誰もが炎上の加害者となりうる

2019/06/04 08:00:01 | おすすめ本 | コメント:2件

先日読んだゆうこすさんの共感SNSに出てきた「丸く尖る」という言葉、なかなか言い得て妙です。

丸い表現だとありきたりな言葉で誰にも刺さらない、かといって尖った表現だと知らない誰かを傷つけるかもしれない。

そのどちらにも当てはまる良いところどりの表現が活躍するために大切なことなのだろうと思います。

勿論、100%丸く尖ることはおそらく不可能です。どんな意見に対しても必ずしも反対者はいるものです。

それは人気のYouTuberの誰がどう見ても批判の要素などないであろうと思えるようなものすごく高評価率の動画であっても、必ずといっていいほど一定数の低評価マークがついていることからも分かります。 だからよかれと思って情報発信することが裏目に出てしまうという事がありうるというのが、SNSの世界だということを知っておく必要があるように思います。

そんなことを考えている矢先、本屋で私の目に飛び込んで来て、思わず衝動買いしてしまったのがこちらの本です。



そのツイート炎上します! 100万回の殺害予告を受けた弁護士が教える危機管理 単行本(ソフトカバー) – 2019/5/17
唐澤貴洋 (著)


この本は読んでみて正直、今このタイミングで読んでおいてよかったと思いました。

積極的な情報発信こそがセルフブランディングにつながり、自分のやりたい事を叶える道だと思っていた私に「ちょっと待った!」を投げかけてくれる内容です。

著者は弁護士の唐澤貴洋さんで、インターネットでの犯罪や誹謗中傷問題に熱心に活動されている中で、

その活動をよく思わないネット住民と呼ばれる人達から「炎上弁護士」と揶揄され、執拗な嫌がらせ、罵詈雑言、引いては殺害予告まで連日連夜繰り返されることとなり、その数はなんと100万回を超えたと言います。

顔も見えない相手からの、いじめという枠組みをはるかに超える陰湿な集団攻撃に唐澤さんも一時心身の調子を崩し、睡眠をお酒や薬に頼っていた時期もあったそうですが、

家族や弁護士会の方々など現実世界に確かに存在する理解者の支援によって支えられ再び立ち上がり、こうした問題に専門的に取り組む弁護士として活動なさっています。


その唐澤先生が、数あるSNSの中でも「炎上」という急速にネガティブな情報が一極集中する現象を起こしやすいのがツイッターだと指摘されます。

まずツイッターの短文でかつ文章という事象の一部が切り取られて表現される媒体を用いるという性質上、表現方法によっては本人が意図せぬところで過激であったり不快な印象を与えてしまう事が起こりやすいというのです。

「私は文章表現に気をつけて情報発信しているから大丈夫」と思っている人もちょっと考えてみてもらいたいと思います。

ツイッターは他の文章と比べて、投稿する前にその文章で本当によいかどうかを十分に推敲できているでしょうか。

「ツイッターは動物的な感覚で投稿してしまうツール」だと唐澤さんは表現されます。気軽に投稿できる分、直観的に投稿してしまう所もツイッターの良い所でもあり怖い所でもあるのです。

自分にとっての常識が、誰かにとっての非常識だということもあります。この本を読んでいると、少し推敲していれば防げた炎上も、安易な動物的な感覚で投稿してしまった事によってとり返しのつかない事態にまで発展してしまう怖さがあるという事がよくわかります。


そんな唐澤さんが人生を揺るがすSNSでの炎上を避けるための心構えとして5つのことを掲げておられます。

1.表現に気を付ける、想像力をもって投稿することを心がける
2.なぜそう思ったのか理由を書く
3.誰が受け取るかを意識する
4.投稿するまでに間を空ける
5.投稿する前に実際に周りの人に見せてみる


本の中では炎上という現象によって不当に人生に悪影響をもたらされたお笑い芸人のスマイリーキクチさんや、ブロガーや作家として多方面で活躍しているはあちゅうさん、それぞれ唐澤さんとの対談も収録されていて、これがまた示唆に富んでいてとても参考になります。

また万が一炎上を起こした場合にどのような対応をとれば適切なのか、その具体的なアプローチについても詳細に書かれています。

私が一番印象的に感じたのは、炎上を加速させる燃料は「正義感」もしくは「正義感に基づく怒り」だという話のくだりです。

要するに炎上させている側は「炎上させてやろう」と悪意を持ってやっていない、むしろ「世の中を正してやろう」という善意によって熱く行動しているということなのです。

ところがその善意は固定した価値観によってもたらされていたり、あるいは真偽が不確かなネットやテレビの情報に基づいていたりするものだから、

非常に一側面的で歪められた善意であったりすることがしばしば起こり得るということのようなのです。

逆に言えば、気をつけていないと誰もが炎上の加害者となりうるということも考えさせられて、これからSNSを中心に使いながら生きていく自分にとって非常にメッセージ性の強い内容でした。

誰もが加害者となりうると言えば、以前「こども」をテーマに哲学カフェで語り合った時に出てきた「すべての親が虐待を行いうる」という意見にも通じるようにも感じました。

絶対悪がないのと同様に、絶対善もないのだということを肝に銘じ、

それでも少なくとも自分の中で思う正しいことを、どうすればなるべく他人を傷つけないように情報発信していくことができるのか、

真剣に考えて、情報発信の在り方を十分に見直していきたいと思います。


たがしゅう
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コメント

No title

2019/06/05(水) 10:17:02 | URL | 一読者 #-
たがしゅう先生こんにちは。
ご無沙汰しております。

情報発信ということに関連して気になりました。
もしかしたらご参考になるかと思いご紹介まで。
宜しかったら下記ご覧になってみて下さい。

https://ameblo.jp/kazue-fgeewara/entry-12460643122.html

Re: No title

2019/06/05(水) 11:11:40 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
一読者 さん

 情報を頂き有難うございます。

 マスコミの歪曲報道に関する記事ですね。
 自己都合で正義を振りかざす事が、弱い立場の人達へとり返しのつかないストレスをもたらすということの恐ろしさを考えさせられます。

 また情報の非対称性が詐欺につながるという話も思い出されます。

 2016年12月29日(木)の本ブログ記事
 「情報の非対称性に気付く」
 https://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-825.html
 も御参照下さい。

 いずれにしても情報を出す側も、情報を受ける側にも慎重さが必要ということではないかと思います。

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