医療関係者には糖質制限を勧めにくい
2018/04/29 00:00:01 |
普段の診療より |
コメント:7件
人間はそれほど合理的な生き物ではないと以前も書きました。
医師であれば誰でも、たとえどんな人物が患者として訪れようと平等に公平に診療に当たる事が、世間に求められている医師像ではないかと思います。
そうしたいのはやまやまなのですが、私の場合、相手によって診療内容を変えざるを得ない場面がどうしてもあるのです。
その一つの例は、相手が医療関係者、もしくは患者さんの近しい家族に医療関係者がいる場合があります。
一般論としても患者が医療関係者の時の診察は、まるで自分の行いが試験されるかのように感じられ緊張してしまうのですが、
私の場合は自分が糖質制限推進派医師ということが大きく関わってきます。 というのも多くの医療関係者は糖質制限反対派、少しずつ糖質制限容認派が増えてきた状況とは言え、推進派はまだまだ稀です。
そのような中で医療関係者の患者さんに対して、特に相手が医師であった場合の話になりますが、
普段と同じように糖質制限を勧めようものなら、反発されるどころか下手したら口論となってトラブルともなりかねません。
従って、相手が医師の場合、私は糖質制限を無理に勧めませんし、相手が思うままの診療行為を施すことに終始します。
信念が弱いように思われるかもしれませんが、この対応は自分を守るためだけでなく、相手を守ることにもつながると私は思っています。
なぜなら、たとえどんなに医学的に正しいことであっても、本人が望まないことを無理強いすることは相手にストレスを与え、新たな病気の火種を作ってしまうことになるからです。
しかし先日こんなことがありました。
10代の女性が健康診断のために当院を受診されたのですが、
受診の際にお手紙が添えられており、かなり御立派な肩書の医師であるその方のお父さんからのものでした。
内容は「以下に指示する検査を実施してほしい。そしてその結果を郵送でこちらに送ってほしい」というものでした。
きっと愛する我が子を心配して自らが病状を把握しておきたいと思う親心なのであろうと思います。
それ自体は全く問題のないことで、指示された通りの検査を実施すればいいだけの話なのですが、
その患者さん、かなりるいそうがあって、見るからに顔色が悪く元気がなさそうな様子でした。
おそらく消化吸収障害があって、鉄欠乏状態にもなっているのだろうと直観的に感じました。
ここで通常の私の診療であれば、鉄不足の有無を確認すべくフェリチンやCRPなどの血液検査項目を確認し、
体調改善のための糖質制限という選択肢があることをその患者さんに熱心に伝えようとするのですが、
そんな検査をするような指示は受けていません。もし勝手にそのような検査をしたら相手のドクターの性格によっては気に障る可能性もあります。
ましてや糖質制限反対派であろうものなら、糖質制限指導などしたら「ウチの子に何て事を教えるんだ」と逆恨みされる可能性もゼロではありません。
そんな事が頭をめぐり、私は糖質制限について伝えたい気持ちをぐっと抑え、
消化吸収機能を改善する漢方薬を処方し、「やせすぎだからしっかり肉を食べるようにしましょう」というのが関の山でした。
はたしてこの対応で本当に良かったのでしょうか。
いや本当はこの対応ではよろしくないのであろうと思います。
しかし今このご時世ではこうするしかなかったようにも思います。
糖質制限で患者を救うのが最優先事項ですが、
このような状況のことを考えると、医療関係者、特に医師に対して糖質制限を認めてもらうのもないがしろにできないことのように思えます。
一日でも早く糖質制限が標準治療となるよう私にできる努力を続けていきたいと思います。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
今回の対応はこれまでの診療の中から先生が不本意ながらも導き出したスタイルなのだろうと想像できます。
でも、もしかしたら、たがしゅう先生だからこそお医者さんのお父さんは娘さんの健康診断を託した、ということはないでしょうか。もちろん偶然かもしれません。そして娘さん自身がお父様の知り合いではない病院を希望した可能性もないとはいえない。なにかきっかけが欲しくて。
これはあくまで私の想像でしかありません。
ましてや医療関係者の世界に疎いからこそ思えるのかもしれません。
深読みしすぎでしょうか。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
残念ながら私の事を知っている可能性は低いと思います。
手紙の文章も本人にもそのようなそぶりは一切見られず、単に引っ越した住所の近くの医院で健康診断を受ける目的で来られただけのようでしたので。
本来西洋医学も東洋医学も同じ目的のために存在するはずなのに、派閥のようになり、どちらかを否定するようなことはなんかおかしいてすね。
医師だけでなく、自分の健康管理法についても同じことが言えますね。
自分の頭で考え、望む治療を選択する時代は来るのか?
例えば、患者に対しては糖質制限を持ち出さなくても、自分自身は糖質制限を実践し、親類や家族にも糖質制限の大いに薦めている医師が多いような気がするのです。
ところで話は変わりますが、私は農協関係の組織に所属しており、糖質制限を実践しているのですが、仕事の現場では「米や果物は食べる必要が無い!」なんて事は口が裂けても言えないです(^_^;)。
いわゆる"大人の事情"ってやつです。これは私の場合に限ったことではなく医療関係者にも色々な事情が有るのでしょう。所属学会とのしがらみとか所属科医長の診療方針とか。
で、こう言った状況を打破するにはどうすればよいのか?...
例えば、夏井先生のホームページの治療例では「現在の治療に不審を抱きスマホで検索して当科を受診...」て言う場合が多いです。
自分の頭で考え、軟膏&ガーゼ&植皮と言った従来治療に疑問を抱き、湿潤治療を選択する創傷患者が増えれば、従来治療に固執していた医師も湿潤治療に路線変更せざるを得なくなります。
夏井先生によれば「医療はサービス業。」ですから、医院が客である患者が望むサービスである治療を提供できなければ、その医院は行く行くは廃業ですから。
これは、糖質制限治療に関しても同じだと思います。自分の頭で考え、糖質制限治療を望む患者が増えれば、たがしゅう先生のお悩みも結果的に解決するのではないかと思います。
江部先生の多数の一般向け啓蒙書籍、コンビニやファミレス等の糖質制限食材提供の普及により確実に糖質制限治療が普遍化する方向に向かっていると思われるのですが、ちょっと楽観的過ぎるでしょうか(^_^:)。
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
> 糖質制限って、医学でいうと東洋医学的なイメージです。身体本来の代謝システムで治癒力を引き出す。
そうですね。
実は漢方の名医と呼ばれる人達は糖質制限的な食養生を指導していたりもします。
2017年1月11日(水)の本ブログ記事
「漢方の名医は糖質制限推進派だった」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-838.html
も御参照下さい。
西洋医学は分析力と先鋭的な作用を示す西洋薬、
東洋医学は全体把握力と自然治癒力を向上させる漢方薬、
互いの違いを理解していずれもうまく利用していくのが望ましいと私は思います。
Re: 自分の頭で考え、望む治療を選択する時代は来るのか?
コメント頂き有難うございます。
> 自分の頭で考え、糖質制限治療を望む患者が増えれば、たがしゅう先生のお悩みも結果的に解決するのではないかと思います。
そうですね。
そのためにも糖質制限推進派の医療者達は、自分で考える人達をサポートする受け皿を作る体制を整えていかなければならないと私は感じています。そのための一つの手段として私は遠隔診療(オンライン診療)のシステムに注目している所です。
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