健診には主体性が不可欠
2018/07/14 00:00:01 |
普段の診療より |
コメント:8件
健診で病院を訪れたとある30代の女性患者さん、
問診票の自覚症状を書く欄には「なし」と書かれていました。
診察が始まり、「気になっている症状はありませんか?」と尋ねると、
「ないです。生理痛があったりはしますけど。」
ん?と思いさらに踏み込んで聞いてみると、月経痛にはかなり前から悩まされているとのことでした。
ピルは効かず、町の漢方専門の薬局で相談し、高い漢方薬をいろいろ試してみるもどれも効かず、
産婦人科でホルモン治療を行うも、今度は卵巣過剰刺激症候群という状態となり、余計に調子が悪くなったので、
結局今は何も治療せずにただ我慢をしているのだというのです。 そこでまず市販の漢方は病院で処方される漢方より効果がマイルドであることを指摘しました。
なぜならば市販品は安全性の方が重視されているからで、商品の高さも商売が絡むので必ずしも効果の高さを保証するものではないことも伝えました。
そういうとその患者さんは大層驚いたようで、保険診療で医師が診察により患者の症状・体質とをマッチングさせて病院で処方する漢方薬についてまず興味を持たれたようでした。
要するにこの患者さんは、漢方薬は高いものまでいろいろ試して効かなかったのだから、
私のこの生理痛は我慢しないとしかたがないものであって、健診で自覚症状として書くほどのことではないと思っていた、ということではないかと思います。
そんな話をしていたら、今度はこの患者さんから、この医者にはもっと相談してもいいかもと思われたのかわかりませんが、
「実は私すごく冷え性なんです。」ということも打ち明けられました。
西洋医学中心の医師はそうした訴えを面倒くさがるかもしれませんが、漢方に精通した医師にしてみれば、
それはものすごく重要な情報です。その情報があるかないかで処方する漢方薬の種類も変わってきます。
(自覚症状なしといいながら結構あるじゃないですか)と内心思いました。
最初に問診表だけ見て、自覚症状なしを信じてそのまま診察、検査と進めてしまっていれば、
月経痛も冷え症も見過ごされていたのかもしれないということを思うと、
健診というシステムは穴だらけで、いかに見えない問題を拾いにかかることが重要かということを痛感させられます。
さらにその患者さんに対して、まだ何か問題が隠れているのではないかと思って、
食生活はどんな感じなのかということについて尋ねてみたところ、
「う~ん、野菜中心で普通だと思います」との御返事。
参考までに教えてあげようと思って、単なるダイエットではなく健康食としての糖質制限食について、
パンフレットを用いて具体的に何が糖質が多くて、何が糖質が少ないのかを伝えていたところ、
「えぇ、そうなんですか!? (糖質が多い食べ物は)私がよく食べているものばっかりです」と言われました。
糖質過剰からの血糖値乱高下、血糖値乱高下からの酸化ストレス、
酸化ストレスからの動脈硬化、血流低下、からの多臓器への血流低下、冷え症へと話がつながってきますし、
月経痛の理解はそう簡単ではないかもしれませんが、俯瞰で見つめれば月経痛も当然この負の流れに沿って起こっていると考えられてしかるべきです。
ただしこの方はやせ型であったので、体調を見ながら緩やかな糖質制限で始めることに注意して糖質制限指導を行い、
また症状の改善をサポートするために当帰芍薬散という漢方薬を処方することにしました。
いつもは短い時間で健診の診察が、思わぬ形で通常の診療並みに長い時間へと切り替わってしまいましたが、
もしかしたら私が指摘しないと長く見過ごされていたかもしれない患者さんの辛さを見つけることができ、それに対処することができた充実感を感じるとともに、
もしも患者が面倒くさがって、あるいは医師をあてにされなくて、
仮にこちらが自覚症状について尋ねたとしても答えてくれなければお手上げだったかもしれないことを思うと、
現代の健診システムが患者次第でいかにザルのシステムと化すかという怖さも感じました。
問題が大きくなる前の未病の段階で処理するためには、
主体性が何より不可欠だと思った次第です。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 患者のみならず医師も主体性をもって健診(患者)とコミュニケーションとらない、つまり双方向性の問題ですよね。
そうですね。確かに医師の主体性も必要ですね。
