。
さて、上記の文献ではフィナステリドを使用していて脳梗塞になってしまったという35歳男性と、41歳男性の例が報告されていました。
いずれも脳梗塞を起こすにしては若過ぎる年齢であり、薬剤との関連が濃厚です。
使用した期間も前者は約6ヶ月、後者は約2年とそれほど長くない印象です。
禿頭を治そうとして脳梗塞になったというのでは割に合わなさすぎます。
これもホルモンのバランスに操作を加える事が良くないとい事を示す大きな一例だと私は考えます。
そう考えると,閉経後にエストロゲンが足りないからといって
エストロゲンを薬で安易に補充するのも考えものです.
やはり,糖質を制限することで,
自然に備わったメカニズムを邪魔しないようにしながら.
なおかつしっかりコレステロールを確保して,
あとは自分の身体に任せるというのが一番いいのではないかと思います.
たがしゅう
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