いくら患者が主体性を持って健診で自覚症状を相談したとしても、医師がそれを拾いにかからずスルーしてしまえば患者さんの問題は解決されませんからね。
「患者の主体性」から「患者の」という文言を外させて頂きました。
No title
患者の身体情報が、どれだけ医師に伝わるか。
伝わる情報量が多いほど、良い医療につながります。
患者は主体性を持ち、積極的な情報提供。
医師も主体性を持ち、積極的に情報収集。
患者と医師の共同作業が、
良い医療を生むのでしょうね。
No title
でも、幸運だったと思えるのは、たがしゅう先生のブログを読んでいる私だからそう思えるのであって、そうではない人はそう思えない場合が有るかもしれません。
人との出会いが幸運だったと思えるのは後になってからになる場合が多いような気がします。
たがしゅう先生の指導通りに糖質制限を実践して体調が改善すれば、たがしゅう先生との出会いは幸運だったと思え、糖質制限を実践せずに今まで通りの糖質頻回過剰摂取を続けて体調が改善されなければ、たがしゅう先生との出会いを幸運と感じられないことになると思います。
これは所謂2:8の法則によるのかなと思います。
そこで、必要なのは幸運に気付く能力なのではないかな?と思います。
なんて言いましたが、これは簡単なことではないと思います。
私が糖質制限を始めたきっかけは、足に怪我をして湿潤療法を推進する形成外科医院で、浸出液が多くて穴開きポリ袋&オムツで治療していたのですが、浸出液が止まらなくて医師から「こりゃ利尿剤でも飲んだ方がいいかな?...」と言われ、自分は「たかが怪我の治療ごときに利尿剤なんていやだ!」と思ったので、医師にその旨を言ったところ、「糖質制限て方法が有るよ。」と言われ、糖質制限を実践するに至りました。
まさに「怪我の功名」ってやつですですね。
人間、追い詰められた状況でなければ、幸運を幸運として活かせない場合が多いのではないかな?と思えます。
私は今年で55歳になりますが、振り返って熟考すれば数数多の幸運を見逃してきたような気がします。
幸運と出会えた時にそれを幸運として認識できる力が必要なのかな...だから、そんなこと後になってみなけれ分からない場合がば多いんだって(^_^;)。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 患者は主体性を持ち、積極的な情報提供。
> 医師も主体性を持ち、積極的に情報収集。
まさに主体的医療の核心部分をシンプルにわかりやすく表現して頂けたように思います。
これを成し遂げるには良好な患者医師関係を築くためのコミュニケーション能力が非常に重要と思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 人との出会いが幸運だったと思えるのは後になってからになる場合が多いような気がします。
> 人間、追い詰められた状況でなければ、幸運を幸運として活かせない場合が多いのではないかな?と思えます。
確かにそうですね。
人生が長くなればなるほど、あの時のあの出会いが、まさかこんな発展を遂げるなんて、などということに後になってから気付くことは結構あるように私も思います。それでも後から気付いたとしても十分に意義深いことであって、その幸運に気付くためには普段からいかに良好な人間関係を築けているかどうかが重要と思います。
良好な人間関係とは、誰にでもよい顔をする八方美人的な行動ではなく、合わない人には無理に合わせない勇気も含めて一つひとつの出会いを大事にする姿勢によって築かれるのではないかと思います。
No title
https://www.youtube.com/watch?v=-O70A1igZ3Y
(45:45あたりからご覧ください)
患者と医者のいい関係のためには患者さんも少し協力して下さいーーーというメッセージのように思いました。
愛(あい)しめせ: 医者の話を、相づちをうって聞いて、いいところは褒める、診断は言わない、メモをとる、生活史を語る
で患者・医者関係はよくなるそうです。
少し納得です。
Re: No title
情報を頂き有難うございます。
> 愛(あい)しめせ: 医者の話を、相づちをうって聞いて、いいところは褒める、診断は言わない、メモをとる、生活史を語る
> で患者・医者関係はよくなるそうです。
私もその番組、ちょうど見ていました。
「あいしめせ」、概ね納得ですが、一点だけ私は反対意見があります。記事で示させて頂きます。
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